相続放棄の期限は3ヵ月 亡くなった親の借金を知らなかったらどうなる?

[取材/文責]マネーイズム編集部
河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

相続の際、相続人は被相続人(亡くなった人)の負債、借金なども相続の対象になる点に注意が必要です。負債だけを避けることはできず、回避するには家庭裁判所で相続放棄の手続きが必要です。 相続放棄の申述期間は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内が原則(民法915条)です。しかし、仮に親の借金を知らなかったとしても、相続放棄は「不可」になってしまうのでしょうか? この記事では、例外が認められる余地も含めて、相続放棄の手続き・注意点なども併せて解説します。

相続放棄には期限がある

相続を放棄する意味

親が亡くなって相続が発生すると、その遺産は原則として、親の遺言書があればそれに従って、なければ法定相続人の遺産分割協議によって、分けられます。財産をもらえるのは相続人にとってありがたいことですが、中には借金などの負債を多く抱えたまま亡くなるケースもあります。

こうしたマイナスの財産も、現預金や不動産などのプラスの財産同様、相続財産になるため、相続人にはそれを引き継ぐ義務があります。もしマイナスがプラスを上回れば、相続によって財産分与を受けるどころか、借金を背負うことになってしまうでしょう。

そのような場合には、家庭裁判所に対して必要な手続きを行うことによって、相続を放棄することができます。相続放棄が認められれば、被相続人の負債を引き継ぐ必要はなくなるのです。

相続放棄の申述受理件数は年々増加しており、最新の統計である令和6年には308,753件が受理され、過去最高となりました。マイナスの財産である借金・債務の他に、空き家や山林などの”負動産”も件数増加の背景として大きく影響しているようです。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

裁判所への申述は3ヵ月以内

ただし、この相続放棄には期限があり、裁判所への申述(手続き)は、民法で、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月以内にしなければならない」と定められています。「相続の開始があったことを知ったとき」とは、「被相続人の死亡を知ったとき」と言い換えることができます。

親子であれば、たとえ同居していなくても、亡くなった事実はすぐに伝わるでしょう。相続放棄したいと思ったら、相続開始から3ヵ月以内に手続きを行う必要があります。一方、例えば被相続人とは関係が疎遠で、遠隔地に住んでいたりした場合、死亡を知ったのは半年後だった、といったこともありえます。そうしたケースでは、死亡から半年後が申述の起算日になるわけです。

いずれにしても、この期限内に手続きを開始しないと、「単純承認」(相続人としての立場を認めること)したとされ、相続放棄はできなくなります。相続放棄が認められる期間は、意外に短いことに注意しなくてはなりません。

たまに誤解されている方がいるのですが、「遺産を何も相続しない=相続放棄」ではありません。相続放棄とは上記のような家庭裁判所での法的な手続きを指します。誤解したままで何もアクションを起こさずにいると期限切れになってしまいますので注意しましょう。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

期限を経過しても認められる可能性がある

親が亡くなれば、ただでさえ慌ただしい日々になります。相続以前に、葬儀や死亡に伴う各種の手続きに追われ、3ヵ月はあっという間に経ってしまうはず。

ひと段落して親の財産を調べてみたら、自分の知らない多額の借金が見つかった。相続放棄したいが、すでに3ヵ月を経過してしまった――。十分ありえるシチュエーションですが、そのような場合、「救済」の手立てはないのでしょうか? 答えは、「3ヵ月を過ぎても、相続放棄が認められる可能性はある」です。

起算日の「延長」を認めた2つの判決

この点については、1984年4月に下された、概要次のような最高裁の判例があります。

被相続人の死亡の事実および自分が相続人であることを知った場合でも、被相続人に相続財産が全く存在しないと誤信しており、かつ相続人がそのように信じるのに相当な理由があると認められる場合には、相続放棄の期限は、その事実を認識したとき、または通常これを認識できるときから起算される。

さらに、98年2月の大阪高裁の判決では、同様のケースについて、以下のように判断されました。

被相続人に相続債務が存在しないか、あるいは相続放棄の手続をとる必要をみない程度の少額にすぎないものと誤信しており、かつそのように信じるのに相当な理由があると認められる場合は、相続放棄の期限は、相続債務のほぼ全容を認識したとき、または通常これを認識できるときから起算される。

つまり、そもそも相続財産がないと思っていた場合や、相続財産にマイナスの財産が含まれていない、あっても少額にすぎない、と思っていた場合には、3ヵ月という期限が経過した後であっても、相続放棄が認められる可能性があるということです。

認められるには事実の証明が必要

ただし、裁判になっていることでもわかるように、「親の借金のことは知りませんでした」と主張するだけで、こうしたことが認められるわけではないと考えてください。「本当に知らなかった」「そうなるのに納得できる理由があった」ことを、申述する家庭裁判所に説明し、判断を仰ぐ必要があるのです。

