「退職所得控除など(社内規程)を活用する」
という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部 [監修者]松﨑会計事務所 所長 松﨑 雄太

「退職金を支給したいが、税務上問題はないだろうか」「出張手当や慶弔見舞金を経費計上したいが、規程がなければ給与扱いになるのでは?」——こうした悩みを抱える中小企業経営者は少なくありません。

退職金規程、出張旅費規程、慶弔見舞金規程などの社内規程を適切に整備・運用することで、法人側は適正額の損金算入による課税所得の圧縮、個人側は退職所得控除や非課税扱いなどの税務メリットを受けられる可能性があります。

特に退職金規程は、法人・個人の双方にとって税務上のメリットが大きく、中小企業でも取り組みやすい代表的な社内規程の一つです。

本記事では、退職金規程を中心に、出張旅費規程や慶弔見舞金規程などの税務メリット、整備時のポイント、注意点についてわかりやすく解説します。自社の規程整備を見直すきっかけとしてご活用ください。

社内規程(退職金規程など)とは?

社内規程とは、会社が従業員や役員に対して適用する労働条件や福利厚生、各種費用の支給基準などを明文化したルールの総称です。代表的なものとして、退職金規程、出張旅費規程、慶弔見舞金規程などがあります。

例えば、退職金制度を導入する場合、就業規則に退職に関する基本事項(労働基準法第89条)を定めたうえで、具体的な支給基準や計算方法などを「退職金規程」として別途整備するケースが一般的です。

退職金規程では、主に以下のような内容を定めます。

・支給対象者(勤続年数などの要件)
・支給額の計算方法(功績倍率など)
・支給時期・支給方法
・減額・不支給となる事由

また、出張旅費規程では交通費・宿泊費・日当などの支給基準を、慶弔見舞金規程では結婚祝金・出産祝金・弔慰金などの支給条件や金額を定めます。

こうした規程を事前に整備・継続的に運用することで、税務上「恣意的な支出」ではなく、「社内ルールに基づく合理的な支出」であることを説明しやすくなり、税務調査での否認リスクを低減できます。

社内規程は「身内びいき」を疑われないための客観的な証拠です。税務署に対し、誰に対しても公平なルールで支給していると説明できる状態を作ることが、節税の第一歩となります。
(松﨑会計事務所 所長 松﨑 雄太)

10人未満の小規模企業でも有効

就業規則は、常時10人未満の事業場では作成・届出義務はありません(労働基準法第89条)。しかし、退職金規程や出張旅費規程などの社内規程は、小規模企業でも税務メリットを享受するために早期に整備しておく価値があります。

特に税務上有利な処理を行うためには、「規程の存在」と「実態に即した継続的な運用」が重要視されます。従業員数が少ない段階から社内ルールを整えておくことは、将来的な組織拡大や税務調査への備えとしても非常に有効です。

社内規程を活用する節税メリット

退職金規程などの社内規程を事前に整備・運用することで、法人・個人双方の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。ここでは、具体的にどのようなメリットが得られるのかを見ていきます。

節税メリット1 退職金規程で退職金を損金算入しやすくなる

役員報酬の増額は約半分が税負担に消えますが、同額を退職金として受け取れば「退職所得控除」と「1/2課税」により税負担をほぼゼロにできます。この優遇を受けるには事前の退職金規程整備が必須です。

退職金規程を事前に整備し、株主総会などで支給決議を行うことで、法人・個人の双方に税務メリットが生まれ、税務調査時にも「合理的な支給根拠」として認められやすくなります。

法人側では、適正な水準の退職金であれば、損金算入が認められやすくなります。特に役員退職金は、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率を基準に算定されるケースが一般的であり、社長の場合は功績倍率2〜3倍程度が一つの目安です。

退職金規程に計算方法を明文化しておくことで、税務調査時にも「合理的な支給根拠」として説明しやすくなります。こうした根拠を整備することで、損金算入が認められやすくなり、結果として課税所得の圧縮や法人税負担の軽減につながります。

一方で、不相当に高額な退職金は税務上否認されるリスクがあるため、実態に即した規程整備と継続的な運用が重要です。

個人側(受給者)では、退職所得控除が適用されます。退職所得は給与所得に比べて税負担が軽減されやすく、控除後の金額の1/2のみが課税対象となる分離課税が採用されています。

