Face to Faceとデジタルの力を融合して中小企業を支援 「あたたかいフィンテック」の実現を目指す | MONEYIZM
 
信金中央金庫の柴田弘之理事長(左)と株式会社ビスカス代表取締役社長の八木美代子(右)

Face to Faceとデジタルの力を融合して中小企業を支援 「あたたかいフィンテック」の実現を目指す

信金中央金庫 柴田弘之理事長
公開日:
2022/12/16

全国に254ある信用金庫。その中央金融機関である信金中央金庫は、各地の信用金庫とともに、中小企業の事業拡大、DX、海外進出などの支援にまい進している。そのリーダーである柴田弘之理事長に「会いに行きました!」。中小企業の成長戦略について、活発な対談を行った。

八木美代子(以下、八木)ビスカスは創業して28年目になりますが、最初は地元の信用金庫(以下、信金)にお世話になりました。信金というと、とても馴染みのある金融機関ですので、今日の対談を楽しみにしてきました。

信金中央金庫(以下、信金中金)は金融機関の中でも大変にユニークな存在です。全国の信金の中央金融機関であるとのことですが、最初に、信金の特徴からご説明いただけますか。

 

柴田弘之(以下、柴田)馴染みのない方は、「信用金庫って銀行と何が違うかわからないけれど、小さい銀行みたいなものでしょ。」とお考えになるかもしれません。

「利益第一ではなくて、地域第一が信金の役割」と柴田理事長

銀行は株式会社ですから、原則として株主の利益を優先することが求められます。一方、信金は地域の方々の出資によって成り立っています。地域の方々が会員となり利用している協同組織です。ですので、利益第一ではなくて、地域第一の金融機関と言えます。

そもそも信金は、恐慌や凶作、災害などに見舞われた人たちが集まって資金を融通し合ったのが起こりです。成り立ちからして、地域での助け合い、相互扶助が基本にあるのです。

地域の、地域による、地域のための金融機関

八木信金は営業エリアが決まっているのですか。
 

柴田銀行には銀行法という法律がありますが、信金には信用金庫法という法律があり、営業エリアが限定されています。

 

信金とお取引できるお客様は、決められた営業エリアの中にある事業者ですし、個人客であればそのエリアにお住まいの方、勤めている方ということになります。

信金は、利益を上げることではなくて、地域の持続可能性に貢献していくことを一番の社会的な使命にしています。働いている人もその地域の人です。まさに、「地域の、地域による、地域のための金融機関」なのです。

 

八木地域の発展に貢献するために生まれた金融機関というのは、SDGs(持続可能な開発目標)の理念にも合致していますね。信金の中央金融機関としての信金中金の役割は何ですか。

 

柴田信金中金の役割は主に3つあります。
1つ目は、信金とともに地域の課題解決を図る役割です。地域の抱える課題は多岐に渡り、個々の信金で対処しきれない場面もあるため、信金の業務のサポートを通じて地域の課題解決を図っています。

2つ目は、信金の経営をサポートする役割です。信金が各地で安定的にサービスを提供し続けられるように、信金に対するコンサルティングなどに取り組んでいます。

3つ目は、機関投資家としての役割です。全国の信金から預け入れられた預金を、国内外の金融商品や事業会社などへの貸出により運用し、その収益を様々な形で信金や出資者の方々に還元しています。

意外と知られていない信金の全国ネットワーク、海外ネットワーク

八木信金というと、地元のために尽くしてくれるというイメージはありますが、中小企業が地域外に進出したいときに、信金に手伝ってもらうことは難しいですよね。

 

柴田信金は地元以外での活動が難しいと思われていることがあります。これは大きな間違いです。信金は254ありますが、それがネットワークで結ばれ、日本全国を網羅的にカバーしているので、実際は幅広いエリアでのご支援ができるのです。

 

例えば、四国にあるコロッケメーカーが原材料のジャガイモの調達で困っていました。銀行に相談したけれども、なかなか解決の糸口が見つからない。そこで、地元の信金に相談したところ、北海道の信金に話をつないでもらい、ジャガイモを調達することができました。

 

「海外進出の際も相談できるのは心強いですね」と八木社長

八木中小企業が海外に進出したいときも、信金に相談できるのでしょうか。

 
柴田信金に海外進出の相談はできないと思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、私たち信金中金には強固な海外ネットワークがあります。
海外に6拠点を置いているほか、海外の金融機関との業務提携も行っています。

2021年にはシンガポール現地法人「信金シンガポール」を新たに開業しました。

 

コロナウイルスの影響で停滞していた海外進出が、海外渡航制限の緩和などを受けて活発化しています。特に東南アジアへの進出が著しいので、海外拠点を中心として信金のお客様の進出支援を行っています。

 

八木ここ2,3年、コロナウイルスの影響や円安があり、中小企業は苦しんでいると思いますが、柴田理事長は中小企業の経営環境をどう見ていますか。

 

柴田私どもは、「全国中小企業景気動向調査」という全国の中小企業を対象とした調査を定期的に実施しています。原則として、全国の信金の調査員が、中小企業の方との面談により、調査を行っています。

直近で実施した調査によれば、資金繰りはだいぶ落ち着いてきています。コロナウイルスによる需要減は完全には戻っていませんが、回復してきています。一方でロシアによるウクライナ侵攻による影響で、原材料等のコストは上昇しています。

仕入れ価格が高くなった分を販売価格に転嫁できればいいのですが、ご承知のように、中小企業にとって全て価格転嫁できるわけではないのが現状です。

「あたたかいフィンテック」を検討し、信金らしいDXを推進

八木だからこそ中小企業は、自らの力で生産性を高めて、競争力を高めることがポイントになってきます。そういう本質的な解決のためには、DXが重要なテーマになってきますね。

