相続した空き家を放置するとどうなる? 法改正で高まったリスク、対処法を解説

被相続人(亡くなった人)の遺言や相続人同士の遺産分割協議の結果、被相続人の所有だった家を相続したものの、そこに自分は住むつもりはなく、空き家になっている――。そんな場合、そのまま放置すると様々な問題が発生します。どんなデメリット、リスクがあるのか、対処法も含めて解説します。
近隣トラブルの原因となる
人が住んでいなくても、家屋は劣化します。日常的な手入れがされないぶん、倒壊など大きな事故の危険性が高まるともいえます。庭の雑草や樹木なども、そのままにしておけば、収拾のつかない状態になるでしょう。さらには、動物や害虫の「巣窟」になる可能性もあります。
最悪なのは、地震や台風などの自然災害を引き金に、家屋の倒壊が発生し、隣家に損害を与えるケース。空き家の所有者だったおかげで、巨額の損害賠償を請求されるかもしれません。強風で飛ばされた家屋の一部や樹木などが通行人に当たってけがをさせたような場合も同様です。
そのような事態を招かないためにも、空き家には、定期的な手入れなどの管理が必要になります。そのための労力、コストは決してばかになりません。
固定資産税が6倍に!?
空き家にも固定資産税がかかる
空き家であっても、土地、建物には固定資産税が課税(居住している地域によっては都市計画税も課税)され、その不動産の名義人に納税義務があります。「使っていないものに税金がかかる」わけです。しかも、今説明したような適切な管理を怠った場合、結果的に課税額が最大6倍に跳ね上がるかもしれません。
住宅の建っている土地(住宅用地)には、「住宅用地の特例」による軽減措置が適用され、以下のように固定資産税と都市計画税が減額されています。
〈敷地面積200㎡までの部分〉
固定資産税:1/6に減額
都市計画税:1/3に減額
〈敷地面積200㎡を超える部分〉
固定資産税:1/3に減額
都市計画税:2/3に減額
建っているのが住宅であれば、空き家でもこの特例を受けることはできます。ところが、「問題のある空き家」は、自治体の判断で特例の適用から外される可能性があるのです。
住宅用地の特例を受けられなくなるのは
2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律が施行されました。この法律に基づいて、「特定空家」に指定され、自治体から勧告を受けると、住宅用地の特例の対象からは除外され、翌年から固定資産税が最大で6倍に引き上げられます。
「特定空家」とは、衛生・環境・安全などの観点から、周囲に深刻な悪影響を及ぼす可能性のある建物のことで、次項で詳しく説明します。
さらに、23年12月に同法が一部改正され、「管理不全空家」として自治体から勧告を受けた場合にも、住宅の軽減措置の対象から外されることになりました。「管理不全空家」とは、ひとことで言えば、「放置すれば特定空家になる恐れのある空き家」を指します。
課税の観点からすると、固定資産税が最大で6倍に引き上げられる可能性のある空き家の範囲が広がったことを意味します。
最後は行政による取り壊し⇒所有者に費用が請求される
「放置したまま」は許されない
8月25日、東京・足立区にある木造2階建ての無人のアパートで、区による取り壊しの行政代執行が始まった、というニュースがありました。2階の床が抜けていて、いつ崩れ落ちてもおかしくない状態の「特定空家」だったといいます。
最近、このような空き家の行政代執行による取り壊し(行政が強制的に建物を解体すること)のニュースを、時々耳にするようになりました。さきほどの空家等対策の推進に関する特別措置法に基づくもので、所有する空き家を朽ち果てるまで放置することは許されなくなっています。
強制代執行ということになれば、「空き家をここまで放置した」ということで、社会的にも耳目を集めるでしょう。また、解体費用などは、全額所有者に請求されますから、結局経済的に大きなダメージを負うことになってしまいます。今の足立区のアパートの取り壊しでは、およそ410万円が持ち主に請求される予定、と報じられました。
そもそも特定空家とは
もちろん、「空き家を何年放置したら取り壊しになる」という話ではありません。同法が定義する特定空家とは、次のようなものをいいます。
1.倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
2.著しく衛生上有害となるおそれのある状態
3.適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
