
【AI活用 前編】AIで実現する業務の効率化 使いこなすために必要なこととは
focAs会計事務所&労務事務所 代表税理士 坂根正哉氏さまざまな分野でAIの利用が広がっている。中小企業経営においても、業務効率化への貢献が期待されているが、使いこなせている現場はまだ少ないようだ。今回は、会計・財務分野をはじめとする経営サポートへのAIの活用を積極的に進めているfocAs会計事務所&労務事務所の坂根正哉代表税理士に、AI導入のメリット、認識しておくべきリスクなどについて、語っていただいた。
記事では、「前編」で中小企業のAI活用の現状やメリットを、「後編」では利用する際の注意点、AIの進化により会計分野で将来予想されることなどを中心にまとめている。
AIを「使えて」いるのは1割
――貴事務所の概要からお聞かせください。
坂根(敬称略) 僕自身、今40歳手前で、独立したのが30歳くらい。設立してまだ8年ほどの若い事務所なのですが、当初から会計事務所&労務事務所という形のグループで業務を行っています。メンバーは会計事務所が8名で、労務事務所が5名ですが、最近グループに弁護士も加わってもらって、会計・労務・法務をワンストップでトータルサポートできる体制を整えたところです。
お客さまは、労務も加えて300超で、そのうち個人の方が60~70人という規模です。スタートアップからお手伝いして、ともに成長してきたというお客さまも多く、クライアントも若い世代が比較的多いのも、当事務所の特徴といえると思います。

また、当事務所では会計と人事労務にクラウドシステムを導入し、お客さまにも同じものを使ってもらっています。そこに搭載されたAI機能を当初から使ってきましたから、生成AIの活用が急速に広がっているという時流には遅れずに、フォローできていると思っています。AIに関しては、お客さまに対して「このように使ってください」というアドバイスのできる事務所でありたいと考えていて、今年の春には専門の担当者を採用しました。
――そんな先生から見て、現在の中小企業でのAIの活用は、どの程度進んでいると感じますか?
坂根 当事務所のお客さまに関していうと、調べものをするときに、今までGoogleやYahoo!で「検索」していたのを、ChatGPTやGeminiへの「質問」にした、といったことなら、5割くらいはAIに触れていると思います。
役員賞与の法人税上の扱いを知りたいときに、「役員賞与 法人税」と入力して検索し、出てきた記事を読み比べて調べていたものを、AIにそのまま質問すれば、それなりにまとまった答えをくれる。それで、時間短縮のメリットはあるわけです。
ただ、それでは本当に「活用している」レベルにはない、というのが僕の考えなんですよ。例えば、業務のシステムに組み込むなどの形で「使えて」いるのは、1割くらい。残りは「使っていない」「使えていない」のが現状ではないか、という印象です。
――すべてクラウドの会計ソフトを導入しているようなクライアントで使いこなせているのが1割だとすると、全体の平均ではもっと低いのではないでしょうか。
「紙からデータ」が入り口
――中小企業経営にも、AIも含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)が必要だといわれるのですが、そもそも何をしたらいいのかわからない、という経営者も多いようです。
坂根 DXの“入り口”は、それまで紙でやっていたことを、できるだけデジタルデータに置き換える、ということですね。いくらクラウド会計システムがすぐれていても、事業のお金に関係する書類や資料がデータになっていなければ、有効活用はできません。ですから、当事務所でも、その「紙からデータへの転換」をどうやって実現していくのか、というところからサポートすることは、けっこうあります。
――紙からデジタルのデータにすることで、業務は大きく変わるのですね。
坂根 例えば、事務所の近くのスターバックスでコーヒーを飲んで、頻繁に経費にしていたとします。紙ベースであれば、その都度領収書を見ながら手入力が必要になります。しかし、AI搭載の会計システムなら、領収書を画像で読み込ませれば、次回からもスムーズに処理してくれるわけです。
また、人の作業には、ミスがつきものです。つい、650円を560円と打ち込んだり(笑)。AIなら、その手のミスはほぼ起こりません。間違う確率がゼロとはいえないので、最終的に人の目でチェックは必要なのですけど、それでも手入力分の時間と人件費などのコストは削減できるでしょう。
ちなみに、当事務所のお客さまは、スタートアップからそんなに経っていないような若い世代が多いので、データ化についてはあまり抵抗がなく、「そういうものかな」という感覚の方がほとんどです。我々のサポートは、その先の「システムを使えば、業務はもっと楽になると思っていたのに、そうなっていない」といった悩みに対するものがメインといえますね。システムを使いこなすためのお手伝いです。
――「お手伝い」のために、顧客のところに出かけて行くこともあるのですか?