退職所得控除額の目安は以下の通りです。

・勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
・勤続20年超:800万円+70万円 ×(勤続年数-20年)

例えば、勤続25年の役員に退職金を支給する場合、退職所得控除額は1,150万円となり、退職金額によっては税負担を大幅に抑えられる可能性があります。

また、近年の税制改正では、複数の退職金を短期間で受け取る場合のルールも見直されており、受取時期を含めた事前設計の重要性が高まっています。

退職金の節税効果は絶大ですが、支給にはまとまった「現金」が必要です。小規模企業共済や経営セーフティ共済、生命保険などを活用し、規程とセットで原資を準備しておく視点を忘れないでください。
(松﨑会計事務所 所長 松﨑 雄太)

節税メリット2 出張旅費規程で出張費を適正に経費処理しやすくなる

出張旅費規程に基づき、交通費・宿泊費・日当などを支給することは、法人・個人の双方に税務メリットをもたらします。 

まず法人側においては、通常必要と認められる範囲内の出張旅費であれば、「旅費交通費」として損金算入が認められやすくなります。

一方、個人側にとっても、実費弁償性のある出張旅費は、一定の範囲内で所得税・住民税の非課税扱いとなる点がメリットです。さらに、社会保険料の算定基礎から除外されるケースもあります。

特に日当については注意が必要で、出張旅費規程が存在しない場合や、金額が不相当に高額な場合には、「給与」と認定されるリスクがあります。そのため、支給対象・金額・支給基準を社内規程で明確に定め、継続的に運用することが重要です。

中小企業では、こうした出張旅費規程を適切に整備・運用することで、法人・個人双方の税負担を適正に抑え、資金繰り改善につながるケースもあります。

節税メリット3 慶弔見舞金規程で福利厚生費として処理しやすくなる

慶弔見舞金規程を整備し、結婚祝い金や弔慰金などを社会通念上相当と認められる範囲内で支給することで、法人・個人の双方に税務メリットが生まれます。

法人側では、福利厚生費として損金算入が認められやすくなります。

一方、個人側でも、一定の範囲内で支給される慶弔見舞金については、所得税・住民税の非課税扱いとなるケースが一般的です。また、通常は社会保険料の算定対象にも含まれません。

ただし、慶弔見舞金規程が存在しない場合や、支給額が過大な場合には、一時的な給与とみなされるリスクがあります。

そのため、支給対象・支給事由・金額基準などを社内規程で明確に定め、継続的かつ公平に運用することが重要です。

節税メリット4 小規模企業でも税務上のメリットを受けやすくなる

退職金規程や出張旅費規程、慶弔見舞金規程などの社内規程は、大企業だけでなく、小規模企業にとっても重要な税務対策となります。

就業規則そのものは、常時10人未満の事業場では作成義務がありません。しかし、税務上のメリットを適切に受けるためには、「規程の存在」と「継続的な運用」が重視されます。

例えば、退職金や出張日当、慶弔見舞金などを支給する場合でも、社内規程が未整備であったり、実際の運用実態と一致していなかったりすると、税務調査において「給与」や「役員賞与」と認定されかねません。

一方で、支給基準・対象者・金額算定方法などを規程として明文化し、継続的かつ公平に運用していれば、「合理的な支出」であることを説明しやすくなります。

従業員数が少ない段階から社内ルールを整備しておくことは、将来的な組織拡大への備えになるだけでなく、税務リスクの軽減や資金管理の適正化にもつながります。

社内規程を活用する際の注意点

社内規程を整備すれば税務メリットが期待できますが、誤った運用や不十分な内容では逆にリスクを招く可能性があります。以下に主な注意点をまとめました。

注意点1 規程がなければ税務調査で否認されるリスク

退職金規程、出張旅費規程、慶弔見舞金規程などの社内規程が未整備の場合、税務調査で「恣意的な支出」と判断されやすい点に注意が必要です。

法人側では損金不算入、個人側では給与認定や非課税扱いの否認リスクが高まります。特に退職金や日当、慶弔見舞金などの金額が大きいほど、税務署から厳しくチェックされます。

