「家族に給与を支払う」という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部 [監修] プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛

配偶者や子どもが実際に事業を手伝っている場合、仕事内容に見合った給与を支払うことで、個人事業主では必要経費、法人では損金に算入でき、事業者側の税負担を抑えられる場合があります。

ただし、個人事業主と法人では適用されるルールが異なります。勤務実態や給与額の妥当性に加え、届出、扶養、社会保険まで含めて検討しなければなりません。

本記事では、中小企業経営者や個人事業主に向けて、家族に給与を支払う場合の節税効果と、個人事業主・法人それぞれのルール、注意点を解説します。

家族に給与を支払うとは?

実際に事業へ従事する家族に仕事内容に見合った給与を支払えば、個人事業主では一定の要件の下で必要経費に、法人では原則として損金に算入できる場合があります。

個人事業主の場合、家族への給与を必要経費に算入することで事業主の事業所得が減る一方、家族には給与所得が生じます。所得税の累進課税や給与所得控除の影響により、世帯全体の税負担が軽くなることがあります。

法人の場合は、家族への給与を損金に算入することで法人所得が減る一方、受け取った家族には給与所得として所得税・住民税が課されます。法人税、家族本人の税金、社会保険料を合わせて、全体の負担が軽くなるかを判断する必要があります。

この仕組みには共通の前提があります。家族が実際に事業へ従事していること、仕事内容に見合った給与であること、そして給与の支給について適正に決定・処理され、実際の勤務内容や支払い状況を記録で説明できることです。勤務実態がなく、給与額にも合理的な根拠がなければ、必要経費・損金として認められない可能性があります。

そのうえで、個人事業主と法人では給与を経費・損金にするためのルールが異なります。

個人事業主が家族に給与を支払う場合

個人事業主の場合、生計を一にする家族への給与は原則として必要経費にできません。この原則の例外として使えるのが、青色申告者向けの「青色事業専従者給与」です。

青色事業専従者給与を必要経費にするには、生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の12月31日時点で15歳以上であること、そしてその年を通じて6か月を超える期間(一定の場合には、事業に従事できる期間の2分の1を超える期間)、その事業に専ら従事していることが必要です。ここでいう「生計を一にする」とは、必ずしも同居を意味しません。別居していても生活費などを継続的に送っている場合は該当することがあります。

また、学生である期間や、他に仕事をしている期間は、原則として「専ら事業に従事した期間」に含まれません。ただし、修学や他の仕事が事業への従事を妨げないと認められる場合は例外があります。配偶者が短時間勤務をしている場合や、子どもが学生の場合は、青色事業専従者の要件を満たすか事前に確認しましょう。

適用を受けるには「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の税務署に提出する必要があります。提出期限は原則としてその年の3月15日まで(土日祝日に当たる場合は翌開庁日)で、1月16日以降に開業した場合や新たに専従者が加わった場合は、その日から2ヶ月以内が期限です。必要経費に算入できる給与は、届出書に記載した支給方法・支給時期に従って実際に支払われたもので、記載した金額の範囲内かつ労務の対価として相当と認められる金額に限られます。

一方、白色申告者は、家族に支払った給与をそのまま必要経費にすることはできません。その代わり、一定の要件を満たせば「事業専従者控除」が使えます。控除額は、配偶者については86万円、その他の親族については1人につき50万円が上限です。ただし、実際の控除額は「事業専従者控除を差し引く前の事業所得等を、専従者数に1を加えた数で割った金額」と比較し、いずれか低い金額になります。青色申告のように実際の給与額をそのまま経費にできるわけではありません。

法人が家族に給与を支払う場合

法人の場合、実際に勤務する家族を従業員として雇い、仕事内容や勤務時間に見合った給与を支払うことは可能です。原則として、業務実態に応じた適正な給与であれば損金算入の対象になります。

