【飲食店向け】テイクアウトを始める今こそ おさらいしたい原価計算! | MONEYIZM
 

【飲食店向け】テイクアウトを始める今こそ
おさらいしたい原価計算!

コロナの影響に伴い、飲食店では「テイクアウト」や「デリバリー」を始めるお店が増えています。しかし、テイクアウトメニューを開発した場合、売上高を増やすことにとらわれ過ぎ、実は採算がとれていない…という事態もあります。本記事では、飲食店の原価計算の正しい考え方と計算方法について解説していきます。

新型コロナによる飲食店の営業形態の変化

活路を見出すためのテイクアウトという考え方

通常、飲食店は構えた店舗にお客様が来店することで初めて商売が成り立ちます。

お客様に選ばれるかどうかはお店の努力次第ですが、今回の新型コロナのように「そもそもお客様が外出できない」という事態は全く想定していなかったはずです。

 

そして2020年5月4日、厚生労働省は新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の具体的な実践例を公表しました。

 

【食事の場面】

  • 持ち帰りや出前、デリバリーも
  • 屋外空間で気持ちよく
  • 大皿は避けて、料理は個々に
  • 対面ではなく横並びで座ろう
  • 料理に集中、おしゃべりは控えめに
  • お酌、グラスやお猪口の回し飲みは避けて

 

緊急事態宣言が全国的に解除された今も、上記のような実践例により大型の宴会予約を取ることは難しいでしょう。

 

また、密を避けるため、席数を減らした状態でこれまでと同じ売上を求めるのであれば、回転率を上げるか、客単価を上げる(メニューの値上げ)ほかありません。

さらに、大皿やピッチャーでのサービス提供ができなくなれば、オペレーション(消毒業務も含む)にかかる時間が増え、人件費は増えることになります。

 

商売の大前提が崩れてしまい先行きも不透明、飲食店は新しい営業スタイルを模索する必要があるのかもしれません。

 

ここでは、新しい生活様式に推奨され、いまや主流となりつつある「テイクアウト」という営業形態を取り入れた場合について詳しくみていきます。

テイクアウトメニューが抱えるデメリット

デリバリーは車両代や燃料費、配送する人件費などの配送コストがかかり、ネット通販は販売ルートを構築するための時間と初期投資が必要になります。

 

その点テイクアウトは店頭販売ですので、コストを抑えつつ売上を増やすという点で優れていますが、メリットばかりではありません。

 

店舗内での飲食提供という、本来のスタイルでは発生し得ないテイクアウト特有のコストがあります。

 

例えば、料理を持ち帰る容器や袋、お箸やおしぼりといった備品、宣伝広告費も最初は必要です。

 

また、通常の盛り付けよりも時間と手間がかかりますし(人件費)、賞味期限や食中毒の予防など、特別な配慮も要します。

 

容器のように目に見えるものから人件費のように目に見えないものまで、テイクアウトにも様々なコスト(※)が上乗せされ、「採算性」が問題になります。

 

※小規模事業者持続化補助金による対象経費もありますので下記サイト参照。全国商工会連合会
令和2年度補正予算  小規模事業者持続化補助金
<コロナ特別対応型>
http://www.shokokai.or.jp/jizokuka_t/

飲食店における原価計算

採算性の検討には原価計算が必須

ボランティア精神をもって採算度外視でテイクアウトメニューを提供する、ということであれば話は別ですが、お店の維持存続を目的とした選択であるならば「採算性」は決して無視できません。

 

では、この「採算性」はどのようにして計算すればよいのでしょうか?

 

ここで登場するのが「原価計算」という考え方です。

 

飲食店に限らず「材料を仕入れて」「手間暇かけて」製品を完成させ販売するといった「ものづくり」を手掛けている企業では必須となる知識です。

 

採算性は次の計算式で求められます。

 

売上高-売上原価-固定経費=利益

 

利益がプラスであれば採算がとれている状態を示しています。

仮にこの計算式が0円になればプラスマイナスゼロ、いわゆる損益トントンの状態です。

 

ここで注意するのが、法人と個人事業では利益0円の意味が違ってくるという点です。

 

法人であれば固定経費の中に経営者の人件費(役員報酬)が含まれますので利益が0円であっても経営者の方は生活できます。

しかし個人事業の場合、生活費は経費になりませんので上記の計算式には含まれません。

 

つまり、利益が0円になると事業主はタダ働きになります。

 

