
【相続 前編】生前の「譲渡所得」に要注意 相続税の税務調査で「狙われやすい」ポイントとは
長谷川清太税理士事務所 所長 長谷川清太氏被相続人(亡くなった人)が多くの財産を残した場合には、相続税の申告に問題が見つかると、追徴課税も高額に上る可能性がある。税務署は、どんな相続(申告)に目を光らせているのか、間違いのない申告のために注意すべきこととは? 今回は、静岡市に事務所を置く長谷川清太氏(長谷川清太税理士事務所所長、税理士)に「相続税の税務調査」について、話をうかがった。
記事では、「前編」で相続税申告に対する調査の現状について、「後編」で調査の事例、相続に当たって注意すべきことなどを中心にまとめた。
重要になる不動産と自社株の評価
――最初に事務所の概要からお聞かせください。
長谷川(敬称略) 現在、私も含めて10名ほどの体制です。国税OBも在籍しておりまして、税務調査に強いのも当事務所の特徴だと思っています。
関与先のお客さまは、静岡市近隣を中心に、法人、個人合わせて200件ほどですね。建設業、製造業、小売業など業種は多岐にわたります。

――相続税の申告に関しては、年に何件くらい扱っていらっしゃるのですか?
長谷川 年によってバラつきはありますが、5件~10件程度ではないでしょうか。大半は、クライアントで発生する相続、事業承継をお手伝いする、というパターンです。
相続税の申告で最も重要なのは、不動産、特に土地なんですね。これをどう評価するかによって、支払う税金の金額は大きく違ってきます。
あと、法人経営者の方だったら、自社株です。やはり、できるだけ評価額を下げるなどの手立てを尽くして、後継者がスムーズに引き継げるよう、サポートしています。
税務調査になるのは、相続税申告の6%弱
――では、本日のテーマである「相続税の税務調査」について、うかがっていきたいと思います。コロナ禍中では、対面の調査が困難になったりもしましたが、このところの相続税の税務調査の傾向について、教えてください。
長谷川 そうですね。そもそも実際にどのくらいの調査が行われているのか、現状からみておきましょう。
国税庁は、毎年相続税の申告とそれに対する調査の概要を公表しています。以下、2024年度のデータを基にお話しします。
相続は、いうまでもなく人の死によって発生しますが、この年に亡くなった日本人は、およそ161万人いました。そのうち、相続税の課税対象となり、申告が行われたのは、約16万7,000件。つまり、率にして10.4%でした。
――相続税には基礎控除(※)があり、被相続人の遺産額がそれ以下ならば、非課税です。遺産がそれを上回り、課税されたのは、発生した相続全体の約1割だったということですね。
※相続税の基礎控除額 「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。相続税は、これを超えた遺産額に課税される。
長谷川 そうです。ちなみに、その基礎控除は、2015年に今の水準に引き下げが行われ、課税対象となる相続が増えました。引き下げ直後の課税割合は8%くらいだったのですが、その比率は毎年わずかずつ上昇して、2024年度に初めて10%を超えたんですよ。ただし、それでも相続税が課税されているのは、全体の1割程度なのです。
さて、問題の税務調査ですが、2024年度には年間9,512件が実施されました。申告件数のうち、約6%が調査になった計算です。相続全体からみると、0.6%ですね。ですから、頻繁に調査に入られるといった状況にはないのですが、調査件数自体は、前年度に比べて1割ほど増えています。
――税務調査の対象になった場合に気になるのが、その結果どうなるかです。
長谷川 2024年度に関しては、税務署に申告漏れなどを指摘されて、追徴課税(※)になったのは、調査件数全体の82.3%で、1件当たりの追徴税額は、約867万円に上りました。
※追徴課税 税務署に申告漏れなどを指摘されると、税の不足分に加え、「過少申告加算税」、「重加算税(悪質な脱税があった場合)」などの加算税と延滞税が課せられる。
――いったん調査になると、かなりの確率で「追徴」になり、その金額も高額になる可能性が高いようです。
長谷川 そうした傾向も、数年来変わっていません。なお、今お話したのは、調査官が自宅などに出向く「実地調査」の概要です。これとは別に、⽂書や電話、あるいは税務署に来署を依頼されたりするかたちでの調査も行われているんですね。「簡易な接触」というのですが。
こちらも年々件数が増加傾向で、2024年度には、前年度比11.7%増の21,969件が行われています。いろんな手段を駆使して調査の幅を広げたい、という当局の意図が感じ取れます。
――納税者としては、そうしたことも意識しておくべきでしょう。
どんな相続が「狙われやすい」のか
長谷川 とはいえ、税務署にもマンパワーの限界がありますから、手当たり次第に実地調査を行う余裕はありません。言葉は悪いのですが、ある程度「怪しいな」と目星をつけたところに、調査に入るわけです。
――さきほどの国税庁の公表文書にも、「資料情報等から申告額が過少であると想定される事案等について、相続税の実地調査を実施」とありますね。どのようなケースがターゲットになりやすいのでしょうか?
長谷川 いろいろな切り口があると思いますが、そこにもあるように、まずは当局が把握している被相続人の資産に関わるデータと、提出された相続税の申告書の数字が、明らかに整合性を欠く場合ですね。

生前、普通のサラリーマンだった人の場合を考えてみましょう。さきほど話に出たように、相続税には基礎控除がありますから、よほど高給取りだった人でなければ、相続税が発生したとしても、そんなに高額なものにはならないかもしれません。ただし、例えば親からもらった不動産を売却して利益を得たりしていれば、話は別です。
――通常の給与とは違う所得があった場合ですね。
長谷川 税務署は、そうした所得もちゃんと捕捉しています。不動産や株などを売却して利益が出た際には、譲渡所得税の申告をしなくてはなりませんよね。
――サラリーマンでも確定申告が必要です。
長谷川 そうすると、そのときどのくらいの利益があったのかの記録が、当局の手元に残るのです。相続の際には、個人課税に関するデータが検索され、そのように過去に大きなお金が動いた痕跡が見つかると、当然注目されることになるでしょう。
お金は使えば目減りしていきますから、世帯の状況を考慮した生活消費支出の累計を、そこからマイナスカウントします。そうすると、「相続発生時には、おそらくこれくらいの財産が残っていたはずだ」という試算が出る。
その数字と申告書に記載された相続財産に大きな隔たりがなければ、もちろん問題ありません。しかし、そうでなければ、「どうしてなのか、調べてみよう」ということになりやすいわけです。
――被相続人が生前、高額の譲渡所得を得ていたような場合には、特に注意が必要だということですね。
長谷川 被相続人が企業経営者だったり、役員だったりして、数千万円単位の年収を得ていたようなケースも、考え方は同じです。申告を基にした財産額から、富裕層にふさわしい生活費をマイナスして相続財産の規模を推計し、申告額がそれと比べてあまりに低すぎたら、税務調査のターゲットになる可能性が高まるでしょう。
このように、税務署は自ら持っている被相続人の所得データなどを基にフィルタリングを行います。その結果、申告書の中身に疑問を抱いて調査に入るのが、申告件数の約6%ということです。
――相続対策を考えるうえでも、税務署は被相続人のあらゆる所得を把握している、ということを前提にすべきでしょう。
「後編」では、相続税の税務調査の事例も紹介しつつ、相続の注意点などについて、引き続きお話をうかがいます。
「お客様の満足が私達の満足」をモットーに、中小企業を支える静岡の税理士事務所。相続税対策、事業承継対策、新規事業支援、情報システム化支援を得意とし、経営者のお悩みに幅広く対応。
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