貸倒損失の処理方法とは?|仕訳・税務上の要件・防止策まで徹底解説

取引先の倒産や支払い遅延などの理由により売掛金が回収不能になる事態は、中小企業や個人事業主にとって大きな不安材料となり得ます。こうした事態は資金繰りに影響するだけでなく、適切な会計処理を怠ると税務上のリスクも生じるため注意が必要です。
本記事では、貸倒損失の基本的知識から税務上認められる条件、具体的な仕訳方法、さらに将来のリスクを回避するための対策までわかりやすく解説します。
1. 貸倒損失とは?基本的な定義と計上の意味
売掛金が予定通りに回収できなくなると、多くの担当者は、その損失をどうやって処理すれば良いのかと不安を感じるでしょう。放置すると財務諸表が実態を正しく示さないことになり、税務上のリスクが高まる可能性もあります。
そこで重要なのが「貸倒損失」の概念です。正しく理解することで税務上の負担を減らせるでしょう。ここでは、貸倒損失の基本的な定義と計上の意味を整理し、会計処理に不可欠な理由を解説します。
売掛金が回収不能になった場合の会計処理の必要性
売掛金や貸付金が債務者の倒産などにより回収不能となった場合、企業はその損失を「貸倒損失(かしだおれそんしつ)」として会計上処理しなくてはなりません。
この処理を行うことにより、実際には入金不能となった債権を帳簿から除くことになるため、債権残高を実態通りの水準に整えることが可能です。
また、貸倒損失を適切に処理すると、税務上では経費(損金)として扱われる可能性があり、課税所得を下げられる場合もあります。ただし、損金算入が認められるためには、税法上の要件を満たさなくてはなりません。
貸倒損失と貸倒引当金の違いとは
貸倒損失と貸倒引当金は、どちらも債権が回収できなくなった場合の会計処理ですが、その性質には違いがあるため注意が必要です。
まず貸倒損失は、売掛金や貸付金などが、実際に回収不能の事態となった時点で計上する損失を指します。たとえば、取引先の企業が倒産し、債権が消滅した場合などが該当します。
一方、貸倒引当金は将来的に貸倒れが発生する可能性を見込み、あらかじめそれを費用として計上しておくものです。引当金は見積額を意味しており、まだ貸倒れが確定していないという点が貸倒損失と根本的に違います。
また、貸倒損失では発生した債権を全額処理するのに対し、貸倒引当金は一定割合を限度として見積計上される点も違いです。
税務上の損金算入効果と企業への影響
貸倒損失は、後述する税務上の要件を満たすことで損金として計上できるため、法人税負担を軽減する効果が期待できます。回収不能となった債権を経費として組み入れられるため、課税所得が減少しますが、認められるのは「法律上の貸倒」「事実上の貸倒」「形式上の貸倒」という明確な条件に該当する場合のみです。
貸倒れの証拠となる書類が不十分であれば、損金算入が認められないリスクがあるため注意しましょう。また、貸倒損失が発生すると、企業のキャッシュフローや資金調達に深刻な影響を及ぼします。経営全体に波及する恐れもあるため、発生自体を抑える体制づくりが不可欠です。
2. 貸倒損失の税務上の3つの要件と具体的な条件
取引先からの売掛金が回収できないことが決まったとしても、すぐにそれを「貸倒損失」として損金に計上できるわけではありません。
安易な損金処理を防止するために厳しい要件が定められています。おり、これそれを満たさなければ費用として認められないばかりでなく、最悪の場合は追徴課税を受けるリスクさえあります。そのため、貸倒損失を計上できるかどうかの正しい理解が不可欠です。
ここでは、「法律上の貸倒れ」「事実上の貸倒れ」「形式上の貸倒れ」という3つの条件について解説します。
法律上の貸倒れ(破産・民事再生・会社更生等による切り捨て)
これは、民事再生、会社更生などの法的整理手続きによって、債権の一部が切り捨てられるケースです。これらの手続きには裁判所や行政機関による正式な認可が伴うため、債権の回収不能額が明確に定まります。そのため、切り捨てられることになった金額に関しては、損金として計上が可能です。
また、行政機関や金融機関など、第三者のあっせんによる協議で債務整理が成立した場合や、債務超過が長期におよび、書面によって免除した債務額も法律上の貸倒れとして処理できます。
事実上の貸倒れ(全額回収不能が明らかな場合)
債務者の資産状況や支払い能力から判断して、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合は、事実上の貸倒れとして損金に算入することが認められます。ただし、部分的にでも回収できる見込みがある場合は対象外となる点に注意が必要です。
また、担保が設定されている場合は、その担保を処分したうえでなければ、貸倒損失に計上できません。さらに、保証人が存在する場合には、保証人への請求をしてそれでも回収できないことを、事実として確認できる必要があります。
形式上の貸倒れ(取引停止から1年経過等の形式要件)
形式上の貸倒れとは、実質的に完全な回収不能とまではいえない場合でも、一定の形式基準を満たすことにより損金算入が認められる制度のことです。
具体的には、取引を継続していた債務者との取引を停止した時点、または最後の弁済時から1年以上が経過しても支払われない場合、売掛債権の残額を損金に計上できます。
ただし、この制度は売掛債権のみに限られており、貸付金や未収入金には適用されない点に注意が必要です。また、形式上の貸倒れでは「備忘価額」を残すことが求められていて、万一回収できた場合に備えて、債務者を台帳から完全に削除することが認められていません。
