内縁関係のパートナーが亡くなったら、遺産はどうなる? 財産を確実に渡す方法を解説

籍を入れずに暮らす内縁関係、事実婚のカップルが増えていますが、婚姻届けを出す法律婚に比べ、法的に不利な立場に置かれるという問題が指摘されています。相続はその最たるものの一つ。そもそも相続権が認められず、当然、配偶者控除などの税の優遇措置も対象外です。ただし、相手に確実に財産を渡す方法はあります。どうすればいいのかを中心に、内縁関係と「相続」について解説します。
内縁関係の相手に相続権は認められない
そもそも内縁関係とは
日本の民法では、婚姻を成立させるためには戸籍法の定める婚姻届の提出が必要とされています。たとえ当人たちに婚姻の意思があり長年連れ添っていても、子どもがいたとしても、婚姻届けを提出しなければ、法律上の婚姻関係(法律婚)は認められず、内縁関係にあるとされます。
この関係を選ぶ背景には、何らかの事情で婚姻届けが出せない場合のほか、「戸籍にとらわれず、自分たちの価値観を優先したい」、「名字・姓を変えたくない」、さらに「同性婚が法的に認められていないため」といった理由があるようです。
事実婚との違いは
法律婚に対立する概念としては、事実婚という言葉もあります。内縁関係に比べると新しい用語で、「あえて婚姻届けを出さない」というニュアンスを含むケースや、同性カップルに対して使われることが多い表現といえるでしょう。
ただ、実際には両者の使い分けに明確な基準はありません。内縁関係も事実婚も、言い方が異なるだけで、法的な扱いなどは同じです。
相続権の考え方
民法は、相続の際に遺産を受け取る権利を持つ「法定相続人」を定めています。内縁関係にあったパートナー(内縁の妻、夫)は、この相続人には含まれません。そのため、相続権が認められないのです。
例えば、内縁の夫が亡くなり、その人に前妻との子どもがいたとします。生前に何もしていなければ、残した財産は、基本的に相続人である子どもの手に渡ることになります。ちなみに、子どもがいない場合には、被相続人(亡くなった人)の両親、両親が亡くなっていたら、兄弟姉妹が相続人です。
このように、内縁のパートナーには相続権がありません。しかし、以下のような手段により、相手に財産を渡すことが可能です。逆にいえば、パートナーに確実に財産を渡したければ、これらを確実に実行する必要があるのです。
(1)生前贈与を行う
暦年課税の仕組み
被相続人の死後に遺産を分ける相続ではなく、生前に財産を渡すのが生前贈与です。相続人以外の人に対しても、贈与は可能です。ただし、一定額を超える贈与には、贈与税が課税されます。なお、贈与には暦年課税と相続時精算課税という2つのやり方がありますが、相続人ではない内縁関係のパートナーができるのは、暦年課税のみです。
この暦年課税では、年間110万円の非課税枠(基礎控除額)を超えた金額に、相続税が課税されます。つまり、年間110万円までなら、無税で財産を渡していくことができます。長期に渡って贈与していけば、非課税ないし少額の税負担で、多くの財産を譲ることができるのです。
生前贈与加算は適用されない
また、暦年贈与には、相続発生前3年(2024年1月以降の贈与については、7年に順次延長中)の贈与額に関しては、相続財産に加算されて相続税の対象になる生前贈与加算という仕組みがあります。簡単にいえば、この期間に行った贈与については、110万円の基礎控除が認められなくなるのです。
ただし、この生前贈与加算の対象になるのは、相続人と受遺者(遺言によって財産を受け取る人)です。説明したように、内縁関係のパートナーは相続人ではありません。次に述べる遺言書による遺産の受け取りをしない(受遺者にならない)場合には、相続発生まで基礎控除を使った贈与が可能です。
(2)遺言書を残す
相続人以外にも財産を残せる
遺言書により財産を譲ることを遺贈といい、遺産を渡す相手や金額、中身を指定することができます。相続人以外の人を受遺者にすることも可能なのです。
