停電・水害・熱中症リスク…この夏、中小企業が今すぐ見直すべきBCP(事業継続計画)とは?

[取材/文責]マネーイズム編集部

日本では毎年のように自然災害が発生し、その影響は個人だけでなく企業活動にも及びます。特に夏場は、集中豪雨、台風、猛暑など、災害のリスクが高まる季節です。

突然の停電やインフラの途絶えは、企業にとって事業停止や売上損失を招く深刻なリスクとなり得ます。こうした非常時に備え、あらかじめ被害を最小限に抑える対策として注目されているのが「BCP(事業継続計画)」です。

中小企業の場合、災害対応にかけられるリソースが限られているからこそ、事前の備えが命運を分けるともいえます。

この記事では、近年の気象災害の傾向やBCPの基本に加え、夏に特有の災害ごとに求められる備えや、具体的な見直しのチェックリスト、さらには補助金などの支援制度まで解説していきます。

なぜ夏にBCPの見直しが必要なのか

日本では、毎年のように気象災害が猛威を振るい、特に夏場はそのリスクが高まります。突発的な豪雨や猛暑による停電、ライフラインの遮断といった影響は、企業活動にも大きな打撃を与える可能性があります。

中小企業にとっては、こうした災害が事業継続に直接関わる重大なリスクとなり得るのです。夏を迎える今こそ、BCP(事業継続計画)の見直しが必要です。

以下では、近年の気象災害の傾向と中小企業におけるBCPの重要性について解説します。

近年増加する気象災害(線状降水帯、猛暑、停電)

ここ数年、線状降水帯による集中豪雨や記録的な猛暑、停電などの気象災害が全国各地で頻発しています。こうした自然災害は、私たちの生活だけでなく、企業活動にも大きな影響を及ぼすものです。

内閣府が公表している「防災白書」では、災害時の緊急避難場所や非常用電源の整備の重要性が強調されています。非常用電源の導入には補助金制度も用意されており、災害発生時に備えて今のうちから対策を取ることが求められています。

中小企業こそ災害で事業停止するリスクが高い

災害はいつ起きるか予測できないうえに、発生すれば道路の陥没やライフラインの断絶といった、深刻な影響をもたらします。特に中小企業の場合、資金や人員に限りがあるため、災害によって事業が停止するリスクが高いのが現実です。

東日本大震災では、広範囲で停電が発生し、完全復旧には約3ヶ月以上かかった例もありますかかりました。このような状況下において、事業を再開するには、電力の確保を含めた備えが不可欠だといえます。

そのためにも、BCPの策定や見直しが重要なのです。BCPとは、災害などの緊急事態が発生しても重要な業務をできるだけ中断させず、早期に復旧するための計画のことです。

発電機の導入や社内システムの早期復旧手段など、具体的な対策を計画に盛り込むことが求められます。

夏の災害別に備えるべきポイント

BCPの見直しにおいては、「何に備えるか」を明確にすることが第一歩です。

特に夏は、停電、水害、熱中症といった季節特有の災害リスクが高まる時期です。どれも企業活動に直接影響を及ぼす可能性があり、放置すれば業務の停止や従業員の健康被害につながりかねません。

ここでは、それぞれの災害に応じて、企業として具体的にどのような備えが必要なのかを整理していきます。

【停電】冷房・冷蔵設備停止のリスク、代替電源の用意

夏は、エアコンや冷蔵設備がフル稼働する季節です。そのようななかで、電力供給が不安定になると、大規模な停電が発生する可能性があります。

電気の「消費量」と「生み出される量」のバランスが崩れると、安定的な運転は難しくなります。実際、2018年には北海道全域で大地震により、日本初の大規模停電(ブラックアウト)が起こりました。

このような突発的な災害による停電は避けがたいものですが、計画停電のように事前に想定できるケースもあります。業務継続のためには、事前に備えておくことが重要です。

【水害】事務所や倉庫の浸水リスク、書類・機器の避難

近年、局地的な豪雨による浸水被害が増加しています。事務所や倉庫、工場などが水に浸かると、設備や在庫にも被害が及び、長期の営業停止につながるおそれがあります。

まずは、地域のハザードマップや浸水ナビを確認して、自社のリスクを把握しましょう。そのうえで、土のうや止水板の設置、防水扉の導入など、物理的な対策を講じることが大切です。

また、浸水時に備えて重要な書類やデータ、精密機器の保管場所を検討したり、定期的にバックアップを取ったりしておくと、万一の際にも被害を最小限に抑えられるでしょう。

【熱中症】従業員の体調管理、労災リスクと対策

夏場に特に注意が必要なのが、従業員の熱中症です。気温や湿度が高くなると、作業中に体温が上昇し、体調を崩すリスクが高まります。

熱中症による病欠が相次げば、業務の効率も落ち、人手不足からさらなる負担が他の従業員にのしかかるという悪循環にもなりかねません。労働契約法には、企業は従業員の生命と身体の安全に配慮する義務があると明記されています。

直接の罰則はありませんが、もし熱中症による事故が起これば、企業側が損害賠償を請求されるケースも考えられるでしょう。だからこそ、従業員の健康管理は、経営上の「責任」といえるのです。

職場では定期的な水分補給の呼びかけや、空調の効いた休憩スペースの確保、仮眠室やリフレッシュルームの整備など、働く人の体と心を守る環境づくりが必要です。従業員が安心して働ける職場は、結果として会社全体の生産性や定着率向上にもつながるでしょう。

