【平成29年税制改正】外国子会社合算税制の改正を解説 | MONEYIZM
 

【平成29年税制改正】外国子会社合算税制の改正を解説

外国子会社合算税制とは、日本企業が日本よりも税負担が軽い外国に子会社を設置することで、税負担を不当に軽減・回避するのを防ぐための税制です。一定の基準を満たしていない外国子会社の所得に関しては、それを内国法人の所得と合算して課税対象とする制度となっています。平成29年税制改正では、日本企業の海外進出の実情に、より即した税制とするため、この基準に大幅な変更が加えられました。改正後の制度解説を中心に、制度自体の目的、改正されたポイントやその意図について解説します。

外国子会社合算税制とは

外国子会社合算税制とは、外国子会社を利用した租税回避を防止するため、一定の条件に該当する外国子会社の所得相当額を日本の親会社の所得とみなして合算課税する制度です。外国子会社を利用した租税回避は国際的な問題であり、各国が協調して対応するために立ち上げられたのがBEPS(Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転))プロジェクトです。

日本はBEPSプロジェクトに主導的な立場で関わるなど、この問題に積極的に取り組んできました。こうした流れの中で、外国子会社合算税制についても、日本企業の海外展開を阻害することなく、より効果的に租税回避に対応できるよう総合的に見直す必要が出てきたため、今回改正が行われることとなりました。

今回の改正では、会社単位での合算を判定していた「適用除外基準」が「経済活動基準」となり、実体ある事業を行っている外国子会社が会社単位での合算の対象となる可能性が少なくなりました。

改正前の外国子会社合算税制

改正前の外国子会社合算税制では、以下のように適用の基準が設定されていました。

外国子会社の税負担率 会社としての経済活動実体の判定 所得区分
    資産性所得 その他
    受領する経済実体なし 受領する経済実体あり
20%以上 判定不要 対象外 対象外 対象外
20%未満 適用除外基準を満たさない 合算対象 合算対象 合算対象
適用除外基準を満たす 合算対象 対象外 対象外

上記の判定の対象となるのは、居住者、内国法人等が合計で50%超の株式を直接及び間接に保有している外国法人です。
※「適用除外基準」については、以下の要件をすべて満たす必要があります。
(1) 事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
(2) 実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
(3) 管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)
(4) 次のいずれかの基準 ・所在地国基準(主として本店所在地国で主たる事業を行っていること) 主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業以外の場合に適用 ・非関連者基準(非関連者との取引割合が50%超であること) 主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業の場合に適用

改正後の外国子会社合算税制

改正後の外国子会社合算税制では、以下のように適用の基準が変更されました。

会社としての経済活動実体の判定    適用免除基準    所得区分
受動的所得 能動的所得
異常所得 利子配当使用料等 その他 
  受領する
経済実体
なし
受領する経済実体あり
ペーパーカンパニーに該当 30%以上 合算対象 合算対象 合算対象 合算対象
キャッシュボックスに該当 合算対象 合算対象 合算対象 合算対象
経済活動基準を満たさない 20%以上 合算対象 合算対象 合算対象 合算対象
経済活動基準を満たす 合算対象 合算対象 対象外 対象外

上記の判定の対象となるのは、居住者、内国法人等が合計で50%超の株式を直接及び間接に保有している外国法人、またはその外国法人の残余財産のおおむね全部を請求することができる等の関係がある場合における外国法人です。

ペーパーカンパニーとは

ペーパーカンパニーとは、次に掲げる要件のいずれも満たさない会社を指します。
(1) その主たる事業を行うに必要と認められる事務所等の固定施設を有している(保険業を営む一定の会社にあっては、これらを有している場合と同様の状況にある場合を含む)こと。
(2) その本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っている(保険業を営む一定の会社にあっては、これらを自ら行っている場合と同様の状況にある場合を含む)こと。

キャッシュボックスとは

キャッシュボックスとは、総資産に比べ、いわゆる受動的所得の占める割合が高い事業体のことです。具体的には、総資産の額に対する一定の受動的所得の金額の合計額の割合が30%を超える会社を指します(総資産の額に対する有価証券、貸付金、貸付けの用に供している固定資産及び無形資産等の合計額の割合が50%を超える会社に限る)。

経済活動基準について

「経済活動基準」について、以下のすべての条件を満たす必要があります。
(1)事業基準(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)(航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社のうち、本店所在地国においてその役員又は使用人が航空機の貸付けを的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てに従事していること等の要件を満たすものについては、事業基準を満たすものとする)
(2)実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
(3)管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)
(4)次のいずれかの基準
(イ)所在地国基準(主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)
主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業以外の場合に適用
(ロ)非関連者基準(非関連者との取引割合が50%超であること)
主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業の場合に適用

※税負担率が適用免除基準を満たしている場合には、申告の必要がなくなります。
※異常所得とは、外国子会社の資産規模や人員等の経済実態に照らせば、その事業から通常生じ得ず、発生する根拠のないと考えられる所得を指します。

改正ポイント

平成29年度税制改正で、外国子会社合算税制がどのように変わったのかについて、ポイントに分けて解説します。

税負担率での判定から、所得の種類による判定へ

改正前は税負担率を重要な基準としていましたが、租税回避として活用されているケースに対応するために、所得の種類による判定が重要な基準となりました。これにより、ペーパーカンパニーやキャッシュボックスとみなされる外国子会社は、税負担率が20%以上の場合でも合算対象となることになります。ただし、事務手続きの煩雑化を避けるために、税負担率による適用免除基準は残っています。

外国関係会社の判定基準の修正

資本関係はなくても契約関係等により子会社を支配しているケースや、間接支配が成立しているようなケースにも対応できるよう、対象となる外国法人に関する基準がより厳しくなりました。

事業基準、所在国基準、非関連者基準の判定方法の見直し

実体ある事業を行っている航空機リース会社や製造子会社の所得が合算されないよう、事業基準や所在国基準が変更されました。

部分合算の対象範囲の設定、少額免除基準の引き上げ

部分合算の対象範囲が改正前よりも厳密に定義され、その範囲も広くなりました。一方で、部分合算の額が一定以下の場合に合算対象外となる少額免除基準については、改正前の1,000万円から2,000万円に引き上げられました。

☆ヒント
改正後の外国子会社合算税制では、改正前と比べて部分合算の対象となる範囲が多く、また複雑になっているため、会社側の事務的な負担も増えています。制度に正しく則った会計処理を行うためには、専門家の知識が不可欠です。不必要な課税を避けるためにも、まずは税務のプロである税理士に相談することを強くお勧めします。

まとめ

平成29年度税制改正では、日本企業の海外進出の実情に即し、より事業の内容に即した税制とするために、外国子会社合算税制についても様々な変更が加わりました。それぞれの基準をしっかりと把握し、正しい会計処理を心がけましょう。

山田隆裕
慶應大学卒。現、同大学院所属。
大学4年時に公認会計士試験に突破。
自分の知識の定着も兼ねて、会計・財務などに関する知識を解説していきます。
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