
「法人税率の軽減税率を活用する」という節税術
中小企業の経営者にとって、税金の負担は事業成長の大きな足かせです。特に法人税は利益が出れば出るほど税負担が重くなり、手元に残る資金が減ってしまうという悩みがつきまといます。
しかし、法人税率の軽減税率(中小法人特例)を活用することで、税負担を軽減し、手元資金を増やせます。特に、年800万円以下の所得には15%の軽減税率が適用される制度は、中小法人の節税の基本です。
さらに、2025年(令和7年)度の税制改正で、この優遇措置が2年間延長されるため、今後の事業計画にも活用しやすくなっています。
本記事では、この軽減税率の仕組みを基本から解説し、経営者が得られる具体的なメリット、そして適用を受けるうえでの注意点を徹底的に掘り下げます。
法人税率・軽減税率とは?基本をおさらい
法人税は、企業の利益に対してかかる国税です。税率は一律ではなく、企業の規模や所得額によって異なります。特に中小企業向けに設けられた「法人税率の軽減税率」は、節税対策の重要なツールです。
2025年改正で2年延長されたこの制度を、まずは基本から押さえましょう。
法人税率とは?大企業と中小企業ではどう違う?
法人税は法人の所得に課される税金で、通常は23.2%が本則税率です。たとえば、利益が1,000万円の場合だと、約232万円を法人税として納めることになります。
しかし、日本の税制では、中小法人など規模の小さい法人に対して軽減税率の特例が用意されており、税負担を抑えることが可能です。
中小法人とは、主に資本金1億円以下の法人を指します。大企業には軽減税率は適用されず、全額が本則税率の対象になります。法人の規模によって税率が異なる点を理解しておきましょう。
法人税の軽減税率とは?年800万円以下の所得に15%が適用される仕組み
大企業の法人税率は23.2%ですが、資本金1億円以下の中小法人には軽減税率が適用される優遇措置があります。
具体的には、年800万円以下の所得部分には法人税率15%が適用され、中小法人の場合はそれを超える所得部分には法人税率19%が適用される仕組みです。
この制度により、中小法人は利益の一部に対して税負担を軽減でき、手元資金を増やすことが可能となります。軽減税率の基本的な適用要件は以下のとおりです。
- 資本金または出資金が1億円以下の中小法人であること
- 発行済株式の過半数を大企業に保有されていないこと(例外規定)
なお、もともと期限付きだった軽減税率の特例は、2025年度の税制改正で2027年3月31日まで2年間延長されました。この延長により、今後しばらくは安心して節税計画を立てられる状況です。
法人税率の軽減税率を活用する節税メリット
法人税率の軽減税率(15%)は、中小企業にとって「税金を安くする」という守りだけでなく、「資金力を高めて事業を伸ばす」という攻めの経営戦略を可能にします。
税負担の軽減によって生まれる余裕資金は、単なる節税効果を超え、会社の成長と競争力強化に直結します。2025年改正の延長で、このメリットを長期的に享受しやすくなりました。
ここでは、法人税率の優遇措置を活用することで、具体的にどのようなメリットが得られるのか、4つのポイントに分けて詳しく解説します。
節税メリット1 税負担が軽減し、手元資金を増やせる
軽減税率の最も直接的で最大のメリットは、納税額が減ることで、その分だけ企業の手元に資金が残ることです。
中小法人の所得のうち、年800万円以下の部分に対しては、本来の法人税の本則税率23.2%ではなく、15%の軽減税率が適用されます。その差は8.2ポイントにもなり、節税メリットは絶大です。
たとえば、中小法人の年間所得が800万円ちょうどだった場合、軽減税率が適用されることで、次の計算式に基づき法人税が減額されます。
| 800万円 ×(23.2% – 15.0%) = 65.6万円 |
このように、最大で年間65.6万円もの税金が軽減されることになります。この金額は、税金の支払いを将来に繰り延べる(延期する)一般的な節税手法とは異なり、恒久的に納税額が減るという点で非常に価値が高いです。
この浮いた資金が利益剰余金として会社に留保されるため、財務基盤の強化に直結します。
節税メリット2 資金繰り改善で投資余力を確保できる
税負担が減って手元資金が増えることは、資金繰り(キャッシュフロー)の改善という、経営上最も重要な課題の解決につながります。
特に中小企業では、「利益は出ているのに現金がない」という黒字倒産リスクを抱えがちです。軽減税率によって現金の流出を計画的に抑えることは、未来の不確実性に対する備えとなります。
確保された余裕資金は、次のような未来への先行投資に活用できます。
| 生産性向上 | 古い機械の更新、業務効率化のためのクラウドシステム導入などの設備投資 |
| 人材への投資 | 優秀な社員の給与アップや採用活動への費用、資格取得支援などの人件費や教育費 |
これらの投資は、結果として企業の生産性を高め、さらなる収益増につながり、税負担の軽減を成長のサイクルに組み込むことが可能になります。
節税メリット3 2025年4月からの延長で、長期的な事業計画が立てやすくなる
