個人事業主?医療法人?開業する前に 知っておきたい税金の優遇内容とは | MONEYIZM
 

個人事業主?医療法人?開業する前に
知っておきたい税金の優遇内容とは

クリニックは他の業種よりも公共性が求められる傾向にあります。そのため、税金面で優遇されています。しかし、個人事業主または医療法人のいずれかの形態でクリニックを運営するかについて迷うかもしれません。そこで、開業する前に知っておきたいクリニックの税金、個人事業主と医療法人の違いについて解説します。

個人クリニックと医療法人の違い

同じクリニックでも「個人クリニック」と「医療法人」は位置づけが異なります。

(1)個人クリニック

法人格を持たない個人クリニックは個人事業主になります。医療法人と違い、営利目的で活動可能です。

(2)医療法人

医療法人とは、都道府県知事の認可により法人格を得られる組織形態です。非営利組織という位置づけであり、公共性が求められます。一般的には、法人のため、個人クリニックよりも資金調達がしやすく、高額な設備投資ができる分、経営が安定しやすいといわれています。また、たとえ代表者が交代してもクリニックが永続的に存続できるので、地域の医療サービスにも継続的に貢献できるといえるでしょう。

①社団と財団

医療法人は、医療法人社団と医療法人財団に区分されます。

 

  • 医療法人社団:複数の人が集まって設立される医療法人
  • 医療法人財団:個人または法人が無償で寄附する財産に基づいて設立される医療法人
②一人医師医療法人

常勤の医師・歯科医師が1人または2人勤務する診療所を開設する医療法人のことを指し、いわゆる「一人医師医療法人」といいます。

個人クリニックと医療法人にかかる税金

個人クリニックと医療法人は営利目的の会社と同じ税金が課税されます。

個人クリニックに課税される税金の種類

個人クリニックの所得は事業所得となり、所得税(復興特別所得税を含む)・住民税・事業税が課税されます。税率は次の通りです。

①所得税

所得に比例して5%~45%までの7段階の税率が適用されます。

②住民税

所得に関係なく、一律10%が適用されます。

③事業税:

所得から年290万円の非課税枠を差し引いた残額に一律5%が適用されます。
個人クリニックは所得金額が大きくなるほど税率が高くなるのが特徴です。
また、消費税の取り扱いは次の通りになります。

 

  • 自由診療報酬:課税対象
  • 社会保険診療報酬:非課税

医療法人に課税される税金の種類

医療法人には法人税・地方法人税・住民税・事業税が課税されます。税率は次の通りです。

①法人税

普通法人と同じ税率が適用されます。

区分 税率
資本金1億円以下の医療法人 所得金額が年800万円以下の部分 15%
所得金額が年800万円超の部分 23.2%
資本金1億円超の医療法人 23.2%
②地方法人税および住民税

法人税の17.3%または20.7%になります。また、均等割といい、所得と関係ない税金が年7万円以上課税されます。

③事業税

所得の3.4%~5.23%が課税されます。医療法人は所得金額に比例して税率が増えないのが特徴です。一方、消費税は個人クリニックと同じように、自由診療報酬のみ課税されます。

クリニックの優遇税制

クリニックは税金面において他の事業よりも優遇されています。

社会保険診療報酬にかかる所得計算の特例

そもそも所得は「収入金額-必要経費」で計算しますが、個人クリニックと医療法人は必要経費を概算額で計算できます。「社会保険診療報酬にかかる所得計算の特例」は次のいずれも満たす場合が利用の条件となります。

 

  • 社会診療報酬が5,000万円以下であること
  • 自由診療報酬を含めて事業所得にかかる全体の収入金額が7,000万円以下であること

 

概算経費率は次の通りです。

所得区分 概算経費率
2,500万円以下の金額 72%
2,500万円を超え3,000万円以下の金額 70%
3,000万円を超え4,000万円以下の金額 62%
4,000万円を超え5,000万円以下の金額 57%

 

実際の経費よりも概算経費が大きい場合、社会保険診療報酬にかかる所得計算の特例を適用したほうが節税対策になります。

 

