相続人がいないとき、残した遺産はどうなるのか? 財産を活かすために知っておくべきこと

[取材/文責]マネーイズム編集部

身寄りのない“おひとりさま”が増えています。そうした人が亡くなった場合などには、法定相続人のいない状態(相続人不存在)が生じます。そのとき、残された財産はどうなるのでしょうか? 相続人不存在における相続手続きの流れ、それが想定される場合の生前対策などについて解説します。

相続人不存在とは

相続人不存在になるのは、次のようなケースです。

初めから法定相続人がいない

法定相続人とは、民法が定めた「被相続人(亡くなった人)の財産を受け取る権利のある人」をいいます。被相続人が遺言書で指定すれば、これ以外の人に財産を渡すことも可能ですが、遺言がなかった場合には、相続人がそれぞれの法定相続分(受け取れる遺産の割合)をベースにした遺産分割協議を行い、具体的な分け方を決めます。

この法定相続人には、次の第1順位~第3順位までが規定されており、前の順位の人がいる場合には、相続人にはなれません。被相続人の配偶者が存命していれば、順位とは無関係に相続人です。

第1順位:子(亡くなっている場合には孫)

第2順位:親(亡くなっている場合には祖父母)

第3順位:兄弟姉妹(亡くなっている場合には甥姪)

被相続人が亡くなった時点で、これらに該当する人が1人もいなければ、相続人不存在となります。

法定相続人全員が相続放棄した

相続では、現金や不動産などのプラスの財産だけでなく、被相続人に借金などマイナスの財産があれば、それも引き継がなくてはなりません。マイナスがプラスを上回る場合、相続人は、相続で負担を背負い込むことになってしまいます。

こうしたケースでは、家庭裁判所に申し立てて、相続権を放棄することができます。相続放棄が認められると、「法定相続人ではない」立場になります。プラスの財産についても、相続することはできません。

法定相続人はいたものの、その全員が相続放棄を認められたら、やはり相続人不存在の状態になります。

法定相続人全員がその資格を失った

一方、相続の意思はあっても、次のようなケースでは、相続人の立場を失うことになります。

相続欠格

被相続人を殺害したり、脅して遺言書を書かせたりするような行為があった場合⇒被相続人の意思とは無関係に相続人の資格を失う

相続廃除

被相続人を虐待する、重大な侮辱を与えるなどの著しい非行があった場合⇒被相続人の意思で相続人の資格を剥奪

相続人全員がこれらに該当するというのはレアケースだと考えられますが、その場合にも相続人不存在ということになります。

なお、この相続欠格、相続廃除の対象になるのは、本人のみです。対象者に子どもがいる場合には、代襲相続といって、子どもが代わって相続人の資格を持つため、相続人不存在にはなりません。その点は相続放棄と異なります。

相続人不存在の場合の相続手続き

では、このような相続人不存在となった場合、残された被相続人の財産はどのように扱われるのでしょうか。順を追ってみていくことにします。

「相続財産清算人」選任の申し立てを行う

まず、被相続人の債権者、遺贈(遺言書により遺産を渡すこと)を受けた人などの利害関係人または検察官が、家庭裁判所に「相続財産清算人」の選任を申し立てます。相続財産清算人は、被相続人の財産を調査、管理し、以下の手続きを行います。

相続財産清算人選任の申し立てについて、詳しくは
相続財産清算人の選任 | 裁判所

「相続財産清算人選任・相続人捜索の公告」を行う

相続財産清算人が選任されると、その事実とともに、相続人がいれば申し出るよう、官報で公告されます(相続財産清算人の選任・相続人捜索の公告)。

この公告の期間は、6ヵ月以上必要とされています。正確には、この公告によって相続人が現れなかった場合に、相続人不存在が確定します。現れた場合には、その人に相続財産が与えられ、この時点で手続きは終了となります。

「債権申出の公告」を行う

上の相続財産清算人選任・相続人捜索の公告と並行して、相続財産清算人が債権申出の公告を行います。被相続人の債権者及び受遺者(遺言書により遺産を受け取った人)がいたら申し出るよう、促すものです。

公告の期間は、2ヵ月以上必要とされています。期間内に申し出た債権者・受遺者には、遺産から支払いが行われます。ここで遺産を使い切った場合には、相続手続きは終了します。

相続人不存在の確定

相続財産清算人選任・相続人捜索の公告の期間内に相続人が現れなかったら、相続人不存在が確定します。さきほど説明したように、相続財産清算人選任・相続人捜索の公告の期間は6ヵ月以上のため、相続人不存在の確定は、公告開始から最短6ヵ月ということになります。

「特別縁故者」への財産分与

相続人不存在が確定した後、特別縁故者から財産分与の申し立てがあれば、家庭裁判所で審判が行われます。その結果、財産分与が認められれば、遺産のすべてまたは一部が特別縁故者に渡されることになります。

この特別縁故者への財産分与については、後であらためて述べます。

最終的には国庫に帰属

こうした過程を経て、残った遺産がある場合には、相続財産清算人により国庫に帰属、すなわち国の財産とする手続きが取られます。つまり、被相続人の遺言書がなく、特別縁故者もいない(ないし縁故者による財産分与の申し立てが却下された)場合には、相続財産清算人の報酬などを除いて、すべての遺産が「国のもの」になるわけです。

相続人不存在の場合に遺産を活かすには

遺言書を作成しておく

国庫に入れば、遺産は国のために活用されることになりますが、たとえ相続人がいなくても、自分の意思に基づいた財産分与をしたいと考える人はいるでしょう。その場合には、遺言書を残す、という方法があります。

遺言書は、相続人以外の人を遺産の受取人に指定することができます。世話になった友人、知人などのほか、自治体や慈善団体に対して遺贈寄付を行うことも可能です。ただし、現金以外の財産については、受け取る側の意向もありますから、事前に了解を得ておくのがいいでしょう。

特別縁故者として財産分与の申し立てを行う

また、法定相続人がいない場合、生前に被相続人と親密な関係にあった特別縁故者は、被相続人の財産分与を受けられる可能性があります。特別縁故者とは、次のいずれかに当てはまる人をいいます。

・被相続人と生計を同じくしていた人
・被相続人の療養看護を行っていた人
・その他、被相続人と特別な縁故があった人

例えば、長く内縁関係にあった人や、被相続人の面倒をみていた義理の兄弟姉妹などが該当します。

特別縁故者として財産分与を受けるためには、さきほどの相続財産清算人選任・相続人捜索の公告期間の終了=相続人不存在の確定から3ヵ月以内に、家庭裁判所に「特別縁故者に対する相続財産分与の申立て」を行う必要があります。家庭裁判所は審判を行い、財産分与の可否や、財産の金額などを決定します。

特別縁故者として財産分与を受けた場合、相続税の基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)を超える分には、相続税が課税されます。特別縁故者の財産分与においては、法定相続人は0人なので、基礎控除額は3,000万円です。

なお、特別縁故者に相続税がかかる場合には、納税額は2割加算されます。

相続税の2割加算について、詳しくは
No.4157 相続税額の2割加算|国税庁

まとめ

相続人がいない場合、残した財産は最終的には国庫に入ります。自分の意思で引き継がせたいときには、遺言書を作成するようにします。必要に応じて、相続に詳しい税理士などの専門家に相談し、早めに準備を進めるのがいいでしょう。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

新着記事

人気記事ランキング

  • banner
  • banner