相続した不動産を家族の共有にするとどうなる?避けたいリスクと対処法を解説

被相続人(亡くなった人)の遺産に不動産が含まれていた場合、遺言書がなければ、相続人の話し合い(遺産分割協議)で、誰がそれを引き継ぐのかを決めます。その際、単独ではなく、共有名義の形で相続することも可能です。ただし、相続の際の不動産の共有には、公平性が保たれるなどのメリットがある半面、将来、「こんなはずではなかったのに」という事態に直面するデメリット(リスク)が潜んでいることを、認識しておくべきでしょう。不動産の共有について、わかりやすく解説します。
相続と不動産の共有
不動産の共有とは
不動産(土地・建物)は、単独の名義で所有されるのが普通ですが、例えば兄と弟など複数の人が共有で持つこともできます。この場合、兄弟は、それぞれがその不動産の権利の一部ずつを持つことになります。
権利の割合は、兄弟が半分ずつのこともあれば、兄6割・弟4割のような持ち方も可能です。この割合のことを共有持分といい、一般的には、不動産を取得する際に支払った資金額の割合と同等に設定されます(不動産を購入した場合)。
遺産分割で不動産の共有が問題になるシーン
親族間での不動産の共有が起こりやすいのが、相続です。親が単独で所有していた土地を、複数の子どもなどが相続する、というパターンです。
共有になりやすいのは、「不動産が分割しにくい」ことが大きな理由です。現金は簡単に分けられますが、例えば遺産のほとんどが不動産だった場合、複数の相続人のうちの1人が相続すれば、そのままでは他の相続人から不満が出るかもしれません。
相続税が発生する場合(※)、申告期限には、相続発生から10ヵ月という期限があります。そうしたこともあって、遺産分割協議において、「とりあえず“平等”に、共有で相続しておこう」という結論になりやすいわけです。
※相続税の基礎控除 相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があり、遺産(相続財産)額がこれ以下ならば、非課税になる。
相続で不動産を共有にするメリット
円滑で“平等”な相続が可能
相続には「争い」がつきものです。被相続人の遺言書がなく、遺産に不動産が含まれている場合には、なおさらそのリスクは高まります。
いったん相続がこじれると、相続人同士の話し合いだけでは決着がつかず、裁判所の調停や裁判に発展するケースも珍しくありません。そうなると、遺産分割までに、時間や弁護士費用などのコストがかかるだけでなく、家族の人間関係が壊れる可能性があります。もちろん、残された不動産もその間、活用も売却もNGです。
そうした最悪の事態を回避するために、とりあえず遺産分割が不平等にならないよう不動産を共有名義にして相続する、というのは1つの選択肢といえるでしょう。
申告期限内の相続税納税が可能に
さきほど述べた相続税の納税期限までに遺産分割協議が整わない場合、いったん法定相続分(民法に定められた相続人の相続割合)に従って、納税を行わなくてはなりません。その後も協議を継続し、分け方が決まった時点で、支払った税額の過不足を「清算」することになります。
納期限までに共有で分割に合意すれば、そうした必要はなくなります。
「小規模宅地等の特例」が利用できる
亡くなった親の住んでいた自宅などを相続すると、要件を満たせば、その評価額を最大8割減額できる「小規模宅地等の特例」を使うことができます。共有で相続した場合にも、特例の対象となる人は、その持分に応じて適用を受けられることになっています。
収益を分け合える
相続する不動産が賃貸アパートなどの収益物件のこともあります。単独で相続すれば、そこから得られる収益は、その人の「総取り」になりますが、共有にすることにより、持ち分に応じて分け合うことが可能になります。
「親子の共有」による節税メリット
相続には、両親どちらかが亡くなって発生する「一次相続」と、残された親が亡くなる「二次相続」があります。節税の観点からすると、この二次相続までトータルに考えるのが理想です。
実は、後段で述べる共有不動産のデメリットは、基本的に「子どもが共有したケース」のもので、「親子の共有」(不動産を共有する子どもは1人)にする場合には、少し事情が異なります。父親が亡くなった相続で、残された不動産を母と子の共有名義で引き継いだとします。母親が亡くなった二次相続では、そのままいけば、不動産は子に相続され、単独名義に戻るからです。
一次相続では、母親は配偶者控除(遺産額1億6,000万円、ないし法定相続分まで非課税)を活用することができます。不動産の評価額や他の相続財産の状況などにもよりますが、あえて共有にすることで、トータルの節税が可能になる可能性があるのです。
