「持株会社を活用する」という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部

「税負担を軽減しながら会社を成長させたい」
「事業承継を見据えて、今のうちに備えておきたい」
このような課題を抱えている経営者にとって、有効な選択肢になるのが持株会社(ホールディングス)の設立です。持株会社の設立は、単なる組織再編の手法と思われがちですが、実はさまざまな節税メリットが存在します。そこで今回は、持株会社を活用することで得られる具体的な節税メリットと、見落としがちな注意点を徹底解説します。
ビジネスと資産を守る戦略として、ぜひ参考にしてみてください。

持株会社とは?

持株会社とは、他の会社の株式を保有することを主な事業目的とする会社を指します。ホールディングスやホールディングカンパニーとも呼ばれ、グループ会社を管理・統括する役割を担う点が特徴です。

例えば、LINEヤフー株式会社などのグループ会社を傘下に持つAホールディングス株式会社、株式会社セブン&アイ・ホールディングス、野村ホールディングス株式会社などが、日本における代表的な持株会社に該当します。

持株会社は、「純粋持株会社」「事業持株会社」があり、事業形態が異なります。純粋持株会社は、事業を持たず完全に株式保有と管理のみを行うのに対し、事業持株会社は、自社で事業を行いながら他社の株式も保有する点が両者の違いです。

持株会社を設立することで、グループ全体の経営戦略や資本政策を一元的に管理できるようになり、経営の効率化や柔軟な資本移動が可能となります。

また、グループ通算制度を活用した法人税の節税や、事業承継時の相続税対策といった税制上のメリットも期待できることから、近年では中小企業やオーナー企業による持株会社の活用が進んでいます。

持株会社を活用する節税メリット

持株会社を通じてグループ体制を構築することで、法人税や相続税の節税、事業承継の円滑化など、さまざまなメリットが得られます。

ここでは、実際にどのような節税効果が見込めるのか、4つの観点から詳しく解説します。

節税メリット1 グループ内での損益通算が可能

持株会社体制に移行することで、「グループ通算制度」を適用できるようになります。  

これは、一定の要件を満たしたグループ会社間で、法人税の計算上、損益を通算(相殺)できる制度です。

グループ通算制度が適用されると、グループ内に黒字の会社と赤字の会社がある場合、それぞれを個別に申告するのではなく、損益を合算して申告できます。これにより、グループ全体の課税所得を圧縮でき、法人税の支払いを抑えることが可能です。

例えば、以下のような場合だと、グループ通算制度を利用することで、グループ全体では「500万円の利益」として扱われます。

・子会社A 黒字 1,000万円の利益
・子会社B 赤字 500万円の損失

この結果、本来1,000万円に対して課税されるところを、500万円のみに抑えられ、法人税の負担の軽減が可能です。

このように、持株会社を通じたグループ通算制度の活用によって、グループ全体の節税が可能となります。

このグループ通算制度は、2022年4月にスタートした新しい制度で、従来の連結納税制度よりも導入しやすく、主に100%資本関係にある子会社間で適用されます。

節税メリット2 相続税や贈与税の節税が可能

持株会社の設立は、将来的に会社を引き継ぐ「事業承継」の際に発生する、相続税や贈与税の対策として有効です。

自社の株式を後継者に直接引き継ぐと、その株式の評価額に応じて、高い税金(最大で55%)がかかることがあります。特に業績のよい会社は株価も高くなりやすく、後継者が支払う税金も多くなり、資金の準備が大変になることはよくあることです。

そこで持株会社を設立し、事業会社の株式をその持株会社に集めると、次のようなメリットが期待できます。

評価額が下がる可能性がある

持株会社が株式を取得する際に借金(負債)をすると、その負債が評価額を下げる要因となり、結果的に税負担が軽減する場合があります。

納税資金の確保がしやすくなる

事業会社の株式を持株会社に売却する形で引き渡すことで、現経営者の手元に現金が残り、これを将来の納税資金として確保することが可能となります。

株式の譲渡益には所得税・復興特別所得税・住民税を合計した20.315%の税率が課されますが、相続税・贈与税の最高税率(55%)と比較すると税負担は軽く、計画的に資金を手元に残せる点でメリットがあります。

スムーズな事業承継ができる

後継者が持株会社の株式を引き継ぐことで、グループ全体の経営権も一緒に引き継ぐことが可能です。これにより、株が分散して経営の主導権を失う心配もなくなります。

このように、持株会社は税金対策だけでなく、スムーズな事業承継や資金繰りの面でも大きなメリットがある「戦略的な仕組み」といえるでしょう。

節税メリット3 受取配当金は非課税となる

持株会社が子会社から受け取る配当金は、通常の収益とは異なり、税金がかからない(または一部しかかからない)制度があります。これは「受取配当等の益金不算入制度」と呼ばれるもので、法人税法上の優遇措置です。