坂根 必要に応じて、そうします。顧問先の業務の流れとか、経理のやり方などの一次情報をしっかり押さえたうえで、それぞれに最適のシステムを組み立てていく、というイメージですね。言い方を変えると、その会社の実態を把握しないと、DXに向けた実効性のあるアドバイスは難しいと思います。
仕事の実態に合わせてカスタマイズ
――そのようにしてAIを活用したことで、業務が大きく改善した事例を教えてください。
坂根 とあるスナックのお手伝いをしたのですが、その例がわかりやすいかもしれません。
スナックにもいろんな業態がありますが、そこは接待担当の女性従業員が複数いるお店でした。そうすると、同じ飲食業でも、普通の居酒屋などに比べて、経理がかなり大変なことになるんですよ。
――例えば、どのように?
坂根 一番大変なのは、女性従業員の給与計算です。こういうお店には、お客さまと同伴したらいくらとか、指名されたらいくらとかの「報奨金」があります。お客さまに勧められて飲んだお酒の売上の一部が収入になるドリンクバックもそうですね。しかも、飲んだ酒の種類によって、バックの比率が違ったりもする。
この店では、経営者であるママが、給料日までに1人ですべてを計算して間違えずに支給しなくてはなりませんでした。貯めこんだ紙伝票を集計してそれをやるとなると、相当煩雑な作業になるわけです。
――確かにサラリーマンの残業代の計算とは、違いますね。サポートする側としても、おっしゃるようにお客さまの業務の実態を理解しないと、手も足も出ない感じです。
坂根 今回は、私がお店に出向いて、Web会議の形で先ほどお話ししたAI担当と繋いだうえで、売上伝票の形式から今のような報奨金の部分まで1つひとつ聞き取って、その内容を基にAIを活用したシステムをつくり上げました。入力さえしてもらえば、数字はそのまま会計システムに取り込まれ、給与計算もこなしてくれます。
――紙の伝票は、不要になったということですか?
坂根 その場でiPadを操作してもらうこともできるのですが、現場では紙の伝票で決済までやって、閉店後や翌日などにまとめて入力してもらう形で準備しました。「酔った状態だと間違えるかもしれないから」というママの要望を取り入れて、あえてそういうスタイルにしたんですよ(笑)。まあ、そういうのもヒアリングしてみないとわからないところです。

――DXといっても、すべてデジタルにすればお客さまにとって最適かというと、そうとは限らないわけですね。
坂根 AI活用のメリットということでつけ加えておくと、飲食店のレジを自動化するシステムはいろいろあります。ただ、多くはお話ししたような「女性のいるスナック」のような店では使えません。「夜のお店」に対応したものもあることはあるのですが、不要な機能がついていたり、月々数万円のコストが発生したりするんですね。
AIを使えば、「お客さま専用」の会計システムを、スピード感を持って提供することが可能です。しかも初期費用以外はかかりません。
――システム構築には、どのくらいの期間が必要なのでしょう?
坂根 今回レベルのものであれば、システムのベースをつくるのに1日、ヒアリングを基につくり込むのに1日、検証に2~3日くらいで形にできます。
実は当事務所のAI担当は、バリバリのエンジニアとかではなく、他社で経理に携わりながら、独学でその効率化に取り組んできた経歴の持ち主なんですよ。そういうキャリアの彼でも、お客さまにカスタマイズしたシステムの開発ができるのです。
コードを1から書いていたのではとても無理な話で、当事務所では生成AI「Claude」を使って開発を行っています。そういうところもAIの恩恵といえるでしょう。
――今回はスナックの事例でしたが、他の幅広い業種、業態でも、それぞれに合った会計システムの構築が可能になりそうです。
「後編」では、AIを利用する際の注意点、今後予想されることなどについて、引き続きお話をうかがいます。
注:記載の「事例」に関しては、情報保護の観点により、お話の内容を一般化したり、シチュエーションなどを一部改変したりしている場合があります。
税理士と社会保険労務士がタッグを組み、開業・起業後の会計&労務をワンストップでサポートする会計事務所。経営者の課題に応じたAI活用・DX推進も行っており、経営者の良きパートナーとして、ともに高みを目指す。
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