ただし、二次相続まで見越した対策には、精緻なシミュレーションなど、専門家のサポートが不可欠です。相続に詳しい税理士などに相談するようにしましょう。
相続で不動産を共有にするデメリット
共有者が“ネズミ算”式に増えていく
兄と弟が共有で不動産を相続したとします。その状態で兄が亡くなれば、今度はその共有持分が兄の相続人に受け継がれます。相続人が2人いれば2人、3人いたら3人が、新たに共有名義に加わる可能性があるわけです。当然、弟のほうも同様です。
兄と弟は気心が通じ合っていたとしても、新たな名義人は、どんどん疎遠になっていきます。権利関係は複雑化し、不動産は「塩漬け」状態になる公算大。これが、共有の最大のリスクといっていいでしょう。
意思決定には共有者の合意が要る
不動産が共有になっている場合、以下のような行為には共有者全員の合意が必要とされています。
・不動産の売却
・取り壊し
・大規模なリフォーム
・大規模な建て替え など
理論上は、持分1%の名義人が反対しても、これらの行為(「処分行為」「変更行為」)は実行できません。
また、短期の賃貸借契約の締結や解除、賃料の変更といった「管理行為」にも、共有者の過半数(持分)の合意が必要になります。
共有者の間で一致点が見いだせるのならば、問題ないかもしれませんが、将来的にその関係が保てるのか、保証はありません。
費用負担や納税をめぐるトラブルの可能性
不動産の維持には、定期的なメンテナンスなどさまざまなコストがかかります。その負担をめぐって、共有者間で問題が発生するかもしれません。
また、不動産には固定資産税・都市計画税が課税され、共有の場合には、連帯して納付する義務を負っています。通常、代表者に納税通知書が送付され、まとめて納税することになっていますが、中に支払いの応じない共有者がいれば、代表者が負担を強いられる恐れがあります。
逆に、代表者が税を滞納すれば、他の共有者に督促状が送られることになります。共有不動産では、こうした納税をめぐるトラブルの可能性も無視できません。
共有者の1人が認知症になった 行方がわからない
高齢化社会の中で、認知症になる人が増加しています。もし、共有者の1人が認知症になり、意思能力を欠く状態と判断された場合、不動産の売買契約などの法律行為を行うことができなくなります。さきほど述べたように、共有不動産全体を売却したり、大規模な変更を加えたりするには共有者全員の同意が必要なため、意思能力を欠く共有者がいると、その不動産は、動かせなくなってしまいます。
こうしたケースでは、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらう必要があります。ただし、手続きに時間がかかるうえ、後見人の選任後は本人の財産保護が優先されるため、他の共有者が望むような不動産の処分が認められるとは限りません。
また、縁遠い共有者が増えると、所在が不明な共有者が出てくる可能性も高まるでしょう。共有者と連絡が取れなければ、そもそも話し合いができず、やはり共有不動産の売却などはできません。
2023年4月施行の改正民法(所有者不明土地等関係)では、相続開始から10年経過したときに限り、所在不明の相続人との共有関係を解消できるようになりました。しかし、解消するためには裁判所の決定を得る必要があるなど、複雑な手続きが必要です。
共有持分の売却は可能だが、買い叩かれる可能性
以上のようなデメリットを考え、自分の持分のみを売却することは可能です。しかし、特殊な事情を抱えた売り手は、足元を見られがち。買い手の側にとっては、他の共有者が存在する不動産、というリスクもあります。結果的に、売却額は、全体を売って持分に応じた金額を受け取るよりも、かなり割安になることが避けられません。
共有者に「第三者」が加わる可能性
買い叩かれるのを覚悟で売却した共有者がいた場合、他の共有者から見ると「見知らぬ第三者」が、新たに名義人に入ってくることになります。一般的には、合意形成がさらに難しくなるなど、他の共有者にとってさらに不利な状況に陥るリスクがあります。
まとめ
説明してきたことでおわかりのように、遺産の不動産を共有で相続することには、見えにくいトラブルの火種が潜んでいます。できるだけ共有を避ける方法を検討するほか、仮に共有状態になった場合には、合意して売却する、誰かが買い取るなどにより、できるだけ速やかにその解消を目指すべきでしょう。相続に詳しい税理士などの専門家にサポートを依頼することをお勧めします。
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