年金のもらい忘れに注意!未請求や記録漏れの対策は?

年金制度は一見わかりやすいようで、加給年金や振替加算、企業年金、iDeCoなど、複数の給付が絡み合う複雑な構造です。そのため、理解できていない部分が残っており、本来受け取れるはずだった年金を請求し忘れているケースは珍しくありません。
本記事では、見落とされやすい給付制度や記録漏れを防ぐ確認方法、未請求を回避するための具体的な対策など幅広く解説します。
1. 見落としがちな年金給付の基本知識
年金は、加入歴や家族構成が類似している場合でも、加給年金や振替加算、企業年金などの扱いは個人によってそれぞれ異なります。思い込みで放置してしまうと、本来受け取れるはずの給付が時効や手続き漏れによって失われる恐れがあるため注意が必要です。
ここでは、自分が対象となるかを見極めるための条件を整理し、申請や確認によって損失を防ぐ方法を解説します。
加給年金制度の概要と対象者の条件
加給年金は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上(または共済を除く期間が40歳以降15〜19年)ある方が、65歳到達時に生計を維持する配偶者や子がいる場合に、年金が加算される制度です。これを受けるためには届出が必要となります。
対象となるのは65歳未満の配偶者、18歳になる年度末までの子、または20歳未満で1・2級の障害を持つ子です。令和7年4月からの加算額は、配偶者・第1子・第2子がそれぞれ239,300円、第3子以降は79,800円となっており、配偶者分には生年月日に応じた特別加算(35,400円〜176,600円)が上乗せされます。
また、配偶者が老齢厚生年金の受給権を持つ場合、加給年金は停止される点に注意が必要です。ただし、経過措置として令和4年3月時点で加給年金が支給されており、配偶者の年金が全額停止されている場合には継続が認められます。(2025年10月31日時点の制度に基づく)
振替加算の仕組みと加給年金からの移行プロセス
振替加算は、加給年金が65歳で終了した後、その配偶者の老齢基礎年金に加算される制度です。加給年金は厚生年金加入者が65歳未満の配偶者を扶養している場合に支給されますが、配偶者が65歳に達すると停止されます。
この空白期間を補うため、昭和60年の法改正によって振替加算が設けられました。対象となるのは、大正15年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた方です。加算額は生年月日によって異なります。
加給年金から振替加算への移行は原則として自動的に行われますが、妻が年上の場合には「老齢基礎年金額加算開始事由該当届」を提出する必要があります。振替加算の制度は廃止されませんが、対象世代の減少により自然に終了する見通しです。
私的年金(企業年金・iDeCo)の種類と受給資格
私的に加入する年金として、企業年金とiDeCo(個人型確定拠出年金)があります。
企業年金は、厚生年金基金や確定給付企業年金などが該当し、転職や退職時に企業年金連合会へ記録が移され、申請により受給可能です。しかし、2022年3月時点で未請求者は約112万人に上り、その原因の多くは住所・姓変更による通知不達や手続き放置によります。
iDeCoは自身で積立・運用し、原則として60歳以降に受け取れる制度です。50歳以上で加入した場合など、拠出期間が10年未満では受け取りの年齢が繰り下がります。いずれも自動支給ではないため、確認と申請が欠かせません。
2. 年金記録漏れ問題の現状と確認方法
年金の記録漏れは将来の年金受給額に直接影響するため、放置すると大きな損失につながる恐れがあります。しかし、制度や確認方法が複雑で、どこから調べれば良いかわからない方も多いのが実情です。
ここでは、年金記録漏れ問題の背景と現状を整理した上で、ねんきんネットを活用した確認方法と、記録漏れが起きやすいパターンを紹介します。
年金記録問題の背景と持ち主不明記録の実態
2007年(平成19年)に約5,095万件もの持ち主不明の年金記録が見つかり、大きな社会問題となりました。この問題の発端は、1997年(平成9年)に導入された基礎年金番号制度です。
当時は、国民年金と厚生年金で別個の番号が使われており、統一の際に旧制度の記録が正しく統合されないケースが発生しました。日本年金機構はねんきん特別便やねんきん定期便で確認を促すとともに、紙台帳とデータの照合を進めてきましたが、今もなお完全には解消されていません。
「ねんきんネット」を活用した記録確認の手順
日本年金機構が運営する「ねんきんネット」では、持ち主不明記録を自分で検索できます。マイナンバーカードを持っていれば、マイナポータル経由でログイン可能です。
検索方法は、トップページから「持ち主不明記録検索」を選び、氏名や生年月日などの条件を入力します。該当する記録があれば、結果を印刷して年金事務所や年金相談センターに持参し、詳細な調査を受けましょう。
記録漏れが多く発見される3つのパターン
年金の記録漏れは主に3つのパターンに分類されます。
1つ目は、転職や会社の合併・倒産によるものです。2つ目は、姓の変更や読み間違いによる記録不一致で、結婚で姓が変わったり、カナ表記の誤りがあったりするケースが該当します。
