東京・大阪だけではなく、地方中核都市にも注目海外はベトナム、フィリピンなどの都市力を見て投資 – マネーイズム
 
野村不動産ホールディングス代表取締役社長兼グループCEOの沓掛英二氏(左)と株式会社ビスカス代表取締役社長の八木美代子(右)

東京・大阪だけではなく、地方中核都市にも注目
海外はベトナム、フィリピンなどの都市力を見て投資

野村不動産ホールディングス代表取締役社長兼グループCEO 沓掛英二氏

野村不動産と言えば、分譲マンション「プラウド」。同社は2021年のマンション供給戸数で全国トップに立ち、当然マンションのイメージが強いが、現在はオフィスや商業、物流施設、ホテル等に加え、大規模な複合開発、そして地方中核都市でも事業に取り組むなど、総合不動産会社として発展を続けている。「成長国への投資は、国全体の発展度合いに加えて、都市力を見て決める」と沓掛英二代表取締役社長兼グループCEOは語り、ベトナム・ホーチミンシティ、フィリピン・マニラなどでも大規模開発を手がける。

八木美代子(以下、八木)私たちビスカスのお客様である中小企業の経営者にとって、不動産はとても関心の高い資産です。私が前線で営業をしているころ、いろいろな中小企業の社長から「利益が出たけど、この資金どうしたらいいのだろうか」とよく相談を受けました。私は「不動産を含めて分散投資をすることですよ」と答えて、後々、感謝されたことを覚えています。

そこで、不動産のことを熟知しておられる沓掛社長に不動産の過去、現在、未来をお伺いに来ました。

野村不動産と言えば、分譲マンションの「プラウド」が有名です。業界で有数のマンションブランドを育てられた。また、昨年度は最高益を達成されるなど、事業が拡大しています。

野村不動産の事業展開を見ていると、不動産の価値の変遷が見えてくると思っているのですが、如何ですか。

 

沓掛英二(以下、沓掛)「プラウド」について申し上げれば、お客様の生活に密着した形で成長してきました。質の高いマンションづくりは、建物が立派というだけでなく、豊かな生活をお約束するような総合的な品質が大事です。駅に近いといったロケーションだけではなく、信頼できる管理人さんがいるとか、メンテナンスの質を保つなど、さまざまなことに焦点を当てて事業を大事に育ててきたつもりです。

マンションブランド「プラウド」はパワーカップルが多い

八木プラウドは富裕層をターゲットにしているのですか。

 

沓掛富裕層狙いというわけではありません。サラリーマン層を中心としたファミリー層で、少し上質なものを求めるお客様を中心にご好評いただいています。最近では、首都圏でマンションをお求めになるお客様の約7割がご夫婦ともに働いているパワーカップルというデータがあります。

両方の親御さんから生前贈与を受けておられる若手ファミリーも結構いらっしゃいますね。イメージで言えば、8,000万円のマンションだと、両方の親御さんから合計で2000万円をもらって頭金にして、残り6000万円のローンを組む。ご主人が3000万円、奥様が3000万円とそれぞれに別々にローンを組むファミリーも増えています。

 

八木野村不動産は現在、マンションだけではなく多岐にわたる分野を手がけていますね。資産価値を考える上で、野村不動産がどこに重点を置いているかが参考になりそうです。

 

沓掛野村不動産の歴史を知っていただくと、私たちがどんな不動産開発をしてきたかがご理解いただけます。

1957年の設立時は、戦後の住宅難を解消すべく住宅事業からスタートしました。その後業容を広げ、オフィスなどはもちろん、地域も北海道から九州まで、何とフィジー島の別荘地まで手がけていました。ところが、バブル経済が崩壊して銀行融資を受けるのが厳しくなった。そこで、海外の不動産開発をシャットアウト、地方の不動産開発もシャットアウト。その時は「マンションに集中する」と決めて、その中でプラウドを育てることに専念したのです。

