M&Aを駆使して地域企業をグループ化し、 世界で闘える「100億円企業」創出を | MONEYIZM
 
長年、中小企業政策に携わってきた伊藤達也・衆議院議員(左)とビスカス代表取締役社長の八木美代子(右)

M&Aを駆使して地域企業をグループ化し、
世界で闘える「100億円企業」創出を

衆議院議員、自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長 伊藤達也氏
公開日:
2023/11/08

自民党の中小企業・小規模事業者政策調査会長として「新たな価値創造による地域経済の好循環の実現に向けて」の提言をまとめ、岸田総理に提言を提出した伊藤達也・衆議院議員。「中小企業が自己変革を行い、大企業依存から脱して、自らグローバル経済圏で勝負することが大事」との思いを込めた。インフレ時代に打ち勝つためには、ドイツの「隠れたチャンピオン企業」をモデルにし、地域企業がグループ化する「100億円企業」を数多く創出することが大事と訴える。

八木美代子(以下、八木)伊藤先生は、自民党の中小企業・小規模事業者政策調査会の会長を務めておられます。5月には、「新たな価値創造による地域経済の好循環の実現に向けて」(以下、「提言」と表記)という提言をまとめられ、岸田総理に手渡されました。

 

そこで中小企業はどのように生き残っていけばいいかのお話を伺いに来ましたが、最初に伊藤先生ご自身の体験をお聞かせください。伊藤先生は松下政経塾を出られて政治家を志しておられたころ、ピザ宅配の店をオープンされていますね。

 

「選挙に出る前、ゼロからピザ宅配店をスタートしたことがあるので、中小企業の苦労がわかります」と伊藤・衆議院議員

伊藤達也(以下、伊藤)1993年、衆議院議員に立候補して初当選させてもらいました。その前は、ベンチャーキャピタルに就職していました。しかし、ベンチャーキャピタルの仕事をしながら、選挙活動をするのはなかなか難しい。

 

家内の力も借りながら、自分がフルタイムで働かなくても生計を立てられるような仕事がないだろうかと探していました。たまたま宅配ピザの事業をスタートさせた経営者の方と出会ったのです。

 

その方が「ピザ宅配の経営がうまく成功したら、応援してやるよ」と言ってくださったものですから、夫婦でやろうということで宅配ピザのお店を開いたのです。結果的にはピザ店経営で生計を立てることができ、子供たちを育てる原資になりました。

妻とピザ店を経営、資金繰りで苦労した経験もあります

八木まだお店は続けておられるのですか。

 

伊藤30年ぐらい続けてきました。実際は家内が切り盛りしていました。その家内も5年がかりで事業承継をして、9月にリタイアしました。今日の本題にもつながりますが、ある種のM&Aの手法を使って事業を譲渡できました。

 

八木お店が長続きしたコツはなんですか。

 

伊藤家内が一人で切り盛りしたからでしょう。開店直後に政治の世界に入ってしまいましたから、私自身が店に関わったのは、最初の2年ぐらいです。最初のころは、クリスマスなど忙しいときは、サンタクロースの恰好をしてピザを配達しました(笑)。

 

八木中小企業の経営の大変さ、気持ちがおわかりになりますね。

 

伊藤ゼロからピザ宅配店をスタートしましたから、資金繰りの苦労もしました。金融機関の方々の手のひら返しなんてことも経験しました(笑)

 

八木社長の会社は何年ぐらいになるのですか。

 

「伊藤先生も中小企業の経営をされていたということで、とても親近感が沸きます」と八木社長

八木今年で28年です。リクルートを辞めて起業しました。中小企業の経営者の方々に税理士の先生を紹介するビジネスです。会社を続けるのは、本当に大変ですよね。伊藤先生も中小企業の経営をされていたということで、とても親近感が沸きます。

 

本題に入らせてください。伊藤先生がトップでまとめられた「新たな価値創造による地域経済の好循環の実現に向けて」の提言は、中小企業に自己変革を促しつつ、中小企業の未来像を提示されていて、読み応えがありました。

 

