外国人による日本不動産購入の最新ルールと今後の規制を解説

近年、日本の不動産市場が、外国人投資家や海外在住者からの注目を集めていることをご存じでしょうか。しかし、安全保障の観点や経済的な影響を背景に、外国人による日本国内の不動産取得には法的な制約や届出の義務が設けられています。
そのため、不動産を安心して取得・運用するためには、これらの制度を正しく理解し、最新の規制事情を把握しておくことが不可欠です。本記事では、外国人が日本で不動産を取得する際に知っておきたい基本的ルールと、今後の注意点について解説します。
1. 外国人による日本の不動産取得の基本ルールと法的背景
日本の不動産は、外国人が購入する際の規制が少ないため、世界的に見ても自由で購入しやすい国のひとつです。ただし、購入する際のルールや背景は複雑で、誤解を招きやすい分野でもあります。
現行法では、外国人でも日本の不動産を所有できますが、歴史的には外国人の土地取得に制限を課す法律が存在しました。近年でも、安全保障や国際的な動向を背景として、制度の見直しを求める意見も少なくありません。
ここでは、外国人の不動産取得に関する基本的なルールと法的背景を見ていきましょう。
現行法における外国人の不動産所有権の原則
日本では、外国人による不動産取得が自由に認められているのが原則であり、日本人と同じように土地や建物を購入・所有することが可能です。
ただし、明治時代にはそれが全面的に禁じられており、その後の外国人土地法により認められましたが、例外規定として制限が課された背景もあります。
近年では、国防上重要な区域での土地利用状況を調査できる「重要土地等調査法」が施行されましたが、これは土地の所有そのものを禁じる法律というよりも、利用目的の確認に主眼をおいたものです。
外国人土地法の歴史的変遷と現在の適用状況
外国人土地法(大正14年法律第42号)は、国防上の観点から、外国人および外国法人が日本の土地を取得することを制限できる仕組みとして制定されました。
第4条では、「国防上必要な地区」においては、政令により土地取得の禁止や制限を課すことが可能と定められましたが、昭和20年の勅令廃止以降に政令指定は行われず、現在では事実上機能していないといえるでしょう。
その背景には、WTOのサービス貿易一般協定(GATS)によって内国民待遇が原則とされ、外国人のみを対象とした規制に消極的にならざるを得ない状況があります。
国際的な外国人土地取得規制との比較
現在の日本は、外国人でもほぼ無条件で日本人と同様に土地を取得できる数少ない国のひとつです。重要土地等調査法の対象となる区域を除けば、外国人でも土地を自由に売買できる状況が続いています。
一方、大半の国では、安全保障や資源保護を理由として、外国人の土地取得には厳しい規制をかけるのが一般的です。
たとえばアメリカでは、軍事施設や空港周辺に対する投資は「外国投資リスク審査現代法」による審査対象とされ、大統領判断で取引停止にもできます。また、フィリピンの場合は外国人による土地所有そのものを認めておらず、購入できるのはコンドミニアムなど限定的です。
2. 重要土地等調査法による新たな規制内容
重要土地等調査法は、外国人の土地所有を禁止するものではなく、土地の利用状況を国が把握し、必要な場合には制限を課す仕組みです。しかし、具体的な対象地域や規制の対象となる行為について、わかりにくい部分はあるでしょう。
ここでは、この法律が制定された背景や規制の内容、実際の影響などをわかりやすく解説します。
重要土地等調査法の制定背景と目的
外国人の土地取得による安全保障上の問題は以前から指摘されていましたが、その中で、国境付近の離島や防衛施設周辺の土地を外国資本に取得され、利用目的が不透明なまま転売されるという事例が相次ぎました。
それを受けて従来の法制度では規制や実態の把握が難しいとして、政府は2020年の「経済財政運営と改革の基本方針」で対応を決定し、有識者の提言を経て2021年に重要土地等調査法を制定したというのが背景です。
同法は、外国人の土地取得を直接禁止するものではなく、国が土地の利用状況を調査・規制できる仕組みを整備し、安全保障上のリスクを防ぐことを目的としています。
注視区域・特別注視区域の指定基準と対象施設
重要土地等調査法では、防衛施設や国境離島の安全を懸念して、土地利用に関して次のような規制が設けられています。
まず、防衛関連施設や海上保安庁施設、原子力発電所や空港といった施設からおおむね1,000メートルの範囲や国境離島が指定されるのが「注視区域」です。
その中でも特に重要で代替困難だと判断される場合には、そこが「特別注視区域」に指定され、売買や権利設定に対して届出の義務が課されます。
機能阻害行為の規制内容と罰則規定
機能阻害行為とは、防衛施設や国境離島などが持つ機能を妨げる行為を指し、重要土地等調査法において規制対象となります。
たとえば、通信妨害やライフライン供給の阻害、施設に対する侵入を準備する行為などが対象です。注視区域や特別注視区域で上記の行為が発覚した場合、内閣総理大臣は土地利用の中止を勧告可能で、それにも従わない場合は命令を下せます。
命令違反や、届出義務に違反した場合には罰則規定もあるため注意が必要です。
3. 外為法による届出義務と手続き方法
外国人が日本の不動産を取得することは法律上自由ですが、外為法による規制も知っておかなければなりません。この制度を知らないまま不動産契約を進めると、後になって法律違反を指摘されるリスクがあるため、投資家や事業者にとって大きな不利益を招くでしょう。
