
飛行機など多方面に使われる特殊ミラーメーカー
「面白そうならすぐ創る」でアイデア商品を生む
成功、失敗を記録に残す「物語をつくる会社」
防犯や衝突防止などに役立つ特殊ミラーの専業メーカーの創業者。ディスプレイ用に開発した製品が、意外にもスーパーの万引き防止用に使われ、看板業からミラーメーカーに転換して成功をおさめた。大ヒット商品の「FFミラー」は、コンビニから駐車場、飛行機まで多方面で使われる。「面白そうならすぐ創る」をモットーに次々とアイデア商品を生み出してきた。もう一つの特徴は「物語をつくる会社」。開発や販売の活動をすべて「物語」として記録する。今は、「国際箸学会」の会長として箸文化の世界的普及にも力を入れる。
八木美代子(以下、八木) これまで、経営者だけでなく、政治家、ノーベル賞受賞者など、様々な分野の指導者にお話を伺ってきました。今回、御社の資料を拝見し、まず感じたのは、「この会社は、とことんアイデアを大切にしている」という特徴でした。
今日は、コミーという会社の考え方について教えていただければと思います。まずは、創業のいきさつからお聞かせください。
小宮山栄(以下、小宮山) 私は信州大学工学部を卒業した後、大手ベアリングメーカーの日本精工(NSK)に入りました。入ってみると、同期がとにかく優秀だった。頭の回転も早いし、要領もいい。「自分は、どう頑張っても追いつけないな」と感じてしまったのです。
八木 アイデアマンの小宮山さんがそんなことはないでしょうけど。
小宮山 いやいや。結果、3年半ほどで会社を辞めました。当時は終身雇用が当たり前の時代で、途中で辞める人なんて、ほとんどいませんでした。辞めてから本当に苦労しました。
八木 紆余曲折があったのですね。
小宮山 それは大変でしたよ。辞めた当初は何をしていいか全然わからなくて、自動車整備工場で働いたり、百科事典のセールスをしたり、食べていくために何でもやりました。ただ、どれも長続きしない。「自分は何ができる人間だろうか」と、ずっと考えていました。5年くらい経って、ある時、新聞の片隅に「シャッターに文字を書き、優雅な生活をしている」という囲み記事を読んで「これだ」と思いました。
店舗のシャッターに店名を書いたり、簡単な看板を作ったり、やっているうちに、だんだん面白くなってきた。その中で、故障しない回る看板を作ることを思いついたのです。これが1971年に特許をとった「重力摩擦方式による回転装置」でした。
店頭ディスプレイが、万引き防止用として売れ、ミラーの可能性に気づく
八木 回転するディスプレイを作るという発想がユニークですね。
小宮山 ある時、凸面ミラーを置いて行った人がいました。そのミラーをサンドイッチ状に合わせて、その中にモーターと電池を入れ、天井からぶら下げてみました。ミラーが回転すると、ミラーに映る景色が次々変わる。これは面白い!
最初は、店頭ディスプレイのつもりでした。1977年に「回転ミラックス」と名付けて展示会に出したところ、1個2個と買ってくれるお客様の中で、なんと30個も買ってくれた人がいました。

ミラーの可能性に
気づき、看板業から
ミラーのメーカーに
業態を変えた
納品してしばらく経ってから、30個の「回転ミラックス」を買ってくれた総合スーパー白菊さんを訪ねて聞いたところ、「万引き防止に使う」と聞いてびっくり。売り場の死角を見えるようにしていたのです。そのとき、ミラーの可能性に気づき、看板業からミラーのメーカーに業態を変えていったのです。
八木 完全に、想定外の使われ方ですね。想定外の使われ方がヒットを生む例は結構ありますね。
小宮山 この経験からユーザー訪問をしてユーザーの声に耳を傾けることが大切だと知りました。その後、白菊さんには新商品が出るたびにアドバイスをもらい、20年近くの付き合いとなりました。
八木 コミーさんが作るミラーは種類が多いですよね。私がホームページなどで拝見した中でも、いろいろな用途に使われていますが、中でも「FFミラー」が特に印象的でした。
小宮山 「FFミラー」は、形状はフラット、平面でありながら凸面鏡のように広い視野を持つミラーです。普通の平らなミラーは、ミラーに映る範囲が狭い。凸面鏡は、ミラーに映る範囲は広いですが、出っ張ります。「FFミラー」は普通のミラーと凸面鏡のよいところを兼ね備えたミラーです。
駐車場の出入口やオフィスの通路での衝突防止などにも使われているので、見たことがあると思います。また「FFミラー」は軽量・薄型で割れにくいという特徴があります。
八木 スーパー、書店、エレベーター、駅、空港、そして航空機まで、コミーさんの「FFミラー」は、驚くほどたくさんの場所で使われていますね。

