
「有姿除却を活用する」という節税術
節税というと「決算前に何かを買う」発想になりがちですが、すでに持っている資産を帳簿から落とすことでも損金は作れます。
使わなくなった機械や金型は、解体・撤去をしていなくても、今後事業に使う見込みがないと客観的に説明できれば、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた額を除却損として損金にできます。これが有姿除却です。
本記事では、中小企業の経営者向けに、有姿除却の基本から節税効果、認められるための要件と注意点までを解説します。
有姿除却とは?
有姿除却とは、使用を廃止した固定資産を現状のまま(有姿のまま)帳簿上で除却し、帳簿価額から処分見込価額を差し引いた金額を除却損として損金算入する処理です。根拠は法人税基本通達7-7-2で、解撤・破砕・廃棄をしていない場合であっても損金算入できると定められています。
対象となるのは、通達が挙げる次の2つです。ひとつは、使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産。もうひとつは、特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、その製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性がほとんどないことが明らかなものです。
代表例は、生産を終了した製品専用の金型や、旧式化して再稼働も転用も見込めない製造設備です。更新して使わなくなったサーバーや閉店した店舗の設備も対象になり得ますが、他の用途への転用や中古売却が可能な状態であれば、有姿除却はできません。判断の基準は「使用をやめたかどうか」ではなく「今後通常の方法で事業に使う可能性がないかどうか」です。
たとえば帳簿価額1,200万円の製造ラインを稼働停止し、スクラップとしての値もつかない場合、処分見込価額をゼロとして1,200万円全額が除却損になります。撤去費用を払わなくても、損金だけを先に確定できるのが有姿除却の特徴です。
なお、ソフトウェアについては物理的な廃棄という概念がないため、別途法人税基本通達7-7-2の2が置かれ、対象業務の廃止やハードウェア・OSの変更により利用しなくなったことが明らかな場合などに、未償却残高の損金算入が認められています。個人事業主についても、所得税基本通達51-2の2に同様の取扱いがあります。
固定資産台帳を印刷して現場を一巡し、「これはもう動かしていない」という資産に印をつけるところから始めてください。台帳と現物を突き合わせることで、使用していないまま帳簿価額だけが残っている資産が見つかることがあります。まずは現物を確認するのが出発点です。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
有姿除却を活用する節税メリット
有姿除却は、支出を伴わずに損金を作れる数少ない手段です。ここでは具体的な節税メリットを3つのポイントに分けて解説します。
節税メリット1 撤去費用をかけずに帳簿価額を損金にできる
最大のメリットは、現金を支出せずに損金を計上できる点です。通常の除却は解体・運搬・産廃処理の費用が発生し、規模によっては数十万円から数百万円のキャッシュアウトを伴います。有姿除却なら現状のまま帳簿から落とせるため、費用負担を先送りしたまま損金だけを確定できます。
除却損 = 帳簿価額 - 処分見込価額
例:帳簿価額8,000,000円の設備で処分見込価額がゼロの場合、除却損は8,000,000円。法人税等の実効税率を30%と仮定すると、2,400,000円の税負担軽減につながります。
節税メリット2 その事業年度に損金が確定する
除却損は、将来の利益を先に費用化して後の期に取り崩すような仕組みではありません。オペレーティングリースや短期前払費用のように、翌期以降に反動が生じるタイプの施策とは性格が異なります。除却した資産は以後の減価償却も不要になり、帳簿から消えるため管理も終わります。
たとえば今後6年かけて合計6,000,000円を減価償却していく予定の設備であれば、有姿除却が認められることで、その未償却残高を当期の損金に算入できます。ただし後日その資産を実際に売却・処分して収入が生じた場合には、その時点で別途課税関係が生じます。
節税メリット3 償却資産税の対象から外せる可能性がある
有姿除却した資産は、償却資産税(固定資産税)の申告対象から外せる場合があります。償却資産税の課税対象は「事業の用に供することができる資産」であり、旧式化して使用をやめ、転用の見込みもないまま原形をとどめている資産について、税務会計上で有姿除却しているなら償却資産に含めないと案内している自治体があります。
評価額5,000,000円の資産であれば、税率1.4%として年間70,000円の負担です。事業の用に供することができる状態のまま申告対象に残っていれば、翌年度以降も課税される可能性があります。ただし、単に使っていないだけの遊休資産は申告対象だとする自治体もあり、取扱いは判断が分かれます。課税標準額の合計が150万円未満であれば免税点により課税されませんので、自社の申告額と併せて、資産の所在地の市区町村へ確認してください。
有姿除却は「決算対策として使えるが、お金が出ていかない」という点で他の節税策と性格が違います。ただし損金が出るのは簿価が残っている資産だけです。まず固定資産台帳で未償却残高の大きい資産を洗い出し、そのうち稼働していないものを候補にする。この順番で進めると、効果の大きいところから手を付けられます。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