法人税の軽減税率は、もともと2025年3月31日で適用期限を迎える予定でした。しかし、2025年度の税制改正大綱において、適用期限が2027年3月31日まで2年間延長されることが決定しました。
この延長決定は、経営者にとって極めて重要なメリットとなります。主なポイントは次のとおりです。
| 予測可能性の向上 | 少なくとも向こう2年間は低税率が維持されるため、納税額の見通しが立てやすくなり、資金繰り計画の精度が高まります。 |
| 長期投資の判断がしやすい | 2〜3年スパンの設備投資や新規事業立ち上げなど、資金が大きく動くプロジェクトにも安心して踏み切れるようになります。 |
このように「税の安定性」が確保されることで、中小企業が将来を見据えた投資や成長戦略を描きやすくなる点が大きなメリットです。
節税メリット4 中小企業の競争力が高まる
軽減税率によって税負担が抑えられると、その分の余剰資金を戦略的に再投資できます。設備投資や新規事業、従業員育成などに資金を回すことで、会社の競争力や収益力を強化することが可能です。
さらに、手元資金が厚くなることで財務体質が安定し、金融機関からの信用力向上にもつながります。これは、事業拡大や緊急時の資金調達において大きな優位性になるでしょう。
また、税金というコストを抑えられる分、価格競争力も高まりやすくなります。同業他社と同じ価格設定でも、より高い利益率を維持できるため、経営の自由度が増し、持続的な成長を促します。
法人税率の軽減税率を活用する際の注意点
法人税率の軽減税率は、非常に大きなメリットをもたらす優遇措置ですが、その適用には厳格な条件が設けられています。
これらの要件を一つでも満たしていない場合や、申告手続きに不備があった場合、せっかくの優遇措置が受けられず、本来の税率で課税されてしまうリスクがあるため注意が必要です。
ここでは、確実に節税メリットを享受するため、経営者が必ず理解しておくべき4つの注意点について解説します。
注意点1 対象は資本金1億円以下の中小法人に限定される
軽減税率は資本金1億円以下の中小法人が対象です。しかし、資本金が1億円以下であっても、「みなし大企業」に該当する場合は対象外となります。これは、具体的には大規模法人(資本金5億円以上の法人など)に株式の過半数を支配されている子会社などが該当します。
さらに、グループ通算制度を採用している法人も軽減税率の適用対象外となるため、自社が制度の適用要件を満たしているか、事前に確認することが重要です。
注意点2 15%の軽減税率が適用されるのは所得800万円以下の部分だけ
15%の軽減税率が適用されるのは、中小法人の場合、800万円以下の所得部分のみです。800万円を超える部分には中小法人の本則税率19%が適用されます。
所得が大幅に増える法人では、全体の税負担軽減効果は限定的になることを理解しておきましょう。特に、所得が800万円をわずかに超える場合は、決算前に所得を800万円以下に抑えるための計画的な節税対策が極めて重要になります。
注意点3 10億円超所得の17%ルールを押さえる
2025年4月以降、年間所得が 10億円を超える中小法人 については、軽減税率が 15%から17%に引き上げられます。高所得法人に対して優遇を縮小する改正であり、所得が増える見込みのある法人は、税負担の変化を踏まえた長期的なシミュレーションが必要です。
注意点4 申告時に「適用額明細書」の提出が必須
軽減税率を適用するには、法人税の申告書類に 「適用額明細書」 を添付する必要があります。記載漏れや不備があると、軽減税率が適用されないことがあるため、申告前に内容を税理士と確認することが推奨されます。
この節税術に必要な心構えとは
法人税率の軽減税率は、中小企業にとって非常に有効な節税手段です。年800万円以下の所得に15%の軽減税率が適用されることで、税負担を大幅に抑え、手元資金を増やせます。
この余裕資金を活用することで、設備投資や人材育成、新規事業への投資が可能となり、会社の競争力や成長力を高められます。
また、2025年度の税制改正で軽減税率の適用期限が2027年3月31日まで延長されたことにより、長期的な事業計画の策定や投資判断がより安心して行えるようになりました。資金計画や経営戦略に組み込み、税の安定性を活かすことが重要になってきます。
一方で、軽減税率を活用するためには適用要件や申告手続きに注意が必要です。
資本金1億円以下の中小法人であること、所得800万円以下の部分のみが対象であること、グループ通算制度やみなし大企業に該当しないこと、そして申告時に「適用額明細書」を忘れず添付することが条件です。これらを正しく理解し、事前に確認することで、節税効果を最大限に享受できます。
軽減税率の適用要件や申告書の作成は専門性が高く、一つでもミスがあれば優遇措置を受けられなくなるリスクがあります。この大きなメリットを確実に享受し、最適な経営戦略を立てるためにも、法人税に詳しい税理士への相談が有効です。
軽減税率を最大限に活かし、次の成長フェーズへ進むためにも、まずは専門家にご相談ください。

