被災地域の企業必見! 災害による納税猶予等の仕組みを徹底解説! | MONEYIZM
 

被災地域の企業必見!
災害による納税猶予等の仕組みを徹底解説!

地震や台風など、最近の日本列島は毎年のように自然災害が起こり、多くの企業が被害を受けています。自然災害で企業が損失を被った場合、納税においてどのような措置を受けることができるのでしょうか。今回は被災した企業のための仕組みを徹底解説します。

再確認しておきたい災害リスク

2019年9月に発生した台風15号の被害は記憶に新しいところです。台風15号は関東地方に上陸したものとしては観測史上最強クラスの勢力で、千葉県を中心に甚大な被害を引き起こしました。全国で死者3人、重傷者13人、軽症者137人の人的被害に加えて、全壊約400棟、半壊約4,000棟、一部破損約70,000棟の建物被害が報告されています。

 

台風15号はこのような直接的な被害のほか、送電網にダメージを与え、関東地方の広域で停電などの二次的な被害も引き起こしました。停電でスーパーやコンビニの冷蔵庫が稼働せず食料が供給されなくなった光景や、ガソリンスタンドの電動ポンプが動かず、稼働している数少ないガソリンスタンドに自動車が並ぶ光景を、今でも鮮明に覚えている人が多いのではないでしょうか。

 

2000年以降、日本各地で巨大な自然災害が頻発するようになりました。災害が発生すると企業はさまざまな困難に直面します。災害が大きなものであればあるほど、企業はこれまでの事業を復旧させるだけでは済まず、災害によって生じた新しい事業環境に適応できるよう努力しなければなりません。自然災害は当然起こるものと考え、あらかじめさまざまなケースを想定して対策を練っておきましょう。対策としては、被害を少なくすることだけではなく、被害が生じたときにできる限り速やかに復旧するために、どのような援助があるかを知っておくことも必要です。

災害と納税猶予

災害による納税猶予には二種類あります。一つは、災害により交通インフラなどに問題が生じて納税が難しくなる場合であり、もう一つは、財産に大きな損害が発生して納税が難しくなる場合です。それぞれの場合について、申告や納税を延期する仕組みが用意されています。当然のことながら、災害の最中や直後は、納税よりも身の安全や事業資産の確保が優先されます。状況が落ち着いてから、納税の延期について最寄りの税務署に相談しましょう。

交通途絶等により納税できない場合

災害により交通手段が断たれることなどによって、申告や納税が期限までにできないことがあります。そのような場合、納税ができない状態が終わってから2ヶ月以内に「納税の猶予申請書」を提出することで、申告や納税を延期させることができます。この場合、災害の事実を証明する書類と「財産収支状況書」などの書類とともに、担保の提供も必要となります。納税の猶予期間は原則として1年以内ですが、やむを得ない理由がある場合は2年以内の範囲で延長できます。

災害により相当な損失を受けた場合

災害により財産に大きな損害を受けた場合、税務署に申請することで納税の猶予を受けることができます。この制度は、負債などを除外した積極財産のおおむね20%以上の損失を受けたときに適用されます。適用対象となる国税は、所得税、法人税、相続税、贈与税、給与の源泉所得税、消費税など多方面に渡ります。また、所得税、法人税、消費税の予定納税分も制度の対象で、原則として、損害が発生した日から1年以内に納付するべき税が対象となります。この制度の納税猶予期間は、予定納税分と中間申告分以外は納付期限から1年以内、予定納税分と中間申告分は確定申告までが原則です。

災害と損失計上

災害により、商品などの棚卸資産、店舗などの固定資産に損害が生じた場合、資産の評価損を損失として計上できます。また、原状回復のための修繕費も経費として計上できます。

 

災害による損失は多額であり、損失に対する保険や修繕の経理も複雑です。そのため、災害に関する経理を単年度会計の中で処理すると歪みが生じて実態を反映しなくなることがあります。結果として、本来支払うべき納税額より多額に納税することになりかねません。この問題を処理するために、損失金の繰り越し、災害損失特別勘定、法人税の還付などの仕組みが設けられています。

災害による損失金の繰り越しについて

災害による損失を計上した結果、損金、つまり事業上の赤字が発生することがあります。災害によって生じた損金は、他の場合の損金と同様に、損金が発生した事業年度から10年間にわたって繰り越して控除できます。通常の損金を繰り越すためには青色申告をしている必要がありますが、災害による損金はこの限りではありません。

災害損失特別勘定について

災害により被害を受けた資産を引き続き事業で使う場合、資産の評価損と原状回復のための修繕費などを損金として取り扱えます。修繕が年度をまたいで行われる場合、法人税法の通常処理ではそれぞれの年度で損金を計上することになります。しかし、たとえば保険金が一度に支払われる場合、支払われた年度は利益が過剰に生じることになり、納税額が増加する不具合が生じます。この不具合を解消するために、将来発生するであろう修繕費を見積もり、災害があった年に一括して計上する仕組みがあります。これが「災害損失特別勘定」です。

法人税額の還付について

欠損金は、後の事業年度に繰り越すのではなく、前の事業年度に繰り戻すことも可能です。この場合、既に納めた法人税の還付を受けることになります。還付を受けられる事業年度は、災害があった事業年度の前の事業年度です。青色申告をしている場合は、さらに1年前の事業年度に対しても還付を受けることができます。

従業員が被災した場合

従業員が被災した場合、災害見舞金を福利厚生費として計上する仕組みがあります。また、従業員のために設置した仮設住宅についても、経費や償却の仕組みを活用できます。

災害見舞金品について

災害が発生したときに従業員に渡した見舞金は、福利厚生費として経費に計上できます。災害見舞金が福利厚生費として扱われるためには、以下の一定の基準を満たす必要があります。

 

  • 被災した全従業員に対して被災した程度に応じて支給されていること
  • 金額が受け手の従業員の社会的地位に合わせた見舞金と社会通念上妥当であること

被災者用仮設住宅の設置費用について

企業が従業員や役員の仮設住宅を取得または賃貸した場合の費用は、事業年度の経費にすることができます。仮設住宅の資材を別の目的に使用する場合の償却は通常通り処理されますが、仮設住宅のためのみに使用する場合は、見積もった使用期間を元に償却できます。

 

☆ヒント
災害が生じた場合の税務について解説しました。納税猶予、損失計上、従業員が被災した場合の災害見舞金や仮設住宅の費用など、災害が生じた場合に使えるテクニックの概略を解説しましたが、実際に申請するときには、どこまで踏み込んで経費にできるか、繰り越しや繰り戻しがどこまでできるかなどについて、詳細に詰める必要があります。被災して制度を活用するときには、税理士など専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

災害に見舞われた企業のために、税制はいくつかのサポート制度を設けています。納税の猶予、損失の計上、被災した従業員のための経費計上などがあることをあらかじめ理解しておき、いざ災害に見舞われたときに積極的に活用できるよう備えましょう。

永井綾
慶應大学法学部卒。 外資系コンサルティング会社に勤務後、某有名法律事務所に転職し、広報業務に携わる。 コンサルティング業務での幅広い業界知識と、法学部・法律事務所で培った知識を解説します。
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