東芝不動産の買収を契機に総合不動産企業に発展

沓掛社長
「東芝不動産の買収が飛躍の契機になりました」と沓掛社長

八木野村不動産が総合的な展開に踏み切ったきっかけは何ですか。

 

沓掛2008年に東芝不動産(現在は野村不動産と合併)を買収したのが、飛躍のきっかけです。リーマンショックの影響で大企業はコアなビジネス以外は売却するなどして、バランスシートの圧縮、資本の効率向上に力を入れるようになりました。東芝さんも例外ではなくて、東芝不動産が野村不動産グループの仲間になったのです。

 

トータル1000億円強のM&A(企業の合併・買収)だったのですが、東芝不動産は多くの賃貸オフィスを保有していたので、約150億円の安定した営業利益がプラスされることになった。当時主力の住宅部門で100億円から150億円の利益ですから、M&Aにより会社を動かす2つのエンジンができたのです。

 

住宅分譲事業は、土地を仕込み、毎年地道に売らないと利益が出ないわけですから、ビジネスとしては当然大変なわけです。一方、東芝不動産は北海道から九州まで多くのオフィスをはじめとした賃貸不動産を所有していた。賃貸収入を継続して得られるわけで長期的な視点に立った不動産ビジネスが展開できるようになった。これが非常に大きな転機でした。

 

八木今のお話は中小企業の経営にも参考になります。企業規模を問わず、複数の事業を展開していると、一つの事業が厳しい状態になっても別の事業で補って我慢することができます。ロングランで投資ができるようになって、どのような分野に投資していったのですか。

 

子育て世代も高齢者も住まう「都市型コンパクトタウン」に注力

沓掛一つは再開発事業などの複合開発です。マンションだけでなく商業施設や病院などとの複合開発で付加価値を高める街づくりに取り組むことになりました。

例えば、千葉県船橋市において2014年に竣工した「ふなばし森のシティ」の開発は、開発面積が17.6ヘクタールの敷地に分譲マンション1500戸弱を作りました。当社以外の事業会社とも一緒になり、商業施設、総合病院、大型公園、子育て施設、高齢者施設が一体となった街づくりを行った大規模開発です。当社グループとして初めてのサービス付き高齢者住宅も作りました。少子高齢化を考えると、子育て世代も高齢者も住まう街が大事です。

私たちは住宅やオフィス、商業施設、公共施設、シニア向け施設など、さまざまな機能を組み合わせた街づくりを各地で行っています。

 

八木東京、大阪など大都市に人口が集中して、地方は不動産として魅力がないと言われますが、どう思われますか。

 

沓掛当社は過去に、東京、名古屋、大阪、仙台以外では開発しないという時代もありましたが、現在では地方の中核都市も重要なターゲットにしています。主には新幹線が止まる駅をイメージしていただければと思います。

現在、岡山、広島、福島、郡山、三島、金沢などで事業を推進中です。
これらはいずれも「駅前」の立地が中心となります。高度経済成長期には、住まいはどんどん郊外に伸びていきましたよね。郊外にニュータウンができて、大型スーパーもあるし、車で行けるので便利でした。ところが、郊外は高齢者にとって不便になってきた。

 

八木郊外の大規模団地は、買い物に行くのでも、病院に行くのでも、車を運転するのが前提になっているところが多いですしね。

 

沓掛地方の自治体も、主要駅のそばに住まいや医療機関、店舗などが揃っているコンパクトシティ化を目指すようになったのです。マンションの近隣に病院があれば、救急のときはすぐ病院に行けるので、救急車の出動回数が少なくて済む。コンパクトシティなら、行政のコストも減ります。

円安の今よりも、東京オリンピック前のほうが日本買いは激しかった

八木話は変わりますが、円安が影響して海外の方が北海道や京都の不動産を次々と買っているという話を聞きますが、大きなブームになっていくのでしょうか。円安で2割ぐらい安くなっている勘定になりますから、日本の不動産は買いなのでしょうか。

 