遺言書がない場合、遺産の分け方は相続人による話し合い(遺産分割協議)で決めることになります。相続権のない状態の内縁関係のパートナーがそこに参加して、遺産の分割を求めることはできません。自分の死後にまとまった財産を譲りたい場合には、その旨を記した遺言書を書いておくことが不可欠、ということです。
遺言書作成のポイントは
遺言書には、自分で書く「自筆証書遺言書」、公証役場で公証人に作成、保管を依頼する「公正証書遺言書」、自分で作成して公証役場に持参する「秘密証書遺言書」があります。記載要件を満たしていれば、どれも法的な有効性を持ちますが、相続権のない人に遺贈するのですから、より安全で確実な公正証書遺言書の作成をお勧めします。
また、遺言の仕方には、「全財産の1/2を譲る」といった包括遺贈と、「現金〇〇万円を遺贈する」と財産を指定する特定遺贈の2つがあります。内縁関係のパートナーが包括遺贈された場合には、相続人とともに遺産分割協議に参加して、もらう遺産を決めることになります。それは権利でもありますが、大きな負担になる可能性もあります。そのようなことが予想されるケースでは、特定遺贈にするのがいいでしょう。
(3)特別縁故者として財産分与を受ける
「特別縁故者」とは、亡くなった人と特別に親しい関係にあったことを理由に、遺産を取得できる人を指します。亡くなったパートナーに相続人がいない場合、内縁関係にあった人がこの特別縁故者として認められる可能性があります。
相続では、被相続人に相続人がいなければ、原則として誰も遺産を受け取ることはできず、最終的には国庫に入る決まりになっています。しかし、相続人でなくても、以下の3つの要件を満たす場合には、遺産の全部または一部を受け取ることができるのです。
・亡くなった人と生計を同じくしていた
・亡くなった人の療養看護に努めた
・その他、亡くなった人と特別の縁故があった
特別縁故者として遺産を受け取るには、受け取りを希望する人が、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
特別縁故者に対する相続財産分与 | 裁判所
内縁関係のパートナーが財産を受け取る際の注意点
内縁関係にあったことを証明できるようにしておく
法律婚のように婚姻関係を客観的に示すことができないため、財産を受け取る際にトラブルが発生する可能性もあります。内縁関係にあったことをきちんと証明できるようにしておくことは、重要です。
住民票は、同じ住所で「夫(未届)」「妻(未届)」と記載し、届け出ることができますから、そうした手立てを検討しましょう。
相続人の遺留分に留意する
兄弟姉妹を除く、配偶者や子どもなどの相続人には、民法で「最低限受け取れる遺産の割合」(遺留分)が認められています。たとえ亡くなった人の遺言でも、これを侵害すると、該当する相続人から「遺留分侵害額の請求」を起こされる可能性があります。侵害が明らかな場合には、それに応じなくてはなりません。残された内縁のパートナーと自分の親族がトラブルにならないよう、遺留分の侵害は避けるようにしましょう。
なお、相続人の遺留分は、上記(2)の遺贈だけでなく、(1)の生前贈与に関しても認められます。
相続税の納税に関して不利な立場になる
(2)の遺贈を受けた場合、内縁関係のパートナーは、相続税の「配偶者控除」(相続した遺産額1億6,000万円ないし法定相続分まで非課税)や「小規模宅地等の特例」(自宅などの評価額を最大8割引き下げ)などの、法的な婚姻関係にあった配偶者が受けられる税の軽減措置の対象外とされます。
さらに、相続税は、配偶者や親や子といった一親等の親族以外が相続する場合には、2割増しになります。内縁関係のパートナーは、法律上の親族には当てはまらないため、この2割加算が適用されます。
まとめ
内縁関係、事実婚のパートナーに対しても、生前贈与や遺贈によって財産を譲ることができます。ただし、相続権がないだけに、確実に渡すためには、早い時期から準備を始め、贈与や遺言書の作成などを進める必要があります。不明な点は、相続に詳しい税理士などに相談するのがいいでしょう。
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