 

柴田おっしゃる通りです。私どもは10月から、信金を通じて、中小企業の日常業務をデジタル化するサービス「ケイエール」の提供を開始しています。

 

「ケイエール」には、資金や仕事を便利に管理できる幅広い機能があります。主な機能としては、①資金繰り把握、②電子請求書対応、③電子ファイルの共有・保存、④バックオフィスサービス等があります。これらの機能を各信金が地域の特性などを考慮し、カスタマイズしながらお客様に提供します。

「ケイエール」は、中小企業を支援するプラットフォームの入口みたいなもので、これからもいろいろな機能を充実させていくつもりです。

中小企業向けポータルサービス「ケイエール」

なお、「ケイエール」のサービス開始に先立って、8月にはNTT 東日本、NTT 西日本と業務提携し、全国の中小企業のDXを全面的にサポートしていくこととしています。

信金の強みとするFace to Faceとデジタルの力を融合して、「あたたかいフィンテック」を推進していきたいですね。

 
八木私どもも、DX支援プラットフォーム「ビスカスPal」を今年リリースしました。
ビスカスは中堅中小企業や個人事業主の方々に税理士の方を紹介するビジネスを長年やってきましたから、「ビスカスPal」には17万件以上ものビスカスのノウハウを詰め込んでいます。

中小企業のDXには、コーディネート力を生かす

八木私どもが税理士を紹介する企業は年商が5億円以下の規模が多い。そんな社長さんにDXという言葉を出すと、耳をふさいでしまわれる方も多いです。

それでも、「世の中は変わっていくのだから、自分たちも付いていこう」「DXをやろう」という経営者の方もいらっしゃる。そんな前向きな経営者が必要なデジタル化を優しく教えて差し上げる。自然にデジタル化が進むような気配りが大事だと思います。

 

柴田同感ですね。中小企業は従業員がたくさんいるわけではないですから、信金の職員がFace to Faceでお手伝いしていくことが大事です。システムやツールはあくまで手段ですから、Face to Face のコミュニケーションと組み合わせて、信金業界ならではのサポートを行っていきます。

 

八木ビスカスの強みの一つは、コーディネート力にあります。創業以来、経営者の方の悩みや課題をお聞きして、適切な税理士の紹介に結びつけるのが得意です。ですから、中小企業のデジタル化でも、コーディネーターとしての役割を存分に果たしたいです。

「しんきんdirect」は、東日本大震災で被災した信金も活用

柴田信金中金にはリアルとデジタルを融合させる「デジタルプラットフォーム構想」があって、「ケイエール」もそうですし、「しんきんdirect」もそのうちの一つです。

 

八木「しんきんdirect」は、どういったサービスでしょうか。

 

柴田チャット機能やビデオ通話機能等を備えたコミュニケーションアプリです。信金の役職員とお客様が、スマートフォンやタブレットで気軽にコミュニケーションをとることができます。

 

八木「しんきんdirect」での具体的な成果を教えてください。

 

コミュニケーションアプリ「しんきんdirect」イメージ図(報道発表資料より)

柴田福島県南相馬市に本店がある「あぶくま信用金庫」は、東日本大震災と福島第一原発事故の影響を受け、しばらくの間、複数の店舗を開けられずにいました。震災発生から時間の経った現在でも、営業を休止している店舗はあります。お客様は地元から離れ、遠くに避難された。帰還困難区域のため、自宅に帰ることが難しいお客様もいます。

 

本来、信金は「地元」という地域内にお客様がいますが、お客様が地域を離れ、信金が想定しない状態になったわけです。そこで、「しんきんdirect」が導入されました。

避難先を転々としなければならないお客様とも、「しんきんdirect」があれば、容易に連絡が取れます。チャットもできますし、ビデオ通話をすることもできます。
この「しんきんdirect」というデジタル技術で、遠方でのお客様との接点確保ができるようになったのです。

また、あぶくま信金では、信金内の緊急連絡網でも「しんきんdirect」を使っていて、今まで以上に早く、役職員の状況把握ができるようになりました。

 

八木信金中金のビジネスマッチングサイト「しんきんコネクト」も中小企業にとっては役に立つサイトになっているようですね。

 

柴田「しんきんコネクト」では、地域産品を「売りたい」中小企業と「買いたい」企業が、オンライン上でマッチングし、商談することができます。お客様同士の商談成立に向け、信金が適宜サポートしています。

「しんきんコネクト」の会員登録数は、9月末時点で5,100社と、多くの皆さまにご利用いただいております。

 

八木今日は、柴田理事長からたくさんの支援メニューを教えていただきました。また、DXでは、ビスカスと同じ方向を向いていらっしゃることがわかり、とても心強い気持ちになりました。ありがとうございました。

信金中央金庫 柴田弘之理事長
1980年慶應義塾大学法学部卒業、同年信金中央金庫に入庫。理事総合企画部長、常務理事、専務理事、副理事長を経て、2018年から理事長。茨城県出身。
取材・文責:酒井綱一郎、撮影:世良武史
※肩書き等は掲載日時点でのものになります。

各業界トップとの対談を通して”企業経営を強くし、時代を勝ち抜くヒント”をお伝えする連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第4回は、信金中央金庫の柴田弘之理事長にお話を伺いました! 全国254ある信用金庫。その中央金融機関である信金中央金庫のトップ柴田理事長が、「全国の信金ネットワークをお客様に活用してもらいたい、海外進出の支援もできる」と力強く話されていたのが印象的でした。