合同会社と株式会社のどちらを選ぶ?費用や税金・信用度などで比較

初めて会社を設立する方や、個人事業主から法人成りを検討している方の中には、自分の会社を「合同会社」にするか「株式会社」にするかで悩む方が多いのではないでしょうか。
両者はどちらも同じ法人格ですが、設立にかかる費用や運営に必要なコスト、税務上のメリット、資金調達のしやすさなどに違いがあるため、どちらを選ぶかは重要です。
本記事では、合同会社と株式会社の特徴を比較したうえで、費用面や税金、信頼のされやすさなど、さまざまな観点から解説します。
1. 合同会社と株式会社の基本的な違いと特徴
会社を設立する際には、その会社を合同会社にするか株式会社にするか、どちらにするのかで悩む方は少なくありません。両者は、有限責任で事業を行える点では同じですが、設立に必要な費用や経営体制、信用度などにはっきりとした違いがあります。
最初に選択肢を間違えると、将来の資金調達や事業拡大に影響する可能性があるため、違いを把握して慎重に比較検討することが大切です。
会社法上の位置づけと法人格の違い
合同会社と株式会社は、どちらも会社法により法人として位置付けられており、出資者が出資額に限定して責任を負う有限責任です。ただし、制度の位置付けや仕組みには、明らかな違いが見られます。
合同会社では出資者を「社員」と呼び、社員自らが経営に関与するのが原則です。また、定款の自由度が高く、議決権や利益配分も柔軟に設計されます。
一方で、株式会社は株式を発行し、出資者は「株主」として株主総会では意思を示し、経営は取締役に委ねられるのが一般的です。
経営体制の違い(所有と経営の分離の有無)
合同会社では、出資者自体がそのまま業務執行権を持っており、会社の所有と経営の主体が一致する点が特徴です。これにより意思決定のスピードが高まる一方で、複数の社員がいる場合には、合意の形成に手間取る場合もあります。
対して株式会社は、株主が経営者を選出し取締役が業務を担うため、会社の所有と経営は分離されているのが原則です。これにより、投資家や外部の利害関係者からの監視機能が高まる効果があります。
ただし、中小企業の多くでは、経営者自身が株式の過半数を持っているため、形式上では所有と経営が分離していても実態はオーナー経営であることも珍しくありません。
決算公告義務や役員任期などの運営ルールの違い
会社を運営する際のルールにも、両者の違いが見られます。合同会社には役員の任期に制限がなく、会社を設立したあとは長期的に役員構成を維持可能です。さらに決算公告の義務がなく、公告費用や関連する作業を省けるため、コストを抑えられます。
一方で、株式会社の場合は取締役に対して最長10年の任期が定められており、重任登記の際には登録免許税などの追加費用が発生する点が特徴です。また、決算公告の義務があるため、財務状況を官報やウェブサイトで公開しなければなりません。
2. 設立費用・運営コストの詳細比較
会社を設立したいと考える際には、多くの方が合同会社と株式会社における設立費用の違いに目を向けるでしょう。また、初期費用だけでなく、長期的な運営コストや手続きの手間も無視できません。
ここでは、合同会社と株式会社それぞれの会社形態における、費用負担の仕組みや継続的にかかるコストの違いについてわかりやすく解説します。
法定費用の違い(登録免許税・定款認証費用等)
会社を設立する際に必要となる法定費用に関して、合同会社と株式会社では明確な違いがあります。
合同会社の登録免許税は、資本金の0.7%もしくは6万円のいずれか高い方ですが、6万円を下回る場合には一律6万円です。そして、合同会社では定款の公証人認定が不要であるため、認証手数料はかかりません。
一方、株式会社を設立する際には定款認証が必須であり、資本金額等に応じて1.5万〜5万円の認証手数料が必要です。
どちらの形態の会社でも、定款を紙で作成する場合には印紙代が4万円必要ですが、電子定款の場合には不要になります。
設立後の継続的なコスト比較(決算公告費用・登記変更費用等)
合同会社と株式会社では、会社を設立したあとで継続的に発生する費用にも差があります。
第一に、株式会社には毎期の決算公告義務があるため、官報への掲載費用が公告費用としてかかりますが、合同会社には決算公告義務がないためかかりません。
もう一つの違いは、登記変更に関する費用です。株式会社では、役員変更などの登記が必要な場合に1万〜6万円の費用が発生しますが、合同会社は手続きが簡便で、追加コストを抑えられる傾向があります。
コスト削減方法と特定創業支援制度の活用
会社を設立したあとに発生するコストを削減する方法として注目されるのが、「特定創業支援等事業」です。
これは、産業競争力強化法に基づいて、市区町村と地域の支援機関が連携して実施する制度で、創業塾やセミナー、個別相談などを受けた創業者に対してさまざまな優遇措置が適用されます。
具体的には、登録免許税の軽減や日本政策金融公庫からの融資利率引き下げ、創業関連保証を活用する際の優遇、小規模事業者持続化補助金の上限増額などです。令和7年4月時点で、全国の98%にあたる市区町村が事業計画の認定を受けており、創業支援を受けた事業者は、税制面や資金調達の面で大きな後押しを受けられます。
3. 税金・会計処理における違いと節税効果
会社を設立・運営するうえで、税金や会計処理の仕組みを正しく把握しておくことは非常に重要です。法人化することにより、所得税から法人税に切り替わる点は合同会社と株式会社で共通ですが、赤字になった際の負担や法人成りした際の節税効果にも違いが生じます。
