政府が防衛費大幅増額の方針を決定 それに伴う増税の中身を解説 – マネーイズム
 

政府が防衛費大幅増額の方針を決定 それに伴う増税の中身を解説

2023年も押し詰まってから、政府は年間の防衛費を5年間で1.6倍まで増額させることを決定しました。唐突にも感じられる出来事でしたが、その増加分の一部を増税で賄うことも2023年の税制改正大綱に明示されました。「防衛力増強」の内容、そのために具体的にどんな増税が行われるのかを中心に解説します。

防衛費は今までにない増額に

国民1人当たり3万円の負担増

政府は2022年12月16日に、23年~27年度までの防衛関連経費の総額を43兆円程度とすることを閣議決定しました。これは、現行の中期防衛力整備計画(19年度からの5年間)の総額27兆5,000億円のざっと1.6倍という、過去最大の増額になります。この金額は、人件費や隊員の食糧費も含んだ5年間の総額で、年間では最終年度の27年度に8兆9,000億円程度になることが見込まれています。22年度当初予算の5兆4,000億円に比べると、3兆5,000円増と、やはりおよそ1.6倍に膨らむことになります。
 

単純計算で、現在、国民1人当たりの防衛費の負担額は年間約4万円となっています。これが、27年度には約7万円となり、3万円程度の負担増となる計算です。
 

一方、同じ時期に計画している装備取得と施設整備に関する総計は、43兆5,000億円で、現行計画の2.5倍まで増額されます。さきほどの防衛関連経費として27年までに支出されるのはこのうちの27兆円で、残りの16兆5,000億円は28年以降に繰越されます。

「GDP1%」の壁を突破

日本の防衛費は、1976年に当時の三木武夫内閣が「GDPの1%」という閣議決定をして以降、おおむねその水準で推移してきました。しかし、今回、岸田文雄首相は一気に「GDP2%」への倍増を指示し、「歴史的転換」を形にしました。ちなみに、防衛費が現行の倍の11兆円規模になれば、現在世界9位の日本は、アメリカ、中国に次ぐトップ3の「軍事大国」になります。
 

こうした防衛費増額の背景には、ロシアのウクライナ侵攻、台湾統合への意欲を強める中国、北朝鮮によるたび重なる弾道ミサイル発射をはじめ、安全保障をめぐり厳しさを増す周辺環境があります。政府は、同じ日の閣議で、「国家安全保障戦略」など防衛3文書を改定し、敵基地攻撃など「反撃能力」を保有する方針を決定しました。「専守防衛」を掲げる日本は、これまで他国の領土に届く攻撃的な武器の配備などを行ってきませんでしたが、中国の軍事力増強などを踏まえて方針転換を図ったものです。
 

新たな防衛力整備計画にも、その方針が明確に反映されていて、例えば次のような装備に重点的な支出が行われる計画です。
 

  • スタンド・オフ防衛(長距離ミサイルなど):5兆円(現行0.2兆円)
  • 統合防空ミサイル防衛能力(陸海空を統合した防空能力):3兆円(1兆円)
  • 無人アセット防衛能力(ドローンの研究など):1兆円(0.1兆円)
  • 領域横断作戦能力(宇宙、サイバーなどの領域強化):8兆円(3兆円)
  • 指揮統制・情報関連機能:1兆円(0.3兆円)
  • 機動展開能力・国民保護(島しょ部などへの戦力の迅速な輸送など):2兆円(0.3兆円)
  • 持続性・強靱性(弾薬確保など):15兆円(6兆円)

増税の内容は?

「足りない1兆円」を増税で賄う

防衛力の強化が必要なことは言うまでもありませんが、当然それにはお金が必要です。27年度以降の年約4兆円の増加分をカバーする財源については、次のような方針が示されています。
 

  • ①他の歳出を見直す「歳出改革」を行う
  • ②税収の上振れや余った予算などの「決算剰余金」を活用する
  • ③国有財産の売却益や税外収入などを貯めて使う「防衛力強化資金(仮称)」を活用する

 

これらで3兆円ほどを確保し、それでも不足する1兆円強を増税などによって充当します。後述するように、建設国債を発行する方針も示されました。

いつから何が増税される?

