
【創業 前編】「何もわからない」ところからの創業 軌道に乗せていくのに、必要なものとは
鈴木慎吾税理士事務所 所長 鈴木慎吾氏独立・開業の夢を叶えたい。でも、成功させるために、どうしたらいいのかがわからない――。そんな悩みを持つ人は多いはずだ。創業に必要なものは何か、個人か法人かの判断基準は? 今回は、顧客のほとんどが創業ステージからの関与先だという鈴木慎吾税理士事務所(静岡県浜松市)の鈴木慎吾氏(税理士)に話を聞いた。
記事では、「前編」で起業時の注意点や法人化のポイントについて、「後編」では成功の事例、創業融資の受け方などを中心に、まとめている。
創業時は「何がわからないかわからない」
――事務所の概要から聞かせてください。
鈴木(敬称略) 2015年に浜松で開業して、今年で11年目になります。当時、私は36歳でしたが、初めからお客さまもわりと同世代が多く、同じく独立・開業のステージにあった方がほとんどなんですよ。
――まさに今回のテーマにぴったりなのですが、最初からそういう顧客層をターゲットにするおつもりだったのですか?
鈴木 そういうわけではないのです。若い世代のお客さまには、やはり同世代の税理士のほうが相談しやすい、というのがあるでしょう。そうやって当事務所を選んでくださった方の多くが、たまたま開業のフェーズにあったわけです。私自身、創業を経験した身ですから、「やってみよう気質」みたいなところもマッチして、結果的にそうしたお客さまが増えていった。その方たちと一緒に成長しながら現在に至る、という感じです。

現在、顧客は法人が40件、個人事業の方が30件くらいです。業種的な偏りは、あまりありません。9割がお客さまの創業からのお付き合いです。
――わかりました。では、本題についてうかがっていきます。先生の経験上、独立を考える方の抱えるリアルな問題、悩みには、どういうものがあるのでしょうか?
鈴木 大半のお客さまは、リアルな課題以前に、「そもそも何を聞いたらいいのかわからない」「自分が何をわかっていないのかがわからない」という状態で、事務所にいらっしゃいます。やりたいことははっきりしているけれど、では具体的にどうするべきか、という話になると、見当もつかない。
――そうなんですか。ネット上などでも、「起業のイロハ」のような情報はたくさん行き交っていますけど、いざ自分のこととなると、なかなかフィットしない。
鈴木 それが実情だと感じます。ですから、私の場合は、まずじっくり話を聞いて、その方の創業には何が必要なのかを、明らかにするところから始めます。その上で、資金が必要ならば、公庫から創業融資を受けるために一緒に事業計画作りをやったり、法人にしたいのなら、登記の手続きをしてくれる司法書士さんに繋いだり、といったサポートを行っていくわけです。
法人化を判断するポイントは
――初めから法人でスタートするケースも、けっこうあるのでしょうか?
鈴木 個人から始めて法人になるパターンが多いのですが、独立・即法人というケースもあります。独立前の顧客を引き継げるとか、すぐにある程度の売上が見込める場合などには、「最初から法人がいいんじゃないですか」と、こちらから勧めたりもします。もちろん、ずっと個人事業で行く人もいますよ。
――一般的には、所得が一定水準を超えたら、節税のために法人化を検討すべき、といわれます。先生は、法人化の判断について、どのようにお考えですか?
鈴木 まずは、おっしゃるように税金の問題ですね。あとは、取引先との「お付き合い」。そして、これからどうしていきたいのか、という本人の意思。大きくこの3つがポイントだと思っています。
1点目の税ですが、個人の所得税は、所得(利益)が増えるほど税率もアップしていく累進課税になっていますから、ある時点で、税率が一定の法人税に切り換える。すなわち会社にしたほうが、節税になります。
――その損益分岐点、つまり法人化したほうが有利になる所得については、いろいろな見方があるようです。
鈴木 よく800万円とか1,000万円とか言われますよね。でも、それはあくまで1つの目安に過ぎません。例えば、新規の取引を獲得して、儲けが一気に上がったけれど、それが持続的な成長につながっていくものなのか。もしそういう見通しがないのなら、あえて今、会社にする意味はないかもしれません。「所得がいくらになったら法人に」という一律の答えはない、というのが正確でしょう。
――お客さまに、「法人になるのは、時期尚早です」といったアドバイスをすることもあるのですか?
鈴木 当然、あります。そうしたことも、本人のお話をよく聞いてみて判断できることなのですが。
創業時はわからないことだらけ、という話をしましたが、会社をつくらないと独立はできない、と思い込んでいるような方も、たまにいらっしゃいます。どうしてこの規模で法人になったのかを聞いたら、「それ以外に方法はないと思っていた」と。
――決して笑えない話だと感じます。それくらい、「知らない」ままでいることにはリスクがある、ということですね。
鈴木 そうなのです。一方、税金の問題に関係なく、法人化が必要な場合もあります。それが、ポイントの2つ目の取引先との関係です。
中には、信用問題などを理由に、「法人としかお付き合いできない」という会社があるんですね。起業後にそこが主要な取引先になるのだったら、その条件に応じる必要があります。
――税金面では不利にもかかわらず、法人にしなくてはならない、というのはかなり大変だと思います。
鈴木 確かにそうなのですが、そこは考え方だと思うのです。ご本人は、そうしたことも承知で独立の道を選ぶわけです。だったら、商売を成り立たせるために、いっそう本気にならざるを得ないでしょう。
最終的に「あのとき会社にしてよかった」と言えれば、それでいいわけです。そのために頑張るしかありません。
――ある意味、「逆境」を糧にするのですね。起業を成功させるためには、そういう気概も求められそうです。
「成長したい」という意志が大事

鈴木 今の話にもつながりますが、法人化を判断する3つ目のポイントは、ズバリ本人の意志です。個人事業で仕事をしているのだけれど、将来自分がさらに大きく成長したい、という強い気持ちがあるのか。
創業しようというのですから、もともとそうした思いを持っている方がほとんどでしょう。サラリーマン生活に限界を感じていたり、「こういうことをしてみたい」という夢があったり。そうした何かしらの動機があるからこそ、独立したいと考えるのだと思います。
とはいえ、法人化に際しては、いろいろ不安を覚える場合もあるわけですね。悩んでいる人には、「そろそろ会社にしたらどうですか」と話すこともあります。誰かに背中を押してほしい、と思っていることも多いですから(笑)。
――その気持ちは、よくわかります(笑)。
鈴木 すでに人を雇っている場合には、社会保険の話もするんですよ。法人になると、社会保険に強制加入になるわけですが、雇われている人にとっては、大きなメリットです。「自分が成長したいのならば、従業員さんにも良い待遇を保証するのがいいのではないですか」と。
――なるほど。社会保険への加入は、経営者にとってコスト増になりますから、法人化のデメリットとして語られることが多いですよね。でも、そういう観点から見ると、非常に前向きな「投資」に感じられます。
鈴木 そういう話を聞いて、決意を新たにする人もいます。
「後編」では、創業の事例、成功の鍵となる融資の受け方などについて、引き続きお話をうかがいます。
起業・会社設立・スタートアップに強い浜松市の税理士事務所。会計業務はもちろん、融資支援や経営計画書の作成支援など、事業のフェーズに合わせた幅広いサービスを展開。「本音で経営の相談ができる税理士」として、創業期の悩みから成長戦略までトータルでサポートする。
URL:https://www.suzukishingotax.com/

