
【競走馬 前編】「馬主」「一口馬主」の“マネー事情”を、馬を愛する税理士が徹底解説
MR-TAX税理士事務所 代表 月﨑真志氏2025年秋に地上波で放送されたテレビドラマのヒットも相俟って、昨今、日本では競馬ブームが到来している。毎週末、莫大な金額が動いている競走馬業界において、競走馬を所有する馬主の「稼ぎ」や税金は、どうなっているのだろうか?今回は、自らも「一口馬主」として活動する税理士の月﨑真志氏(MR-TAX税理士事務所代表)に、馬主の“マネー事情”について話を伺った。最後に「馬券払戻金に係る税金」の最近の注意点についても触れている。
記事は、「前編」で馬主収支のリアルや税務の特殊性について、「後編」では馬主に対する税務調査の現状、一般の馬主とは異なる「一口馬主」の税務、さらに払戻金と税金の問題を中心にまとめた。
「競走馬の税」に詳しい税理士は意外と少ない
――最初に事務所の概要を教えてください。
月﨑 昨年末まで大手税理士法人に勤務していたため、独立開業して事務所を開設したのは今年(2026年)の1月1日です。ですから、新規のお客様を獲得するために、日々奮闘しているさなかです。
現状、顧問先は一般的な個人事業主や法人がほとんどですが、まだ数は少ないものの、馬主の顧問先もいらっしゃいます。将来的には、そうした馬主をはじめとする競走馬業界の税務に、より特化していきたいと考えています。
実は私自身、中学一年生の時に競走馬育成ゲームに夢中になったことがきっかけで競馬好きになり、それ以来30年超に渡って競馬ファンを続けています。ここ15年ほどは「一口馬主」として活動をしていて、一般的な競馬ファンと比較しても、より深く競馬に足を踏み入れており、さらに詳しくなりました。そのことがきっかけで、これまで勤務した税理士事務所にて馬主である顧問先を担当させていただいていました。
そして、今年の独立開業後間もなくして、知人から「その経験を税理士としての差別化に使えるのでは?」とアドバイスをいただき、言われてみればその通りだなと。それで、「競走馬に強い」ことを事務所の看板に掲げていくことにしました。どちらかというと隠してきた長年の趣味を前面に押し出して仕事を取っていくということは、独立当初は全く考えていなかったのですが(笑)。
――競走馬業界も専門性が必要な世界だということですね。
月﨑 はい、まずは税金云々の前に、馬主の方と対等に話せるかどうかという高いハードルがあります。専門用語も飛び交いますし、競馬のことを熟知していないと、なかなか信頼してもらえません。自分の馬が勝利したら、やはり馬主さんは「おめでとうございます!」の一言が欲しいんですよ。競馬に詳しくない税理士では毎週アンテナを張っていないので、その一言が言えないんですよね。
税務も特殊な面があって、当然、申告の注意点も多いです。それらのことも含めて、この業界に専門性を持つ税理士は本当に少ないという肌感覚があります。税理士と競馬の話で盛り上がって、ついでに気軽に税務相談したいのに、それができず困っている馬主さんが全国にはたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
馬主業は「投資」というより「消費」に近い
――おっしゃるような特殊性とは、例えばどんなことなのでしょうか?
月﨑 そうですね。まずは、おそらく世間の多くの方が誤解なさっている事実からお話ししましょう。
競走馬の馬主と聞くと、レースで勝利すれば高額な賞金を手にすることができて、さぞや儲かっているのではないか、というイメージをお持ちではないでしょうか。でも実際は違います。確かに所有する馬が勝利した瞬間は賞金が入るので儲かるけれど、年間を通してみれば、決算は赤字。トップレベルの馬主さんでもほとんどがそうです。

――それは意外です。
月﨑 近年、競走馬を所有する手段としては、全世界的にもセリで購入するのが一般的になりつつあります。ところが近年、セリでの馬の価格が非常に高騰していて、いわゆる「良血」と呼ばれる血統の良い馬になると、1頭1億円の落札も珍しくなくなりました。そのような「良血」な仔馬は種牡馬としての価値まで考えて高額になるのですが、現実的に種牡馬となれる馬はGⅠと呼ばれるビッグレースを勝利したほんの一握りに過ぎません。そして現役時に馬が走って稼いでくれる現役年数には限りがありますから、馬を購入して元を取るのは至難の業なのです。
また、競走馬の場合、エサ代や預託料(世話代)などの「維持費」が高額で、馬主の負担が重いです。仮に馬の取得費を安く抑えられたとして、この高額な維持費を賄っていくだけでもなかなか大変です。JRA(日本中央競馬会)主催のレースに出走する馬では、1頭当たり月60万円、年720万円ほどが相場なんですよ。
――そんなにかかるのですか。
