
【DX化 前編】“DX”に振り回される必要はない 業務改善の先に真の価値向上を見据える
松﨑会計事務所 所長 松﨑雄太氏中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が急務と叫ばれている昨今。しかし、「いったい何をしたらいいのか」と、戸惑う経営者も多いのではないか。大手コンサルティング・ファーム出身で、多くのDX案件に関わった経歴を持つ松﨑会計事務所(兵庫県姫路市)の松﨑雄太所長(公認会計士・税理士)は、「DXという言葉に、過度にとらわれるべきではありません」と話す。そうした指摘の本意はどこにあるのか、そのうえで何をなすべきなのか、うかがった。
記事では、「前編」でDXの考え方について、「後編」では具体的な事例の紹介や中小企業が取り組むべきことを中心にまとめた。
「中小企業のDX」の現状と、経営者が抱く戸惑い
――事務所の概要から聞かせてください。
松﨑(敬称略) 現在、私を入れて4名の事務所です。顧問先の業種は、建設業、製造業、医療・介護、そしてエンタメ系など幅広く、上場企業から中小・零細のお客さままで、企業規模もさまざまです。会計・税務はもちろん、要望に応じて経営支援サービスなども提供しています。
――先生ご自身は、税理士資格だけでなく、公認会計士の資格もお持ちですね。
松﨑 もともとはシステムエンジニアで、業務システムの作成をやっていたんですよ。そのときに、税務や会計の知識の必要性を強く感じたのが、資格を取ったきっかけです。その後、上場企業で経理・経営企画に携わり、大手コンサルティング・ファーム勤務を経て独立しました。まあ、少し変わった経歴だとは思います(笑)。

――今回は、そんな先生に、「中小企業のDX化・業務の効率化」をテーマにお話をうかがっていきたいと思います。DXの必要性が強調されるようになって時間も経ちましたが、実践はどの程度進んでいるのでしょうか?
松﨑 ひとことでいえば、「まだまだ」です。中小企業基盤整備機構が全国1,000社を対象に行った「中小企業のDX推進に関する調査(2024年)」という報告書があるのですが、そこで「すでにDXに取り組んでいる」と答えた経営者は、2割弱にとどまっています。
――本格的な動きにはほど遠いようですね。
松﨑 そもそも、DXを「理解している」と答えた層も、半分程度にすぎません。DXという言葉はよく聞くけれど、自社にどう関係するのかがわからないというのが本音ではないでしょうか。
DXの本質は「今風の言葉で語られる、当たり前の経営改善」
――そこも、ぜひおうかがいしたかったところです。DXといっても、具体的にどういうことを指すのかが、いまひとつ漠然としている面が否めません。
松﨑 例えば、先ほどのレポートでは、DXとは「デジタル技術を活用して新たな付加価値を生み出し、ビジネスモデルを変革していくこと」と定義しています。正直、「わかったようでわからない」のではないでしょうか。
私は、お客さまに対しては、「言葉の意味はわからないままで問題ありません」とお伝えするようにしています。
――そうなんですか。ちょっと意外な感じもします。
松﨑 経営者がDXという言葉だとか、最新のデジタル手法だとかに振り回される必要はないというのが、私の考えなんですよ。成長を目指そうという企業にとって、DXは必要です。ただし、それをなにか特別な知識が必要で、高額なシステムを導入しないと達成できないもののようにとらえるのは、本末転倒だと思うのです。
――実際には、ともすれば、そうした風潮に振り回される面があるのですね。
松﨑 「何かやらねば」と、プレッシャーのようなものを感じている経営者は、少なくないと思います。でも、さきほどの定義を自社に当てはめてあれこれ悩んでみたりしても、あまり意味はないでしょう。
私にいわせれば、DXの本質は、「会社の経営課題を見つけて、それを解決していくこと」です。その結果、どれだけ「数字」が改善したのか、あるいはされなかったのか。その点を明確にして、さらに努力を重ねることによって、持続的な成長が実現されるわけです。
お聞きになってわかるように、これは昔から優れた経営者が、当たり前に取り組んできたプロセスですよね。そういう営みが、現代ではたまたま「DX」という“今風”な呼ばれ方をされているにすぎない。そんなふうに理解すればいいと思うのです。
――デジタルの世界に明るい先生の指摘だけに、説得力を感じます。
DXを成功に導く「3つのステップ」
――そのようなDXの中身について、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?
