トランプ政権の“品目別関税”とは?業界別影響と企業がとるべき対策を解説

2025年、トランプ政権は「品目別関税」政策を打ち出し、世界の貿易構造に大きな影響を与え、日本企業にも多大な影響が及び始めています。この政策は、特定の製品に対して関税を設定することで、ターゲットを絞った経済圧力をかけ、競争力を高めることが目的です。
貿易赤字の是正や国内産業の保護を狙いつつ、政治的な意図も含まれており、企業は自社製品が対象となるかどうかを見極め、迅速な対応が求められます。本記事では、この品目別関税の影響と企業がとるべき対応策について解説します。
1. 品目別関税の概要と背景
2025年、アメリカのトランプ政権が再び打ち出した「品目別関税」は、世界の貿易構造に大きなインパクトを与えています。特定の製品に対して個別に関税を設定するこの政策は、従来の一律的な関税措置とは異なり、より戦略的な性格を持っています。
企業にとっては、自社製品が対象となるかどうかを見極め、迅速な対応を求められる局面だといえるでしょう。
なぜ品目別?トランプ関税の新たな戦略を徹底解説
2025年4月、トランプ大統領は強硬な貿易政策を打ち出しました。その中でも注目すべき施策が「品目別関税」です。これは、特定の製品に対して関税を個別に設定し、自国産業を守るための戦略的な措置となっています。
背景には、不法移民問題やフェンタニルといった合成麻薬の流入への対応という政治的理由もありますが、根底にあるのは「貿易赤字の削減」と「国内産業の保護」です。たとえば、カナダ・メキシコからの輸入品には原則25%の追加関税が課され、3月には鉄鋼・アルミ製品に追加関税25%が適用されました。
さらに注目すべきは、2025年4月2日に発表された「相互関税」制度です。これは、相手国がアメリカに対してかけている関税と同水準までアメリカ側も引き上げるという考え方です。今後、自動車・半導体・医薬品・木材・銅といった主要製品にも追加関税を課すと発表されており、多くの企業に影響が及ぶ可能性が高まっています。
品目別関税リスト公開:主要産業への影響は?
経済産業省の2024年時点の資料によると、日本からアメリカに輸出されている主要製品には以下のようなものがあります。
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乗用車・自動車部品
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医薬品・医療機器
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半導体・蓄電池・電子機器
自社の輸出品がどのカテゴリに属するかを確認し、関税対象になっているかを見極めることが、今後の事業戦略において極めて重要です。
アメリカの狙いは?品目別関税が示す保護主義の強化
米国のトランプ政権が掲げる品目別関税政策は、単なる経済対策ではなく、「米国第一主義」を前面に押し出した保護主義政策です。自由貿易によって海外から安価な製品が流入し、結果的に米国の製造業が打撃を受けてきたという認識が背景にあり、政策により、国内の雇用を守ることが目的とされています。
しかし実際には、米国の消費者が価格上昇の影響を受けたり、国際的なサプライチェーンの分断が進んだりと、副作用も多く指摘されるのが現状です。また、トランプ氏は“交渉型”の政治家であることから、こうした関税措置をカードにして、他国から有利な条件を引き出す「パッケージ・ディール」を狙っているともいわれています。
つまり、現在の関税政策がそのまま続くとは限らないものの、しばらくは企業として「最悪のシナリオ」を前提に準備を進めておく必要があります。
2. 主要品目別関税率の詳細
トランプ政権の関税政策では、自動車や半導体、医薬品などの主要品目に対し、個別に高い関税が課されています。どの品目にどの程度の関税がかかるのかを把握することは、今後のビジネス戦略や価格設定を見直す上で重要です。
ここでは、主要品目別関税率それぞれの詳細について解説します。
自動車産業への打撃
自動車産業は、トランプ関税の最大の標的といっても過言ではありません。日本メーカーはメキシコやカナダを生産拠点とし、そこからアメリカ市場への輸出を行っていますが、25%の関税が課されることで大打撃となります。
自動車メーカーは、関税発動を見据えた価格転嫁の調査や生産・輸出先の見直しなど、さまざまな対応策を模索中です。
電子機器産業の命運
トランプ政権の関税強化方針を受け、電子機器・半導体業界では警戒感が高まっています。米国向けの売上比率は多くの企業で10%前後とされ、直接的な影響は大きくないとする見方もありますが、世界経済の減速がもたらす間接的な影響に注目が集まっています。
とくにAI関連などの最先端分野では、米国の景気後退や需要減退が電子部品の出荷減少に直結しかねません。市場の動きに機敏に反応するため、各社が対応を急いでいます。
農業分野への影響
トランプ政権の貿易赤字是正策が農畜産物にまで波及する懸念が高まっています。米国は農産物分野で貿易赤字が続いており、日本に対しさらなる輸入拡大を求める可能性があります。
2020年に発効した日米貿易協定では、日本は米や乳製品といった重要品目は除外しながらも、TPP水準の自由化に踏み切りました。その結果、国内の生産基盤は弱体化し、これ以上の市場開放は農村の衰退をさらに加速させる恐れがあります。
実際には、日米の農畜産物貿易は米国の圧倒的な黒字で、自動車関連の赤字こそが日米間の貿易不均衡の主因です。そのため、日本政府には毅然とした対応が求められるところでしょう。
その他重要産業への影響