月﨑 馬代金も維持費も高額となると、黒字にするのは難しい。会計上の利益・税務上の所得は、マイナスになるのが普通なのです。ですから、馬を何頭も持つような馬主は、例えば大企業の会長さん・社長さんとか、開業医さんとか、起業に成功した起業家さんとか、もともと馬主とは別に本業で成功を収めた人が、趣味の一つとして知人に紹介されて始めるケースが多いです。潤沢なストックとしての財産と、フローとしての継続的な収入のある方でないと、馬主は長続きしません。
――馬主になれば資産が増えるのではなく、資産がないと馬主にはなれない。
月﨑 そういうことです。実際JRAでは、個人馬主の要件を、「今後も得られる見込みのある所得が、過去2年いずれも2,000万円以上あること」「継続的に保有する純資産が1億円以上あること」と定めています。なかなかのハードルでしょう(笑)。
採算は取りづらいので、「投資」というよりは「消費」に近いという覚悟が必要です。資産家が「損」を覚悟で馬主になるのは、「ロマンを求めている」ためだとよく言われます。愛馬が1勝した時の喜びや馬主としての世間的なステータスは、何物にも代えがたいんですね。
競走馬は4年で減価償却
――では、競走馬についての会計・税務面の特徴を教えてください。
月﨑 競走馬は税務上、有形固定資産(生物)として扱われます。耐用年数4年の定額法で減価償却します。繁殖牝馬や種牡馬にはまた別の耐用年数が定められています。
ちなみに、競走馬は実際の生年月日にかかわらず、1月1日に一斉に歳を取るというのをご存じでしょうか。日本のような北半球ではほとんどの競走馬は毎年1月~5月の間に生まれるのですが、年を越した段階で、全馬が一斉に1歳になるのです。減価償却がスタートするのは、原則として2歳の4月からになります。それまでは競走馬仮勘定のような勘定科目で資産計上して保留しておきます。
ただ、彼らや彼女たちは、3歳の9月中旬までに1勝できないと基本的に引退せざるを得ない、という宿命を背負っています。生涯に1勝できるのは、全体の3~4割ほど。1勝できて6歳以降まで現役として走り続けられるのが、全体の2割に満たないくらいと言われています。
――それは厳しい世界ですね。
月﨑 つまり1勝もできない6割くらいの馬は、2歳4月から3歳9月の引退までのわずか1年半くらいしか減価償却が行われていない段階で、除却損すなわち残りの簿価を一括で損失計上することになるわけです。
ちなみに、競走馬の償却開始を従来よりも7か月早い、1歳9月から開始できる「早期特例登録制度」が10年ほど前に設けられました。条件を満たせば、従来よりも半年以上早く減価償却することが可能になり、馬主のキャッシュフロー改善に役立ちますので、税理士としては馬主へ提案したいものです。
――いずれにしても、投資としては難しいことが、あらためて分かります。
月﨑 ほとんどの場合、馬主は黒字にはなりません。そのため、確定申告すると、逆に賞金を受け取るときに源泉徴収された所得税が還付されます。馬を購入した際に支払った消費税も還付されます。それが馬主の税務の大きな特徴と言えるでしょう。
節税対策になるのか
――「馬主は節税になる」といった話を聞くこともあります。
月﨑 はい、ただし一見聞こえの良いその言葉には注意が必要です。競走馬を所有し維持していくには莫大な費用がかかりますから、結局馬主を続けることでキャッシュは減っていってしまうのが普通。
馬主をやらないほうがキャッシュは貯まるのですから、果たしてそれを節税対策と呼ぶのはいかがなものか、と私は思います。

ただ、それを理解した上で馬主をやるという前提で、敢えて節税という観点からいうと、個人馬主で気をつけるべき点があります。馬主としての所得が「事業所得」として認められれば、給与所得や不動産所得などの他の所得と相殺が可能という点です。他の所得と馬主としての損失を相殺することで、課税所得を減らすことができるわけです。
ただし、事業所得として認められるためには、原則として現役の競走馬を5頭以上所有する必要があります。その規模に達していないと「雑所得」となり、損益の相殺はできません。雑所得の場合、相殺できるのは同じ雑所得内の、例えば単発の原稿料などの所得に限られてしまうのです。ですから、馬主をやるのであれば5頭以上持って事業所得で処理したほうが、税制上は有利になります。
「後編」では、競走馬に関わる税務調査や「一口馬主」の税務、競馬の払戻金の課税に対する注意点などについて、引き続き伺っていきます。
全国でも珍しい、馬主・競走馬関係の税務を得意とする税理士事務所。税務調査経験も豊富で、税務申告、組織再編、財務税務デューデリジェンス、事業承継、資金繰り支援など、幅広い経験を持つ税理士が、明るく親身に経営に寄り添う。
URL:https://mr-tax-accounting.com/

