
【DX化 後編】“DX”に振り回される必要はない 業務改善の先に真の価値向上を見据える
松﨑会計事務所 所長 松﨑雄太氏DXで経理の作業量を9割削減
――前編でお話しいただいたようなDXの考え方に基づいて、多くのお客さまをサポートしていらっしゃると思います。教訓となる事例はありますか?
松﨑 わかりやすい改善例を紹介しましょう。売上が数千万円の建設業のお客さまなのですが、経理業務をデジタル化した結果、導入したシステムの利用料を上回るコスト削減を実現し、作業量に至っては、9割以上の削減に成功したんですよ。
――それはすごいですね。
松﨑 元々、経理はベテランの職員が1人でほぼ手作業でやっていて、データの三重入力も発生していました。内容的にも、例えば領収書なしの経費が計上されていたり、消費税が抜けていたり。とにかく作業量が膨大で、細かなところまで手が回らない、という感じでした。
――外からみると、まさにDX化が必要なケースですね。
松﨑 でも、そのベテランの職員の方は、省力化のためのデジタル化への対応にはかなり消極的でした。そこで、まずは、「資料をまとめてスキャンするだけ」という “丸投げ”方式で改善を進めることにしました。
具体的には、AI-OCR(文字認識技術)で読み取った文字や数値をデータ化して記帳までする機能を備えたITツールを導入し、データを重複入力していた部分などはきれいに仕組化して、すべて自動化したのです。ITツールから自動で会計ソフトに組み上げられたものを人がチェックして、毎月の試算表をスムーズに作成するという仕組みを構築しました。
――システムの導入には、どのくらいの時間がかかったのですか?
松﨑 導入自体は、2、3日です。とはいえ、実際に経理のやり方を切り替えるまでは、けっこう大変でした。担当の方は、「今さら従来のやり方を変えたくない」というのが本音。ですから、最初は難航したのですが、この会社にとって今何が必要で何が不要なのか、システム導入によって業務はどう改善されるのか、などを丁寧に説明して、納得していただきました。
一歩一歩、小さな成功体験を積み重ねる

――今のお話にもありましたが、特に中小企業の場合には、年齢的にITに不慣れな社員の方にどのように協力してもらうのか、というのもDX推進の課題になっていると感じます。
松﨑 たしかにその問題はありますね。大企業のように、ドライに配置転換したりすることも難しいことが多いですから。
以前、売上数億円規模の製造業の会社の業務改善を任されたことがあります。その会社もあらゆる面で仕組み化が遅れていて、社長といっしょになっていわゆるDX化を進めたわけですが、最初のうち、現場からはやはり抵抗を受けました。
――「今さら従来のやり方を変えたくない」という思いもあるでしょうし。
松﨑 そういう時は、粘り強く話をするとともに、実際にITに触ってもらうことも大事なんです。例えば、棚卸の際に、前はいちいち在庫を数えていた作業が、リーダーをバーコードにかざして「ピッ」で終わってしまう。「あ、これは便利じゃないか」と、そこでハードルを1つ超えられるわけです。
いきなり「業務改善のために、ITツールを導入します」というやり方をしても、現場から抵抗を受けるだけで、なかなかうまくいかないでしょう。それで会社の雰囲気が悪くなったり、会社を辞めますと言われたら、たまりませんよね(笑)。特に中小企業のDXの推進には、一歩一歩、計画的に小さな成功体験を積み上げていくことが重要です。
「効率化」は目的ではない
松﨑 私の中で印象に残るいわゆるDX化の成功例が、もう1つあります。医療・介護関連事業を展開する会社なのですが、職員ゼロ、顧客もゼロで開業し、法人設立2年目にして、数千万円規模の粗利を達成したんですよ。
年もまだ若い社長ですが、地道に「自社の課題の発見と解決」を繰り返し、結果的にそれだけの実績を上げました。私も毎月訪問してお話しさせていただいているのですが、数字に強くて、業務改善について高い意識を持っている。
――さきほどお話になった「志」がしっかりしているわけですね。
松﨑 同社も、何か特別なDX化プロジェクトを立ち上げたりしたわけではありません。これも、課題解決に必要な手立てを選択してきた結果として、同業他社はもちろん大企業にも引けを取らない業務のデジタル化を実現し、効果的に使いこなしているのです。
DXで実現できるのは、いうまでもなく業務の効率化、コストの削減です。同社の場合、コストに関しては、経費の「見える化」を徹底し、大きな成果を生みました。
――そうした仕組み作りが、利益の向上につながったのですね。
松﨑 ただし、DX化の意味は、単に効率化やコストの削減だけではありません。業務を効率化すれば、時間が生まれます。その時間は、お客さまへのフォローアップや新たな商品、サービスの開発といった、より付加価値の高い活動に振り向けることができるはず。
業務改善の目的は、そうやって自社の価値を高め、それをお客さまに提供し続けることにあるべきだと思います。今の事例の会社は、まさにそうした取り組みを実行したからこそ、他社との差別化に成功し、驚異的な成長を達成することができたわけです。
アナログの重要性にも目を向ける
――「IT化を目的にすべきではない」という指摘もありました。逆にいえば、DX推進とはいえ、アナログが大事になる場面もあるということですね。
松﨑 その通りです。繰り返しになりますが、やるべきことは、課題の把握であり、その解決です。お客さまと話すときには、そういう目的に照らして、紙のままがよければ、そうします。費用対効果も考慮しつつ、デジタル化するのが最適だという結論になったら、そっちに舵を切るわけです。
――あえてアナログというか、手作業のほうがいいのは、どんなケースが考えられますか?