この提言の中で一番お伝えになりたかったことは何でしょうか。

保護政策ではなく、中小企業の変革、成長戦略を描くための提言

伊藤一言で言うと中小企業、小規模事業者を保護の対象として見るのではなくて、変革を主導し、成長戦略を描ける中小企業に転換していただくための提言です。中小企業の持っている力を引き出して、新しい価値を創造し、地域経済の好循環を生み出していく。そうした中小企業政策の新しい方向感を打ち出していきたい。それが私ども調査会の提言の一番の狙いです。

 

中小企業は雇用の7割、付加価値の5割を生み出している。大きな環境変化の中で、日本の経済を新たに創造していく主体は誰かというと、中小企業であり、小規模事業者です。

 

社会政策ではなくて成長戦略を提示したのは、コロナの前とコロナの後では、経営環境が全く変わってしまっているからです。

 

八木どのように経営環境が変わっているとお考えですか。

 

伊藤3つ大きな変化があって、一つはデフレからインフレに局面が変わったということ。それから人手不足に代表されるように少子高齢化、人口減少の大きな変化に直面をしているということ。三つ目は、DXやGX(グリーントランスフォーメーション)という経済構造の変革の中に今あるということです。GXは、化石燃料をできるだけ使わず、クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動のことですね。

 

八木デフレからインフレになると、中小企業にとって何が変わるのでしょう

伊藤端的に言えば、金利が上がるということです。今までは金利が上がらない前提で経営をしてきました。金利が上がっていく時代になるということは、資金繰りのあり方、財務戦略のあり方を根本的に変えていかざるをえない。

 

リスクに見合う金利を支払うことができる事業モデルでないと、事業を維持できない時代に入るということです。別の言い方をすれば、守りの経営から攻めの経営に転換していかないといけない。自分のオリジナルのもの、独自のサービスを作っていくことです。

中小企業が賃上げしてくためには、大企業への価格転嫁が不可欠

八木「提言」を岸田総理にお渡しになったときに、当面の中小企業対策として議論されたことは何ですか。

中小企業政策の提言を岸田総理に提出し、価格転嫁対策などを訴えた伊藤・衆議院議員と同僚議員たち
(写真提供:伊藤達也・衆議院議員事務所)

伊藤岸田総理にも強くお話をさせていただいたのは、ポストコロナの足元の対応は極めて重要だということです。特に、資金繰り支援をしっかりやっていかなければいけないという点です。

 

コロナの間、実質無利子・無担保で融資する「ゼロゼロ融資」を行ったがゆえに、金融機関と事業者の関係性が薄くなってしまいました。具体的には金融機関がメインバンクという機能を果たさなくなってきた。メインバンク機能を取り戻し、金融機関が中小企業をしっかりと支援していく方向へ誘導していく政策をしなければなりませんね、とお話をしました。

 

もう一つ大事な点は、価格転嫁対策です。中小企業が賃上げしてくためには、大企業への価格転嫁が不可欠です

 

大企業は中小企業の単価を叩いて利益を作ってきた。適正な取引がされていなかったのです。そこで経済産業省、中小企業庁のほうで3月と9月に価格転嫁対策がちゃんとできているのかを実態調査をしました。問題のあった大企業については企業名を公表しました。

 

「提言」の中では、少なくともエネルギー費と原材料費については全額を転嫁できるにすべきとしました。労務費については、公正取引委員会が業種別に指針を作ると言ってますから、この指針にもとづいて労務費の価格転嫁が適正に反映されるよう政治の側から求めていきたいと思います。

 

「電子インボイスを契機にデジタル化が進むといいですね」と八木社長

八木さきほどDX、デジタル化のお話がありました。ビスカスでは数年前からDXに力を入れていて、税理士先生のデジタル化のお手伝いをしています。税理士の世界は長年、アナログでやってきましたので、デジタル化にマインドを切り替えるのがとても難しいです。

 

そこで、「ビスカスPal」というDX支援プラットフォームを作りました。お金や税金に関して税理士先生と経営者をつなぐプラットフォームです。こうした使いやすいプラットフォームをご用意してはじめて、税理士の先生もDX化へ動いてくださいます。

 

DX化は口で言うのは簡単。でもやってみるのは難しい。中小企業にとって一斉に変われる何かがないでしょうか。

 

 

伊藤インボイス(適格請求書)の導入が大きなきっかけになると思います。仕入税額控除を受けるために必要な適格請求書を電子データ化するなど、煩雑な作業を省くにはデジタルインボイスが武器になります

