法人が被災地に募金を行ったり、自社製品を提供したりしたときの税金の扱いは?

[取材/文責]マネーイズム編集部
永安栄棟 公認会計士・税理士事務所代表 永安 栄棟(税理士・公認会計士)

2024年元旦に発生した能登半島地震の被災地は、その後の豪雨の影響も重なって、復興に時間がかかっています。ところで、このような災害が発生した場合、企業が被災地に支払った義援金や、提供した自社製品などは、損金に計上できるのでしょうか。法人が被災地に対して行った援助の税務上の扱いについて、まとめました。

義援金は損金になるか

法人が被災地に対して義援金を支払った場合、法人税法上、その金額は「寄附金」の扱いになります。全額が損金に計上できるかどうかは、寄附先によって異なりますから、注意してください。

国または地方公共団体に対する寄附金(国等に対する寄附金)

⇒全額が損金に

国や被災地の自治体に対して支払う義援金は、原則として支出した全額が損金に算入できます。

また、日本赤十字社や中央共同募金会などに対して支払う義援金は、その義援金が最終的に義援金配分委員会などに対して拠出されることが募金趣意書などで明らかにされている場合は、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金の額に算入されます。

ただし、例えば、それら団体の事業資金として使用されるなど、最終的に地方公共団体に拠出されないものについては、これと異なる取扱いになる可能性があります。不明点があるときは、義援金の支払先に確認するようにしてください。

永安栄棟 公認会計士・税理士事務所代表 永安 栄棟(税理士・公認会計士)

指定寄附金

⇒全額が損金に

法人が「指定寄附金」(公益法人などに対する寄附金で、一定の要件を備えるものとして財務大臣が指定したもの)を支出したときは、原則として支出した金額の全額が損金の額に算入されます。例えば、日本赤十字社への寄附金で、財務大臣から承認を受けたものなどが該当します。

「一定の要件を備えるものとして財務大臣が指定したもの」について、詳しくは、財務省ホームページの「税制関係の主な告示(法人税関係)」 を参照してください。

特定公益増進法人に対する寄附金

⇒「特別損金算入限度額」の範囲内で損金に(一般の寄附金とは別枠)

特定公益増進法人とは、「教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する法人」をいいます。

該当する法人への寄附金は、「特定公益増進法人に対する寄附金」の損金算入限度額の計算で算出した特別損金算入限度額の範囲内で、損金に算入することができます。また、この特別損金算入限度額を超える部分の金額は、次の「一般の寄附金」の損金算入限度額の範囲内で、損金の額に算入されます。

特別損金算入限度額については:No.5283 特定公益増進法人に対する寄附金|国税庁

一般の寄附金

⇒「損金算入限度額」の範囲内で損金に

法人が上記以外の義援金を支出した場合は、一般の寄附金となり、損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入できます。

認定NPO法人以外のNPO法人への寄附金などがこれに該当し、限度額を超えた分は、損金にできません。

損金算入限度額については:No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算|国税庁

ただし、完全支配関係(法人による完全支配関係に限ります。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金は、原則としてその全額が損金の額に算入されないことになります。

永安栄棟 公認会計士・税理士事務所代表 永安 栄棟(税理士・公認会計士)

自社製品の提供は損金になるか

「被災者に対して自社製品等を提供するための費用」は全額損金に

お金ではなく、被災地の避難所などに自社製品を送ったときには、どういう扱いになるのでしょうか? この場合には、全額を損金にすることができます。「災害による被害を受けた不特定または多数の人を救援するために緊急に行った自社製品などの提供に要した費用は、寄附金や交際費などには該当せず、損金に算入される」ことになっているのです。

この取り扱いは、「自社製品の提供が、国や自治体が行う被災者に対する物資の供給と同様の側面を有している」こと、また、「その経済的効果からいえば、広告宣伝費に準ずる側面を有している」ことによるもの、と説明されています。

得意先の従業員などが避難する特定の避難所に送った場合は

一方、あらかじめ特定のごく限られた人のみに対する贈答(利益供与)を目的として行われた自社製品などの提供は、寄附金または交際費などに該当します。では、得意先の従業員などが避難している特定の避難所に対して自社製品の提供を行った場合は、どうなるのでしょうか?

こうしたケースも、「多数の被災者に対して救援のために緊急に提供した自社製品については、あらかじめ特定のごく限られた人のみに対する贈答とは異なる」と解釈されます。やはり広告宣伝費に準ずるものに該当し、全額を損金にすることが可能です。

「自社製品等」とは

説明したように、自社製品を被災者に提供する場合に、そのための費用が全額、損金になる(寄附金または交際費など以外の費用として取り扱われる)のは、その提供が広告宣伝費に準ずる側面も有している、とみることができるからです。言い方を変えると、その取り扱いを受けるためには、提供した「自社製品等」には、そういう側面を持っている必要があります。

そうした観点から、ここでいう自社製品等とは、原則として、「提供した法人が製造などを行ったもので、法人名などが表示されているもの」をいいます。ただし、同時に「法人名が表示されていない製品や他から購入した物品であっても、その提供に当たって、企業のイメージアップなど実質的に宣伝的効果を生じさせるようなもの」であれば、これに含めて差し支えないとされています。必ずしもA社が製造したり扱ったりしていないものであっても、A社の提供であることが明確になっていれば、「自社製品等」とみなされるケースがあります。

同じように、自社の製品等を取り扱っている小売業者に対し、災害により滅失又は損壊した商品(自社製品)と同種の商品を交換又は無償で補てんした場合、それに要した費用は広告宣伝費又は販売促進費としての側面を有しているとみることができるため、寄附金又は交際費等に該当しないものとして損金の額に算入されます。

永安栄棟 公認会計士・税理士事務所代表 永安 栄棟(税理士・公認会計士)

ボランティア活動中の人件費の扱いは

社員がボランティアとして、被災地で活動する場合もあるでしょう。会社の業務命令で参加したり、あるいは個人としての資格で参加したりする形態が考えられますが、いずれの場合にも、その社員に対して支給する給与相当額は、寄附金には該当しません。

有給休暇などを利用して、個人としての資格で参加している社員に対して支給する給与相当額も、同様の扱いです。

まとめ

法人が被災地支援のために義援金を出すときには、その支出先によって全額を損金にできる場合と、できない場合があります。避難所などへの自社製品の提供は、原則として全額を損金算入可能です。

記事監修者 永安税理士からのワンポイントアドバイス

法人が寄附金を支出したときに、国や地方公共団体、財務大臣が指定した相手先に対するものは原則として全額損金への算入が認められることになります。一方で、一般の企業や認定NPO法人以外のNPO法人などへの寄付については、損金の額に算入できる限度額が設定されていることとなっているため、このような先への寄付を検討する際は、事前に限度額の確認が必要となります。

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永安栄棟 公認会計士・税理士事務所代表 永安 栄棟(税理士・公認会計士)

会計や税務の「わかりやすい説明」を得意とする神戸の税理士事務所。開業支援・資金調達・バックオフィス業務・節税アドバイスなど、経営者の悩みに幅広く対応する。記帳から、申告、顧問サービスまでを網羅した「丸投げパック」が人気。国税OBも在籍しており、高い専門性と豊富な経験で、税務調査の完全サポートにも力を入れている。

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