鉄鋼業界も大きな打撃を受けています。米国が日本からの鉄鋼に対し25%の関税を課す方針を示したことで、すでに限られた輸出量にさらなる制限がかかる見込みです。日本の鉄鋼は品質で高い評価を得ていますが、25%もの価格上乗せでは競争力を維持できません。
とくに懸念されているのが、日本が強みを持つ自動車向けの高付加価値素材の需要減です。米国向け自動車の生産縮小が現実となれば、それに応じて鋼材の出荷量も大幅に減る可能性があるでしょう。実際、すでに現場では生産ラインの停止が検討されており、素材産業全体への波及が始まりつつあります。
一方で、政府はジェトロと連携して企業の相談窓口を設置し、影響の緩和に向けた支援を進めています。企業側もEU経由での輸出など新たな販路を模索していますが、トランプ政権の保護主義的政策は依然として大きなリスク要因です。
また、医薬品そのものへの関税は現在のところ限定的ですが、医療分野全体には別の形で影響が及ぶ可能性があります。米国ではコロナ禍以降、サプライチェーンの国内回帰が重視されており、製薬原料や製造の国内化を進める動きが強まっています。こうした流れの中で、日本企業が米国向けに医薬品や医療機器を輸出する際、価格圧力などといった形で不利な条件を突きつけられるリスクも否定できません。
関税よりも、むしろ「アメリカで作っていないなら使わない」といった政治的な圧力がじわじわと効いてくる可能性があるのです。とくに精密医療機器や検査機器といった分野では、日本企業が強みを持つ分野であり、その影響が懸念されています。現段階では具体的な措置は講じられていませんが、保護主義の波は医療分野にも押し寄せる兆しが見え始めています。
3. 品目別関税が企業に与える影響と対策
トランプ政権が導入した品目別関税は、企業のコスト構造や調達体制、販売戦略に大きな影響を及ぼしています。特定の輸出品に高関税が課されることで、従来のサプライチェーンや価格設定では対応が難しくなるケースが増加しています。
今後、企業としては、グローバル市場で競争力を維持するための対策が欠かせないでしょう。以下では、品目別関税が企業に与える影響と対策について詳しく解説します。
サプライチェーンの再構築:品目別関税リスクへの対応
関税見直しなどの世界的な貿易環境の変化によって、企業は従来のサプライチェーンの見直しを迫られています。とくに、電子部品や化学製品など一部の品目は急激な関税増加の対象となっており、一国に依存していた調達体制では大きなリスクを抱えることになります。
こうした状況下では、品目ごとに関税リスクを評価し、調達・生産拠点の分散が必要です。関税負担が高くなると予測される品目については、在庫の先行確保や非対象地域への切り替えといった施策も重要です。
製品の構成要素や調達経路を確認し、優先順位をつけてサプライチェーンの再構築を図ることが、今後の経営に直結するでしょう。
価格転嫁の戦略:コスト増加をどう吸収するか?
関税の影響で調達コストが上昇した場合、その負担をどのように吸収するかが大きな課題となります。価格交渉は、企業間の信頼関係に直結するため、戦略的な対応が不可欠でしょう。
企業の多くは、原材料や物流費の上昇のデータを整理し、データに基づいた段階的な価格改定を通じて顧客に理解を促しています。また、価格上昇分を単に転嫁するのではなく、製品の付加価値やサービス品質の向上を同時に打ち出すことで、価格改定の納得感を高めています。
戦略的に動いていくことで、価格転嫁による顧客離れを防ぎながら、利益率の確保を実現する必要があるでしょう。
代替調達先の確保:関税回避のためのグローバル戦略
高関税国からの輸入依存が高い企業にとって、代替調達先の確保は関税リスク回避の最も直接的な手段です。この戦略は、単なる調達先の切り替えにとどまらず、中長期的なグローバルサプライチェーン戦略の見直しを伴います。
調達先の分散には、以下の3つのアプローチが存在します。
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地域分散:
地政学リスクや関税政策が異なる複数の地域から調達することで、特定地域の混乱によるリスクを分散。 -
企業分散:
同じ製品を複数のサプライヤーから調達し、一社依存を避けることで、企業トラブル時の影響を最小限に抑える。 -
製品分散:
調達困難な製品に備え、代替素材や部品をあらかじめ検討・確保しておくことで、柔軟な対応が可能に。
中小企業にとって、すべての調達品を一度に分散させるのは難しいのが現実です。そのため、まずは重要度の高い品目から段階的に対応を進めることが重要です。
また、関税回避の観点では、FTAやEPAといった貿易協定の活用も視野に入れるとよいでしょう。
税務・通関対策:品目別関税の複雑さを乗り越える
関税の仕組みは非常に複雑であり、品目ごとに異なる税率が設定されているため、適切な税務・通関対応が求められます。そのため、最新の関税制度に基づいた分類の見直しや、税関・通関業者との連携が重要です。
また、関税コストを正確に反映し、財務や税務上の処理を適正に行うことで、予期せぬ税負担を回避することが可能です。制度を正しく理解し、適切な運用を行うことが、品目別関税の複雑さを乗り越えるための鍵となるでしょう。
まとめ
トランプ政権の下では、新たに品目別関税が強化され、影響が拡大しています。とくに関税リスクが高い品目においては、企業は代替調達先の確保やコスト削減策を強化していく必要があるでしょう。このように、企業は事業運営の効率性を保ちながらも、新しいリスク管理の手法を積極的に導入していくことが求められています。
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