若い世代を採用するためにも必要なDX化。
現場の事例を蓄積している税理士事務所だからこそできるサポートがある【後編】
- 公開日:
- 2024/02/14
前編は【こちら】
DX化が必要な会社とは
――ところで、DX化はどの企業にとっても重要な課題だと思いますが、特にそれを意識すべきケースというのはありますか?
岸経験上、原価管理が複雑で、そこに多くの工数を割いているケース、業種でいうと建設業、製造業などのお客さまは、DX化の効果が見えやすいですね。シンプルに、そこにかけていた仕事量が8割減ったりしますから。
意外なところでは、弁護士事務所もバックオフィスでけっこう苦労しているんですよ。最大のボトルネックは、依頼者からの「預り金」です。これを、自己資金と分別したうえできっちり管理することは、弁護士事務所の経理にとって超重要課題なのですが、たいていの事務所は、預り金を誰からいくらもらったのか、紐付けできないような状況になっています。
ちなみに、ベリーベストはもともと法律事務所からスタートしていますから、当社はその経理もお手のもの。恐らく弁護士事務所の顧客数に関しては、日本一ではないでしょうか。
――なるほど。そこも“一枚岩”の強みですね。
岸いずれにしても、バックオフィスに工数、エネルギーをかけている会社ほど業務のDX化の恩恵が大きい、ということはいえるでしょう。実際、我々のサポートでそれを実行した結果、効果を実感するお客さまが数多くいます。「いったい今まで何をやっていたんだ」と(笑)。
DX化にはタイミングもある
――貴社は、ホームページで「DX支援サービス」を掲げています。それを見て依頼される方も多いのですか?
岸問い合わせの3~4割は、そのパターンなんですよ。やはり、DXについての関心は高いと感じます。
一方、既存のお客さまの中には、「今のままでいい」という社長もいらっしゃいますから、そういう会社にこちらからセールスすることは、基本的にありません。あくまでも、「DX支援を受けたい」という依頼があった場合に対応させていただく、というのが当社のスタンスです。
既存のお客さまに関していうと、もちろん社長がトラディショナルな経理に問題を感じて、ITツールの導入を決断することもあります。ただ、けっこう多いのが、長く経理を務めてきた人が辞めるタイミングでDX化に着手する、というパターンなんですよ。「人の採用も難しいし、何とかしてくれないか」と。
――ある意味、追い込まれて依頼されるわけですね。
岸中には、「ベテランが辞めたらお願いします」というケースもあります。先代社長とのしがらみがあって、その経理マンを切ったりすることはできない。さりとて、彼がいたのでは、DXへの移行は無理だから、というわけです(笑)。
ただ、このようなケースは、従来のやり方を丸ごと作り変えることも可能ですから、やはり効果が見えやすいんですね。「こういうシステムにしていいですか」という話をしながら進めていくわけですが、結果には満足していただけます。
――中小企業は、おっしゃるような人的なしがらみなどもあって、伝統的な手法を転換するのが難しいことも多いと思います。
岸事業承継で代替わりするタイミングで思い切ってDX化を進めるとか、きっかけも大事にすべきでしょう。
成功のカギは、ゴールを明確にすること
――一方で、「DX化で後れを取りたくない」と、焦るような気持ちになっている経営者も少なくないように感じます。導入の際に気をつけるべき点には、どんなことがありますか?
