会社を休眠したり廃業したりする場合に滞納した税金はどうなる?

[取材/文責]福井俊保
おだね税理士事務所代表 小田根 大輔(税理士)

会社を休眠や廃業した場合の税金については、状況によって異なる対応が必要です。税金は法律に基づいて徴収される公的な負債であり、滞納は法的な問題を引き起こすリスクがあります。

休眠中の税金について

会社が休眠状態になった場合、税金の種類によって扱いが大きく変わります。

所得がゼロであれば所得に基づく税金は基本的に発生しない

・法人税
・事業税
・住民税(法人税割)

これらの税金は法人の所得(利益)に対して課税されるものです。事業活動を停止し所得がゼロであれば、これらの税金は発生しません。

休眠中でも必ず発生する税金

・法人住民税(均等割)

この税金は所得の有無にかかわらず、法人が存在するだけで課税されます。資本金の額や従業員数に応じて決まりますが、最低でも年間7万円程度が課されるため、休眠中であっても支払い義務があります。

自治体による救済措置

多くの自治体では、所定の「休業届」などを提出することで、法人住民税(均等割)が免除または減額される制度を設けています。ただし、適用要件や手続きは自治体によって異なるため、休眠を検討している場合は事前に所在地の自治体に確認することが重要です。

その他の税金

・固定資産税(会社名義の土地・建物・償却資産を所有している場合)
・自動車税(会社名義の自動車を所有している場合)
これらは休眠中であっても課税され続けます。

過去の滞納税金について

休眠前に発生していた税金の滞納がある場合は、税務署からの督促状や延滞税が課される可能性があります。休眠状態でも代表者には納税責任があるため、早めに滞納状態を解消することが必要です。

廃業(清算)時の税金について

会社を廃業(解散・清算)する場合は、過去に滞納していた税金に加えて、清算手続きの過程で新たに確定する税金もすべて支払う必要があります。

清算手続きで発生する税金

・解散事業年度の法人税等:解散日から事業年度末までの所得に対する申告・納税
・清算事業年度の法人税等:清算中に生じた所得に対する申告・納税
・残余財産確定時の法人税等:最終的に残った財産を株主に分配する際の清算所得に対する法人税
・消費税:課税事業者であれば、解散・清算の各段階で申告・納税が必要

廃業手続きの注意点

廃業手続きを行う際には、税務署に廃業届を提出し、これらすべての納税義務を履行する必要があります。税金の滞納がある場合、廃業手続きが進まないこともあります。

支払えない場合の問題

会社の実体がなくなるため、支払うべき税金額が大きすぎて支払えないケースも発生します。このような場合、滞納している税金を誰が支払うのか、支払えない場合はどのような対処法があるのかも検討すべき重要な問題となります。

税金に関する疑問や問題がある場合は、税務署や税理士に相談することをお勧めします。適切な手続きを行うことで、法的なリスクを回避できる可能性があります。

おだね税理士事務所代表 小田根 大輔(税理士)

滞納していた税金は誰が払うのか

滞納している税金を誰が払うのかは休眠状態なのか、廃業するのかによって違います。ここでは滞納していた税金を誰が払うのか、それぞれの状況に応じて解説します。

休眠状態の場合は会社の代表者が払う場合もある?

休眠状態の会社で税金の滞納がある場合、原則として支払い義務があるのは法人自身であり、法人の財産から支払われることが大前提です。

税金は、国や地方自治体に対して支払われるお金であり、国や地方自治体はこの税金を使って、さまざまな公共サービスを提供しています。税金を滞納してしまうと、公共サービスの提供が困難になるだけでなく、法的な問題も生じる可能性があります。

ただし、法人の財産だけでは滞納税を支払いきれない場合など、限定的な状況では代表者が「第二次納税義務」を負い、個人財産で支払う義務を負うリスクがあります。これは特定のケースに限られるもので、休眠したからといって自動的に代表者が個人として支払うわけではありません。

