地方移転で優遇?地方拠点強化税制を解説 | MONEYIZM
 

地方移転で優遇?地方拠点強化税制を解説

平成29年4月から「地方拠点強化税制」が変更され、企業にとって本社機能を地方に移転させるメリットが大きくなりました。税金が控除される条件と、その金額について解説していきます。

地方拠点強化税制とは

地方拠点強化税制とは、企業が本社機能を地方に移転させたり、特定業務施設を新設、増設したりした際に、投資した金額に応じて法人税が控除されるという制度です。

現代の日本では人口や会社が都市部に集中しており、地方の過疎化、高齢化が進んでいます。そこで政府は「地方創生」をスローガンに掲げ、地方と都市部の経済格差を是正し、日本のGDP成長率や人口を維持することを目標にしています。

地方拠点強化税制の要件

この制度を利用するためには移転先となる都道府県知事に対し、「地方活力向上地域特定業務施設整備計画」を申請して認定を受けることや、増築・新築する建物の条件、移転先の条件をみたす必要があります。これらの条件をすべて満たしていないと支援を受ける事ができないので要注意です。

認定を受けるためには

認定されるためには次の3つの条件をすべて満たす必要があります。
①移転、拡充先の都道府県の認定地域再生計画に適合すること。
②本社機能において従業員数が10人(中小企業は5人)以上増加すること。移転型の場合は過半数が東京からの移転であること。
③円滑かつ確実に実施されると見込まれること。
記載する詳しい内容については以下を参照してください。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/tiikisaisei/pdf/seikatukoujou_guideline2.pdf

建物の条件

適応対象は事務所、研究所、研修所の建物、建物附属設備、構築物であり、その取得価格が2,000 万円以上(中小企業:1,000 万円以上)であることです。認定を受けた事業者は、特定業務施設の新設または増設に際して取得等した建物等の資産に係る法人税等の特別償却または税額控除のいずれかの適用を受けることができます。

移転先の条件

支援対象となる地域は東京、神奈川、埼玉を中心とする首都圏、名古屋市を中心とする中部圏、大阪、京都を中心とする近畿圏、以外の地域です。以下では支援対象となる地域を地方、対象とならない地域を都市、と呼びます。
詳しくは以下のサイトを参照してください。
http://ritti.net/iten/index.html#1

拡充型と移転型の違い

本社機能を地方に移転させるとき、拡充型と移転型の二種類あり、それぞれ支援額や対象が異なります。

拡充型

拡充型とは、静岡にある本社の規模を大きくしたり、宮城県に移したりするなど、地方に本社を置いている企業がその本社を増築したり、別の地方に移転させたりすることです。

移転型

移転型とは、東京23区に本社を置く企業が本社を長野県に移すなど、都市部から地方に本社機能を移転させることです。
もともと本社が地方にあったか、都市部にあったかで拡充型と区別されていて、移転型のほうが拡充型よりも有利な支援を受けることができます。

減税、優遇措置について

本税制の優遇措置として、①オフィス減税②雇用促進減税 の二種類があります。オフィス減税は本社を移したり増築したりした際にかかった費用によるもので、それによって生まれた新たな雇用によるものが雇用促進減税です。では、実際の優遇措置、拡充型と移転型に分けて説明していきます。

拡充型の場合

①オフィス減税

建物等の取得金額に対し、特別償却15%または税額控除4%を受けることができ、どちらを選択するかは選ぶことができます。平成30年3月31日までに拡充先となる都道府県知事の認定が必要であり、限度額は税額控除を活用する場合、当期法人税額等の20%です。

②雇用促進減税

新規雇用者に対し、法人全体の雇用者増加率が10%以上の場合は一人あたり50万円、10%未満の場合は一人あたり20万円、税額が控除されます。

適用要件は、
・適用年度中に雇用保険一般被保険者の数が5人(中小企業者は2 人)以上増加
・適用年度及びその前事業年度中に事業主都合による離職者がいないこと
・適用年度における「支払給与額」が、その前事業年度よりも一定以上増加していること
です。限度額は、雇用促進税制とオフィス減税合わせて当期法人税額等の30%までとなっています。

移転型の場合

①オフィス減税

建物等の取得金額に対し、特別償却25%または税額控除7%を受けることができます。拡充型と同じく平成30年3月31日までに移転先となる都道府県知事の認定が必要であり、限度額は税額控除を活用する場合、当期法人税額等の20%です。

②雇用促進減税

当該特定業務施設の当期増加した雇用者1人あたり50万円または20万円が税額控除されます(初年度、ただし法人全体の増加雇用者数を上限とする)。さらに、移転型の場合は転勤者を含む当該雇用者全員に一人あたり30万、追加で税額が控除され、雇用者数が減少しない限り、最長3年間継続されます。

こちらの適用要件も拡充型と同様になっています。限度額は、雇用促進税制とオフィス減税合わせて当期法人税額等の30%までとなっています。

具体例

条件(ⅰ)本社を東京23区から地方に5億円投資して移転させる。(移転型)
条件(ⅱ)東京から30人転勤させ、現地で20人新規雇用する。
条件(ⅲ)雇用者増加率が10%以上であり、3年間 雇用者数が減少しない。
この条件で税額控除を選択すると、
・税金控除5億×7%=3,500万円
・新規雇用者20人×50万=1,000万円
・当該雇用者全体50人×30万×3年=4,500万円
合わせて最大3,500万+1,000万+4,500万=9,000万円 税金控除を受けることができます。

雇用促進税制の特例の拡充

平成28年4月1日から平成30年3月31日までの期間内に始まる事業年度において、雇用増加者数5人以上(中小企業は2人以上)、かつ、雇用増加割合10%以上等の要件を満たす企業が、新たに雇い入れた無期雇用かつフルタイムの雇用増加者一人当たり40万円の税額控除が受けられるようになりました。

先ほどの例で考えると、企業が上記の条件を満たしていて、新規雇用者20人が全員無期雇用かつフルタイムである場合、一人あたり50万+40万=90万円、すなわち20人で計1,800万円の税金控除を受けられます。※平成29年4月1日以後に開始する事業年度において適用します。

☆ヒント
拡充型においても移転型においても、地方拠点強化税制に関するオフィス減税を受ける時、特別償却か税額控除のどちらがより企業側にとって得なのかは時と場合によって違います。株式会社ビスカスでは今回の件のような複雑な資金繰りにも精通した税理士を多数紹介しております。

まとめ

今回は本社機能を地方に移転させたときの金銭的なメリットを紹介しました。本社を地方に移転させることは実務上の困難が生じる可能性があるため、税的なメリットに対してどれだけの負担が発生するのかなど、きちんと検討しておく必要があります。税的な側面や資金繰りといった観点からは、税理士はプロフェッショナルなので、なにかお悩みがある場合は税理士に相談してみてはいかがでしょうか?

山本麻衣
東京大学卒。現、同大学院所属。
学生起業、海外企業のインターンなどの経験を経て、外資系のコンサルティング会社に内定。
自分の起業の経験などを踏まえてノウハウなどを解説していきます。
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