法人設立は自分でもできる。でも、プロである税理士に相談した方がいい、これだけの理由【後編】 | MONEYIZM
 
白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫氏

法人設立は自分でもできる。でも、プロである税理士に相談した方がいい、これだけの理由【後編】

白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫氏
公開日:
2024/02/28

前編は【こちら】

会社を自分で設立すると起こる問題

――では、実際に会社を設立しようと決めてからすべきこと、その際の注意点に話を進めたいと思います。まずうかがいたいのは、「設立の手続きを進める際には、コストをかけても専門家のサポートを仰ぐべきなのか?」ということです。起業する人にとっては、できるだけ出費を減らしたい時期だと思うのですが。

白兼会計ソフトの大手などが、無料で法人設立を支援するサイトを用意していて、最近では、そうしたものを利用して自分で会社をつくる人もいます。ただ、法人に対する知識に乏しい人がそれをやると、設立後に後悔することが少なくないんですよ。

 

今の質問に対する答えをひとことで言えば、「法人の設立に当たっては、その分野に詳しい専門家、税理士に相談することを強くお勧めします」ということになります。

――自分で法人を設立して、後悔することというのは?

白兼一番の問題は、そうしたサイトを頼って設立しようとすると、どうしても会社の中身が「定型化」してしまうことです。本来、会社はその人のやろうとする事業の特徴に最適なものにデザインすべきなのですが、そうならないことが多いのです。

 

実際、自分で会社をつくった方の顧問になったこともあるのですが、やはり定款にいくつかの問題が見受けられたりしました。定款というのは、会社の組織や運営に関する規則などを定めた「会社の憲法」ともいわれるもので、設立の際にも、最も重要な文書の1つです。それだけに、内容に問題があると、スムーズな事業運営に支障をきたすことになりかねません。設立後に修正は可能ですが、あらためて法務局での修正登記が必要になる場合は、追加のコストが発生します。

定款の「事業目的」や「資本金」に注意

――専門家から見た「定型化」の問題点を、少し掘り下げて説明してください。

白兼定款には、法人の「事業目的」を書く必要があります。当然、そこに記載された内容以外の事業を行うことはできません。別のことをやるためには、今の修正登記を行うことになります。

 

一方、法人設立後の事業の展望などをよく考えて、将来始める可能性のある事業を初めから書いておけば、修正の必要はなくなります。仮にその事業を行わなかったとしても、特に問題になることはないんですね。

――やはり会社をつくることばかりに目がいっていると、そこまで頭が回らないかもしれません。

白兼法人の「資本金」をいくらにするかも、それぞれの事業内容などに合わせて、きちんと検討すべき項目です。「1円起業」が可能だとはいっても、あまりに資本金が小さいと、対外的な信用度などの点でデメリットになる場合もありますから。

 

ただし、これについても、何か基準があるわけではないのです。最も注意すべきは、メインの取引先が資本金を気にするのかどうか、ということでしょう。業種などにもよりますが、資本金の額によっては、取引に当たって決算書の提出を求められるような場合があります。取引自体を断られることも、ないとは限りません。そのような相手の場合には、設立前に率直に話を聞いて、金額を決めるのがベストだと思います。

 

また、資本金の額は、銀行からの借り入れ限度額にも影響します。会社設立後の早い時期に融資を受けたい場合には、ある程度の資本金を積んでおく必要があるでしょう。

――資本金に関しては、逆に金額が多ければいいというものではない、という話も聞きます。

白兼その通りで、基本的には「1,000万円未満」をお勧めします。このラインを超えると、税法上のデメリットが出てくるからです。

 

1つは法人住民税という税金です。この税には、所得金額×税率で計算される「法人税割」と、所得金額に関係なく、たとえ赤字でも一定に課せられる「均等割」があります。このうち均等割の納税額が、例えば従業員50人以下の会社の場合、資本金1,000万円以下なら年に7万円、それを超えると18万円にはね上がるのです。

――年間10万円以上の差になるのは、大きいと思います。

白兼もう1つが消費税です。消費税は、売上高が1,000万円を超える事業者が課税対象ですが、新たに会社を設立した場合には、要件を満たせば、設立2期目まで申告・納税は不要です。実はこの要件の1つが、「資本金1,000万円未満」なんですよ。これを超えた資本金でスタートすると、設立初年度から消費税が課税されて申告・納税が必要になるわけです。

 

なお、2023年10月から、消費税のインボイス制度がスタートしました。インボイス登録(適格請求書発行)事業者になった場合には、売上高や資本金に関係なく、消費税の申告・納税の対象になります。

「決算月」は「税理士の事情」を考慮するのもポイント

 

白兼個人事業では、毎年12月が「決算月」となりますが、法人はそれを自由に決めることができます。一般的には、3月や12月、あるいは設立1年後の月を決算期にすることが多いのですが、これも深く考えずに「右に倣え」で決めてしまうと、不都合が起こることがあります。

――売上に季節性がある場合などには、繁忙期は避けるべきだといわれますね。

白兼そうです。売上の多い時期が期末に来てしまうと、先を見た節税対策もやりにくくなりますから。そのうえで、というお話になるのですが、決算月はできれば税理士の繁忙期も避けるべきです。