ここでは、合同会社と株式会社で共通する税の基本と、節税効果の違い、赤字の際の負担などについて具体的に解説します。
法人税・法人住民税・法人事業税の取扱いの共通点
合同会社と株式会社は、どちらにしても税法上の扱いは「普通法人」です。そのため、課税される税金の種類や基本的なルールは共通しています。
法人税に関しては両者とも課税所得に応じて課税され、資本金が1億円以下の場合では所得800万円以下の部分に軽減税率15%が適用され、800万円超の部分には23.2%が適用されます。
また、法人住民税は法人税額を基準とする「法人税割」と、赤字でも支払わなければならない「均等割」の2種類です。法人事業税も、所得に応じた税率を課される仕組みがあり、税制上の取り扱いは、合同会社と株式会社で大きく変わりません。
個人事業主からの法人成りによる節税効果の比較
個人事業主の所得税は、5%から45%の累進課税方式で、所得が増えるほど負担が重くなる仕組みです。個人事業主で、課税所得が900万円を超えると33%の税率が適用されますが、合同会社や株式会社の法人税は、資本金1億円以下の場合は23.2%と大きく節税できます。
また、法人化すると代表者に対する役員報酬に給与控除がつくため、個人事業主の場合よりも課税所得を抑えられる点もメリットです。赤字の繰越控除期間も個人事業主の3年と比べて法人は10年と長く、法人成りによる節税効果は大きいといえるでしょう。
赤字時の税負担と均等割の取扱い
株式会社だけでなく合同会社も含めて、法人は赤字の際にも一部の税金を納める必要があるということに注意が必要です。
その代表的なものが法人住民税の「均等割」で、事業規模に応じて金額が決定され、最低でも7万円程度を納付しなければなりません。この均等割は、黒字や赤字に関係なく課税されるため、赤字の場合は所得税や住民税が取られない個人事業主と比べた際には、法人化のデメリットの一つです。
その一方で、法人税や法人事業税、法人税割などの利益に応じて課税されるものは、赤字の場合に免除されます。
4. 信用度・資金調達・将来性の違いと対策
合同会社と株式会社の選択において重要となるのは、設立費用や税金だけではありません。会社にとっては、社会的信用や資金調達力も不可欠です。
取引先との契約や銀行融資の審査では、会社形態によって評価のされ方が異なるため、将来的に事業拡大や上場を目指す計画がある場合には、会社形態の選択が長期的な成長戦略に直結するでしょう。
ここでは、信用度や資金調達力の差や、資金調達方法の違い、事業の将来性を考慮した選び方などを詳しく解説します。
社会的信用度の違いと取引先への影響
合同会社と株式会社を比較すると、株式会社の方が社会的信用度が高く優位であると評価されるケースが多々あります。その理由として、合同会社は認知度が低い、意思決定に関して閉鎖的な印象がある、設立するのが手軽であるため小規模に見られがちといった見方があるようです。
また、合同会社は透明性が低い印象を与えることもあり、取引先が慎重な姿勢をとる可能性もあります。ただし、GoogleやAppleの日本法人のように知名度の高い合同会社も存在し、運営実績やWebサイト・SNSの活用により信用を獲得することで評価を上げられるというのも事実です。
資金調達方法の違い(銀行融資・政府系金融機関)
合同会社は株式会社とは異なり、株式を発行することで資金を調達できないため、融資や補助金制度を活用した資金調達が主な手段です。
日本政策金融公庫が運営する「新規開業・スタートアップ支援資金」などの創業融資は合同会社も利用でき、無担保・無保証人での融資利率の引下げや最長20年の返済期間といった優遇措置があります。
ただし、合同会社は信用力が低いというイメージが一部にあり、株式会社よりも融資を受けるのが難しい場合があることも事実です。しかし、近年では株式会社も設立が比較的簡単になったため、形式による差は大きくありません。
また、地方自治体の制度融資や信用保証協会付融資を活用することで、合同会社が銀行から資金を調達しやすくなります。少人数私募債や補助金などの選択肢もあり、創業時には複数の資金調達手段を組み合わせることも大切です。
将来の事業拡大・上場を見据えた選択の考え方
事業を大きく発展させていき、その延長線上に株式上場(IPO)を視野に入れているのであれば、合同会社よりも株式会社を選ぶのが有利です。
株式の発行により投資家から広く資金を集められるため、株式会社の方が大規模な事業拡大に向いています。また、ベンチャーキャピタルからの出資や証券市場での資金調達が可能な点も魅力です。
一方で、合同会社の場合は、株式制度がないため上場は目指せません。資金調達のルートも出資者や金融機関からの融資に限定されるため、大規模な事業展開や設備投資には不向きです。
まとめ
会社を設立するときには、合同会社と株式会社のどちらにするかを決めなければなりません。両者には、設立費用や運営コスト、税金や信用度など、さまざまな面で違いがあり、それらをよく理解することが重要です。
費用を抑えて設立し柔軟な経営を求めるのであれば合同会社を、将来的に大規模な資金調達や上場を視野に入れるなら株式会社を選ぶというように、目的や理念に合わせて選ぶのが望ましいでしょう。
中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。
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