知らないと危ない「懲戒処分」の正しい進め方とは?種類・判断基準・手続きまで企業が押さえるべきポイントを徹底解説

企業は、勤務態度不良や犯罪行為などが見られる労働者に対して懲戒処分ができます。懲戒処分にはいくつかの種類があり、労働者の問題行動の程度に合わせて選ぶことが大切です。本記事では懲戒処分の種類や手続きの注意点などについて解説します。
1. 懲戒処分とは?基本的な定義と法的根拠
企業の不祥事に関するニュースなどで懲戒処分という言葉を聞くことがあります。ここでは、懲戒処分について基本的な定義や法的根拠を解説します。
懲戒処分の定義と目的
懲戒処分とは労働契約上の義務に違反した労働者に対して使用者が行う懲罰のことです。問題行動を取る労働者に対して反省を促したり、社内の秩序を維持したりするのが懲戒処分の主な目的です。
懲戒処分の内容は法律に定められていません。そのため、懲戒処分を行う場合、処分の内容は合理的裁量の範囲内で使用者が自由に決められます。ただし、懲戒処分の内容についてはあらかじめ就業規則で定めておく必要があります。
懲戒処分の法的根拠(労働基準法・労働契約法)
懲戒処分の法的根拠は、労働契約法15条と労働基準法89条です。そのため使用者の裁量に任せられているとはいえ、客観的に合理的な理由のない処分や重すぎる処分は裁判などで認められない可能性があります。実際に懲戒処分をめぐって従業員とトラブルになり、裁判で敗訴した企業もあります。
トラブルを防ぐには、法律で決められた以下の3つのルールを遵守することが大切です。
・二重処罰の禁止(同じ問題で2回以上の懲戒処分を禁止する)
・相当性の原則(問題行動に対し処分が重すぎてはいけない)
・平等処遇の原則(過去の対応と比較して平等性を維持すること)
また、懲戒処分を行う前に就業規則に処分の内容を明記することと従業員に周知することも必要です。
懲戒処分と分限処分・人事権行使の違い
懲戒処分は、一般的に従業員がルールを破り良くない行為をした際に、事業所が従業員に対して行う処罰的な措置のことです。一方、地方公務員法28条の規定によれば、分限処分は休職・降給・降任・免職の4種類です。なお、公務員にも懲戒処分は存在します。
一方、人事権行使とは、企業が労働者に対して人事に関する権限を行使することです。具体的には、配置転換や昇進・降格、昇給・降給、採用・解雇などが含まれています。問題行動を取る労働者に対して懲戒処分を行う代わりに、人事権行使で対応する場合もあります。
地方公務員法 | e-Gov 法令検索
2. 懲戒処分の種類を重さ別に解説
懲戒処分には処分の重さに応じていくつかの種類があります。ここでは、一般的な8種類の処分方法について解説します。なお懲戒処分のルールについては、それぞれの企業に委ねられているため、就業規則にすべての種類があるとは限りません。
最も軽い処分:戒告・譴責・訓告の違い
懲戒処分のうち最も軽い処分といえるのが戒告(かいこく)・譴責(けんせき)・訓告(くんこく)の3つです。
これらはそれぞれ以下のような違いがあります。
・戒告:口頭での注意のみ(始末書の提出なし)
・譴責:口頭注意に加えて、始末書の提出を求める
・訓告:書面での注意、企業によっては始末書の提出を求める場合もある
上記の3つは最も軽い懲戒処分として位置づけられることが多く、内容に差を設けていない企業も少なくありません。ただし、中には訓告を戒告よりさらに軽い処分としている企業もあるように、詳細はそれぞれの企業の就業規則を確認する必要があります。
また、公務員の場合、懲戒処分の一つである戒告に対して、より軽微で懲戒処分の必要がないものに対しては訓告が行われることがあります。
比較的軽い処分:減給処分の上限と計算方法
減給とは、本来支払われるはずの賃金から一定額を差し引く処分のことです。ただし、賃金を減らすことは、労働者の生活に与える影響が大きいため、労働基準法91条により減給処分の上限額が決められています。上限を超えて減給すると使用者に対して30万円以下の罰金が科せられることがあるため注意が必要です。
減給処分の上限は以下の2点で決められます。
・減給額は平均賃金の1日分の半額まで
・減給の総額が賃金総額の10分の1を超えない
したがって、懲戒処分の対象である労働者の1日の平均賃金が1万円の場合、減給額の上限は5,000円です。
また、同じ労働者が複数の問題行動を起こしているときにはそれぞれに対して減給処分を行えますが、その際には減給額の総額が上限を超えないよう注意しましょう。たとえば月給25万円の労働者に対しては、減給額の総額を2.5万円以下にする必要があります。
中程度の処分:出勤停止と降格の違い
中程度の懲戒処分として出勤停止と降格が挙げられます。出勤停止は文字通り、一定期間労働者の就労を禁止する処分です。出勤停止期間中は無給で、一般的に勤続年数にも反映されないため、賃金額や将来的に受け取れる退職金の額などにも影響を与えます。
一方、降格は役職や職位、職能資格を引き下げる処分です。降格すると役職手当や役割給などがなくなるため、賃金が減ることが多いでしょう。なお、降格による賃金の減少は懲戒処分による減給の場合と異なり、金額の上限はありません。
最も重い処分:諭旨解雇と懲戒解雇の違い
最も重い懲戒処分は、諭旨解雇と懲戒解雇です。諭旨解雇とは企業から労働者に対して退職を勧めることです。退職勧告を受けた労働者が一定期間内に自ら退職届を出せば自己都合退職として扱われますが、退職せずに期間が過ぎた場合は解雇されることになります。