このような事態になった場合には、速やかに相続に詳しい弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

相続放棄の手続き

説明したように、相続放棄を行うには、家庭裁判所での手続きが必要になります。

裁判所に申述書を提出する

相続放棄の手続きは、「相続放棄申述書」に必要事項を記入し、収入印紙(800円)、連絡用の郵便切手、添付書類とともに、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所へ提出することで行います。

添付書類は、
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・申述人(相続放棄する人)の戸籍謄本
のほか、被相続人との関係(配偶者か子どもかなど)によって、異なるものが必要になります。

裁判所から申述受理通知書が届く

申述を行ったのち、場合によっては家庭裁判所から資料の追加を求められたりすることがあります。また、「照会書」が送付されてきた場合には、質問に回答して返信します。

裁判所が申述を受理すると、「相続放棄申述受理通知書」が送付され、それで手続きは完了です。なお、被相続人の借金返済を債権者から督促されるケースもあるため、裁判所に申請して、「相続放棄申述受理証明書」を取っておくのがいいでしょう。これらの書類は、相続放棄をしたことの証明として利用できます。

相続放棄の注意点

相続放棄することで、マイナスの財産を引き継ぐデメリットは解消されますが、注意すべき点もあります。通常の申述期限を過ぎてから負債が発覚し、手続きを行うようなケースでは、特に以下のようなことに気をつけなくてはなりません。

プラスの財産も引き継げない

相続放棄は、すべての財産の相続を放棄する=相続人ではなくなることを意味します。もらえると思っていたプラスの財産も、引き継げなくなります。

相続放棄を認められると撤回できない

家庭裁判所にいったん相続放棄を認められると、撤回することができません。例えば、後から財産が見つかっても、相続不可になります。手続きを始める前に、もう一度慎重に財産調査を行うべきでしょう。

思わぬ人が負債を負うことも

法定相続人には、
・第1順位:子(亡くなっている場合には孫)
・第2順位:親(亡くなっている場合には祖父母)
・第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)
という順位があります( 配偶者は順位に関わりなく、常に相続人)。

通常、上の順位の人が存命していれば、下位の人は相続人ではありません。ところが、仮に第1順位、第2順位の人が、被相続人の負債を免れるために全員相続放棄すれば、第3順位の兄弟姉妹、甥姪が相続人の立場になります。

もちろん、この人たちも条件を満たせば相続放棄が可能です。ただし、被相続人の借金の事実が伝えられていなかったような場合には、トラブルになるかもしれません。

普段から疎遠の親族がいれば、相続放棄によって知らないうちに相続人の立場が変わって驚くと同時に「何で知らせてくれなかったのか」とその後のトラブルに発展する恐れがあります。相続放棄する旨はたとえ疎遠であっても伝えておいた方が良いでしょう。

河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

まとめ

相続放棄には、「相続開始を知ったときから3ヵ月以内」という期限があります。ただし、被相続人の借金の事実を知らなかった場合には、この期限を超えても認められる可能性があります。対処が必要なときには、早めに専門家に相談するようにしましょう。

記事監修者 河鍋税理士からのワンポイントアドバイス

今回は相続放棄に関する概要や手続き期限、注意点について解説をしました。
実際に家庭裁判所に申述するために必要な費用は収入印紙(800円)、連絡用の郵便切手などですので金銭的には大きな負担にはなりませんが、裁判所への申述は被相続人の死亡を知ったときから3ヶ月以内という短い期限に注意する必要があります。
通常は四十九日法要明けを機に被相続人の遺品整理や財産調査などに着手される方が多いですが、四十九日後から3ヶ月まではそれほど時間が残されていません。
その間に被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をまとめて、相続放棄するかどうかを検討するのはハードルがかなり高いです。
もし、被相続人に借金がある可能性が少しでもある場合は早い段階で財産調査をし、出来れば生前に本人から聞いておくのが間違いありません。
早めに、そして生前の元気な内に整理しておくことが何より重要ですので、生前対策でお困りの方は是非1度税理士にご相談されることをお勧めいたします。

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河鍋公認会計士・税理士事務所代表 河鍋 優寛(税理士・公認会計士)

大手監査法人、税理士法人で会計監査、相続税申告を数多く担当し、独立。物腰が柔らかく、真面目な30代の若手代表が運営しており、"気軽に"そして"気楽に"相談できる事務所を目指す。個人・法人の税務顧問はもちろん、資産税や株式上場支援まで幅広くサービス提供しており、顧客のベストパートナーとしてあり続ける会計事務所。

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