
【事業再生 後編】事業再生のポイントは金融機関からの融資 “税金の支払いは信用力の証“ 税金は経費と考える
税理士法人ファミリア大阪事務所 所長 永井成武氏金利の考え方にも誤解がある
――事業再生は、金融機関から融資を受けられるかどうかが大きなポイントになる、というお話ですが、当然、借り方などにも注意点があると思います。どんなアドバイスをなさるのですか?
永井 これもいろいろあるのですが、例えば金利です。金融機関から融資を受けようとするときに、多くの人はできるだけ金利の安いところを選ぼうとしますよね。これも当然で、私も個人的に住宅ローンを借りようとすれば、そうするでしょう(笑)。
ただ、資金の融資を受けて事業を回していく場合、借入金額が同じでも、「金利1%で5年返済」と、「2%で10年返済」を比べたら、会社にとっていいのは、明らかに後者なんですね。毎年出ていく額はもともと半分で済む。それに、金利が倍といっても、返済すれば元金は減っていきます。返済の負担も減っていきますから。
住宅ローンと違って、会社は借りたお金で「商売」をします。借入が一気に収益に反映するならいいのですが、普通はそうはなりません。なるべく月々の返済額を抑えながら、事業の成長を図っていくというのが、多くの場合、正解なのです。
――無理のない資金繰りのためには、返済額の負担に目を向けることも重要なのですね。
永井 実際には、「すでに借入が多くて毎月の返済がままならない。どうにかなりませんか」というケースもたくさんあります。そういうときに取れる手段の1つが、他の金融機関からの借り換えなのですが、当事務所の場合は、そうした銀行折衝にも直接関与します。その結果、単に借り換えるだけではなくて、月々の返済額を大幅に減額して、資金繰りを改善できるケースもあるんですよ。
まあこれは、一般的にやられることだと思いますが、例えば今借りているA銀行と、別のB銀行を「ぶつける」わけです。それで、返済の条件などを競わせる。もちろん、返済額の減額には、それなりの根拠も必要になりますが。
――根拠とは、たとえばどのようなものですか?
永井 結局は、さきほどもお話しした「適正な会計処理」ができているか、要するに無理な経費計上をしたりしていないか、ということが、1つ重要なポイントになると思います。そうなっていない場合には、必要なアドバイスをさせていただくこともあります。
――やはり「金融機関から受けのいい会社」の基本は、変わらないわけですね。
永井 そうです。そういう会社ならば、私たちも自信を持って金融機関との交渉に臨めますから。
「リスタート」もサポート
――これまで多くの事業再生案件を手掛けてこられたと思いますが、印象に残るものはありますか?
永井 どれも印象的で、これというのを選ぶのは難しいですね(笑)。お話ししてきた事業再生とは、少し意味合いが異なるかもしれませんが、事業を1からリスタートさせるお手伝いもしたことがあります。

――リスタートというのは?
永井 事業に失敗して廃業したり、自己破産した経験があったり。それでも、もう一度事業がしたい、という人がいるわけです。しかし、そうした「過去」があると、金融機関から再びまとまった融資を受けるのは、難しくなります。
――日本では、一度事業に失敗すると、再チャレンジは困難だといわれますね。
永井 ただ、そういう場合でも、設備資金や長期運転資金の借り入れができる日本政策金融公庫の「再チャレンジ支援融資」(再挑戦支援資金)という制度があるんですよ。けっこう知らない人もいるのですが、それを利用して、実際に第2のスタートを切ることに成功した案件がいくつかあります。
とはいえ、他の金融機関が融資NGの人に貸すわけですから、審査のハードルは、当然高くなります。
――再び立ち上げた事業の可能性や、返済能力が厳しく問われそうです。リスタートを成功させるポイントみたいなものは、あるのですか?
永井 もちろん数字面での条件などはあるのですが、高いハードルを越えるのに不可欠なのは、絶対に成功させる、という社長のやる気。加えて、それをサポートする人間のやる気です。
宣伝のようで恐縮ですが、当事務所はそうした相談を受けると、開業前からその方の片腕になって、フォローします。ごく簡単に言えば、審査の通りやすい会社の設立をお手伝いし、タイミングを計って申請を行うわけですね。そうやって、首尾よく融資が通り、再出発のお手伝いができたときには、私たちも大きな喜びを感じます。
「銀行の視点」で見る
――お話をうかがっていると、率直に金融機関に強い事務所だな、と感じます。そうした強みは、どのようにして構築してこられたのでしょうか?