利益を計算するポイントとしては「売上原価」と「固定経費」をどれだけ正確に把握できるか?ということに尽きます。

 

固定経費は家賃や広告宣伝費のように売上高に関係なく毎月定額で支払うものが多いので比較的簡単に求めることができますが、問題は「売上原価」の計算です。

原価計算を構成する四つの要素

飲食店の「売上原価」とは、「調理に直接使用する費用」全体を指します。

 

また、売上に比例して変動する費用という意味で「固定経費」に対して「変動経費」と呼ぶ場合もあります。

 

「売上原価」は大きく分けて四つの要素で構成されます。

 

  • 材料費 …食材や調味料、容器、包材、など
  • 人件費 …従業員に対する給与、社会保険料の会社負担分、など
  • 外注費 …調理を外部に委託した場合の手間賃、など
  • 経費 …水道光熱費、調理用具や備品代、など

 

2については、売上に関係なく固定的に発生する月給者の人件費を固定経費とする見方もありますが、今回は作業時間の採算性を考えるために時給者であるとして話を進めます。

 

料理を作るためにかかった1~4の費用を合計したものが「売上原価」です。

 

売上から売上原価を差し引けば、売り上げに対して何パーセントの利益を生み出しているのかがわかります。

テイクアウト特有の経費

ではここで、再度テイクアウト特有の経費を列挙してみましょう。

 

  • テイクアウト用の容器
  • 持ち帰り用の袋、包装紙、割り箸、お手拭き
  • 容器詰めに要する作業時間
  • テイクアウトを周知するためのチラシ代、広告宣伝費
  • 売れ残った場合の商品ロス
  • テイクアウトメニューを考案するために要した時間…など

 

逆にテイクアウトに移行することで削減・効率化できる部分もあります。

 

  • 食材のロスが減少
  • 回転率を考慮する必要がなくなる
  • 同一商品を大量に調理することで調理時間を短縮、光熱費の節約
  • フロアでの接客、食器やテーブルなどの後片付けに要する時間…など

 

テイクアウトにおける売上原価を計算する場合、まずは通常営業時の売上原価を算出するところから始めます(前述したように、新しい生活様式により“これまでの通用営業時”とは違ってくることも予測し、売上原価の数字を見直す必要があるでしょう)

 

合計した売上原価から上記の増加する経費、減少する経費を加減算すればテイクアウトの売上原価を求められます。

利益計算で役立つ「損益分岐点計算」の考え方

テイクアウトの売上原価を求めた後、次に考えなければならないのが「いくら売り上げればよいのか?」ということです。そこで、採算のとれる目標売上高を設定するにあたって役立つのが「損益分岐点計算」です。損益分岐点とは、利益がプラスマイナスゼロになるために最低限達成しなければならない売上高を示す指標のことです。

 

【損益分岐点の計算式】

売上高-売上原価-固定経費=利益0円

 

この損益分岐点さえ知っていればテイクアウトメニューの販売数目標や単価設定するときの手助けになります。

 

【計算の手順】

  • テイクアウトメニューの「販売単価」×「目標販売数量」で仮の「売上高」を計算
  • 1.のメニューを作った場合の「売上原価」を計算
  • 2.の「売上原価」にテイクアウト特有の売上原価を加減算して「テイクアウトの売上原価」を求める
  • 仮の「売上高」から「テイクアウトの売上原価」を差し引きして「売上利益」を計算
  • 「売上利益」を仮の「売上高」で割り算して「テイクアウトの利益率」を計算
  • 通常営業時の「固定経費」を計算
  • 6の「固定経費」にテイクアウト特有の固定経費を加減算して「テイクアウトの固定経費」を求める
  • 「テイクアウトの固定経費」を「テイクアウトの利益率」で割り算

 

もし、損益分岐点が仮の「売上高」より高い場合には「販売単価」か「目標販売数量」のいずれかが原因で採算が合っていない、ということを意味します。

 

販売単価を高くするか目標販売数量を増やして再度1~9の計算をしてみましょう。

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まとめ

「料理を作って」「売り上げて」生み出した利益で固定経費を支払う…これが飲食店の営業サイクルです。利益を計算するためには売上原価の把握が不可欠ですが、赤字経営の飲食店はこの売上原価が正確に計算できていないケースが多くあります。せっかく始めたテイクアウトも利益が出なければお店の体力を消耗するだけですので、まずは採算がとれる事業計画をしっかり立ててから着手しましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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