一方、懲戒解雇とは企業が労働者を一方的に退職させる処分です。通常、企業が従業員を辞めさせるには30日前に予告することが義務付けられています。
しかし、労働者の責めに帰すべき事由がある場合や、労働基準監督署長の認定を受けた場合の懲戒解雇は、解雇予告や予告手当は不要です。懲戒解雇の場合、解雇予告手当はもちろん、退職金も不支給または減額となることが多いことからも労働者にとって最も重い処分といえます。
3. 懲戒処分の対象となる行為と判断基準
従業員の勤務態度不良が見られても、すぐに懲戒処分の対象にするのが適切とは限りません。ここでは、懲戒処分の対象となる具体的な行為や判断基準を解説します。
各懲戒処分に該当する具体的な行為例
懲戒処分を受ける原因となりやすい問題行動としては就業規則違反、各種のハラスメント、犯罪行為などが挙げられます。以下はそれぞれの懲戒処分に該当する具体的な行為の例です。
・戒告・譴責:遅刻・早退・業務中の私的な外出など
・減給:頻繁な遅刻・早退・私的な外出、軽度なハラスメント行為
・出勤停止:繰り返される無断欠勤、継続的なハラスメント行為
・降格:意図的な情報持ち出しなど会社に損害を与える行為、傷害罪など社外での犯罪行為
・諭旨解雇や懲戒解雇:業務上横領、強制わいせつなどの犯罪やハラスメント行為
懲戒処分の相当性と懲戒権濫用法理
懲戒処分を行う際は、まず合理的な理由があること(懲戒処分の相当性)に加えて原因となった問題行為と処分の重さのバランスが取れていることが重要です。問題行為に対して処分が重すぎる場合、懲戒権の濫用とみなされて労働者との間でトラブルになるおそれがあります。
たとえば、一度の無断欠勤・私用外出に対して減給や出勤停止の処分を行うことは、相当性が認められず、懲戒権の濫用とされる可能性があります。
一方、適切な注意や指導にもかかわらず勤務態度不良が繰り返されるケースでは、減給や出勤停止が認められやすいでしょう。懲戒処分を行う前に勤務態度不良や注意・指導を実施した旨を記録に残しておくと相当性を主張しやすく、トラブル防止に役立ちます。
段階的な懲戒処分の進め方(軽い処分から重い処分へ)
懲戒処分を行っても労働者の問題行動が改善されない場合、より重い処分を下すことが可能です。同じ労働者に2回以上懲戒処分を行うときは、軽い処分から重い処分へ移行していくのが原則です。
たとえば、遅刻・早退を繰り返す労働者に対しては、まず戒告や譴責、それでも改善されなければ減給、さらに変化が見られなければ出勤停止の処分を行うことになります。
4. 懲戒処分を実施する際の手続きと注意点
手順に不備があると懲戒処分自体が無効になるおそれもあるため、適切な手順を経ることが大切です。ここでは、懲戒処分を実施するまでの手続きと注意点を紹介します。
懲戒処分実施の5つのステップ
懲戒処分は以下の5つのステップを経て実施されるのが一般的です。
1.他の労働者へのヒアリングなどを通して問題行動の事実を確認する
2.就業規則における懲戒処分ルールを確認する
3.理由を告知し、労働者本人に弁明の機会を与える
4.懲戒処分の内容を決める
5.本人へ通知ならびに公表
特に重要なのは就業規則において懲戒処分に関するルールが定められているのを確認すること、ならびに処分を行う前に本人に理由を告知して弁明の機会を与えることです。弁明の機会を与える場合は、直接本人を呼び出して口頭で話を聞く以外に、文書の提出を求める方法でも問題ありません。
懲戒処分における重要な原則(不遡及・一事不再理・平等取扱い等)
懲戒処分において重要な原則は以下の3つです。
・不遡及:就業規則にて懲戒処分のルールを定める前の問題行動に対しては懲戒処分の対象としない
・一事不再理:一度懲戒処分を行った行動に対して再度処分の対象とすることはない
・平等取扱い:過去に処分を実施したケースと照らし合わせ、平等性を維持する
したがって懲戒処分が行えるのは、労働者が問題行動を取る前に就業規則に懲戒処分の規定がある場合に限られます。また、一度の行動に対して2回以上の処分は実施できないものの、遅刻・早退のように問題行動が繰り返される場合は、別途処分を下すことが可能です。
懲戒処分が無効になるケースと法的リスク
懲戒処分は企業に認められている権利ですが、むやみに実施できるわけではありません。実際に労働者が懲戒処分の無効を訴え、裁判の結果、企業が敗訴したケースもあります。
特に懲戒処分の内容が労働者の行動と照らして重すぎる、いわゆる懲戒権の濫用とみなされるケースは、懲戒処分が無効になる可能性があるため注意しましょう。たとえば、報告や対応が遅いとして部長から課長へ降格させた例では、処分が合理性・相当性を欠くとして認められず、企業が賠償金を払うことになりました。
法的リスクを避けるには、適切な手続きを経て懲戒処分を行うこと、万が一裁判になっても合理性や相当性が認められるよう日頃から記録を残しておくことが重要です。
まとめ
懲戒処分には戒告や譴責といった比較的軽い処分から減給や出勤停止、懲戒解雇などの重い処分までさまざまな種類があります。懲戒処分は企業に認められている権利ですが、むやみに実施すると権利の濫用とみなされ無効となるおそれがあります。労働法や労働基準法に基づき、適切に運用することが大切です。
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