永井 完全に個人的な話になってしまうのですけど、この地で事務所を開設して、まだお客さんの少なかったころ、地元の会社で経理のお手伝いをしていたのです。その会社は、当時10行くらいの金融機関から借り入れをしていたのですが、社長が非常に銀行折衝の上手な方でした。まさに銀行の受けがよくて、担当者がしょっちゅう会社に来ては、食事に行ったりしていたんですよ。
そんなところに私も混ぜてもらって、いっしょに話をしているうちに、彼らと仲良くなって、仕事を紹介してもらえるような関係になったわけです。そういうところからスタートしましたから、うちは普通の税理士事務所とは、成り立ち自体が違うと言っていいでしょうね。現在、金融機関ときわめて近い関係を築いているのは、そういうルーツがあるからです。
――なるほど。そうしたバックボーンがあったんですね。
永井 ですから、どちらかというと、お金を借りる側というより、「こうしたら貸せるのではないか」という銀行目線で考える変わった税理士なのです(笑)。
経理として借りる側の実務を経験したのも、今から考えれば、大きかったと感じます。社長の銀行折衝がうまいといっても、資金繰りは楽ではなかったですから、どうやって銀行から借りるのか、さんざん知恵を絞って。そういう現場の仕事は、非常に勉強になりました。
税理士の本来の仕事は、出てきた数字をどう処理して、申告するか。でも、私は数字を生み出すところで実際に仕事をすることができましたから。
――「銀行目線」というお話がありましたが、金融機関が会社のどういうところを見るのか、というのも経営者にとっては気になるところです。
永井 これは単純明快で、返済能力です。金利も含めてちゃんと返してもらうのが彼らの仕事ですから、そこはシビアでもあります。
当事務所は融資に実績があると聞いて、無理なオファーをなさる方も、中にはいらっしゃいます。例えばですが、数億の土地を買いたいので、融資を頼めないか、といった依頼です。では、と今の会社の収益をうかがうと、売上が3,000万円で利益は300万円程度です、とおっしゃる。どう考えても銀行の審査を通るわけがないのだけれど、ご本人には、その当たり前の話がわかってないんですね。そんな経営者の方が時々います。
そういう方に限って、一応、土地を買ってどうするのかうかがってみると、事業とは直接関係のない投資目的だったりするわけです。確かに土地の価格が上がっている地域もありますが、今から買って利益が出る保証はありません。当事務所の力をもってしても、それで融資を引き出すのは、まず不可能です(笑)。
――そのあたりのことは、軽く考えないほうがよさそうです。
永井 反対に、返済能力に問題のないことがわかれば、月々の返済金額の減額などに応じてもらえる可能性があるでしょう。我々は、そうした視点から銀行折衝を行います。
頼れる専門家に相談する
――あらためてですが、貴事務所は、ホームページで、「本来の事業再生は、会社をつぶし、経営者の人生を更地にしてしまうことではありません」と述べています。
永井 いろいろお話ししてきましたが、現実には、会社の業績が悪化して資金繰りが厳しくなると、顧問税理士さんなどから事業の縮小、精算の方向に誘導されることが少なくないんですよ。みんな表面的な数字などを見て、諦めてしまう。
当事務所には、そういうふうに、ある意味見切りをつけられて、困って相談に来る経営者の方も多くいます。でも、会社の中身をよく調べてみると、まだまだいけるじゃないか、というケースが少なくありません。
――ピンチになったときには、それに対応してもらえる専門家を選ぶのも、大事になりそうですね。どのようにして探したらいいのでしょうか?
永井 当社もホームページでアピールしていますけど、「事業再生に強い事務所」とうたっているから100%信用できるかといえば、どうでしょう(笑)。実際に実績があるのかどうかといったところは、よく調べてみるべきだと思います。
金融機関に相談してみるのも、1つの方法です。彼らは、いろいろなネットワークを持っていますから。あとはビスカスさんのような税理士紹介会社を利用するのもいいでしょう。

――ありがとうございます。本日は、貴重なお話をうかがうことができました。最後に、貴事務所の今後の展望をお聞かせください。
永井 ここも他の事務所と違うところかもしれませんけど、規模的な拡大というより、メンバーの一人ひとりが、真のプロに成長していけるような事務所にしたいですね。税務はもちろん、お客さまの要望があれば、お話ししたような銀行折衝もできるし、ややこしいM&Aなんかもこなせる。そんな専門家集団を束ねるのが私の夢で、現状はそれに近づきつつあると思っています。
――ますますのご活躍を期待しています。
「わかりやすく」「見える」「全力投球」を経営理念に掲げ、税務・会計の専門家として経営者に寄り添う専門家集団。事業再生・銀行折衝・資金繰りを得意とし、大阪エリアを中心に中小企業をサポートする。
URL:http://familiaosaka.net/