有姿除却を活用する際の注意点
有姿除却は、税務調査で事実関係を確認されやすい論点です。逆に言えば、事実と資料を整えられるかどうかで結論が変わる、準備が効くタイプの節税でもあります。特に注意すべき4つのポイントを解説します。
注意点1 今後使用しないことを客観的に説明できる状態にしてください
有姿除却で最も重要な判断ポイントは、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないことを客観的に説明できるかどうかです。現物が現場に残っている以上、外形上は「いつでも動かせる資産」に見えるため、社内の認識だけでは足りません。稼働を停止した時期、代替設備の導入と稼働の記録、再稼働に必要な改修の見積書、有姿除却に至った経緯と今後使用しない旨を記した取締役会議事録または稟議書を残してください。
これらの書類は法人税基本通達7-7-2に要件として定められているわけではありません。ただしソフトウェアの7-7-2の2では社内稟議書や販売流通業者への通知文書が例示されており、判断の根拠を書面で残す発想は共通です。稼働停止や使用廃止を決めた時点で記録を作成してください。決算後に説明資料を整えるだけでは、決算日時点ですでに使用を廃止していたことの裏付けが弱くなります。
注意点2 一時的な休止や再稼働の可能性が残る資産は対象外
受注が戻れば動かす、繁忙期だけ使うといった一時的な使用停止は、有姿除却の要件を満たしません。判断の分かれ目は「本来の用途で再び使う見込みがあるか」です。別の用途に転用する余地がわずかに残っていても、その使い方が本来の用途・用法とかけ離れ、経済的に成り立たないものであれば、通常の方法により事業の用に供する可能性はないと解されています。
「まだ使うかもしれない」と迷う設備は、当期の除却対象から外してください。判断に迷う資産については、再稼働に必要な改修費用を見積もり、その金額が新品を購入する場合と比べて不合理といえるかどうかで検討します。
注意点3 処分見込価額をゼロと決めつけない
損金にできるのは帳簿価額から処分見込価額を差し引いた額です。中古市場で値がつく機械や、金属としてのスクラップ価値がある資産は、その見込額を控除しなければなりません。ゼロとする場合は、業者の査定や引取り条件など、値がつかないことの根拠を残してください。
除却損 = 帳簿価額5,000,000円 - 処分見込価額300,000円 = 4,700,000円
なお、有姿除却そのものは資産の譲渡に当たらないため消費税の課税対象外です。後日実際にスクラップとして売却すればその売却代金は課税売上、撤去や廃棄を業者に依頼すればその費用は課税仕入れとなります。
注意点4 一括償却資産や償却済み資産では効果が出ない
取得価額10万円以上20万円未満の資産を一括償却資産(法人税法施行令第133条の2)として処理している場合、途中で除却しても未償却残高を除却損にはできず、3年間の均等償却を続けます。有姿除却の対象として計上しても損金にはなりませんので、台帳の区分を確認してください。
同様に、耐用年数が過ぎて備忘価額1円まで償却が済んでいる資産は、除却しても損金はほとんど生じません。節税効果が期待できるのは、あくまで未償却残高がまとまって残っている資産です。効果額を先に試算し、資料を整える手間に見合うかを判断してください。
調査で確認されるのは、単に決算日時点で稼働していなかったかどうかだけではありません。その時点までに使用を廃止しており、今後通常の方法によって事業の用に供する可能性がないと客観的に説明できるかが重要です。
稼働停止日、代替設備の導入時期、再稼働に必要な費用、社内で使用廃止を決定した経緯などを書類で確認できない場合は、事実関係の確認に時間がかかります。使用廃止を判断した時点で、稟議書や議事録などの記録を残してください。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
この節税術に必要な心構えとは
有姿除却は、買って減らすのではなく、すでに持っているものを見直して減らす節税です。決算間際に慌てて設備を購入しても、その期に落とせる金額は減価償却費の一部にとどまります。それに対して有姿除却は、固定資産台帳の棚卸しから始められ、対象さえ見つかれば当期の損金になります。
ただし判断は「使っていない」ではなく「今後通常の方法で事業に使う可能性がない」で行う必要があり、その根拠は会社側で説明できなければなりません。9月決算法人であれば期末の判断材料になり、それ以外の会社にとっても、次の決算に向けて棚卸しを始める理由になります。「自社の台帳にどれだけ未償却残高が残っているのか」「どの資産なら要件を満たすのか」と感じたら、早めに税理士へ相談することが、結果的に確実な節税につながります。
有姿除却は、撤去費用がネックで手を付けられずにいた設備を当期の損金にできる、中小企業にとって使い勝手のよい手段です。ただし認められるためには、資産の実態が「今後通常の方法により事業の用に供する可能性がない」という要件を満たしていることがまず必要で、資料はその事実を裏付けるものにすぎません。資料さえ揃えれば通る制度ではありませんし、逆に実態が伴っていても説明できなければ確認に時間がかかります。まずは固定資産台帳と現場を突き合わせ、対象になりそうな資産を洗い出したうえで、要件を満たすかどうかを税理士と確認してください。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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