
【事業承継 前編】事業承継、M&Aは「経営者の思い」を理解する専門家に相談する
税理士法人トレイス 焔綜合会計事務所 代表社員 佐野元洋氏“後継ぎ”が見つからず、廃業に追い込まれる中小企業が増えている。親族や従業員に後継者がいない場合、M&Aが選択肢になるが、成約条件などをめぐるトラブルも増加しているのが現実だ。事業承継を成功させるために考えるべきことは何か、大阪市に拠点を置く税理士法人トレイス 焔綜合会計事務所の佐野元洋代表社員に、豊富な事例も含めてお話しいただいた。
記事では、「前編」で事業承継の実態、M&Aの事例を、「後編」で成功に導くポイントなどを中心にまとめた。
継続する「2025年問題」
――事務所の概要から聞かせてください。
佐野(敬称略) もともとは、2003年に個人で焔綜合会計事務所と、かなえ経営という会社を設立して、2014年に税理士法人トレイス(現在、大阪・奈良に4拠点)に参画したかたちです。
トレイス大阪北事務所として運営している当事務所は、現在11名の陣容で、税理士は4名在籍しています。お客さまは法人が200弱、個人が300くらいでしょうか。税務顧問の業務に加え、いわゆる「未来会計」に基づく経営支援、相続・事業承継を次の柱に位置づけて、取り組みを強化しています。
――本日は、その事業承継について、おうかがいしていこうと思います。いぜんとして中小企業にとって重要な課題になっている事業承継ですが、最近はどんな状況にあるのか、お聞かせください。
佐野 日本では、戦後すぐに生まれた団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」が、ずっと指摘されてきました。事業承継の観点から言えば、全国の中小企業360万社のうちの2/3に当たる240万社で、経営者が後期高齢者になり、うち126万社で後継者がいないか、未定のままなんですね。

2025年は過ぎましたけど、こうした構造的な問題は、何ら解消されていません。ちなみに、コロナの融資の返済が始まったこともあって、昨年は企業の倒産件数が1万件を超えました。ただ、表に出ない休廃業は7万件ともいわれていて、このままだと日本の中小企業がどんどん消えていってしまう。そういう意味でも、次の担い手づくりというのは、ますます重要なテーマになっていると感じます。
後継者は親族が最適とは限らない
――貴事務所のお客さまからも、事業承継の相談はけっこうありますか?
佐野 そうですね。逆に当事務所では、経営者が50代くらいになってきたら、私からも、それぞれの担当者からも、「承継についてはどう考えていますか?」という投げかけを必ずします。そのうえで、後継者が決まっていない場合には、まずは親族に候補者がいるのかどうか、からお話をさせていただきます。
仮に子どもがいない場合には、「甥や姪や従妹の子どもなども含めて適任者はいないのか、いったん家系図を書いてみてください」とアドバイスしたりもするんですよ。そうすると、「あ、この子がいた」なんていうこともあります。
実際、そういう経緯で、大企業のサラリーマンを辞めて、後継候補としてお客さまの会社に入社した人もいます。社長としてやっていけるのか、資質を見極め中という段階ですが。
――可能性があるのなら、やはり親族内の承継を目指すべきなのでしょうか?
佐野 現社長の思いとしては、できれば身内に継がせたい、という思いが強いと思います。ただ、身内がいるから継がせるのが正解かどうかは、正直わかりません。
中には、「社長というのは、なんとなくかっこいいから」「とにかくお金が稼げそうだから」というような理由で後継ぎになろうとする人もいます。でも、そういうタイプの人がトップに立つと、高い確率で会社はおかしくなり、最悪、潰してしまうこともあるわけです。
当事務所では、事業承継の最後の出口としてM&Aのお手伝いもしているのですが、「買い手側」のサポートをすることもあります。そうしたケースで、こんな事例がありました。
ある会社で、息子さんが2代目社長になったんですね。ところが、すぐに社内が混乱するようになり、「あの人が社長を継ぐなら、会社を辞める」と、離職者も出始めた。そこで、先代社長が「これはまずい」と息子へのバトンタッチを白紙撤回し、急遽M&Aに切り替えたのです。その会社を買ったのが、当事務所のお客さまでした。
――なるほど。その会社は、ある意味M&Aに救われたといえますね。
佐野 そうですね。先代が息子に継がせることにこだわっていたら、危なかったかもしれません。
――そういう後継社長としての能力や資質といったものは、先生が見ればすぐにわかるものですか?