注意が必要なのは、家族が役員またはみなし役員に該当する場合です。登記上の役員でなくても、実質的に会社の経営に関与している人や、同族会社で一定の持株要件などを満たす使用人は、法人税法上のみなし役員に該当することがあります。役員に該当すると、通常の従業員給与とは異なり、役員給与は、原則として定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかの要件を満たさなければ損金に算入できません。また、同族会社では、一定の持株要件を満たす役員は使用人兼務役員として取り扱われない場合があるため、役員給与の決定には注意が必要です。

法人の従業員給与には、青色事業専従者給与のような事前の給与額の届出制度はありません。ただし、家族だから自由に金額を決められるわけではなく、仕事内容、勤務時間、同程度の業務を行う従業員の給与水準などから、金額の妥当性を説明できる必要があります。特に、役員の親族など、役員と特殊な関係にある使用人へ不相当に高額な給与を支払った場合、過大な部分が損金として認められない可能性があります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

家族に給与を支払う節税メリット

家族への給与支払いには、事業者側・家族側それぞれに関わる税務上の仕組みがあります。ここでは3つのポイントに分けて解説します。

節税メリット1 事業者側の課税所得を抑えられる場合がある

個人事業主では、一定の要件を満たす青色事業専従者給与を必要経費に算入することで、事業所得を抑えられます。法人では、家族への従業員給与や、法人税法上の要件を満たす役員給与を損金に算入することで、法人所得を抑えられます。

ただし、支給した給与額がそのまま事業者全体の節税額になるわけではありません。給与を受け取る家族側の税金や社会保険料も含めて判断する必要があります。

節税メリット2 家族側では給与所得控除が適用される

青色事業専従者給与、法人から受け取る従業員給与・役員報酬は、家族側では原則として給与所得として扱われます。給与収入の全額がそのまま課税対象になるのではなく、給与所得控除を差し引いた給与所得を基に所得税が計算されます。事業者側で必要経費・損金に算入できることに加え、家族側で給与所得控除が適用されることも、全体の税負担に影響します。

節税メリット3 課税対象を分け、全体の税負担を抑えられる場合がある

家族へ給与を支払うことで、個人事業主では事業主の事業所得と家族の給与所得に、法人では法人所得と家族の給与所得に課税対象が分かれます。

個人事業主の場合は、所得税の累進課税や家族側の給与所得控除の効果によって、事業主一人に所得が集中する場合より、世帯全体の税負担が軽くなることがあります。法人の場合も、家族への給与を損金に算入して法人所得を抑える一方、家族側では給与所得として課税されるため、法人側と家族側を合わせた税負担が軽くなる場合があります。

個人事業主のケースでは、例えば青色事業専従者給与を支払う前の事業所得が800万円で、配偶者に年180万円を支払うと、事業主の事業所得は単純計算で620万円になります。ただし、課税所得ベースでみると、専従者給与を支払うことで配偶者控除が適用できなくなるため、所得の圧縮効果は180万円より小さくなります。

法人のケースでは、家族を従業員として雇い年180万円の給与を支払った場合、仕事内容や勤務実態に照らして適正な金額であれば、法人側ではこの給与を損金に算入できます。一方、家族側では給与所得として所得税・住民税が課され、社会保険の加入要件を満たす場合は、本人だけでなく会社にも社会保険料の負担が生じます。実際の節税額は、所得税率・法人税率だけでなく、配偶者控除等の適用や社会保険料負担などによっても変わるため、「給与額×税率」がそのまま節税額になるわけではありません。個別にシミュレーションしたうえで判断することが大切です。

家族への給与が税負担に与える影響は、事業者側と家族側それぞれの所得水準や各種控除、社会保険の加入状況によって変わります。個人事業主か法人か、従業員か役員かによっても計算の前提が変わるため、給与額を決める前にシミュレーションすることをおすすめします。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