4.その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
行政代執行までの流れ
このような空き家に対しては、次のような流れで自治体による指導、命令などが行われ、最終的には行政代執行ということになります。
(1)所有者への通知
自治体は、特定空家として認定した理由や、行うべき対策などの情報を所有者に通知します。
(2)助言または指導
所有者には、空き家の適切な活用や対策(例えば、改修、貸出し、売却、解体)についての「助言や指導」が行われます。それに応じて、この段階で必要な対策などを講じれば、ここから先の問題は生じません。
(3)勧告
助言・指導に応じず、改善が見られない場合には、自治体は正式に文書による「勧告」を行います。この勧告を受けると、翌年から住宅用地の減税措置が受けられなくなり、固定資産税が最大6倍まで引き上げられることになります。
(4)命令
勧告を受けても、なお空き家の状況が変わらない場合、自治体から所有者に対して、さらに強い「命令」が出されます。応じない場合、50万円以下の過料(罰金)などが科せられる可能性があります。
(5)行政代執行
以上で状況が改善されない場合、自治体は行政代執行により、空き家の解体や必要な措置を所有者の許可なく実行します。
空き家の解体などにかかった費用は、その所有者に請求されます。所有者不明または連絡不能の空き家の場合は「略式代執行」が適用されます。自治体が一時的に費用を負担し、所有者が特定され次第、その人に請求されることになります。
空き家を相続したらどうするか
空き家の対処法
説明してきたようなリスクを回避するためには、管理を徹底しながら、最終的には
・自分で住む
・賃貸などによる活用を考える
・売却する
のいずれかを選択する必要があるでしょう。
最も手っ取り早く空き家の負担を免れる方法は、買い手を見つけて売却するということになるでしょう。
空き家を売却するメリット・デメリット
自分にとって不要な空き家が売れれば、維持・管理の責任からも解放され、売却益を手にすることができます。
ただし、売却を依頼する仲介業者への手数料などのコストを織り込んでおく必要があります。売却益には、所得税も課税されます。
加えて、特定空家の対象になりそうな古い物件だと、当然、売り手側の条件は悪くなります。売却にあたって建物を改修したり、解体して更地にしたりする場合には、その費用が発生します。そのまま売る場合には、空き家の解体費用を差し引いた価格が「相場」になるでしょう。
売却する際には、こうしたメリット・デメリットをよく検討する必要があります。その結果、先々のリスクを考慮して、売却益は少なくても早めに手放す、という選択も考えられます。
売却するなら早めがいい
ところで、この空き家の売却には、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」という制度があります。2016年4月1日から27年12月31日までの間に空き家を売って、一定の要件に当てはまるときには、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除する(差し引く)ことができるのです。
主な要件は、以下の通りです。
・被相続人が1人で暮らしていた
・1981年5月31日以前に建築された建物とその敷地である
・建物を壊して敷地のみを譲渡するか、建物について耐震基準を満たすようにリフォームをしてから譲渡する(2024年1月1日以後は、譲渡後一定の期限までに買主が耐震改修などを行った場合でも可)。
・相続開始から譲渡まで空き家だった
・譲渡価額が1億円を超えない
・相続が発生してから3年を経過する日が属する12月31日までに売却する
他の要件を満たしていても、最後の「相続発生から3年を経過する……」という期限を過ぎると、この特例は使えなくなります。売却を考える場合には、早めに検討を始めるべきでしょう。
まとめ
相続した空き家を放置するリスクを中心に解説しました。自分が住む予定のない家を相続する際には、こうした点をよく理解しておく必要があります。相続前ならば、相続放棄して、空き家の負担から逃れるという選択もあります(その場合は、他の財産も相続できなくなります)。空き家の相続で迷ったら、相続に詳しい税理士などの専門家に相談するのがいいでしょう。
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