佐野 いや、そう単純なものではありませんよ(笑)。だめそうに見えて、意外としっかりしていたり、その逆があったり。「やってみないとわからない」という面が、たぶんにあります。

ただ、はっきりしているのは、自分のことばかり考えている人は、中小企業の経営者には向かない、ということです。自分の稼ぎや生活を優先して、社員のことをないがしろにするようなタイプでは、会社組織を率いていくのは、無理だと思います。
会社の未来を託すM&A
――お話にあったように、貴事務所では事業承継の手段としてのM&Aにも力を入れていらっしゃいます。
佐野 はい。最初に申し上げておけば、当事務所のサポートは、「M&A仲介業者に丸投げする」といったものとは違います。自分たちでM&Aの仲介をすることもありません。当事務所の実績としては、売り手側、買い手側の成約が半々くらいなのですが、いずれにしても、どちらかの側に寄り添って、その要望がかなえられるように全力で取り組む、というスタンスなんですよ。
――実際、事業承継のM&A件数が増えるにつれ、いろいろなトラブルもみられるようになりました。国も「指針」を設けていますね。仲介業者に新たな資格を設ける方針だ、という報道もありました。
佐野 そうしたかたちでM&Aにマイナスイメージが広がるのは、大変困ったことだと感じます。
親族内にも従業員にも後継者が見当たらない場合に、成長意欲のある会社に事業を引き継いでもらうというのは、従業員の雇用や取引先との関係を維持するという点でも、メリットがあります。単なる“身売り”ではなく、事業を継続し、会社の未来を託すわけです。
買い手はこの裏返しで、経営資源を受け継ぐことで、成長のための時間を加速することができるでしょう。最初に述べたような、「日本の中小企業が消えていく」状況の中で、M&Aの果たすべき役割は、とても大きなものがあるのです。
ただ、M&Aに対するマイナスイメージのようなものが広がる一方で、そもそもM&Aに対する知識を持たないために、承継自体を諦めてしまうようなケースも、いぜんとして少なくありません。
――子どもも従業員も継いでくれないから、廃業するしかない、と。
佐野 これはかなり前の事例なのですが、こんなことがありました。運送会社で、社長はまだ30歳代。ドライバーとして社長自身も働いていたんですね。ところが、突然、重い病気になって、仕事どころではなくなってしまった。しかも、借金が数千万円ありました。それで、「もう破産するしかない」と相談に来られたのです。
――それは大変な状況ですね。
佐野 そこで、「ちょっと待ってください。もしかしたら会社が売れるかもしれないから、1回、買い手を探してみましょう」と、話をしたのです。結果的には、近くの運送業者が買ってくれることになり、借金が消えればいいな、くらいの気持ちだったのが、多少手元にも残すことができたのです。
その後、ご本人は治療に専念されて、病気は完治しました。もし、M&Aという手段を知らないまま借金だけ残っていたら、おそらく破産するしかなかったでしょう。雇用も守れなかったはずです。
――病気の治療もどうなっていたかわかりませんね。とても印象深いM&Aの成功事例だと思います。
「後編」では、引き続きM&Aの事例を紹介いただくとともに、事業承継を成功に導くポイントなどについて、語っていただきます。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
税務や会計はもちろん、経営における課題解決に向けた幅広いサービスを展開するプロフェッショナル集団。
事業承継・M&A支援、経営計画作成、財務体質改善、会社再建・整理などを得意としており、大阪・京都・奈良エリアを中心に中小企業を支える。
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