 

それと、人手不足がデジタル化を促していきます。企業経営の間接部門が紙を前提にアナログでやり続けられるとは思えません。デジタル化のためのアプリもいろいろ揃ってきていますし、フィンテック企業のサービスが豊富になってきています。そうしたものを活用して、紙をデジタルに変えて省力化し、本来の事業に専念できるような経営をしていくことが大事です。

 

八木中小企業のオーナーから本音をよく聞くのです。「賃金を上げろと言われるけど、賃金を上げたら人材を採れるのか疑問だ」と。伊藤先生がおっしゃったようにインボイスを契機に、デジタル化をしっかりやっていく気持ちが芽生えるといいですね。

 

伊藤芽生えてきていると思います。私は多くの事業者の方々と常に接していますけど、考え方が変わってきています。危機感が広がってきている。

 

八木経営環境が変わる中で自分たちは自己変革をし、インフレ・人手不足時代の成長戦略を描きたいという経営者の思いに応えたのが、「提言」だと思います。特にユニークだったのは、「100億円企業創出プロジェクト」です。これは絵空事ではないのですよね。

伊藤もちろん、実現可能なプロジェクトです。売上高が100億円以上の企業を作ることを目指していく。100億円というのは、東証のプライム企業の売上基準に匹敵する規模です。つまり中小企業、小規模事業者を中堅企業にスケールアップしていきたいのです。

 

100億円企業が、地域の中核となって地域経済の新たな需要、人材、資金の流れを生み出し、人口減少社会で地域経済の好循環を先導する存在になってほしいのです。

ドイツの「隠れたチャンピオン企業」を参考に「100億円企業」を輩出したい

八木100億円企業のモデルになるものはあったのですか。

 

伊藤ドイツに「隠れたチャンピオン企業」があります。これがモデルです。ドイツの「隠れたチャンピオン」は1000数百社あります。その定義は、ヨーロッパの市場でナンバーワン、世界でナンバー3に入るような存在感のある中規模企業です。ドイツの産業政策、成長戦略の柱に位置づけられていて、中小企業、小規模事業者のスケールアップを成功させています。

 

八木100億円企業を生み出すポイントは何ですか。

 

伊藤100億円企業に成長した姿を見ると、複数の地域企業が戦略的なM&Aを通じてグループ化をしています。売り上げを単に合計して100億円企業になったのではなくて、地域の中での統合や集約を通じて規模を拡大することで新たな成長を実現して、100億円企業に成長している。

 

日本でも、経営者の方々が戦略的M&Aを身近に感じ始めています。例えば、生産性が高く付加価値を作り出していても、後継者がいないから廃業を考えている経営者がいます。以前と違うのは「生産性が高くてもったいない。家族でなくても他の人に事業承継できないだろうか」と考え、M&Aを通じて生産性の高い事業を別の方に託したいと考えるようになっています。

 

現実的課題はあります。M&Aを通してコングロマリット化したいと考えても、買収する側の財務基盤が弱い。それをどう補うべきかという課題があります。税制を通じて壁を乗り越えられるように後押しをしていかなければいけないと思っています。税制改正はこれから議論していきますので、検討項目の一つになっていくと思います。

 

八木100億円企業を実現するポイントは、ほかに何がありますか。

 

伊藤マーケティング力です。ドイツの中小企業と日本の中小企業を比べてみた場合、技術力で全然負けてないのですよ。しかし、日本の中小企業はマーケティング、ブランディング、営業力で勝てないのです。グローバルの視点で見たマーケティング戦略が弱いです。

 

「技術支援だけではだめです。グローバル視点でのマーケティング支援が求められています」と伊藤・衆議院議員

日本の場合、中小企業の研究開発を支援する仕組みはあるのですが、スケールが小さい。グローバル視点でのマーケティングの発想が足りない。必然として、グローバルな販売力、営業力も強くないです。

 

ドイツには「フラウンホーファー研究機構」という半官半民の研究所が76もあって、ここがグローバルマーケティング戦略の起点になっています。ドイツ国内の各大学と密接に連携していますが、ここに集う研究者の人たちはただ単に技術を研究しているのではなくて、グローバルに売れることを前提に活動しています。

 