松﨑 繰り返しになりますが、それは「企業の成長に向けた実践可能で継続的な業務改善プロセス」で、なんら目新しいものではありません。私は、3つの柱があると思っています。
1つ目は、「現状把握」です。「知らないことは解決できない」というのは真理ですが、勘や経験に頼った経営をしていると、課題も見えづらいものです。そこから脱却し、データに基づく客観的な経営を実現するためには、それぞれの業務にかかる時間やコスト、そこから生み出される付加価値を可視化することが出発点になるでしょう。
――その際に、必要に応じてデジタルの力も借りるわけですね。
松﨑 そうです。ただ、大がかりなシステムがなくても、例えば勤怠記録に業務内容と所要時間を付記する仕組みを作るだけでも、分析の第一歩になります。それらを通じて、経常利益率や労働分配率といった「財務指標」が明確になれば、それを使って業務改善の達成度を測ることも可能になります。
第2に、「課題の発見」です。明らかになった現状を踏まえて、「では、なぜ目標に届かなかったのか」を分析するわけですね。ここでも「なんとなく」ではなく、数値をベースに、本質的な課題を特定することに努めます。
そして第3に、実は何より重要なのが、改善に向けた「志」です。いくら分析や方策が優れていても、それを実行する「人」の意志がなければ、改革は“絵に描いた餅”なんですね。「人」には、経営者だけでなく従業員も含まれます。両者が「会社を良くしたい」という思いを共有しなくては、やはり前には進めません。
――お話しのようなこと抜きに「デジタル化」しても、目に見える業務改善には結びつきにくいことが、容易に想像できます。
「デジタル化そのもの」が目的化するリスク

松﨑 DXと聞くと、多くの人は「デジタル化しなければ」という思いに駆られるのではないでしょうか。でも、ITツールの導入そのものが目的化してしまうというのが、最も失敗を招くパターンなんですよ。
よくあるのが、さきほどの「現状把握」が不十分なまま、世の中で流行っているITツールを導入してしまうケースですね。自社の業務フローに合わなかったり、現場が使いこなせなかったりして、かえって仕事が増えてしまう。
――決して笑いごとではないように思います。
松﨑 余談ながら、今回は「中小企業のDX」がテーマですが、大企業ならうまくいっているのかといえば、必ずしもそんなことはないんですね。大きな組織でDX化を進めようとすれば、それだけ多くの人がプロジェクトに関わることになります。例えば途中で問題が発生しても、組織のしがらみとか責任問題とかが邪魔して、なかなか止められないというのが現実に存在します。
――先生の「DXに振り回されるな」というアドバイスは、そうした経験に裏打ちされたものなのですね。
松﨑 仮に業務効率化やコスト削減といった当初の目標が達成できないと判断したら、プロジェクトが進行中でもストップをかける。経営者には、そういう決断も必要です。こうした素早い対応が可能なのは、中小企業の強みでもあるんですね。
もちろん、業務のデジタル化が必要ないというのではありません。実際、税務会計の分野をとってみても、最終的にはクラウド会計ソフトをはじめとするITツールの導入が避けられない場面が増えています。
ただし、その場合にも「デジタル化ありき」ではなく、自社の現状や目的に合致したITツールを選択するというスタンスで、課題解決に活用していく必要があるでしょう。
「後編」では、さらにDX化をどのように進めていくべきかを中心に、事例も含めてお話しいただきます。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
現プライム上場企業の経営企画部、大手監査法人を経て独立。スタートアップの会社を中心に、会計・税務だけでなく経営戦略の策定支援、DX支援、経営管理体制支援など戦略的アドバイスも提供し、顧問先の成長をサポートする、『お城の街』姫路市の会計事務所。
URL:https://m-jicpa.com/