沓掛海外から日本の不動産を買う動きは、東京オリンピック前のほうが激しかった印象です。2013年に「2020年東京オリンピック」の開催地が東京に決まりましたよね。その翌年あたりからコロナが流行する前ぐらいまで、日本に対する不動産投資意欲がすごかった。

 

当社は実需のお客様を基本としてますから、その時もマンションを投資目的で購入される海外のお客様には積極的に販売していません。とは言え海外の投資意欲の強さは非常に感じた。
そうこうしているうちにコロナが広まって、日本の不動産買いがしぼんだ。
そして今、円安で再び日本の不動産買いが始まったのですが、足の速い人は2021年ころから日本の不動産を買っています。日本買いのブームが戻るかはまだ微妙な段階ですが注視しています。

 

「中小企業の経営者は不動産を含めて分散投資すべきですね」と八木社長

八木不動産の場合、いつが買い時なのですか。

 

沓掛個人的には「買いたいと思ったときが買いですよ」と申し上げています。例えばマンションの場合、それぞれのご家庭のライフステージがあるわけですね。お子さんが小さくて教育環境の良い場所がいいとか、50歳、60歳ぐらいになったら戸建てではなくてマンションがいいとか、生活のステージによって求める不動産も変わるわけです。

 

不動産の価格がこれからも上がるか下がるかという議論もあるけれど、例えば、今不動産買っても、5年後にはご自身のニーズと違ってくるかもしれない。高値安値で一喜一憂するよりも、ご自身や会社のステージを見通して購入されるほうが賢明ではないでしょうか。

「芝浦プロジェクト」は、東京の魅力を高める大規模複合開発

八木さきほど地方都市での再開発事業のお話をしていただきましたが、東京など大都市の再開発事業はどのように取り組んでいますか。世界の都市と比べて東京の魅力は今後どうなっていくのでしょうか。

 

沓掛私たちは、東京に籍を置くデベロッパーとして、東京の魅力を高めて行く責任があると思っています。
2020年に虎ノ門駅の真上で「東京虎ノ門グローバススクエア」を竣工させました。本年は下町・亀戸で大型ショッピングセンターと住宅からなる複合開発を完成させています。今後は、2026年度竣工を目指し日本橋一丁目の再開発を、さらに中野サンプラザの建替え等にも取り組んでいます。

そして、当社の開発の中で一番大きなプロジェクトが「芝浦プロジェクト」です。JR東日本さんと共同で推進している事業です。東芝不動産を買収したことに触れましたが、現在当社が保有し東芝さんの本社が入居する東芝ビルディング(現浜松町ビルディング)の建て替え事業として、ツインタワーの建設を予定しています。当プロジェクトは国家戦略特区に選定されています。

 

芝浦プロジェクト
東京湾岸部の景観を望む大規模複合開発の「芝浦プロジェクト」、5つ星ホテルの「フェアモント」も日本に初進出

区域面積が4.7ヘクタールで、高さ235メートルのビルが2本、延床面積55万平方メートルの規模です。オフィス、ホテル、商業施設、住宅からなる複合施設で、ホテルは5つ星の最高級ホテル「フェアモント」が日本に初進出します。東京湾や都心の景観を一望できる、非常に希少な立地です。

こうした大規模開発も手がけられるようになりましたが、当社にとってもう一つ大事なのは、中規模、小規模オフィスビルなどの開発です。

 

八木中規模、小規模のオフィスビル開発も手がけているのですか。

 

沓掛テナントさんのいろいろなニーズに応えるために、様々な特徴を持ったオフィスビルを作っています。セキュリティを含めて大規模ビルと同じような機能とグレードを持つ「PMO(ピーエムオー)」という中規模オフィス。少人数で働くスタートアップ等のニーズに対応した「H1O(エイチワンオー)」というサービス付き小規模オフィス。そしてシェアオフィスの「H1T(エイチワンティー)」。H1Tはこの3年で200店舗超まで拡大しました。その他、一棟丸ごとレストランビルの「GEMS(ジェムズ)」と呼ぶ都市型商業など、特色ある開発を行っています。