ただし、社会保険診療報酬にかかる所得計算の特例は適用しなかった場合、正当な理由がない限り、さかのぼって概算経費率を用いての経費の計算は認められませんので、注意が必要です。

社会保険診療報酬にかかる事業税の非課税

医療法人の場合、社会保険診療報酬にかかる所得金額について事業税は非課税になります。社会保険診療報酬にかかる所得金額は次の計算式になります。

 

総所得金額×(社会保険診療報酬÷総収入金額)

 
また、医療法人は事業税の外形標準課税の対象外です。そのため、他の業種よりも事業税が優遇されているといえます。

医療機器にかかる特別償却

医療機器を購入した場合、特別償却という経費を前倒し計上できる制度が利用可能です。設備投資の初年度に節税効果があるため、初年度の資金繰りを有利にできます。特別償却の対象設備は次の通りです。

(1)医師及びその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度

「取得価額×15%」の特別償却ができます。取得価額30万円以上の「勤務時間短縮用設備等」の器具・備品(医療用機器も含む)・ソフトウエアが対象設備です。

 

「医師等勤務時間短縮計画」を作成し、都道府県の医療勤務環境改善支援センターに提出し、確認を受けることが条件になります。

(2)地域医療構想の実現のための病床再編等の促進に向けた特別償却制度

「取得価額×8%」の特別償却ができます。病院用または診療所用の建物およびその附属設備が対象設備です。

(3)高額な医療用機器の特別償却制度

「取得価額×12%」の特別償却ができます。取得価額500万円以上の医療機器が対象設備です。

 

ただし、特別償却と「社会保険診療報酬にかかる所得計算の特例」と併用できないので、注意が必要です。

特定医療法人の税率の特例

特定医療法人の場合、医療法人よりも法人税について、年800万円超の部分の税率が「23.2%→19%」に優遇されます。「役員数に占める親族の割合が3分の1以下」や「一定数以上の入院施設がある」等にあてはまり、国税庁長官の承認を受けることが特定医療法人の条件になります。

個人クリニックと医療法人のメリット・デメリット

個人クリニックと医療法人の税金面以外におけるメリット・デメリットについて説明します。

個人クリニックのメリット・デメリット

個人クリニックのメリット・デメリットは次の通りです。

(1)メリット
①小規模企業共済・経営セーフティ共済に加入できる

他の業種と同じように中小機構の小規模企業共済・経営セーフティ共催に加入できます。

 

  • 小規模企業共済:事業主の退職金制度
  • 経営セーフティ共済:「取引先の倒産」に備えた事業資金の貸付制度

 

積立型の共済にもかかわらず、掛金が経費計上または所得控除できるため、節税対策も兼ねられる公的な制度です。

②利益を分配できる

獲得した利益を分配する・しないは個人事業主の自由です。たとえば、もうけが多額の月に、本人の取り分を増やしても特に問題ありません。

(2)デメリット
①対外的な信用で不利

医療法人よりも公共性で劣っていると見られるため、対外的な信用で不利になる傾向にあります。たとえば、物件を借りる際の連帯保証人は個人事業主と別の人にする必要があります。医療法人のように、代表者を連帯保証人にできません。

医療法人のメリット・デメリット

医療法人のメリット・デメリットは次の通りです。

(1)メリット
①対外的な信用で有利

医療法人は公共性があると見られているため、個人クリニックよりも対外的な信用で有利になる傾向にあります。たとえば、求人広告を出す際、個人クリニックよりも医療法人のほうが求職者は信用するでしょう。

(2)デメリット
①小規模企業共済・経営セーフティ共済に加入できない

医療法人は小規模企業共済・経営セーフティ共済の加入対象外になっています。たとえば、役員である代表者が退職金を準備するためには、生命保険の活用など別の方法を選択しなければなりません。

②利益の分配ができない

「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」と医療法第54条で定められています。医療法人は公共性が求められているからです。ただし、役員報酬として受け取る分には問題ありません。

まとめ

個人クリニックと医療法人を比較しながら説明しました。いずれの形態のクリニックも税制面で優遇されているのが特徴といえます。それぞれのメリット・デメリットを吟味して、個人クリニックまたは医療法人をベストチョイスしましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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