おだね税理士事務所代表 小田根 大輔(税理士)

税金の滞納は、法的な問題を引き起こす可能性があるため、会社の代表者は税金の支払いを怠らないように注意する必要があります。また税金の滞納を防ぐためには、会社の財務状況をきちんと把握し、税金の支払いを計画的に行うことが重要です。

休眠した状態でも滞納した税金は支払えますので、早めに滞納状態を解消するようにしましょう。

法人が解散した場合は納税義務が引き継がれる

法人が解散した場合、その法人の納税義務は引き継がれます。法人税や消費税などの税金を納めるのは法人の義務です。法人が解散すると、その法人は存在しなくなりますが、納税義務は残ります。

解散後も納税義務が引き継がれる理由は、法人が解散する前に発生した税金の支払いがまだ残っているからです。つまり解散前に滞納していた税金は、解散後も支払わなければなりません。

法人が解散した場合、基本的には清算手続きの中で法人の財産から税金を支払うことになります。しかし、滞納税金がある状態や後日税額が確定した状態で残余財産を株主等に分配した場合には、清算人と分配を受けた者がその分配した額、受けた額の限度で第二次納税義務を負うことになります。

滞納税金がある状態や後日税額が確定した状態で残余財産を株主等に分配した場合には、清算人と分配を受けた者がその分配した額、受けた額の限度で第二次納税義務を負うことになります。

おだね税理士事務所代表 小田根 大輔(税理士)

清算人は、会社の株主や取締役が選任することが一般的です。また会社法によって規定されているため、法律に基づいて選任しなければなりません。

清算人には、専門知識や経験が求められます。会計や法務の知識が必要であり、解散手続きに関する法律や規制に詳しいことが望まれます。

会社の解散は、経営状況が悪化した場合や事業の目的が達成された場合などに行われることが多いでしょう。解散時には、適切な清算手続きを行い、税務上の問題を残さないよう注意することが重要となります。

滞納した税金が支払えない場合

滞納した税金に支払い義務が生じるのはすでに述べました。しかし滞納した税金が支払えない事態も想定されるはずです。ではその場合はどうすればよいのでしょうか。ここでは滞納した税金が支払えない場合の対処法について解説します。

納税の猶予ができる

納税の猶予は条件を満たせば納税を1年間猶予してもらえます。税金滞納時の延滞税についても、猶予の種類や理由によって全額または一部が免除される可能性があるため、ただ納税をしない状況を続けるよりも猶予を申請した方が良いでしょう。

納税の猶予を申請する場合は、「納税の猶予の申請書」を税務署に提出する必要があります。契約書などの書類が必要なケースや、納税額が多い場合は担保が必要になるケースもあるので、注意が必要です。

滞納処分の執行停止が可能

会社が解散する場合、納税義務は解散手続きが完了するまで続きます。解散手続きは、会社の資産を清算し、債務を返済するために行われるものです。解散手続きには、会社の解散決議、債権者への通知、資産の処分などが含まれます。

解散手続きが完了するまで、会社は納税義務を負うため注意が必要です。これには法人税や消費税など、会社が支払うべき税金が含まれます。解散手続きが終了すると、会社は法人格を失い、納税義務も終了します。

ただし解散手続きが長期化する場合や、債務の返済に時間がかかる場合など、納税義務が解消されるまでに時間がかかることもあるでしょう。解散手続きの進行状況や税務署とのやり取りによっても異なるため、具体的な期間は個別のケースによって異なります。

滞納した税金が支払えない場合、強制的に滞納している税金を徴収できます。たとえば財産の差し押さえが可能です。しかし条件を満たせば、こうした滞納処分の執行が停止される場合があります。

滞納処分の執行停止が行われれば、財産の差し押さえなどの処分が一時的に停止されますが、納税義務が直ちになくなるわけではありません。執行停止が3年間継続した場合には滞納した分の税金支払う義務は消滅します。滞納処分の執行停止は、滞納処分できる財産がなかったり、執行すると生活が困窮したりする場合に適用されます。

ただし滞納処分の執行停止は取り消される場合があります。その場合は通知されるので、注意が必要です。

滞納した税金に関するQ&A

滞納した税金には以下のような疑問もあるでしょう。ここではQ&A形式で紹介します。

滞納した社会保険料はどうなりますか?