想定外の使われ方が
ヒットを生む例は
結構ありますね
小宮山 「FFミラー」を初めて設置したのは、デパートのエレベーターで、1987年のことです。きっかけは、デパートの建物を管理する会社からの依頼でした。
デパートのエレベーターには小さな丸いミラーが付いていましたが、見える範囲が狭いために問題が生じていました。お客様が駆け込もうとしている時にエレベーターレディーが気付かず閉めてしまい、ドアにお客様が挟まってしまうことがたびたびあったのです。そこでもっと良いミラーはないかと言われました。
当時「FFミラー」の開発はほぼ完成していたものの、使い道を模索していました。この問題を解決できるかもと思い、デパートのエレベーターに「FFミラー」を設置したところ、エレベーターレディーの方から「前のミラーより絶対いいわ。このミラーは足元まで見える」「遠くまで広く見えるし、待っている人の全体が把握できていい」と嬉しい声をいただきました。「FFミラー」がエレベーターに役立つことがわかり、デパートの問題を解決したのです。

対談には、小宮山哲社長も参加いただいた(小宮山社長が手にしているのは、小さいサイズの「FFミラー」と普通の鏡)
社員が乗った飛行機で見つけた航空業界への参入
八木 航空業界への参入は驚きました。
小宮山 社員が出張で飛行機に乗ったとき、ふと機内の手荷物入れが目にとまりました。既にそこには平面鏡が取り付けられていましたが、奥の方まではよく見えない。そしてその平面鏡の表面もキズだらけでした。「こんなところにも FF ミラーがあったらいいな」と思って、航空業界への参入にチャレンジしたのですが、とても大変でした。
八木 よく航空機メーカー、航空会社に入り込めましたね。

「FFミラー」は
驚くほどたくさんの場所で使われています
小宮山 信州大学の同級生が当時、運輸省(現・国土交通省)に勤めていて、航空会社の担当者に会わせてもらえるようにお願いしました。それでようやく、羽田整備工場でエアバスA300の内部を見学させてもらうことができました。現場を見せてもらうだけでなく、実際にFFミラーを持ち込んで、現場で本当に役立つかどうかを試させてもらうこともできました。
その後、数々の難関を乗り越えて誕生したのが「FFミラーAIR」です。旅客機の上部手荷物入れは死角が多いのですが、「FFミラー」を設置すると死角がなくなり、乗客の忘れ物防止や客室乗務員のセキュリティチェックに役立っています。
「FFミラーAIR」が初めて採用されたのは、1997年のことです。ボーイング777の客室に8台採用されました。その後、念願の手荷物入れミラーとして1999年に日本航空の100機目のジャンボ機に採用されました。今では140社以上のエアラインに採用されています。
八木 航空業界は、関連製品を納入するにしても、参入障壁が非常に高いですよね。
小宮山 そのためにAS9100(航空宇宙品質マネジメント規格)を取得しました。認証は、単なるお墨付きではない。「この会社は、約束を守る」という証明です。ただ、ISO9001は割と簡単に取得できる。「ISO9001だけだと信用されないよ」とアドバイスを受け、航空宇宙に特化したAS9100を取得しました。取得するのは大変でしたが、この認証取得によって欧州のエアラインなどからも信用されました。
CSよりも「US(ユーザーの満足度)」を最優先する理由
八木 創立50周年記念誌『コミーは物語をつくる会社です。Vol.2』を読ませていただくと、「コミーの7つの特徴」が紹介されています。「なぜ?と感動から新商品が生まれる」とか、「面白そうならすぐつくるという面白い会社」など、小宮山さんの生きざまが映し出されています。
その中で特に印象的だったのが、「US(ユーザー・サティスファクション、ユーザーの満足度)を最優先」という考え方です。
小宮山 コミーのお客様には「売ってくれるお客様」「購入を決定してくれるお客様」「現場で使ってくれるお客様」がいます。その中でコミーは「現場で使ってくれるお客様」を最優先とし、「CS(カスタマー・サティスファクション)」と区別する意味も込めて「US」と名付けました。
コミーは「物語をつくる会社」、活動を活字に残す
八木 もう一つ印象的だったのが、「物語をつくる会社」という言葉です。
実際、『コミーは物語をつくる会社です。Vol.1』という本もまとめておられますね。コミーのホームページには、『航空業界参入物語』『コミーの環境問題物語』『万引問題物語』など外部の人も読める資料がたくさんあって参考になります。

