【競走馬 後編】「馬主」「一口馬主」の“マネー事情”を、馬を愛する税理士が徹底解説

MR-TAX税理士事務所 代表 月﨑真志氏
[取材/文責]マネーイズム編集部 [撮影]本吉孝光

馬主に対する税務調査でチェックされやすいのは

――馬主も税務調査を受けることはあるのですか?

月﨑 もちろんありますよ。私も何度か調査に立ち会いました。税務署のほか、国税局が調査に来たこともありましたが、やはり調査官でも馬に詳しい人は少ない印象でした。私から調査官へ「競馬業界の常識」についてレクチャーすることもしばしばでした(笑)。

――どのような点を調査しに来ているという印象ですか?

月﨑 確かに決算書を見れば赤字であることは明白なので、なかなか所得税や法人税の追徴課税はしにくいと思います。ただ、消費税については、赤字の個人・法人でも追徴を取れる税目ですし、馬主の消費税申告は還付申告になるケースが多いので、税務署としてもしっかり証憑を確かめたいのではないかなと感じています。

調べられる主な項目としては、競走馬の取得価額(2歳4月に競走馬勘定へ振り替えるまでの預託費は、経費として落とせず取得価額へ算入する必要がある)や、減価償却の開始時期(2歳4月より前に償却を開始してしまっていないか)、賞品の取扱い等といった論点があると思います。

――「賞品の取り扱い」というのは?

月﨑 これが結構“盲点”になりやすいのですが、レースに勝つと、JRAやNAR(地方競馬全国協会)から、賞金などの金銭以外に現物として副賞をもらえるんです。大きなレースになると、純金メダルなど賞品も高額になります。それらもきちんと収益計上しなくてはなりません。忘れたり隠したりすれば、「申告漏れ」として是正されます。トップレベルの馬主さんになると、副賞だけでも年間数千万円規模になるんです。

――預金口座に入金の記録が残るわけではないので、気をつける必要がありますね。

月﨑 はい。これらの賞品については、JRA等から1月~12月の暦年で受領した「賞品一覧表」が、翌年1月末頃に送られてきます。個人馬主の場合は、それを基に3月に確定申告すればOKです。

また、賞品がたまってくると保管場所が足りなくなるため、貴金属店で換金することがあります。その際、例えば受け取った時よりも金の相場が上がっていて売却益が出たら、金地金の譲渡になりますので、個人馬主の場合は総合課税の譲渡所得として申告する必要があります。この時5年超保有してから売却することで長期譲渡所得とすることができ、節税となります。

「一口馬主」は確定申告でメリットも

――先生ご自身も「一口馬主」だと伺いました。最近は「一口馬主」という形で競走馬の「オーナー」になる人も増えているようです。そもそもどのような仕組みなのでしょう?

月﨑 「一口馬主」というのは、クラブ(ファンド)を通じて、1頭の競走馬を例えば40口~2,000口等に細かく分割し、共同で出資・保有する匿名組合出資形態をいいます。JRAなどに登録された正式な馬主はあくまで「クラブ法人」であり、出資した個々の「一口馬主」は法律上の馬主ではありません。

そのため、馬主席に入るなどの馬主としての行為はできませんが、一口馬主になるためには馬主のような厳格な所得要件がないため、入会のハードルは低く、会社員でも気軽に始めることが可能です。

1口数万円程度からの負担で好きな馬を保有でき、レースに勝てば口数に応じた賞金を受け取ることができます。一方、毎月エサ代などの維持費の負担を求められます。ですから、お金の出入りのイメージとしては本物の馬主と同じで、その規模が単に数十分の一とか数百分の一に縮小されただけというイメージですね。

――投資対象としては、どうなのですか?

月﨑 残念ながら、黒字にするのは難しいでしょう。運良く活躍馬を引き当てれば、一時的にプラス収支になることはあるかもしれませんが、たいていその1頭の当たりを引き当てるために20頭、30頭と購入することになりますから(笑)。あくまで「趣味」として消費を楽しむ、というスタンスが良いと考えています。

税務面では、出資は1頭の数百分の一等であり事業的規模とは認められていないので、所得区分は「雑所得」になります。ですから、雑所得以外の所得との損益通算はできません。

――節税効果もあまり期待できない、ということですね。

月﨑 はい、ただし確定申告は無視しないようにしましょう。雑所得が赤字の場合、原則として申告は不要なのですが、申告したほうが良い場合もあるんですよ。一口馬主としての年間収支は赤字だとしても、1つ1つのレースに勝って賞金を受け取っていた場合、その賞金からすでに所得税が源泉徴収されています。確定申告を行えば、それが還付される可能性があるのです。

毎年、確定申告の時期になると、クラブ法人から年間の所得をまとめた計算書が送られてきます。申告は、申告書にその内容を転記するだけで済みますから、意外と簡単なんですよ。