中小企業にとって、優秀な社員の採用は当然重要かと思います。ところが、オフィスが雑居ビルだと人材を集めにくいという声を多く聞きます。このような声を商品化したのがPMOで、セキュリティが充実していてグレードも高く、さらにワンフロアを自分たちだけのオフィスとして使用できます。一つのフロアを占有しますから、そのフロアの給湯室もトイレもその会社の従業員だけが使え、従業員満足を高めます。このように、中規模ビルには多くのニーズがあるのです。

 

海外投資をするときは、国の発展度合いよりも都市力を分析

八木最後に伺いたいのが、海外です。日本は少子高齢化ですから、人口も増えて経済も成長していく成長国に注目したいところです。

 

沓掛海外の事業はスケールが大きいです。現地企業を含めていろいろな企業と組んでやっていますが、例えばベトナムのホーチミンで取り組んでいる「Grand Park プロジェクト」では、当社参画地区だけで約2万戸、タウンシップ全体では約12万人が住む街をつくっています。 ホーチミンとハノイを合わせるとベトナムでは現在約2.5万戸の住宅を作っています。また、フィリピンでは30年以上にわたって7000億円強の大規模投資をしていく計画で、現地パートナーとの合弁会社も設立しました。

 

八木それだけの投資をしていくための判断材料は何ですか。

 

沓掛海外に投資をするとき、その国の全体だけを見ても成長の度合いが分かりにくいのですよ。私たちはハノイとかホーチミンなどの「都市力」を見ます。日本も高度経済成長期の当初はそうだったでしょ。地方はまだ発展していないけど、東京など都市圏は先行するように経済成長を遂げていました。

 

八木都市力を見るための指標はありますか。

 

沓掛主に各都市の一人当たりのGDP(国内総生産)を見ています。例えばインドという国全体は日本の1970年代ぐらいの水準だけど、インドのムンバイやバンガロールという都市は日本の1980年代ぐらいになっていることがわかります。ハノイやホーチミンなんかもベトナム全体よりも先に成長していることが、都市力を分析するとわかります。

 

八木ベトナムだとどれぐらいの価格のマンションが売れているのですか。

 

沓掛ベトナムの中小企業のオーナークラスだと、1億円から1億5000万円ぐらいの住宅を普通に買っています。上のクラスは、2億円ぐらい。一般のファミリーのお客様が買うマンションは場所にもよりますが1700万円から2500万円くらいのイメージです。

 

八木そんなに高い住宅が買えるのですね。驚きです。

 

沓掛相続税がないので、富める人はどんどん富むわけです。一人当たりGDPの伸びを見込んで、ベトナム以外でもタイ・バンコク、フィリピン・マニラなどでもマンションやオフィスビルを手がけていきます。

 

八木人口が増えて、経済が成長するってすごいことですね。中小企業のオーナーの皆さんも、海外の不動産に目を向けるべきと実感しました。お話をありがとうございました。

野村不動産ホールディングス代表取締役社長兼グループCEO 沓掛英二氏
1984年明治大学政治経済学部卒、同年野村證券に入社。2012年代表執行役副社長。2014年野村不動産ホールディングス副社長。2015年同社社長、2017年同社取締役社長兼グループCEO。事業会社の野村不動産会長。長野県出身。同社の2022年3月期の連結決算は、売上高が前期比11%増の6450億円、純利益が前期比31%増の553億円と拡大している。
取材・文責:酒井綱一郎、撮影:世良武史

各業界トップとの対談を通して“企業経営を強くし、時代を勝ち抜くヒント”をお伝えする新連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第3回は野村不動産ホールディングスの沓掛英二代表取締役社長兼グループCEOにお話を伺いました。大規模複合開発が進む東京、地方中核都市での再開発、アジア諸国での大規模開発など、野村不動産が開発に取り組む地域をお聞きすると、それがまさに不動産価値の高い場所だと合点が行きました。

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