
【事業再生 前編】事業再生のポイントは金融機関からの融資 “税金の支払いは信用力の証“ 税金は経費と考える
税理士法人ファミリア大阪事務所 所長 永井成武氏事業が先細りで、展望が見えない。年々、資金繰りが厳しくなっている――。そんな状況を打開して会社を存続させていくためにはどうしたらいいのか、悩む経営者は多いはずだ。今回は、中小企業の事業再生に実績を持つ税理士法人ファミリア大阪事務所の永井成武所長(税理士)に、話をうかがった。
記事では、「前編」で事業再生の基本的な考え方や心構えについて、「後編」ではどのようなサポートを行うのかなどを中心に、語ってもらった。
そもそも事業再生とは
――貴事務所の概要からお願いします。
永井(敬称略) 当事務所は、名古屋に本社を置く税理士法人で、大阪事務所は2008年にできました。メンバーは私を入れて7名、うち2名が有資格者です。
お客さまは、法人120社、個人が200件程度ですね。業種としては、建設、内装業、介護事業や、東大阪というものづくりの歴史を持つ土地柄、製造加工業など、何かに偏ることなく幅広く対応させていただいています。
――貴事務所は、中小企業の事業再生に力を入れているとうかがっています。ただ、事業再生とひとことで言っても幅広い概念で、個々にはいろんなパターンもあると思います。貴社が考える事業再生とはどういうものなのか、初めに聞かせてください。
永井 わかりました。事業再生の手法としては、一部の部門の売却だとか、優良な事業だけを別会社に移して残りを清算する第二会社方式だとか、まあいろいろあります。ただ、視野を広げると、現場で問題になるのは、結局はお金、資金繰りなんですね。身も蓋もない話ですが(笑)。
資金繰りが苦しいからと諦めれば、それで会社はおしまいになるかもしれません。そこに改善の余地はないのか、どうやったらピンチを脱却して、継続的に資金を回していけるようになるのか。そうした視点から、それぞれの会社の状況に適したアドバイスをさせていただくというのが、当社の事業再生の考え方です。
では、資金繰りの改善に何が必要かといえば、第一に金融機関の融資です。ですから、融資を受けられる会社、あえて砕けたいいい方をすれば、「金融機関から受けのいい企業」になっていただくのが、私たちのミッションと言っていいでしょう。
――なるほど。事業再生を金融機関の視線から考えるわけですね。
事業再生としての事業承継

永井 私は、事業再生というものは、とにかく大きな枠でとらえたほうがいいと思っています。
例えば今経営者の高齢化に伴う事業承継が増えていますよね。優良企業の代替わりなら問題ないのですけど、そうでないケースも多くあります。その場合は、事業承継が事業再生の意味合いを帯びるわけです。
銀行目線で見てみましょう。製造業の会社が、新しい設備を導入したいと思ったとします。でも、経営者も従業員も高齢で、会社が先々どうなるのか見えにくい、といった場合には、「融資しても大丈夫だろうか」というスタンスに、どうしてもなりやすいのです。
――恐らくそうだと思います。
永井 一方、事業承継が行われて経営が若返り、次の時代に向けた体制が整えば、話は違います。融資を受けられる可能性は高まるし、その結果、資金繰りは改善され、若い従業員を雇用する余裕も生まれる。売上が伸びれば、新たに融資を受けて、さらに設備を増強することもできるでしょう。
事業承継を機にそういうサイクルを作り出せたら、それも広い意味で事業再生だと思うのです。もちろん、承継さえすればすべてがうまくいく、というものではありませんが。
――単に事業をバトンタッチするというだけではなく、再生に位置づけるという視点は、非常に重要だと思います。そして、やはりポイントは、「金融機関から受けのいい会社」に再生する、ということなんですね。
永井 そういうことです。
税金を払うことは“「ちゃんとした会社」の証“
――金融機関から融資が受けやすい会社になるために、どのようなアドバイスをなさるのですか?
