
「中小企業経営強化税制を活用する」という節税術
機械やソフトウエアなどの設備を購入すると、取得した期に全額を経費にはできず、資産に計上して耐用年数にわたり減価償却します。この費用化を大幅に前倒ししたり、法人税額そのものを減らしたりできるのが、中小企業経営強化税制です。
経営力向上計画の認定を受けて一定の新品設備を取得すれば、原則として即時償却か、取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選べます。現行の適用期限は2027年3月31日です。
本記事では、中小企業の経営者向けに、中小企業経営強化税制の基本から節税効果、注意点までを解説します。
中小企業経営強化税制とは?
中小企業経営強化税制とは、青色申告をしている中小企業者等が、中小企業等経営強化法にもとづく経営力向上計画の認定を受け、計画に記載した新品の設備を取得して事業に使い始めた場合に、即時償却か税額控除のいずれかを選べる制度です(租税特別措置法第42条の12の4)。対象は資本金1億円以下の法人などです。ただし、大企業の子会社や、前3事業年度の所得の平均額が15億円を超える法人などは対象外です。
対象設備は類型ごとに要件が異なります。多くの中小企業が使うのは、旧モデルと比べて生産性が年平均1%以上向上する設備(A類型、工業会等の証明書が必要)と、年平均の投資利益率が7%以上となる投資計画に記載された設備(B類型、経済産業局の確認書が必要)です。このほか、M&Aなどで経営資源を集約した企業向けのD類型と、売上高100億円超を目指す企業向けのE類型があります。E類型で対象となる1,000万円以上の建物とその附属設備は、即時償却や10%・7%の税額控除ではなく、給与等の支給額の増加率に応じて特別償却15%か25%、または税額控除1%か2%となります。デジタル化設備を対象としたC類型は、2025年3月31日で廃止されています。
設備には種類ごとに最低価額があり、機械装置は160万円以上、工具・器具備品は40万円以上、建物附属設備は60万円以上、ソフトウエアは70万円以上です。工具・器具備品は令和8年度税制改正で30万円以上から40万円以上に引き上げられました(中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」)。
A類型の工業会等の証明書は、会社が工業会に直接申請するものではありません。設備メーカーに発行を依頼し、メーカー経由で受け取ります。見積もりを取る段階で「経営強化税制の証明書は出せますか」と確認してください。対応できないメーカーの設備では、A類型は使えません。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
中小企業経営強化税制を活用する節税メリット
中小企業経営強化税制は、設備投資の初年度の税負担を大きく変えられる制度です。即時償却と税額控除のどちらを選ぶかで、効果の性質も変わります。節税メリットを4つのポイントに分けて解説します。
節税メリット1 即時償却なら使い始めた期に全額を損金にできる
即時償却を選ぶと、設備の取得価額の全額を、事業に使い始めた期の損金にできます。通常なら耐用年数にわたって少しずつ費用化する金額を、1期でまとめて計上できるということです。資本金3,000万円以下の法人が1,000万円の機械を取得したケースで試算します。
【1,000万円の機械を即時償却した場合(実効税率30%と仮定)】
| 取得価額 | 10,000,000円をその期に全額損金算入 |
| 税負担の軽減額 | 10,000,000円 × 30% = 3,000,000円(その期の所得が1,000万円以上ある場合) |
| 翌期以降 | この機械の減価償却費は計上されない |
利益が大きく出た期に設備投資をすれば、納税で出ていくはずだった資金を手元に残せます。即時償却で赤字になった場合でも、青色申告法人なら欠損金として翌期以降に繰り越せます(「繰越欠損金を活用する」という節税術)。
節税メリット2 税額控除なら法人税そのものが減る
税額控除を選ぶと、取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を法人税額から直接差し引けます。即時償却と違って税金の総額が控除額の分だけ減り、通常の減価償却も並行して計上できます。同じ1,000万円の機械で試算します。
【1,000万円の機械で税額控除10%を選んだ場合】
| 税額控除額 | 10,000,000円 × 10% = 1,000,000円 |
| 控除の上限 | その期の調整前法人税額 × 20% |
| 満額控除に必要な調整前法人税額 | 1,000,000円 ÷ 20% = 5,000,000円 |
| 調整前法人税額が3,000,000円の場合 | 控除できるのは 3,000,000円 × 20% = 600,000円 |
| 控除しきれない400,000円 | 翌期に繰り越せる |
節税メリット3 利益と資金の状況に応じて選べる
即時償却と税額控除は、その期の状況を見て選べます。今期の利益が大きく、手元資金を厚くしたい会社は即時償却。安定して黒字が続き、税金の総額を減らしたい会社は税額控除が基本の考え方です。
選び方の目安は次のとおりです。
- ☑ 今期の効果:即時償却は取得価額の全額を損金算入。税額控除は法人税額から控除(調整前法人税額の20%が上限)
- ☑ 翌期以降:即時償却は償却費が残らず、その分の税負担が戻る。税額控除は通常の減価償却を続けられる
- ☑ 税金の総額:即時償却は基本的に変わらない(繰り延べ)。税額控除は控除額の分だけ減る
即時償却で償却しきれなかった不足額も、翌期に繰り越して償却できます。
節税メリット4 対象となる設備と業種が幅広い