ここでは、外為法に基づく報告義務の基本、届出が必要となる具体的な条件、手続きの流れなどを詳しく解説します。
非居住者による不動産取得時の報告義務
外為法では、非居住者が国内の不動産や賃借権などの権利を手に入れた場合は、取得から20日以内に報告することが義務付けられています。非居住者本人だけでなく、不動産仲介業者のような代理人による提出も可能です。報告書は紙で提出するほか、日本銀行のオンラインシステムを使ってもできます。
一部のケースでは届出が不要です。たとえば、本人や親族が居住するための住宅、非営利目的での業務利用、本人の事務所用、または、他の非居住者から購入した場合などが該当します。ただし、別荘やセカンドハウスなどでは、報告が必要となる点に注意が必要です。
届出が必要な場合と免除される条件
非居住者が日本国内で不動産を取得する際には、外為法で「資本取引」として扱われます。そのため、原則として取得から20日以内に日本銀行を経由して財務大臣に届け出なければなりません。
ただし、すべての不動産取引が報告義務の対象になるわけではなく、以下の条件に当てはまる場合は、届出が免除されます。
・居住用住宅として取得する場合(別荘やセカンドハウスは届出が必要)
・非営利目的の業務のために取得する場合
・非居住者本人の事務所として取得する場合
・すでに他の非居住者が所有している不動産を取得する場合
報告書の作成方法と提出手続き
非居住者が日本国内の不動産を手に入れた場合には、日本銀行が配布している「様式22(外為法第55条の3関連)」という書式で報告書を作成しなければなりません。
提出する際に準備すべき書類は、不動産購入者の居住状況によって異なる点に注意が必要です。日本国内に住む外国人の場合は住民票や在留カード、印鑑証明などが必要ですが、海外在住者であれば、住民票の代わりに宣誓供述書やサイン証明書を用意します。
法人で取得する場合は、会社登記簿や法人登録証明書が加わりますが、どちらも取得したら速やかに準備を進めることが重要です。
4. 実務上の注意点と今後の規制動向
日本では、外国人による不動産取得が法律で厳しく制限されているわけではありませんが、実務になるとスムーズに進まない場面も少なくありません。登記に必要な書類の準備や本人確認の手続きなど、具体的な場面でのわかりにくさに戸惑うケースもあります。さらに、規制強化を求める声の高まりもあり、制度が変わる可能性も否定できません。
このような状況を理解しておくことにより、取引時のリスクを軽減し、将来の制度改革にも備えられるでしょう。ここでは、実務上の注意点と今後の動向をあわせて解説します。
外国人による不動産取得の実態と政府の対応状況
政府は、安全保障上重要な施設周辺や国境離島の土地利用状況を把握するため、重要土地等調査法に基づく調査を進めています。
2023年度の公表結果によると、指定区域内での全取得件数における外国人や外国法人による取得は約2.2%にとどまりました。
その内訳には偏りがあり、中国が54.7%で最多です。次いで韓国が13.2%、台湾が12.4%と続いています。国会質疑では、防衛施設周辺で中国人や中国系法人による取得が目立つ点から、安全保障上のリスクを懸念する声があがりました。
登記手続きと本人確認書類の準備方法
外国人が日本国内で不動産を取得するときには、所有権を公的に証明するために登記手続きを適切に行わなければなりません。その際には、取引の透明性を高めるだけでなく、マネーロンダリングやテロ資金供与といった違法行為を防ぐためにも、不動産購入者の身元確認を厳格に行う必要があります。
原則としては日本人が登記する場合と同じく、住民票や印鑑証明、印鑑が必要ですが、短期在留者や非居住者は住民票がないため、宣誓供述書とパスポートの写しなどで代替しなくてはなりません。宣誓供述書は、在日大使館・領事館や居住国の公証役場でもらうのが一般的です。
また、印鑑証明書が取得できない場合は、サイン証明書や宣誓供述書で代替できます。
国会での規制強化議論と将来的な法改正の可能性
外国人による日本国内の不動産取得は、安全保障上の懸念にとどまらず、住宅価格の高騰という社会問題とも結びついて、近年ますます議論が活発化しています。
実際に、2024年12月には国民民主党と日本維新の会が共同で、「外国人土地取得規制法案」を衆議院に再提出しました。
さらに、国民民主党は安全保障だけでなく住宅政策の観点からも規制強化を訴えています。一方で、参政党も土地利用規制法の改正を前提に、取得・利用の段階で税制を含めた幅広い制限を検討中です。
まとめ
日本では外国人であっても原則として自由に不動産を取得できますが、安全保障上の観点から重要土地等調査法や外為法による規制が設けられています。防衛施設周辺や国境離島では土地利用が調査・制限される場合があり、非居住者の場合は取得後20日以内に届出をするのが義務です。
近年は、外国資本による不動産取得増加や住宅価格高騰を背景として、規制強化を求める声が高まっており、複数の法改正案が国会に提出されています。そのため、外国人が日本で不動産を取得するには、現行の制度を正しく理解し、今後の動向にも注目することが大切です。
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