永井 具体的な対策は、会社の状況などによってケースバイケースですけど、経営者の方に必ず申し上げるのは、税金の捉え方です。経営者は、税理士事務所に対して、節税を求めます。事務所のほうも、それを売りにする。まあ当然ですよね、それが税理士本来の仕事ですから。
ただし、そちらの方向に「寄り過ぎる」のは、問題です。私どもは、むしろ「税金はしっかり払いましょう」ということを申し上げるのです。
――そうなんですか。その“ココロ”は?
永井 節税に有効なのは、経費を積み上げることです。そうやって、いろんな手法も駆使して所得を抑え、節税できたとします。でも、赤字に近いような決算書を見て、銀行はすんなりお金を貸そうと思うでしょうか? 答えはNOです。きちんと利益を出していなければ、融資のハードルは高くなってしまいます。
――言われてみれば、当然の話です。
永井 利益が出れば、結果的に支払う税額は増えます。しかし、それは「ちゃんとした会社」の証でもあるのです。
金融機関からお金を借り、事業を大きくして利益を出す。税金を払う。そのことで、金融機関に対する信用力を高めて、またお金を借りる。事業の成長、発展というのは、つまるところそういうことではないでしょうか。
――ある意味、逆転の発想ですね。

永井 当事務所も、お客さまから「こんなの経費になりますか?」というお問い合わせをいただきます。明らかに経費にすべきものについては、そう答えますが、無理して経費に計上するようなケースに関しては、「やめておきましょう」とお話しします。
事業再生に取り組んでいる会社はなおさらで、「経費計上は最低限にして、頑張って利益を出しましょう」「税金を払いましょう」と言います。私は「むしろ税金は、事業再生にとって最良の経費なのです」とお伝えするようにしているんですよ。
事業再生は、実は会社をそのように税金を払える形にもっていくこと。それをサポートするのが、私たちの使命だと考えています。
――聞けば聞くほど“目から鱗”なのですが、事業再生を考える経営者の方に今のような話をすると、みなさん納得されるのでしょうか?
永井 その点は、逆に納得してくださるお客さまを全力でサポートする、というスタンスです。「報酬は安い方がいい」「とにかく節税してほしい」というのもわかりますし、会社によっては、それが適しているケースもあるでしょう。ただ、当事務所でフォローしていくのは、難しいかもしれません。
“グレーな話”に惑わされない
永井 一方、当事務所のやり方に納得して、努力して収益性を高め、会社を建て直すことができた経営者でも、“落とし穴”にはまりそうになることがあります。
――それは、どのようなケースでしょう?
永井 多いのが、同業他社の社長などから、「そんなに利益が出てるんだったら、こうしたら税金安くできるよ」「うちは税理士さんに言われてやってみたけど、税務署に何も言われなかったよ」と「指南」されるパターン(笑)。
その方法が「億円単位の節税になる」らしいので、よく話をうかがってみると、課税繰り延べのスキームだったりするわけです。要は税金の支払いを先延ばししただけで、節税にもならないのですが、経営者にはものすごく得するようにみえてしまう。
会社が厳しいときには余裕がないのですが、事業が軌道に乗ってくると、その手のあえて言えば“グレーな話”も、耳に入りやすくなるわけですね。
――儲かれば、納税額がどんどん上がっていきますから。
永井 ですから、節税に走りたい気持ちは痛いほどわかるのですが、それでは今までの努力が水の泡になりかねません。
「税金は経費」と割り切って、利益が出た段階で支払えば、事業はもうワンステージ上に行くことができるでしょう。さらに金融機関の信用力が増し、ニューマネーの借入が可能になるからです。わざわざ利益を削って、そうしたチャンスを潰すのが正しい経営だとは、私には思えません。
――ピンチを脱して事業再生を果たしても、誘惑に惑わされないことが大事ですね。
「後編」では、事業再生の事例や、事務所がどのような形でサポートを行うのかなどについて、引き続きお話をうかがいます。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
「わかりやすく」「見える」「全力投球」を経営理念に掲げ、税務・会計の専門家として経営者に寄り添う専門家集団。事業再生・銀行折衝・資金繰りを得意とし、大阪エリアを中心に中小企業をサポートする。
URL:http://familiaosaka.net/