例えば、持株会社が子会社の株式を100%保有している場合、その子会社から受け取る配当金は原則として益金に含まれず、課税されません。

これにより、子会社からの利益還元(配当)に対して、グループ内で余計な税金が発生しにくくなるというメリットがあります。

節税メリット4 株式売却益の課税を繰り延べできる

持株会社を設立する際、個人が保有する事業会社の株式を持株会社へ移す方法の一つに「現物出資」があります。

この現物出資の際に、特定の条件を満たす「適格現物出資」として認められると、本来であれば現物出資によって発生するはずの株式の売却益に対する課税を、将来に繰り延べることが可能です。

これにより、グループ再編を進めながらも、当面の間は税負担を抑えることが可能になり、資金繰りの観点からも有利に働きます。

ただし、適用には「100%親子関係」「事業継続性」などの条件があるため、税理士や専門家と連携した慎重なスキーム設計が重要になります。

この繰り延べは、課税がなくなるわけではなく、あくまでも将来、持株会社がその株式を売却する際に法人税が課されることになりますが、その時まで資金を有効活用できる点が大きなメリットです。

持株会社を活用する際の注意点

持株会社を活用すると、経営の合理化やスムーズな事業承継、節税効果などが期待できますが、いくつかの注意点があります。ここでは、持株会社を活用する際に知っておきたい注意点を解説します。

注意点1 設立・維持コストが発生する

持株会社を設立する際には、登記費用や専門家(司法書士、税理士など)への報酬が発生します。また、設立後も、法人としての維持費用(税務申告費用、会計監査費用など)が毎年発生するため、これらのコストと節税メリットを比較検討する必要があります。

注意点2 税務署に否認されないよう注意する

節税だけを主な目的として持株会社を設立すると、税務署から否認されるリスクがあります。税務署から承認されるためには、経営の合理化や事業戦略上の必然性があることを明確に示すことが必要です。

もし、税務署に否認されてしまうと、これまで享受したと見なされる節税メリットが遡って否認され、多額の追徴課税や延滞税が課される可能性があります。 例えば、非課税とされた配当金が課税対象になったり、繰り延べられた売却益に遡って課税されたりするなど、想定外の税負担が発生するリスクがあります。

このような事態を避けるためにも、持株会社設立の際には、税理士や弁護士などの専門家と連携し、事業目的を明確にしたうえで、適法かつ合理的なスキームを構築することが不可欠です。

注意点3 グループ内で経営リスクが連鎖する可能性がある

持株会社体制では、事業会社が複数存在するため、グループ会社間の経営や財務状況が連動しやすくなります。例えば、傘下の1社が業績不振や債務超過に陥ると、グループ全体の信用や資金繰りに影響が出ることもあるでしょう。

また、金融機関や取引先から「グループ全体としての連帯保証」や「財務連結への懸念」を指摘されることもあり、慎重な管理と経営判断が求められます。

このようなリスクを避けるためには、子会社の財務管理体制の整備や、グループ全体のガバナンスを強化することが不可欠です。

注意点4 事務負担が増加し複雑化する

持株会社体制に移行すると、グループ全体の事務負担が増加し、管理体制も複雑化する傾向があります。具体的には、持株会社と各事業会社それぞれで会計処理や税務申告が必要となり、グループ全体の資金移動の管理なども必要です。

グループ通算制度や受取配当等の益金不算入など、節税メリットを享受するためには、これらの複雑なルールを正しく適用するための専門的な知識と継続的な管理が求められます。

この節税術に必要な心構えとは

持株会社を活用することで、株式売却益の課税繰り延べや配当金の非課税化など、さまざまな節税メリットを得られます。

しかし、その一方で、制度の要件を正しく満たさなければ、税務署に否認されるリスクや、余計なコストや事務負担が発生する可能性もあるため、注意が必要です。

この節税スキームを最大限に活かすためには、制度の正確な理解と綿密なスキーム設計が欠かせません。とくに税制は改正も多く、適用条件が複雑であるため、自己判断だけで進めるのは非常に危険です。

「節税になるから」と安易に始めるのではなく、経験豊富な税理士などの専門家と連携し、プロの知恵を取り入れて、長期的な視点で着実に準備を進めましょう。

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