競馬の払戻金は「一時所得」

――馬主の税務について伺ってきましたが、多くの人にとって競馬といえば、馬券を買って楽しむもの。その払戻金にかかる税金についても、時々納税者と国税局の争いがニュースになったりします。

月﨑 競馬の払戻金で時々注目を浴びるのは、「一時所得」か「雑所得」かという問題で、過去には最高裁まで争われたこともあります。結論をいえば、競馬や競輪などの払戻金が雑所得と認められるのは例外中の例外で、ほとんど全てが一時所得になります。

――両者の違いを教えてください。

月﨑 大きな違いは、経費として認められる範囲です。雑所得の方が経費として認められる範囲が広く、一方の一時所得は収入を得るために直接要した費用のみとされており、かなり狭く限定されています。馬券の払戻しに関して言えば、雑所得として認定されれば的中馬券以外の外れ馬券の購入費を経費として落とすことが可能となり、一方の一時所得として認定されれば、外れ馬券の購入費を経費として落とすことができないことになります。

――競馬ファンの中には、たまに馬券を的中させるけれども、1年を通してみたら外れ馬券の支出のほうが多かった、という人が大半だと思います。一時所得だと、その多くの外れ馬券の購入分は所得から控除できず、的中馬券を購入したその的中レースの支出分だけしか控除できないため、申告が必要になる可能性が出てくるわけですね。

月﨑 はい、ほとんどそのケースになります。先ほど申し上げたように、雑所得として認められることは、ほぼ無いのです。認められるケースとしては、客観的に営利目的で、競馬予想システムなどを使って機械的にJRAの全てのレースを買うような、大規模・高額な投資を行っているという、全国的にもごくごく稀なケースです。そのようなケースでは、外れ馬券が的中馬券による払戻金の獲得に少なからず貢献したとみなされ、本当に例外的に経費として認められた判例があります。

「1日全36レースのうち半分を自分の頭で予想して買っている」というレベルでは、いくら「稼ぐためにやっている」と主張しても、外れ馬券の経費化はできないと考えてください。

払戻金の申告漏れはバレやすくなった!?

――税金に関して多くの競馬ファンが気になるのは、「そもそも払い戻しを受けた場合に申告の必要があるのか」「無申告だと税務署にバレるのか」ということではないでしょうか。

月﨑 一時所得には、50万円の特別控除額があります。そのため、的中馬券の払戻金額からその的中馬券の購入額を控除した金額の年間合計が50万円を超えたら課税対象になり、確定申告が必要ということになります。50万円を超えた金額の1/2を、給与など他の所得と合算し、所得税を計算することになります。

なので、年間の一時所得が50万円に満たないことが確実であれば、確定申告は不要です。

――税務署が競馬の払戻金まで捕捉するのは難しい、という人もいますが。

月﨑 その点は、昨今の馬券販売形態の変化もありますから注意が必要です。特に2020年のコロナ禍以降、電子投票が急激に加速しましたが、電子投票は購入馬券の履歴が全て残りますので、当然、的中馬券の履歴は税務署も追えます。誰がどれくらいの払戻を受けているのか、税務署が本気になればいくらでも捕捉できると考えるべきでしょう。

一回当たりの払戻金が数十万円以上となる的中をした場合は、確定申告が必要になる可能性があることをさすがに意識すると思いますが、コツコツ小さい的中を繰り返していて、気付けば年間合計所得が50万円を超えていた、となる可能性もあり得ます。払戻金はしっかりチェックして、50万円を超えたら申告を忘れないようにしましょう。

――税金の話もさることながら、競馬の奥深さを垣間見られるようなお話をありがとうございました。最後に、貴事務所の今後の展望を聞かせてください。

月﨑 今回のインタビューでは馬主の現実的なマネー事情を赤裸々にお答えしました。一方で、馬主は大変刺激的で壮大なスケールが魅力的な「趣味」です。もしかしたら自分が名馬を引き当てるかもしれないというワクワク感や、レース直前のドキドキ感は、他の趣味ではなかなか味わうことができないかけがえのないものだと感じています。

この気持ちを一人でも多くの人に味わっていただきたく、私が税理士の立場から様々な情報を発信することで、全国的に若い世代の馬主や一口馬主の数を増やしていくという活動を進めていきたいです。多くの人がこの「趣味」を満喫して幸せになれるように、私が会計・税務面でしっかりサポートしつつ、「競走馬税務といえば、MR-TAX」と認識されるような税理士事務所を目指したいですね。

――ますますのご活躍を期待しています。

全国でも珍しい、馬主・競走馬関係の税務を得意とする税理士事務所。税務調査経験も豊富で、税務申告、組織再編、財務税務デューデリジェンス、事業承継、資金繰り支援など、幅広い経験を持つ税理士が、明るく親身に経営に寄り添う。
URL:https://mr-tax-accounting.com/

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