会社を廃業する場合、社会保険料についても代表取締役などが個人の財産から支払わなければならないケースがあります。
社会保険料の滞納が従業員に与える影響については、複雑な制度が関わるため一概には言えません。会社が廃業した場合の社会保険料の取り扱いや、従業員の年金記録への影響については、個別の状況によって異なる可能性があります。
特に、法人が従業員の「被保険者資格喪失届」を適切に提出していない場合や、手続きに不備がある場合には、従業員の年金記録に影響が生じるリスクがあります。厚生年金から国民年金への切り替えが適切に行われないと、将来の年金額に影響する可能性も考えられます。
そのため、会社の廃業時には従業員の社会保険手続きを適切に行うことが重要です。従業員の方も、年金ネットで自身の年金記録を確認し、記録に漏れや誤りがないかチェックしておくことをお勧めします。
詳細については、社会保険労務士や年金事務所に相談することが確実です。

納税義務はいつまでありますか?

納税義務については、国税・地方税ともに徴収権の時効は原則として5年です(国税通則法第72条、地方税法第18条)。
ただし、税務署からの督促状の送付や財産の差押えが行われると、時効は更新され、その時点から新たに5年間の時効が進行することになります。
実務上は、税務当局が適切に徴収手続きを行うため、時効によって納税義務が自然に消滅するケースは極めて稀です。滞納処分の執行停止が行われた場合でも、その状況が継続する必要があり、条件が整わない限り納税義務は残り続けます。
納税の負担が重い場合には、時効を待つのではなく、納税の猶予や滞納処分の執行停止などの制度的な救済措置を検討することが現実的です。このような状況では、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

ここまで会社を休眠したり廃業したりする場合に、滞納した税金はどうなるのかについて解説してきました。休眠しても廃業しても納税義務はあります。ただし救済措置もありますので、納税が大変な場合は専門家に相談しましょう。

記事監修者 小田根税理士からのワンポイントアドバイス

会社を休眠または廃業しても、税金の支払い義務は残り続けます。特に、事業活動を停止していても、資本金などに応じて課税される「法人住民税(均等割)」は必ず発生するため、滞納しないよう注意が必要です。過去に滞納した税金は、会社を清算しても原則として会社の財産から支払うことになりますが、状況によっては代表者や株主が個人的な責任を負う「第二次納税義務」が発生するリスクもあります。税金の支払いが困難になった場合は、放置すると延滞税が増えるだけでなく、法的な問題に発展しかねません。納税の猶予や執行停止といった救済措置を検討するため、早めに税理士などの専門家に相談することが大切です。

渋谷区で一から立ち上げたプログラミング教室スモールトレインで代表として、小学生に対するプログラミングと中学受験の指導に従事。またフリーランスのライターとしても活躍。教育関係から副業までさまざまな分野の記事を執筆している。
著書に『AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育』(自由国民社)、共著で『#学校ってなんだろう』(学事出版)がある。

おだね税理士事務所代表 小田根 大輔(税理士)

業界歴15年間で、法人・個人事業主の顧問業務、申告(法人税、消費税、所得税、相続税)業務のほか、財務・税務のデューデリジェンス業務、公益法人の顧問業務、M&Aや事業承継業務など、幅広い業務に携わってまりました。これらの経験を通じて、企業の成長と発展には、税務・会計の専門家としてのサポートが不可欠であることを確信しております。また、企業経営には、常に様々な課題がつきものです。税務・会計に関するお悩みはもとより事業に関することまで、どうぞお気軽にご相談ください。お客様の立場に寄り添い、最善のサポートをさせていただきます。

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