岸それについては、当社の失敗例からお話ししましょう。最初に述べたような生い立ちもあって、当社もシステムの入れ替えが好きなんですよ。しかも業務管理、人事管理、営業管理などに関して、別々のシステムを導入していたんですね。そうやって、個別に効率化を追求した結果、気づくと全社的には複雑で、高コストの仕組みができあがっていたのです。
他業種から当社に入ったエンジニアがその状況を見て、「どうしてこんなことになっているのか」と。彼がクラウド型のシステムで全体を統合したところ、よりシンプルで使いやすいうえに、コストを1/20くらいに圧縮できました。
DX化の注意点は、まず「ゴールを明確にする」ということです。当社の例に照らせば、初めから全社、全部門の業務効率アップという目的をもっとはっきりさせていたら、個別にシステム化を図るような道は、選ばなかったはずです。
――DX化は、あくまで目的を達成するための手段である、ということ。
岸そうです。その点は、私はM&Aに似ていると思うんですよ。ある会社を買収するのは、お金があればできるのですが、その後の統合のプロセスでは、経営者の力量が問われます。システムも同じで、導入して稼働させること自体は、そんなに難しいことではないかもしれません。でも、新しいツールを現場に受け入れてもらい、実際に使いこなせるようにするというのは、簡単なことではないんですね。せっかく導入したのに、肝心の社員が「笛吹けど踊らず」になったりもします。
DX化に税理士を使うメリット
――実際、システム導入後に、現場から従来のやり方を変えたくない、と抵抗されるようなこともあるようです。そのような場合には、どう対処すべきなのでしょうか?
岸なぜ抵抗したくなるのかを突き詰めると、多くの場合、やり方を変えるのが面倒くさい、というのが理由だったりします。合理的なシステムになっていれば、「実際に使ってみたら楽だった」ということになるはずなのです。
そのスタートダッシュの部分に関しては、我々のような外部の力を利用するのも有効だと思うんですよ。システムを入れた以上、ある意味無理やりにでも使ってもらう必要があります。我々は、必要な場合には、「とにかく、これでやってください」という対応もします。多少煙たがられても、数ヵ月後にはいなくなる現場ですから(笑)、システムがそこに定着して役に立ってくれさえすれば、それでいいわけです。
――確かに他社の人間に対しては、あからさまな抵抗はしにくいでしょう。説得力のある話ができる専門知識を持っている、というのが前提になるとは思いますが。
岸もちろん、現場としっかりコミュニケーションを取って、DXによる業務フローの見直しが自分たちにもメリットをもたらすのだ、ということをきちんと理解してもらうことも重要です。
――DX化のサポートを行っている企業は多くありますが、税理士事務所が業務に掲げる例は稀です。あえて他と違うメリットを挙げるとすると、どんなことになるのでしょう?
岸顧問税理士は、中小企業経営者と密接な関係を結ばないと成り立たない仕事です。それだけ、現場の生の事例が集まるわけですね。しかも、他者では知りえない会社のお金についての情報を、最初に把握する立場にいます。
そうした情報が集約され、シェアできるというのは、税理士事務所の大きな強みといえるでしょう。その強みを生かすことで、DX化においても、より現場のニーズにマッチしたきめ細かなサポートが可能になると思っています。
「DX化は必然」と考える理由
岸繰り返しになりますが、無理して業務のDX化を急ぐ必要はないと思います。やるからには、ゴールを明確にして、自社に適した方法を慎重に選ぶ必要があります。ただ、同時に、これから先のことを考えると、中小企業にとってもDX化自体は必然だと、私は思うのです。
――そう考える理由は?
大きなポイントは、若い人材の採用、育成です。今の若者は、「76世代」どころではなく、まさにIT環境の中で育った人たちです。ただでさえ就労人口が減っていく中で、そういう若者を採ろうと思ったら、古い業務スタイルのままでは難しい。若い人材を確保できないと、会社の生き残りが困難になるかもしれません。「DX化が必然」というのは、そういう意味です。
――業務効率の向上以外にも、目を向けるべきところがあるということですね。さまざまな経験を踏まえたお話は、大変参考になりました。最後に、貴社の今後の目標についてお聞かせください。
岸予算に縛られたくないので、売上などの数値目標は、特に決めていないんですよ。私自身に関していえば、できれば55歳をめどに引退したい、というのが目標です。人の成長のためには、役職や部下を付けてあげることも重要です。上がいつまでも居座っていると、会社の新陳代謝の妨げになりますから(笑)。
――今後の事務所のますますのご発展を期待しています。本日は、どうもありがとうございました。
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