松﨑 最も大きな要因は「コスト」ですね。特に売上規模が小さな会社では、たとえ数万円の出費でも痛いですから。デジタル化で多少効率化できても、その投資に見合ったものでなければ、「当面は、アナログで行きましょう」とアドバイスすることもあります。アナログであっても、無駄を削ぎ落として仕組み化を徹底すれば、中途半端なデジタル化よりも高いパフォーマンスを発揮することさえあります。
また、別の視点でお話しすると、社会のデジタル化が進めば進むほど、人間ならではの温かみのある対応や、マニュアル通りではない創造的な提案といったものの価値は、相対的に高まるんですね。「人間にしか生み出せない付加価値」といえばいいでしょうか。
――たしかにそうだと思います。
松﨑 DXによる効率化で生まれた時間は、そうしたことを磨くために使うべきだと思うのです。例えば、経営に欠かせない予算編成を例にあげます。最近では過去のデータをAIに読み込ませれば、自動で予算案を作成してくれます。しかし、それはあくまで「計算結果」に過ぎませんよね。
地域の環境変化、来期の設備投資、営業戦略、税金対策、そして働く職員一人ひとりのスキルや適性。さらには、社長が抱く「来期はこうしたい」という熱量。これらを加味し、目標数値に「意志」を吹き込んで初めて、生きた予算になります。中小企業の社長は多忙ゆえに数値を軽視しがちですが、この「数値を練り上げるプロセス」に時間を費やすことこそが、企業成長に繋がります。
人間にしかできない付加価値にリソースを集中させ、持続的な成長を実現する。これこそが、DX推進の真の目的です。
AI時代、求められるのは「機械との対話力」
松﨑 同時に、デジタル化を進めていくと、機械に対しても「思いやり」が求められるようになります(笑)。
――それはどういうことですか?
松﨑 例えば、Excelには、複雑な処理を自動化・効率化できる「VBA」(Visual Basic for Applications)という仕組みがあります。ところが、人間が見やすくするために色付け判定したり、セル結合したりということをやりすぎると、逆に機械には「見えにくく」なって、せっかくの機能が十分に活かせなくなってしまうんですね。
これはあくまでも一例ですが、デジタル化の効果を最大化しようと思ったら、「機械が見たらどう思うか」ということも意識して、うまくコミュニケーションをとっていく必要があるのです。
――やはり、デジタル化すればそれで終わり、という話ではなさそうです。
松﨑 これからは、AIの活用がますます広がっていきますから、なおさらです。ビジネスでも生成AIを使うシーンがあると思うのですが、どれだけ彼らにわかりやすい言葉で、やってもらいたいことを的確に指示できるかどうかで、成果に大きな差が生まれるでしょう。
さらに、その先をいえば、「AIに理解されやすい情報発信」がテーマになります。最近はユーザーの質問に対する検索にもAIが関与します。そうなると、自社のウェブサイトや製品情報などを生成AIが正しく理解できるか、ユーザーに推奨してくれるように情報が整理・最適化できているかが、大きな意味を持つことになるわけです。
――なるほど。まさにAIとのコミュニケーションですね。
会社の現状を知る顧問税理士に相談する
松﨑 AIの話題にまで及びましたが、世の中の流れとしても、さらにデジタル化、クラウド化が進んでいくのは間違いありません。ビジネスを取り巻く環境がこれほど変化している以上、こうした技術革新と完全に距離を置いたまま経営を続けるのは、現実的ではないと言えますよね。

――DXを進めたいと考えた場合、誰に相談すべきでしょうか?
松﨑 まず、DXという取り組みは、あくまで社長と社員がいっしょになって、社内で進めていくものだ、という点を確認する必要があるでしょう。初めから外部のコンサルタントやITベンダーに頼るのは、あまりお勧めできません。
DX化の第一歩が「現状把握」だとすれば、最初の相談相手は、会社の経営状況を一番理解している顧問税理士になると思います。現状把握がある程度できれば、次のアクションも見えてくるはずです。
――DXの基本認識から、IT化のノウハウに関することまで、今日は非常に参考になるお話をうかがうことができました。最後に、貴事務所の今後の展望をお聞かせください。
松﨑 当事務所もITを最大限に活用して、生産性と付加価値の向上を図りながら、その成果をお客さまに還元できるよう、一層努力していきたいと思っています。
創業間もない企業にはリーズナブルかつ高品質な会計税務サービスを、成長軌道に乗った企業にはより付加価値の高い経営支援サービスを、というかたちで、成長のステージに合わせた最適なサポートに心掛けていきたいですね。
――ますますの成長を期待しています。本日はありがとうございました。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
現プライム上場企業の経営企画部、大手監査法人を経て独立。スタートアップの会社を中心に、会計・税務だけでなく経営戦略の策定支援、DX支援、経営管理体制支援など戦略的アドバイスも提供し、顧問先の成長をサポートする、『お城の街』姫路市の会計事務所。
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