岸田首相が表明した「異次元の少子化対策」 裏付けとなる「子ども予算倍増」は実現できる? | MONEYIZM
 

岸田首相が表明した「異次元の少子化対策」 裏付けとなる「子ども予算倍増」は実現できる?

昨年1年間の出生数が初めて80万人を割り込むことが確実視されるなど、日本の少子化に歯止めがかからない状況です。こうした中、岸田首相は2023年の年頭会見で「異次元の少子化対策」に挑戦する、と述べました。その裏付けとなるのが、自民党総裁選当時から言及している「子ども関連予算の倍増」ですが、今のところ規模や実施時期について、明確なものは示されていません。政府は6月の「骨太方針」に具体策を盛り込むとしていますが、本当に実現できるのでしょうか? 子ども関連予算をめぐる現状を中心に解説します。

加速する日本の少子化

出生数は80万人割れ

厚生労働省が1月に発表した速報値によると、2022年1月から11月までに国内で生まれた子どもの数は、外国人も含めて73万5,572人でした。一昨年の同じ時期と比べると、3万8,522人、率にして5%あまりの減少です。出生数は、21年2月から10カ月連続で前年の同じ月を下回っていて、過去10年間の平均減少率2.5%の倍のスピードで少子化が進んでいるのです。なお、今後発表される確定値は、日本人のみで集計されるため、これよりもさらに数値は低くなります。
 

21年1年間の日本人の子どもの出生数は81万1,622人で、1899年の調査開始以来、過去最低でした。22年にはそれを下回ることが確実で、出生数は初めて80万人を下回る見通しです。大手シンクタンクの日本総合研究所は、22年1年間の出生数は、およそ77万人にとどまる、と推計しています。
 

実際に80万人を下回れば、国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した予測よりも、8年も速いペースで少子化が進んでいることになります。こうした出生減の加速には、新型コロナの拡大も影響したようです。

このまま子どもが減るとどうなる?

少子化と同時進行する高齢化、人口減少が続けば、国の衰退は避けられません。
 

年金や医療・介護などの社会保障は、現役世代が上を支える仕組みになっており、人口構造が逆ピラミッドになると、制度の維持自体が徐々に困難になります。働き手が少なくなれば、人手不足はさらに深刻化し、一方で消費活動も縮小しますから、日本経済は停滞の道を歩むしかないでしょう。すでに始まっている「地方消滅」にも拍車がかかることになります。文字通りの「縮小スパイラル」です。

子育て支援で先行する欧州

実は少子化は、先進国が共通に抱える問題でもあります。有効な対策を打つことで、歯止めをかけた国もあります。有名なのはフランスで、一時、合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに産む子どもの数)を、1.5近くから2を超えるところまで回復させることに成功しました(現在は2を割り込んでいます)。
 

少子化対策に、子ども予算の増額が有効なことは明らかです。20年度の合計特殊出生率と、〈子育て支援額の対GDP比=日本は19年度、他国は17~18年度〉を比較すると、
 

  • 日本:1.33〈1.73%〉
  • ドイツ:1.53〈2.39%〉
  • フランス:1.82〈2.85%〉
  • スウェーデン:1.66〈3.40%〉

 
などとなっており、相関性が見て取れるのです。ちなみに日本よりも深刻な韓国は、出生率0.84、支援額の対GDP比は、やはり日本より低い1.3%という状況です。

政府の少子化対策は?

「子ども予算倍増」を掲げた首相

もちろん、国も少子高齢化に対する危機感は以前から持っていて、様々な対策が講じられてきました。しかし、それらが実効性に乏しいものであったことは、現状が証明しているといっていいでしょう。
 

それだけに、21年9月の自民党総裁選以降、「子ども関連予算の倍増」を目標に掲げ、年頭には「異次元の少子化対策」への挑戦を訴えた岸田首相の手腕には、期待も集まっています。ただし、どんなことをいつやるのかといった中身については、今のところ明らかにはなっていません。
 

そもそも、何をベースに「倍増」とするのかも、現状では不明瞭です。今年4月には、少子化対策も担当する「こども家庭庁」が発足します。同庁の23年度予算は、約4兆8,000億円。省庁横断の枠組みでみると、22年度で6兆1,000億円という区分もあります。
 

なお、こども家庭庁に移管される事業の22年度分は4兆6,871億円で、23年度の増加分は1,233億円。率にすると2.6%の増加にとどまっています。

10万円の「出産給付金」がスタート

ところで、「異次元の対策」に先立ち、今年1月1日から、妊娠・出産した女性を対象に、合計10万円のクーポンを支給する「出産・子育て応援給付金」がスタートしました。4月からは、「出産育児一時金」が原則42万円から50万円に増額されます。これ以外に、有効な子育て支援として、どんな施策が考えられるのでしょうか?
 

「懸案事項」となっているのが、児童手当の拡充です。現在は、子ども1人当たり原則、月1万円~1万5,000円(高所得世帯は原則5,000円)が中学卒業まで支給されています。これを高校まで延長したり、所得制限をなくしたり、あるいは第2子、第3子には増額して支給したり、といった様々な検討が行われているのです。
 

ただし、これには兆円単位のお金が必要だとされます。さきほどの出産給付金の財源についても、23年度分については補正予算で捻出する方針ですが、24年度以降に関しては「白紙」の状態です。

財源をどうする?

このように、首相の掲げる方針が実現できるかどうかは、一にも二にもその財源確保の成否にかかっています。今までの少子化対策が「不発」に終わったのは、それができなかったため、といってもいいでしょう。では、今回はそのネックを超えられるかというと、前途は多難とみなくてはなりません。
 

昨年、岸田首相は、「27年度に防衛費をGDP比2%に倍増する」という方針を突然表明し、1兆円の増税にも言及しました。先行していた子ども予算を追い越して、数値目標や財源について明示した形です。
 

それを受けて、「子ども予算も増税で賄うべきだ」という声が、与党内などから上がりました。しかし、国民が物価高に苦しむ中で、重ねて増税の方針を打ち出すのは、かなりハードルが高い作業になります。また、赤字国債(国の借金)でまかなうというのも、国債発行残高が1,000兆円を超えた現状を考えれば、切りにくいカードといえるでしょう。これ以上、次世代につけを回すことになれば、かえって少子化を促進する、と指摘する声もあります。

6月までに「当面の道筋」を提示

厳しい状況ではありますが、首相は6月にまとめる骨太の方針には、具体的な施策や財源などを盛り込む意向を明らかにしています。今度こそ出生率を目に見えて回復させられるような対策が示されるのか、注目したいと思います。

まとめ

岸田首相が、子ども関連予算の倍増方針を打ち出しています。子育て支援が出生率のアップに結びつくのは、海外の例を見ても明らかですが、問題は予算を増やすための財源をどう手当てするかです。骨太の方針に示される具体策が注目されます。
 

マネーイズム編集部