3. 貸倒損失の具体的な仕訳方法と処理手順
貸倒損失を計上するにあたって、損金に算入するための条件は理解したものの、実際の仕訳や処理の手順がわからないという声は少なくありません。
仕訳の方法を間違えてしまうと、損金算入が認められない場合があり、予想外の税務リスクにつながるため注意しましょう。
ここでは、仕訳の基本的な流れから実務上の注意点まで、具体的に解説します。
基本的な仕訳パターンと勘定科目の使い方
売掛金が回収不能になった場合、以下のようなパターンによる仕訳処理が求められます。
法律上の貸倒れの場合
会社更生法や民事再生法による更生計画・再生計画の認可や債権者集会の協議決定、特別清算の協定認可など書面で債務免除を通知した場合に該当します。これらの場合は、免除額や切り捨て額を事業年度に「貸倒損失」として仕訳しましょう。
事実上の貸倒れの場合
相手方の資産状況から、売掛金の全額が回収できないと判断された場合、全額を「貸倒損失」に計上します。
形式上の貸倒れの場合
取引停止後1年以上経過するか、債権額が取立費用を下回り、督促しても弁済がない場合、売掛債権について備忘価額として1円を残して残額を「貸倒損失」に計上します。
いずれにしても、正しい勘定科目を選択し、適切なタイミングで仕訳することが重要です。
貸倒引当金が設定済みの場合の処理方法
売掛金が貸倒れてしまった際に、すでに積み立てている貸倒引当金があれば、それを取り崩して処理するのが一般的です。
たとえば、売掛金11,000円に対して同じ額の引当金を計上していた場合、仕訳は「借方:貸倒引当金11,000円/貸方:売掛金11,000円」となります。引当金が不足しているときは、不足分を貸倒損失として記録します。
また、翌期以降は引当金の再計算が必要です。再計算には、前期分をいったん戻し入れて当期分を新たに積み立てる「洗替法(あらいがえほう)」と、不足額のみを追加計上する「差額補充法」があります。
計上時期と必要な証拠書類の整備
貸倒損失は、債権を回収できないことが明らかになった事業年度に限って、損金として計上できます。「法律上の貸倒れ」の場合には、更生の請求によりさかのぼって処理できるケースもありますが、基本的には貸倒れが発生した事業年度に計上しなければなりません。
また、貸倒損失の計上が許可されるには、客観的な証拠書類が不可欠です。証拠となる書類の例としては、裁判所や弁護士からの通知書、宛先不明で戻ってきた請求書や封筒、取引履歴や督促の記録などが挙げられます。
貸倒損失の証明となる書類がない場合は、税務調査で否認される可能性があるため注意が必要です。
4. 貸倒れを未然に防ぐ対策と回収不能時の対応策
取引先からの入金が滞ったとき、そのまま貸倒れになることを不安に感じる担当者は少なくないのではないでしょうか。売掛金が回収できないことは、資金繰りの悪化に直結するため、事前にリスクを減らせるに越したことはありません。
ここでは、貸倒れを未然に防ぐ対策と、万一回収できなかった場合の対応について解説します。
与信管理と信用調査による事前リスク回避
取引先に十分な支払い能力があるかを見極めるためには、与信管理と信用調査を行うことが非常に重要です。これらを行うことにより、取引相手の経営内容や財務状況を分析し、支払い能力を推し量れます。
過去に債務不履行を起こしていないか、十分な利益を継続的に得ているかなどを確認しておくことで、貸倒れリスクの多くを回避可能です。場合によっては取引を見送ったり、取引金額に上限を設けたりすることも必要になるでしょう。
ファクタリングや取引信用保険による貸倒れリスク対策
取引先から売掛金を回収できなくなるリスクに備えるためには、貸倒引当金だけでなく、ファクタリングや取引信用保険も有効です。
ファクタリングは、売掛債権をファクタリング会社に譲渡して早期に資金に転換することが可能で、償還請求権のない契約であれば取引先が倒産しても返還の義務がないためリスクを回避できます。
取引信用保険は、取引先が倒産した際に保険金が支払われる仕組みとなっており、予定していた現金収入が保険金で補われるため、資金のショートを防ぎやすくなり黒字倒産のリスクを軽減可能です。
回収不能が発生した場合の初期対応と法的手段
取引先から売掛金の回収が難しいと判断したら、まずは督促や交渉といった手段を尽くすことが大切です。そのような手段ではもはや回収不能であると判断されたなら、貸倒損失として損金処理します。
その際には債権放棄通知書を内容証明で送付し、証拠として残しておくことが非常に重要です。また、資金繰り悪化が懸念される場合は、日本政策金融公庫の「取引企業倒産対応資金」などの公的融資の活用も検討しましょう。
そして、支払いが履行されないのであれば、内容証明から仮差押、訴訟や支払督促を経て強制執行へと進むのが基本的な流れです。
まとめ
売掛金が回収できない事態は、資金繰りと税務上の大きなリスクとなります。そのため、企業の担当者は貸倒損失の概要や税務上の要件、仕訳方法などを正確に把握することが不可欠です。
また、売掛金の回収不能を事前に防ぐために、与信管理や信用調査にも注力することが重要です。さらに、ファクタリングや取引信用保険の活用により、貸倒れのリスクを大きく軽減することが可能です。どうしても回収できない事態では、迅速に法的対応を取ることも検討しましょう。
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