3つ目は、短期間勤務や出向による未統合記録です。試用期間中の勤務や契約社員としての短期加入では、基礎年金番号との照合漏れが起こりやすいとされています。
3. 企業年金・私的年金の未請求対策
企業年金やiDeCoなどの私的年金は、自ら申請しなければ受け取れません。そのため、未請求のまま放置されるケースが増加しており、企業年金連合会では未請求者が100万人を超える状況です。
本章では、未請求の実態や確認方法を整理するとともに、iDeCoなどの受給手続きの流れを解説します。
企業年金連合会の未請求者111万人の実態
企業年金連合会の調査では、2022年3月時点で約111.7万人が企業年金を未請求のままです。その内訳は、引っ越しや結婚による姓の変更で郵便物が届かなかったケースが65.2万人、請求保留者が46.6万人となっています。
未請求が多い原因は、制度の複雑さや長期間前の勤務記録の存在にあります。特に2014年3月以前の厚生年金基金へ10年未満在籍して退職した方は、加入記録が企業年金連合会へ引き継がれている可能性があるため、注意が必要です。
企業年金記録の確認方法とコールセンター活用
企業年金の記録は、企業年金連合会が管理しており、Webサイトまたは電話で確認可能です。Webを利用する場合、「企業年金連合会の年金記録の確認」ページから申請すると、翌営業日(混雑時は3営業日以内)にメールで通知が届きます。
電話の場合は、企業年金コールセンターを利用しますが、問い合わせには氏名・生年月日・住所・基礎年金番号・加入している基金名などの情報が必要です。
iDeCo・確定拠出年金の受給手続きとタイミング
iDeCoは原則として60歳以降に給付請求を行い、積み立てた金額を受け取ることが可能です。ただし、最初の掛金拠出から10年以上経過していることが条件で、50歳以上で加入した場合など通算加入者等期間が10年未満だと受取開始年齢が繰り下がります。
受取方法は、5年以上20年以下の期間で受け取る年金方式、一括で受け取る一時金方式、両者を組み合わせる方法の3つから選択可能です。受取可能年齢に達すると書類一式が送られてくるため、必要事項を記入して提出しましょう。
4. 受け取り忘れを防ぐ実践的対策
老後の生活を見据えて年金を準備していても、住所変更や姓の変更、申請忘れなどにより手続きが遅れたり受け取りを忘れたりするケースは珍しくありません。特に、複数の年金制度に関わる方ほど、管理が煩雑になりやすい状況です。
ここでは、年金を確実に受け取るために必要な3つの実践的対策を紹介します。申請漏れを防ぐ手続きや届出のポイント、定期的な記録確認の重要性を理解することで、安心して老後を迎える準備が整うでしょう。
加給年金・振替加算の申請手続きと必要書類
厚生年金には、家族を扶養している場合に受給額が増える加給年金があります。被保険者期間が20年以上ある方が65歳になるときまたは退職改定時に、生計を維持する配偶者や子がいれば加算される仕組みです。
申請には「加給年金額加算開始事由該当届」と戸籍抄本または謄本を年金事務所に提出します。加給年金は配偶者が65歳に達すると終了しますが、条件を満たせば振替加算として配偶者の老齢基礎年金に上乗せされます。
申請を怠ると、本来受け取れる加算分を失う恐れがあるため、該当者は早めの確認を心がけましょう。
住所変更・姓変更時の届出手続きの重要性
年金の記録漏れや誤りの原因として多いのが、住所変更や姓の変更を届け出ていないケースです。結婚や離婚、転居の際に年金事務所や勤務先への手続きが漏れると、過去の記録と現在の情報が一致せず、未統合のままになる恐れがあります。
厚生労働省によると、2025年時点で約1,676万件の未統合記録があり、氏名の読み間違いや旧姓のまま放置された記録が原因である例も珍しくありません。転居や姓変更のたびに年金事務所や勤務先を通じて速やかに届け出を行い、ねんきんネットやねんきん定期便で定期的に記録を照合することが重要です。
年金記録の定期的な確認と相談窓口の活用
年金を正しく受け取るには、自分の記録に漏れや誤りがないか定期的な確認が必要です。転職・結婚・改姓などで年金手帳や基礎年金番号が複数存在した場合、過去の記録が統合されず受給額に影響が出る可能性があります。
確認には「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」が便利です。ねんきんネットでは、加入履歴や保険料納付状況、将来の年金見込額などを24時間確認できます。記録に不明な点があれば、年金事務所や年金相談センターに相談することが可能です。定期的なチェックと早めの相談で、受け取り漏れを防ぎましょう。
まとめ
本記事では、加給年金や振替加算、企業年金、iDeCoなど請求手続きが必要な年金制度の仕組みと、未請求を防ぐための方法を解説しました。
企業年金連合会では100万人を超える未請求者が確認されており、住所変更や姓の変更を怠ることで通知が届かない事例も少なくありません。
年金を確実に受け取るには、ねんきんネットやねんきん定期便で定期的に記録を確認し、必要な申請や届出を早めに行うことが求められます。制度を正しく理解し、主体的に管理することで適切に年金を受け取り、老後の安心につながるでしょう。
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