対象は工場の機械に限りません。店舗の器具備品、空調などの建物附属設備、在庫管理や顧客管理のソフトウエアも、要件を満たせば対象になります。業種も製造業、建設業、卸売業、小売業、飲食店業、不動産業、サービス業など幅広く指定されています。所有権移転外リースで導入した設備でも、即時償却は使えませんが、税額控除は適用できます。
決算が近づくと、即時償却で利益をゼロにしたくなるものです。ただし、即時償却をすると翌期以降の償却費がなくなるため、その分だけ翌期の税金は増えます。来期以降も黒字が続く見込みなら、税額控除で税金の総額を減らすほうが有利な場合があります。両方の数字の比較は決算直前ではなく、設備投資を決めた段階で行ってください。証明書や計画の認定、納品まで含めると、決算間際では手続きが間に合わないことがあります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
中小企業経営強化税制を活用する際の注意点
中小企業経営強化税制は効果が大きい一方、手続きの順番や設備の要件を1つ誤るだけで適用を受けられなくなります。中小企業の経営者が特に注意すべき4つのポイントを解説します。
注意点1 手続きの順番を誤ると制度が使えない
原則の流れは、①工業会等の証明書(A類型)または経済産業局の確認書(B・D・E類型)の取得、②経営力向上計画の申請と認定、③設備の取得と事業への供用、④申告時の書類添付の順です。証明書や確認書の日付は、計画の申請日以前でなければなりません。B類型の確認書は、税理士または公認会計士の事前確認を受けたうえで経済産業局に申請し、発行までおおむね1か月かかります。
例外として、設備の取得日から60日以内に計画の申請書が行政庁に届き、設備を事業に使い始めた事業年度内に認定を受ければ、取得後の申請でも適用できます。ただし、証明書や確認書の申請は取得前に必要で、D類型とE類型にはこの例外がありません。決算月から逆算してスケジュールを組んでください。
注意点2 即時償却は課税の先送りで、税額控除には上限がある
即時償却は税金が消えるわけではなく、将来の償却費を前倒しで計上する「課税の繰り延べ」です。設備を使う期間全体で見れば、損金になる額の合計は通常の減価償却と変わりません。
税額控除は、調整前法人税額の20%が上限です。この上限は中小企業投資促進税制の税額控除と合算で判定し、超えた分の繰越しは1年に限られます。なお、同じ設備に両方の税制を重ねて適用することはできません。中小企業投資促進税制との違いは、以下の記事で解説しています。
注意点3 中古や事務用の設備は対象外になる
対象は新品の設備に限られ、中古設備は対象外です。また、生産・販売・役務提供など収益を生む活動に直接使う設備でなければならず、本店の建物、事務用の器具備品、乗用自動車、福利厚生施設などは該当しません。工具・器具備品は40万円以上に引き上げられているため、30万円台の設備は対象から外れます。貸付用の資産や、娯楽業など指定事業以外で使う設備も対象外です。
発注前に、設備の種類、取得価額、使う事業が要件に当てはまるかを確認してください。A類型では、機械装置は販売開始から10年以内、器具備品は6年以内のモデルという要件もあります。
注意点4 期限は2027年3月31日までの「事業供用」
現行の適用期限は、2027年3月31日までに設備を取得し、事業に使い始めることです。発注や支払いを済ませていても、納品や設置が遅れて期限までに稼働しなければ、適用を受けられません。
期限が延長されるかどうかは、例年12月に公表される税制改正大綱で判明しますが、現時点では決まっていません。延長を前提にせず、現行の期限で間に合うかどうかで投資時期を判断してください。
期限まで約半年と聞くと余裕があるように感じますが、証明書や確認書の取得に1か月前後、計画の認定に約1か月かかります。そこに設備の納期と設置期間が加わります。今期中の設備投資を考えているなら、メーカーへの証明書の依頼と、決算月から逆算したスケジュールの作成を、今月中に始めてください。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
この節税術に必要な心構えとは
中小企業経営強化税制は、設備投資の初年度に全額を損金にするか、法人税そのものを減らすかを選べる強力な制度です。利益が出ている期の設備投資と組み合わせれば、資金繰りと税負担の両方に効果があります。設備によっては、市区町村から別途「先端設備等導入計画」の認定を受けることで、固定資産税の特例と組み合わせられる場合もあります(「先端設備等導入計画を活用する」という節税術)。
一方で、確認すべき点は多くあります。証明書・確認書と計画認定の順番、新品であることや生産等設備であることの要件、事業供用の期限などです。即時償却と税額控除のどちらが有利かも、今期と来期以降の利益見通しによって変わります。「この設備は対象になるのか」「どちらを選ぶべきか」と迷ったら、発注前に税理士へ相談してください。
中小企業経営強化税制は、設備投資をする中小企業にとって最も効果の大きい優遇税制の1つです。即時償却なら投資した年の納税を大きく抑えられ、税額控除なら税金の総額そのものを減らせます。ただし、この制度は原則として、設備を取得する前から手続きを進める必要があります。A・B類型には取得後の申請が認められる例外もありますが、取得から60日以内の申請や事業年度内の認定といった制約があり、D・E類型では使えません。投資を決めた段階で、どちらを選ぶかのシミュレーションと手続きのスケジュールを、税理士と一緒に組み立ててください。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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