 

個人の確定申告の業務を行う2月~3月半ばと、3月決算の会社の申告が集中する4月~5月あたりは、どこの税理士事務所も多忙です。だから手を抜くというわけではないのですが、時間に余裕のあるときのほうが、お客さまに対してより丁寧に接することができるのは確か。私の場合は、繁忙期を避けて決算月を設定されているお客さまの顧問料は、多少割引させていただきます。

――なるほど。申告を依頼する相手の事情を考慮することで、納税者はよりよいサービスを受けられる可能性が高まるのですね。

白兼特に問題がない場合には、閑散期の申告をぜひ検討してほしいと思います。そうしていただけると、税理士もとても助かります(笑)。

何より大事な「資金計画」

――会社の設立に当たって、そのほかに特に気をつけるべきことはありますか?

白兼そもそも会社といっても、主に「株式会社」と「合同会社」がありますから、どちらにするのか、という問題があります。

 

節税を主な目的に法人をつくるのならば、私は基本的に合同会社をお勧めしています。設立コストが安くすみ、手続きも比較的楽で、税金メリットは株式会社と変わりません。設立後についても、株式会社は役員の任期が通常2年・最長10年で、再任するにはそのたびに法務局で登記をしなくてはならないのに対し、合同会社はその必要がない、といった点で負担が少ないのです。

 

ただし、合同会社には、出資者が役員として会社に入らなければならない、という決まりがあります。例えば、親や知人から出資を受けて、経営は自分でやるというような場合には、株式会社にしなくてはなりません。

 

ところで、そうやって会社の形が整い、やるべきことが定まっても、それで経営がうまくいく保証はありません。肝心のお金が回らなければ、事業の継続は難しくなってしまいます。法人設立の際に、ある意味最も大切で気をつけるべきことは、スタート期の資金繰りといえるのではないでしょうか。

――確かに、その見通しが甘いと、「こんなはずでは……」ということになりかねません。

白兼社会保険料の話をしましたが、法人になると、想定しなかった支出が発生したりもします。問題なく会社を立ち上げていくために、そうした支払いリスクを漏れなく把握したうえで、概算でもいいので1~2年を見通した資金計画を、事前に作ってみるべきだと思います。

 

例えば、設立時にどれだけのお金が必要になるのか。それを自分で賄うのか、出資を頼むのか、借入を考えるのか。一方、事業の売上が上がってくるのは何か月後で、手元資金はいつごろから、いくらくらい使えるようになるのか。設備投資などに、補助金を活用できるのか。私の場合は、そうしたシミュレーションを基に、お客さまといっしょに「資金繰り表」を作成するようにしています。

法人設立は、「その後」のことも考えて税理士に相談する

――お話をうかがって、法人設立については専門家に相談すべきだということが、よくわかりました。

白兼あえて申し上げておけば、専門家の中でも、まず税理士に声をかけていただきたいのです。会社の設立には登記が必要だといいましたが、この設立登記の申請を行える士業は司法書士で、税理士にはできないんですね。そのため、司法書士に設立のアドバイスを求める方もいます。

 

ただし、司法書士は、税務や経理のプロではありません。会社をつくるときだけのお付き合いでもあります。これに対して税理士は、設立後に顧問契約すれば、会社が存続する限り関与することになるでしょう。会社の設立に当たっては、そういう将来を見通したサポートができるのです。長い目で見たときに、無駄なコストを削減することにもつながるはずです。

――確かに資本金や決算月の決め方などは、税理士でないと正しいアドバイスは難しいでしょう。

白兼法人設立に詳しい税理士ならば、司法書士など必要な専門家とのネットワークがあります。そういう税理士に依頼すれば、実質的にワンストップのサービスを受けることができるはずです。

 

ちなみに私は公認会計士の資格があるので、やろうと思えば、設立登記の申請が可能です。でも、そこは「餅は餅屋」なので、多くはお客さまから必要な情報をいただいたうえで、司法書士に登記を依頼するようにしています。

――会社設立について役立つお話を、数多くうかがうことができました。最後に、事務所の今後の目標をお聞かせください。

白兼おかげさまで、この4年間、順調に顧問先を増やすことができました。1人でできることは限られますから、将来的には有資格者を雇って、規模の拡大を目指したいと思っています。

 

ビジネスとしては、平日夜間も土日でも、困ったことがあればいつでも問い合わせOKの「かかりつけの税理士」を売りにしています。今後もそのスタンスで、多くのお客さまのお役に立ちたいと考えています。

――ますますのご活躍を期待します。本日はありがとうございました。

白兼公認会計士・税理士事務所 代表 白兼道夫氏
大手監査法人、会計事務所、民間経理での勤務経験を経て独立。税務顧問、法人設立支援だけではなく、補助金・事業計画書の作成支援や会計ソフト導入支援まで、幅広く経営者をサポートする。公認会計士・税理士である代表がお客様を直接担当している、相談がしやすい「かかりつけの税理士」。
URL:https://cpa-shirokane.com/
取材:マネーイズム編集部、撮影:世良武史