失敗すると悔しい。
悔しいから考える。
考えるから
知恵が生まれる
小宮山 この世界にあるすべてのものには、それぞれ物語が存在します。コミーの小さな仕事の中にも、様々な物語があります。人は経験したことをどんどん忘れていき、自分の都合のよいように書き換えてしまうこともあります。活字として残していけば、時間が経っても忘れることはありません。また、それを読んだ人に経験を伝え、仕事に役立ててもらうこともできます。
物語にすると、「なぜ、そう考えたのか」「どこで迷ったのか」が見えてきます。例えば、新しい展示会に新製品を出した時の苦労や学び、ユーザーとの対話、自分たちがなぜそれを作ったのか――これを社員全員が書き留めています。
八木 この本を見ると、「失敗はチャレンジした者だけの言葉」という文字が大きく印刷されていて、「まずは失敗の物語から」と書いて、創業期からの失敗事例をたくさん並べています。小宮山さんは、失敗をとても大事にされていますね。
小宮山 失敗すると悔しい。悔しいから考える。考えるから知恵が生まれる。知恵が生まれると次にチャレンジしたくなる。このプロセスが創造の喜びになるということです。だから、「コミーは失敗を繰り返し、学んできた」と書きました。
例えば、1999年にパソコンのモニター用のカード型のミラーを開発しました。パソコン用としては売れなかった。でもニーズのある場所を探したら、用途がありました。銀行のATMです。「FFミラーATM」で、ATMコーナーや券売機において、暗証番号の盗み見防止や後方確認を目的として導入されました。そういった失敗を含めた体験を記録として残しておくのです。
八木 『コミーは物語をつくる会社です。』の最後のほうに「用語集」というコーナーがありますね。「コミー用語」がたくさん入っています。先ほどの「US」も出てくるし、「物語」も用語集になっている。私がおもしろいなと思ったのは、「さらしもの」。
小宮山 コミー用語の「さらしもの」は時間が経っても忘れないため、二度と失敗を繰り返さないため、不良品の現物見本を展示してイヤでも目に入るようにしたものですね。
八木 「くずれ」もおもしろいコミー用語です。
小宮山 「くずれ」は決めたことやルールが、だんだんとルール通りに行われなくなり、劣化していくこと。くずれを発見したら、なぜくずれたのか質問することが大事です。
国際箸学会を設立し、箸を使った競技「箸ピー」「箸リン」を普及活動中
八木 最後に、これから一番やりたいことを教えてください。
小宮山 もうすでにやっているのですが、箸文化の普及です。誰でも使えるのが箸です。世界中の誰でも使える。そこで2006年に「国際箸学会」を作って普及活動を行っています。年齢性別に関係なく誰もが参加できる箸ゲームで箸文化を伝えています。
代表的なゲームは「箸ピー」で、 1分間に箸で殻付きのピーナッツ(レプリカ)を何個移動できるかを競うゲームです。また「箸リン」は、5つの箸の技を使って5つのリングを何個移動できるかを競う国際箸学会オリジナルのゲームです。
冒険家の大場満郎さんのグループの女性がイヌイットの子ども達に「箸ピー」をやってもらったところ、大変盛り上がったそうです。箸のゲーム「箸技」が世界に広がるのが私の夢です。
1940年、長野県生まれ。1962年信州大学工学部卒業後、ベアリングメーカーの日本精工株式会社(NSK)勤務などを経て、1973年に看板業のコミー工芸(現在のコミー)を設立。1987年デパートのエレベーターに「FFミラー」が初めて設置される。1997年「FFミラーAIR」がボーイング777に採用される。今では「FFミラーAIR」の累計出荷台数が70万台を突破。2022年代表取締役を退任し、取締役相談役に就任。現在は2006年に設立した「一般社団法人 国際箸学会」の会長として箸文化や箸技競技の普及に努めている。信条は、売り上げの拡大よりも「出会いの喜び」「創造の喜び」「信頼の喜び」を大切にすること。著書に『箸の話を聞いてくれ』(コミー物語選書)がある。
各業界のトップと対談を通して企業経営を強くし、時代を勝ち抜くヒントをお伝えする連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第25回は、ミラー専門メーカーのコミー株式会社創業者/取締役相談役の小宮山栄さんです。小宮山さんからいただいた名刺はユニークです。「面白いので『八面名刺』をつくりました」と書いてあり、名刺を開くと8ページ。コミーの開発の歴史や今力を入れている箸ゲームのことが一目でわかる構成になっています。アイデアはここまで徹底しているのだと驚きました。なお、対談には、小宮山哲社長も同席いただき、感謝申し上げます。