BCPの基本と今すぐできる見直しチェックリスト

企業が自然災害や突発的なトラブルに直面したとき、事業をいかに継続・再開させるかを事前に考え、備えておくことが重要です。BCPの整備は大企業だけのものではなく、中小企業や個人事業者にとっても、リスク管理の観点から欠かせない取り組みです。

ここでは、人的資源、物的資源、体制面の3つの視点から、BCPを見直すためのポイントを紹介します。

人的資源に関する取組

災害時にまず守るべきは「人」です。
勤務時間中に災害が起きた場合、従業員の安全をどう確保するかが企業の信用にも直結します。
・緊急事態発生時の災害対応計画は整備されているか
・勤務中・勤務外を問わず、従業員と確実に連絡を取り合える体制はあるか
・緊急時に必要な人材が出社できない場合に備えて、代替要員の育成を進めているか
・定期的な避難訓練や救命講習など、実践的な訓練を実施しているか

物的資源に関する取組

設備や資産、そして情報資源の保護も、重要なポイントです。
建物の耐震性や浸水対策だけでなく、代替手段の準備も欠かせません。
・自社ビルや工場の耐震・耐水対策は十分か
・地域の災害リスクを把握しているか
・設備の流動を管理し、目録の更新を行っているか
・生産・調達が停止した際の代替手段は確保されているか

また、事業中断による損失に備えて、以下のような財務面の対策も重要です。
・災害発生時の損失を試算したうえで、保険内容を専門家と見直しているか
・被災時の資金確保のため、各種融資制度を把握しているか
・最低でも1か月分の運転資金を確保しているか

さらに、情報のバックアップや通信手段の整備も欠かせません。
・重要なデータのコピー、またはバックアップがあるか
・顧客や各種機関の緊急連絡リストはあるか
・ITシステムがダウンした際の代替手段は準備できているか

体制に関する取組

災害時、迅速な判断と行動を可能にする体制があるかどうかが、企業の命運を分けます。
・自社が被災した場合に、事業活動がどうなるのかを考えて対策を練っているか
・緊急事態の際に、どの事業を優先的に継続すべきか、明確にしているか
・経営者が不在・負傷した場合でも、指揮を代行できる体制が整っているか・取引先や同業者と、災害時の相互支援について取り決めているか

こうした事前の取り決めをしておくことこそが、非常時に冷静な対応を可能にし、事業再開を早める鍵となります。

補助金・支援制度を活用して対策費用を抑える

BCPを策定するにあたり、備蓄品や防災設備、ITシステムの整備には少なからずコストがかかるものです。しかし、実はこうした取り組みを後押しする補助金や支援制度があります。

ここでは、BCP対策の費用負担を軽減できる代表的な制度をご紹介します。

災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金

「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金」は、経済産業省の資源エネルギー庁が出している制度で、災害が起きても止まってはいけない施設が、非常用の燃料をあらかじめ備えておくことを支援するためのお金(補助金)です。

地震や台風などで電気が長時間止まっても、自家発電機などを動かすための燃料(軽油やガソリンなど)を備蓄しておくことが、施設の運営を続けるためには欠かせません。この補助金は、そうした燃料を確保するための費用を国が支援する仕組みです。

なお、令和7年(2025年)の申請受付はすでに終了しています(受付期間は1月23日~2月12日まで)。今後、補正予算(臨時の予算)や令和8年(2026年)分の募集があるかもしれないため、引き続き動向をチェックすることが大切です。

防災設備・非常電源の導入支援(自治体例)

BCP対策を支援する制度は、各自治体でも用意されています。東京都中小企業振興公社が運用する「BCP実践促進助成金」も、BCPに基づく実際の対策を進める中小企業に対して費用の一部を助成する制度です。

この補助金では、BCPの実効性を高めるために必要な備蓄用品や設備導入にかかる費用の一部が助成されます。さらに、災害時に基幹システムが被害を受けると業務が滞ってしまうリスクを考慮し、基幹システムのクラウド化にかかる費用も補助対象となっています。

ただし、この制度は中小企業者を対象としたもので、特定非営利活動法人、財団法人、社団法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、医療法人及び政治・経済団体は対象外となる点に、注意が必要です。

なお、第1回の申請受付は終了しており、第2回の申請書などの掲載は8月中旬ごろを予定しています。(2025年6月20日時点の情報に基づく)

まとめ

BCPは、災害時に企業が迅速に対応し、事業を継続・再開するための「命綱」ともいえる存在です。特に夏場は、停電や浸水、熱中症など、企業活動に直接影響を与える災害リスクが集中する時期です。

しかし、こうした季節特有のリスクに対する備えが不十分なままでは、いざというときに重大な損失を被る恐れがあります。

本記事では、夏に備えてBCPを見直す必要性とともに、「人的・物的・体制面」など、多角的な視点から見たチェックポイントを整理しました。また、BCP対策に活用できる補助金や支援制度についても紹介しました。

限られた予算のなかでも、これらの支援をうまく活用すれば、無理のない形で実践的なBCPを構築することが可能です。災害はいつ起こるか分かりません。だからこそ、備えは今すぐにでも始めるべきなのです。

従業員を守り、事業を守るために、夏本番を迎えるこのタイミングで、ぜひBCPの見直しに取り組んでみてください。

中小企業経営者や個人事業主が抱える資産運用や相続、税務、労務、投資、保険、年金などの多岐にわたる課題に応えるため、マネーイズム編集部では実務に直結した具体的な解決策を提示する信頼性の高い情報を発信しています。

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