税の滞納で、お寺の墓地を差し押え!? 「差押えできない財産」とは? – マネーイズム
 

税の滞納で、お寺の墓地を差し押え!?
「差押えできない財産」とは?

    公開日:
    2020/06/02
     
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    さきごろ、名古屋市にあったお寺が税の支払いを滞納したために、所有する墓地を差し押えられた、というニュースがありました。たくさんの遺骨が眠る墓地まで差し押えられてしまうとは……。滞納の「恐ろしさ」を再認識させられるのですが、とはいえこのような場合、何もかもが当局に押さえられてしまうわけではありません。その「線引き」はどうなっているのでしょうか?

    そもそも「差し押さえ」とは?

    「事件」の概要を、5月27日付「朝日新聞デジタル」の記事から抜粋してみます。

     

    名古屋にあった古刹・久宝寺が税金の支払いを滞納したとして、名古屋国税局が寺が所有する墓地を差し押さえ、公売にかけたことが分かった。墓地の公売は極めて異例のことだ。関係者によると、国税局は2017年、寺の税務調査を実施し、住職(72)が寺の資金約7000万円を個人的な投資に流用したことを確認。このうち約5000万円について、寺が住職に支払った臨時賞与とみなして源泉徴収漏れを認定した。重加算税の追徴課税もあったが、寺は約2260万円の支払いを滞納し、当時の財産は墓地だけで国税局が差し押さえた。

     

    要するに、住職が本来税務署に申告すべき所得を申告せず、当然、納税もしていなかった。税務調査(※1)でその事実を確認した国税局が、重加算税というペナルティを上乗せして、納税を求めた。しかし、今度はその支払いを滞納したため、財産を差押えた――というわけです。

     

    差し押さえを含む行政による一連の措置を、「滞納処分」と言います。滞納が発生すると、まず法令に基づく督促状が送付され、それでも納付されないと、電話や文書による催告が行われます。さらに滞納状態が続く場合には、財産調査及び捜索→財産の差し押さえ→差し押さえ財産の換価公売、というステージに進むことになるのです。

     

    ※1税務調査
    国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。任意調査と、国税局査察部(マルサ)が行う強制調査がある。この案件は、後者に当たる。

    差し押さえが禁止されている財産もある

    ただし、滞納したら何から何まで差し押さえられて、路上に放り出される――わけではありません。国税徴収法という法律には、「差し押さえることができない」財産が明示されています。例えば次のようなものが、「差押禁止財産」とされています。

     

    〈一般の差押禁止財産(同法75条)〉

     

    • ①滞納者やその家族の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳及び建具 滞納者の所有物ではない例えば配偶者の衣服などは、もちろん差し押さえの対象にはなりません。
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    • ②家族の生活に必要な3ヵ月間の食料及び燃料
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    • ③自己の労力により農業を営む人の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料、次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
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    • ④自己の労力により漁業を営む人の水産物の採捕または養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
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    • ⑤技術者、職人、労務者などの業務に欠くことができない器具その他の物 その職業や、あるいは営業を行うのに最低限必要なものは、差し押さえが禁止されています。「最低限必要かどうか」は、滞納者の職業や営業の規模、該当する器具の用途、使用期間などを考慮して判断されることになっています。
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    • ⑥実印その他の印で職業または生活に欠くことができないもの 「職業に欠くことができないもの」とは、官公吏、会社員、弁護士、公証人などが職務上使用する印、会社の社印、画家及び書家の落款などの職業に必要な印章で、現に使用中のものを指します。
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    • ⑦仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物 具体的には、神体、神具、仏具などで、現に信仰または礼拝の対象になっているもの及びこれに必要なものを指します。そのため、仏像、仏具であっても礼拝の対象としないで商品、骨董品などとなっている場合には「差押禁止財産」には当たらず、寺院の本堂や庫裏、神社の拝殿、社務所なども同様だとされています。
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    • ⑧滞納者に必要な系譜、日記及びこれに類する書類
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    • ⑨滞納者またはその親族が受けた勲章その他名誉の章票
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    • ⑩滞納者またはその家族の学習に必要な書籍及び器具 学校教育法第1条に規定する学校において教育を受け、またはこれと同程度の修学をするのに必要と認められる書籍(教科書、参考書、辞書など)、器具(机、本箱、文房具など)は、差し押さえることができません。
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    • ⑪発明または著作に係るもので、まだ公表していないもの 「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい、「著作に係るもの」とは、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます。また「公表」とは、発明の特許を受けたときや、著作の発行、演奏、展示などを指します。
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    • ⑫滞納者またはその家族に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
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    • ⑬建物その他の工作物について、災害の防止または保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械または器具、避難器具その他の備品

     

    〈給与、退職金債権及び社会保険制度に基づくこれらに類する給付(同法第76条)〉

    • 手取り額(総支給額から源泉所得税、特別徴収の住民税及び社会保険料を控除したもの)が、納税者の家族構成により定まる一定金額(納税者本人につき10万円と、納税者と生計を一にする(※2)親族1人につき4万5000円との合計額)を超える場合に限り、その超える額の8割を限度として差し押さえうるにとどまる、とされています。つまり、それ以上は、差し押さえることができません。ただし、高額所得者については、この8割という限度が一定の基準により緩和されます。

     

    みてきたように、納税者(滞納者)や同居する家族の最低限の生活維持、精神活動の尊重などの観点から、特定の財産については差し押さえが禁止されているわけです。

     

    ちなみに、さきほどの寺院の一件を伝える記事には、こうあります。

     

    国税徴収法は礼拝などに直接使う神体、神具、仏具などの差し押さえはできないが、本堂や庫裏は直接必要と認められず差し押さえができるとしている。墓地も不動産と同じで差し押さえができる。

     

    上記の「一般の差押禁止財産」の⑦に基づいて、線が引かれたことになります。

     

    ※2生計を一にする(生計一)
    「日常の生活の資を共にすること」(国税庁ホームページ)。同居していなくても、生活費、学資金、医療費などを常に送金している場合などには、税法上「生計を一にする」とみなされる。

    まとめ

    税を滞納しても、最低限の生活必需品などが差し押さえられることはありません。裏を返せば、そういうもの以外は(寺の墓地までも)、へたをすると公売に付されることになってしまいます。納期を過ぎた税金がある場合には、すぐに専門家に相談を。

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