八木「提言」のもう一つ特徴的なところは、ビジネスモデルというか、中小企業の未来像を示したことではないかと思います。中小企業、小規模事業者を4類型に分けて、中小企業の未来像を示していますね。

 

伊藤グローバル型、サプライチェーン型、地域資源型、地域コミュニティ型です。今までの中小企業のモデルは、大企業が大きな利益を作って、それが地域を支える中小企業や小規模事業者に波及をしていくことを期待したものでした。

 

それでは中小企業の成長は見込めないと考え、4つの類型を提示したのです。これは以前の中小企業白書でも提示されたモデルですが、改めて大企業に依存しない成長モデルとして提示しました。

 

大企業依存では未来はない、中小企業が海外進出して外貨を稼ぐことが大事

八木大企業が成長すれば、関連する中小企業に恩恵が回ってくるという考え方がありました。

 

伊藤私はアベノミクスを支持し応援をしている立場でした。そのときも中小企業、小規模事業者向けの政策調査会長をやっていたのですが、アベノミクスで富が富裕層から低所得層に徐々にしたたり落ちるとする「トリクルダウン」は起きないと認識をしていました。

 
その当時の提言にも、トリクルダウンは起きないから、「中小企業版アベノミクス」を考えなければいけないということを提言をしました。

 

しかも、昨今は、ローカル経済圏がグローバル経済圏と密接に繋がる時代になってきている。ローカル経済圏の中に閉じこもって、同じパイを奪い合うのではなくて、ローカル経済圏が自ら外需を取りに行く、国内であってもインバウンド需要をとっていくことが大事です。

 

大企業が海外に出かけて需要を取りに行くのに頼るのではなくて、中小企業が海外進出して外貨を稼いでいく時代だと思うのですよ。だから、中小企業が「グローバル型」になるべきと訴えたのです。

 

八木100億円企業はどのパターンに入るのですか。

 

伊藤4類型のスケールアップ型である2つの類型が対象です。また、これまでの発想だと地域資源型、地域コミュニティ型は小さくまとまってしまうのですが、私たちは地域資源型、地域コミュニティ型であっても地方創生や地域課題解決の主役としてパワーアップできると考えています。

 

冒頭に申し上げましたが、中小企業は大企業の下請け構造の中に組み込まれてしまって、価格転嫁ができない、賃金が上げられない、という目詰まりを起こしてしまっていた。その目づまりを解消するということがまず最初にやらなければいけないことです。

 

八木それが大企業への価格転嫁をしっかり行うということですね。

 

伊藤そもそも、付加価値の高いものを中小企業が作り出しても低い評価しかされなかった。デフレマインドの中で安くていいものを作り続けてきた。そこは大きく転換していく。そのために正当な価格転嫁がスタート台になるのです。

 

それともう一つは、この下請け構造の中から脱して、自立していくことが必要です。自分たちの持っている潜在的な力を顕在化していけば、成長して、もっと高い賃金を払って、もっと市場の中で存在感を示して、多くの人に喜んでもらえる、そうした中小企業の姿は描けるのです。

 

衆議院議員、自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長 伊藤達也氏
※お名前の「達」の字は公式表記では異字体となります。
1961年生まれ、62歳。慶応大学法学部卒業。松下政経塾の5期生。1993年衆議院議員に初当選。東京都第22区の選出で、当選回数は9回。2004年金融担当大臣。その後、地域再生調査会長、内閣総理大臣補佐官など数多くの要職を歴任。現在、自民党の国際局長、中小企業・小規模事業者政策調査会長、税制調査会副会長、GX実行本部副本部長などを務める。座右の銘は「成功の要諦は成功するまで続けることにある」。
取材・文責:酒井綱一郎、撮影:世良武史
※肩書き等は掲載日時点でのものになります。

各業界のトップとの対談を通して”企業経営を強くし、時代を勝ち抜くヒント”をお伝えする連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第10回は、自民党中小企業・小規模事業者政策調査会長の伊藤達也・衆議院議員にお話を伺いました。長年、中小企業政策の先頭を走ってきただけあって、中小企業の保護政策ではなく、中小企業の自立を促す成長戦略を提言にまとめた。中小企業が自立的に発展するために、M&Aも駆使したグループ化によるスケールアップを促す一方で、価格転嫁を認めない大企業には厳しい姿勢を示されていました。