家族に給与を支払う際の注意点

節税効果が期待できる一方、実態や手続きを誤ると経費・損金として認められないおそれがあります。個人事業主・法人に共通する3つのポイントを解説します。

注意点1 勤務実態と給与額の妥当性が必要

個人事業主・法人を問わず、家族が実際に勤務し、仕事内容や勤務時間に見合った給与であることが前提です。届出の範囲内、あるいは損金算入の一般的な要件を満たしていても、労務の内容・従事期間・事業規模などに照らして不相当に高額な部分は経費・損金として認められません。

家族の仕事内容、勤務時間、責任の範囲を整理したうえで給与額を決め、振込で支払い、勤怠や業務内容を記録する運用にしておくことが実務上の対応になります。給与の振込記録、業務日誌やタイムカードなど勤務時間を確認できる資料を保存し、税務調査などで勤務実態と給与額の根拠を説明できるようにしておいてください。

注意点2 個人事業主と法人では手続きが異なる

個人事業主は、青色事業専従者給与に関する届出書の提出、届出書に記載した支給方法・支給時期・金額範囲の遵守が必要です。給与を支払う事業主は原則として源泉徴収義務者となるため、所得税の源泉徴収、納付、年末調整などの給与事務も生じます。

法人は、家族を従業員として扱うか、役員として扱うかを最初に判定する必要があります。役員またはみなし役員に該当する場合、定期同額給与として損金に算入するには、原則として毎月同額で支給し、通常の報酬改定は事業年度開始から3か月を経過する日までに行う必要があります。役職や職務内容の重大な変更、経営状況の著しい悪化など一定の理由がある場合を除き、期中に任意で増減した部分は損金に算入できないことがあります。役員へ賞与を支給し、その額を損金に算入したい場合は、原則として支給額と支給日をあらかじめ定め、期限内に事前確定届出給与の届出を行い、届出内容どおりに支給する必要があります。

注意点3 扶養と社会保険を含めて負担を判断する

青色事業専従者として給与の支払いを受ける家族、白色申告の事業専従者控除を受ける家族は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。配偶者については、配偶者控除だけでなく配偶者特別控除も原則として適用できません。

給与を受け取る家族には、所得税・住民税だけでなく社会保険の負担も関係しますが、この点は個人事業主と法人で取扱いが異なります。個人事業主では、青色事業専従者として働く家族は、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者とはならず、国民健康保険・国民年金の対象となります。そのため、給与額が増えると世帯全体の国民健康保険料に影響する場合があります。

一方、法人は代表者1人だけの会社を含め、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所です。家族を役員や従業員にした場合に被保険者となるかは、勤務実態や労働時間などの加入要件によって決まりますが、被保険者となる場合は、本人負担に加えて会社側にも社会保険料の負担が生じます。

専従者給与、家族従業員への給与、役員報酬の一部または全部が必要経費・損金として認められなかった場合、遡って追徴課税されるリスクがあります。個人事業主・法人のどちらであっても、給与額の根拠と勤務実態を説明できる記録を日頃から残しておくことが、最大のリスク対策です。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

この節税術に必要な心構えとは

家族への給与は、実際に働いていることが大前提です。そのうえで、個人事業主と法人では適用されるルールが異なり、法人では従業員にするか役員にするかによっても扱いが変わります。給与額の妥当性を裏付ける記録を残し、配偶者控除等の喪失や家族本人の所得税・住民税も含め、個人事業主では世帯全体の手取りを、法人では会社側の負担と家族側の手取りを合わせて判断することが欠かせません。自社・自身の事業で、どのような立場と給与額にするのが適切か迷ったら、早めに税理士へ相談することをおすすめします。

税理士へ相談する際は、家族の仕事内容、週や月の勤務時間、予定している給与額、現在の扶養・社会保険の状況を整理しておきましょう。法人の場合は、家族が保有する株式や経営への関与状況も伝えると、通常の従業員として扱えるか、役員・みなし役員に該当するかを判断しやすくなります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。

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