【相続 前編】国税OBが語る 財産に不動産を含む相続でやるべきこと、注意する点とは

木村和彦税理士事務所 所長 木村和彦氏
[取材/文責]マネーイズム編集部

2015年に相続税の基礎控除(※)が大幅に引き下げられ、課税対象になるケースが急増した。中でも、地価の高い3大都市圏に不動産を持っている場合には、注意が必要だ。大阪府堺市にある木村和彦税理士事務所の木村和彦所長(税理士)も、「実際にこの地域では、不動産の絡んだ相続税の申告が増えています」と語る。今回は、国税OBでもある木村所長に、そうした相続のポイント、注意点などについて聞いた。
記事では、「前編」で不動産の絡んだ相続の現状、「後編」では揉めないための方策、相続税対策を中心にまとめている。

※相続税の基礎控除 3,000万円+600万円×法定相続人の数。相続税は、相続財産から基礎控除を差し引いた金額に課税される。相続財産が基礎控除の範囲内なら、課税されない。

「課税の厳格化」が進む不動産の相続

――最初に事務所の概要を教えてください。

木村(敬称略) 現在、約10名の体制で仕事をしています。うち税理士は、私を含めて4人いて、全員が国税庁・税務署での勤務を経験しているんですよ。

建設業、介護福祉事業、飲食業など幅広い業種の顧客の税務や経営サポートに加え、最近ニーズの高まっている相続への取り組みにも力を入れています。近隣の貸会議室などを利用して、定期的に無料の相続相談会も開いています。昨年は、25件ほどの案件に関わりました。

――今回は、その相続、特に相続財産に不動産が含まれる相続について、お話をうかがっていきたいと思います。不動産が絡んだ相続の全体的な動向から、お聞かせ願えますか。

木村 遺産に不動産が含まれると、いろいろ大変なこともあるのですが、反対に不動産は、相続税を節税する手段として使われることがあります。不動産の時価(実勢価格)と、相続税評価額に差があるからです。

――不動産の評価額は時価より安くなります。相続財産としてそのままカウントされる現金を不動産に変えておけば、相続財産の減額、つまり相続税の節税につながるわけですね。

木村 その通りです。しかし、一方で、その節税策の「行き過ぎ」が問題視されるようになりました。両者の差が特に大きくなる、すなわち非常に高い節税効果が見込めるタワーマンションを使ったスキームが、富裕層の間で一定の広がりをみせたのは、その典型です。

そこで国税庁は、2023年にタワマンなど分譲マンションの相続税評価額を時価に近づける評価方法を提示し、2024年の税制改正により適用となりました。不動産を使った節税については、「規制強化」の方向性が、明確に示されたわけです。

もちろん、不動産を活用した節税ができなくなったわけではないのですが、今後も行き過ぎを規制する方向の見直しが行われる可能性は、高いものとみています。

――そういう流れにあることは、知識として持っておくべきですね。

「都市部の住宅」は要注意

――無料の相談会をなさっているというお話ですが、そういう場にいらっしゃる方は増えていますか?

木村 予約制でやらせていただいているのですが、朝から夕方まで毎回時間はフルに埋まります。この地域でもご高齢の方が増えていますから、相続についての関心が高まるのは、当然のことといえるでしょう。ちなみに、いらっしゃるのは、財産を譲る側と譲られる側が半々という感じでしょうか。

――不動産絡みの相談も多いのでしょうか?

木村 はい。このあたりは、大阪のベッドタウンとして1960~1970年代に戸建ての住宅がたくさん建ちました。敷地面積は70坪以上が多くて、100坪超えの区画もけっこうあります。

そうした家に住んでいた人が、相続を考える時期を迎えているのですが、それだけの面積があると、土地の評価額だけですぐに2,000万円くらいにはなってしまうんですよ。不動産以外に預貯金などがあると、予想以上に相続財産が膨らんで、相続税がかかってくることも珍しくないのです。

――2015年の相続税の基礎控除引き下げの影響も、大きかったと思います。

木村 そうですね。あの改定で、「うちは大丈夫だろう」と思っていた人まで課税対象になるケースが、大きく増えたのは確かです。

税金の観点から言えば、一番困るのが、「相続財産の多くを不動産が占めていて現預金はあまりない」というパターンです。相続人に相続税支払いの原資がなかったために、不動産を売って捻出せざるを得なかった、という例も実際にありました。

なお、相続税の申告・納税期限は、相続発生から10ヵ月。納税は、原則として「現金で一括」です。

――事前に備えておかないと、対応するのは厳しくなります。

木村 以前、堺市内にいくつかの不動産をお持ちだという親御さんと、その息子さんが相談にみえたんですよ。不動産は、テナントなどに賃貸するいわゆる収益物件です。それらが、ご自身のラフな計算だと1億円超えになるけれど、現預金はあまり持っていない。どうしたらいいだろうか、ということでした。

このケースでは、息子さんの納税資金が足りなければ、例えば不動産を1つ売って、現金化したうえで相続させる、という方法が考えられるでしょう。

――現金にすると、相続税の計算では不利になるかもしれませんが、背に腹は代えられませんね。

木村 ただ、親御さんは、できるだけ不動産を売らずに相続させたい、という希望をお持ちでした。なかなか悩ましい事例でした。

不動産の正確な評価額を知るのが第一歩

――そんな話を聞くと、特に都市部に不動産を持つ人は、ますます不安になるかもしれません。そのようなケースでは、まず何をすべきでしょうか?

木村 最初に必要なのは、お持ちの不動産の相続税評価額がいくらぐらいになるのか、できるだけ正確に把握することです。それがわかっていれば、相続人が想定外の納税を迫られて慌ててしまう、といった事態は避けることができるはずです。評価の結果、相続税非課税のレベルであることが確認できる可能性もあります。そうすれば、親も子も安心できるでしょう。

――評価は自分でもできますか?

木村 可能ですし、今の依頼者の方のように、実際にそれをする人もいます。土地の評価額は、原則として「国税庁が毎年発表する『路線価』×隣接する土地の面積」で計算します。税務署の窓口に行けば、路線価はわかりますし、簡単な計算方法も説明してもらえるでしょう。

ただし、税務所は節税のアドバイスまではしてくれません(笑)。実は土地の相続税評価額は、形が「いびつ」だったり、傾斜していたり、周囲の騒音がひどかったり、といったさまざまな要因で、減額が可能なんですよ。そうした土地の評価額の「補正」を行った結果、相続税が課税されないレベルまで相続財産が減った事例も実際にあります。

――そのような補正を素人がするのは、困難ですね。

木村 ですから、より正確な評価額を知る必要がある場合には、専門家である税理士に依頼することをお勧めします。ただ、すべての税理士が不動産に詳しいわけではないことには、注意が必要です。相続に実績のある事務所を選んで、相談するのが大事です。

「後編」では、不動産の絡んだ相続を円満に進め、節税を図るためのポイントを中心に、さらにお話をうかがいます。

注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。

国税庁、税務署での勤務経験を活かし、深度ある税務戦略を提供する大阪の税理士事務所。500件以上の相続相談実績を持ち、生前対策から相続発生後の対策まで、相続の悩みにも幅広く対応する。
URL:https://taxaccountantoffice-kimura.com/

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