また、規程を形式的に作成しているだけでは不十分です。支給基準・金額・対象者などを明確に定めたうえで、実際の運用内容と一致していることが重要となります。

事前に合理的な社内規程を整備し、継続的かつ公平に運用することで、税務上のリスクを抑えやすくなります。

出張日当の金額設定に絶対的な正解はありませんが「社会通念上妥当な金額」が大前提です。役職に応じて金額を定めたり、同業他社や公的機関の相場を参考に無理のない額に設定しましょう。
(松﨑会計事務所 所長 松﨑 雄太)

注意点2 実態と運用が一致していることが重要

社内規程を整備していても、実際の運用内容が規程と一致していない場合には、税務調査で否認されるリスクがあります。

例えば、出張日当を規程とは異なる基準で支給していたり、退職金の算定根拠と勤務実態が整合していなかったりする場合には、「実態を伴わない規程」と判断される可能性があります。その結果、損金不算入や給与認定の対象となるケースもあるため注意が必要です。

また、税務調査では、賃金台帳・出勤簿・領収書・株主総会議事録などの関連資料との整合性も確認されます。

そのため、規程を作成するだけでなく、支給基準や運用実態を継続的に一致させ、証憑類を適切に保存しておくことが重要です。

注意点3 役員退職金は「不相当に高額」と判断されない設計が必要

役員退職金は支給額が大きくなりやすいため、税務調査において「不相当に高額」とみなされないよう事前の設計が欠かせません。

同業他社や同規模の企業と比較して著しく高額な水準であると、その超過部分について損金不算入(経費として認められない処理)と判断されるリスクが生じます。

そのため、事前に退職金規程で算定方法や支給基準を明確に定めておくことが重要です。加えて、株主総会決議を行い、議事録などの客観的資料を保存しておくことで、税務上の合理的な支給根拠を説明しやすくなります。

注意点4 無料の社内規程テンプレート流用はリスクあり

インターネット上の無料テンプレートをそのまま使用すると、自社の業種・規模・実態に合わず、税務リスクを高める可能性があります。

特に退職金や日当の金額基準、法改正対応が不十分な場合が多く、税務調査で否認されるケースが少なくありません。

テンプレートはあくまで参考とし、自社に合わせてカスタマイズした上で、税理士や社会保険労務士によるチェックを受けましょう。

この節税術に必要な心構えとは

退職金規程や出張旅費規程、慶弔見舞金規程などの社内規程は、単なる形式的な書類ではありません。税負担を適正化し、税務リスクを抑えるための重要な経営基盤となります。

特に中小企業では、従業員数が少ない段階から社内規程を整備しておくことで、将来的な組織拡大や税務調査への備えにつながります。

ただし、規程は作成するだけでは十分ではありません。支給基準や運用実態を一致させ、継続的に見直していくことが重要です。

また、退職金や出張日当、慶弔見舞金などは、税務上の取り扱いが複雑になるケースもあります。自社のみで判断するのではなく、必要に応じて税理士や社会保険労務士などの専門家へ相談しながら進めることも有効です。

まずは、自社の退職金制度や出張・慶弔支給の実態を確認し、規程整備の必要性を見直してみるとよいでしょう。

適切な規程整備と継続的な運用は、税務メリットを受けやすい体制づくりにもつながります。

中小企業の経営者様にとって、日々の業務に追われる中で社内規程を整備することは、非常に面倒で後回しにされがちな課題かと思います。しかし、本記事で解説されている通り、退職金や出張旅費などのルール化は、会社側の適正な経費計上と従業員・役員側の税負担軽減という「双方向のメリット」を生み出す強力な節税策となります。

規程整備は税務調査の否認リスクを減らす強固な盾になるだけでなく、「会社が従業員を大切にしている」というメッセージにもなり、社内のモチベーション向上にも繋がります。まずは身近な出張旅費規程や慶弔見舞金規程など、取り組みやすいものから顧問税理士等と二人三脚で整備を進めてみてはいかがでしょうか。
(松﨑会計事務所 所長 松﨑 雄太)

 

松﨑会計事務所所長 松﨑 雄太(公認会計士・税理士)

現プライム上場企業の経営企画部、大手監査法人を経て独立。スタートアップの会社を中心に、会計・税務だけでなく経営戦略の策定支援、DX支援、経営管理体制支援など戦略的アドバイスも提供し、顧問先の成長をサポート。『お城の街』姫路市の会計事務所。

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