では、具体的にどのような増税が行われるのでしょうか? 与党がまとめた「2023年度税制改正大綱」では、「税制部分については、令和9年(2027年)度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する」としたうえで、「法人税、所得税及びたばこ税」の増税が盛り込まれました。

●法人税

法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな税が課されます。ただし、中小法人については、課税標準となる法人税額から500万円が控除されます。年間所得2,400万円以下の中小法人は課税対象から除外されるため、約96%の中小企業は対象外となります。予定される税収は、7,000億円~8,000億円です。

●所得税

所得税額に対し、税率1%の新たな税が課されます。同時に、家計に配慮するために、東日本大震災後の2013年から課税されている「復興特別所得税」(所得税額の2.1%)の税率を1%引き下げ、37年までとされていた課税期間が延長されます。延長期間は、「復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする」としています。
 

つまり、現在、「所得税+復興税」で支払っている税率自体は変えずに、一部が新たに防衛費の財源とされます。そのうえで、現在の復興税部分が課税される期間を延長するわけです。これにより、2,000億円程度を見込んでいます。

●たばこ税

1本当たり3円相当の引き上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する、としています。2,000億円~3,000億円を見込んでいます。

一方、増税の時期については、「24年以降の適切な時期」とされ、「継続審議」となりました。23年度の増税は見送られています。

今回の増税の問題点、生活への影響は?

「所得税増税はない」「国債には頼らない」はずが

岸田首相が防衛費増額に伴う増税方針を打ち出したのは、22年12月半ばの税制改正大綱決定のわずか1週間ほど前のこと。突然の表明には、野党はもとより与党内からも異論が出て、期限ギリギリまで議論は紛糾しました。最終的には官邸が押し切った形にはなったものの、今後に向けて、必ずしも視界良好とは言えないようです。
 

増税の中身について岸田首相は、「個人の所得税負担が増加する措置は取らない」と述べていました。土壇場でその言葉を翻すことになったことも、直後の報道機関の世論調査で内閣支持率が30%を割り込むような状況につながりました。
 

増税とは別の話ですが、首相は、防衛費増額のために国債を発行することは「未来への責任としてあり得ない」とも述べていました。しかし、これも「反古」になりそうです。12月23日に閣議決定された23年当初予算案に、防衛費の一部財源として、初めて建設国債4,343億円が盛り込まれたのです。
 

国債(国の発行する債券)には、「建設国債」と「特例国債」(赤字国債)があります。特例国債は、景気対策の財源確保などのために発行されるもので、新型コロナ対策でも活用されました。一方、建設国債は、公共事業など国の資産を形成する目的で発行されます。
 

政府はこれまで、「消耗品である自衛隊施設は、建設国債発行の対象としない」という基本姿勢を貫いてきましたが、この“歯止め”も「GDP1%」同様、外されることになったわけです。国債は、わかりやすくいえば「国の借金」です。防衛費を賄うために国債の発行が「恒例化」し、さらに財政が悪化する事態になれば、国債の格下げなどのリスクが高まる、と指摘する声もあります。

賃上げなどに悪影響も?

私たちの暮らしにも、「痛み」は避けられそうにありません。理由はどうであれ、「増税」は、決まったとアナウンスされるだけで、消費マインドを冷やします。今回は、所得税が対象に挙がっていますから、なおさらでしょう。
 

法人税の増税も、影響は企業にとどまらない可能性があります。増税を理由に賃金の抑制に動いたり、製品価格の値上げを行ったりしれば、コロナ禍から立ち直りつつある経済、国民生活への打撃になるでしょう。

国民への丁寧な説明が必要

当面の焦点は、増税の時期がいつになるのかです。ただし、述べたように内閣支持率が低迷し、政権基盤が弱体化する中で、決定までには紆余曲折があるかもしれません。
 

ウクライナ危機をはじめ想定外の事態が起こったとはいえ、防衛費とそれに伴う増税の議論は、あまりにも急でした。そもそも、なぜ43兆円必要なのかについて、国会での議論が尽くされたとは言い難い現実があります。国民の十分な理解を得て防衛力を高めていくためにも、今後の議論を通じて納得のいく説明が必要になるでしょう。

まとめ

防衛費を増額するために、法人税、所得税、たばこ税の増税が決まりました。ただし、実施時期については、今後の議論に委ねられています。国防と経済という両面から、私たちの暮らしに大きな影響を及ぼす問題だけに、行方を注目したいと思います。
 

マネーイズム編集部
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