
「企業版ふるさと納税を活用する」という節税術
企業が国の認定を受けた地方公共団体の地方創生プロジェクトに寄附すると、寄附額の最大約9割が法人関係税から軽減される制度があります。それが「企業版ふるさと納税(正式名称:地方創生応援税制)」です。
通常の寄附でも全額が損金算入され寄附額の約3割が軽減されますが、この制度ではさらに最大6割を税額控除でき、実質負担を最小約1割まで抑えられます。ただし、寄附額を上回って税金が減る制度ではなく、会社の手元資金を増やす一般的な節税策とは性質が異なります。
本記事では、中小企業の経営者向けに、企業版ふるさと納税の基本から節税効果、注意点までを解説します。
企業版ふるさと納税とは?
企業版ふるさと納税とは、企業が国の認定を受けた地方公共団体の地方創生事業(まち・ひと・しごと創生寄附活用事業)に寄附した場合、寄附額の一部を法人関係税から差し引ける制度です。平成28年度税制改正で創設され、令和2年度改正で税額控除割合が3割から6割へ引き上げられました。
通常、地方公共団体への寄附金は全額が損金算入され、その結果、法人実効税率に応じて寄附額の約3割に相当する税負担が軽減されます。企業版ふるさと納税では、これに加えて寄附額の最大6割が法人住民税・法人税・法人事業税から税額控除されます。合計で最大約9割が軽減され、実質的な負担は最小約1割で済みます。
寄附額の下限は1回あたり10万円。個人版ふるさと納税と違い返礼品はありませんが、地方創生やSDGsへの貢献を社外に発信できる点も企業にとっての利点です。内閣府によると、寄附額は令和元年度の33.8億円から、令和6年度には約631.4億円(18,457件)まで増加しています。
寄附時には全額を現金で支出し、軽減効果が表れるのは申告のときです。控除は「寄附(着金)した事業年度」で受けるため、期末ぎりぎりに動くと自治体側の受入手続や着金確認が間に合わず、年度内の寄附として成立しないことがあります。決算の着地が見え始めたら早めに自治体と調整し、着金を事業年度内に確実に終える段取りで進めましょう。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
企業版ふるさと納税を活用する節税メリット
企業版ふるさと納税は、税負担を抑えながら地方創生に貢献できる制度です。ここでは具体的な節税メリットを3つのポイントに分けて解説します。
節税メリット1 実質負担を最小約1割に抑えて寄附できる
最大のメリットは、寄附額の最大約9割が法人関係税から軽減される点です。通常の寄附でも全額が損金算入され寄附額の約3割が軽減されますが、企業版ふるさと納税ではこれに加えて最大6割が税額控除されます。
各税目の控除上限にかからず、損金算入による税負担軽減効果を約3割と仮定した場合の試算です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 寄附額 | 1,000万円 |
| 損金算入による軽減(約3割) | 約300万円 |
| 税額控除 | 最大約600万円 |
| 税負担の軽減額合計 | 最大約900万円 |
| 実質負担額 | 最小約100万円 |
通常の寄附では、損金算入による税負担軽減後の実質負担が約700万円となるのに対し、企業版ふるさと納税では、各税目の上限内であれば実質負担を最小約100万円まで抑えられます。なお、いずれの場合も寄附時には1,000万円全額の現金支出が発生し、税金がその場で戻ってくるわけではありません。
節税メリット2 法人住民税・法人税・法人事業税の3税から控除できる
税額控除は、3つの税目に分けて差し引かれます。具体的には、法人住民税から寄附額の4割(法人税割額の20%が上限)、法人事業税から2割(法人事業税額の20%が上限)、そして法人住民税で4割に達しない場合は法人税からその残額(寄附額の1割かつ法人税額の5%が上限)が控除されます。ただし、各税目にはそれぞれ控除上限があるため、寄附額や納税額によっては最大6割の税額控除を使い切れない場合があります。
節税メリット3 地方創生・SDGsへの貢献を企業ブランドとして発信できる
金銭面だけでなく、社会貢献を通じた企業イメージ向上にもつながる可能性があります。寄附先の地方創生プロジェクトには環境保全や子育て支援など、SDGsやESGにつながる事業が多く、適切に情報発信することで取り組みを社外にアピールできます。自治体との新たな関係づくりや、採用・取引先への訴求材料にもなり得ます。
「9割軽減」はあくまで上限で、ここまで届くのは納税額が十分大きい会社に限られます。中小企業では、損金算入の効果が実効税率次第で3割を下回ることがあり、税額控除も「法人住民税法人税割額の20%」「法人事業税額の20%」「法人税額の5%」といった上限に先に頭打ちになりがちです。その結果、自己負担は1割よりも大きく着地することが多くなります。寄附前に、自社の決算見込みでいくらまで控除を使い切れるかを試算しましょう。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
企業版ふるさと納税を活用する際の注意点
企業版ふるさと納税は節税効果が大きい一方、対象先や要件を誤ると税額控除を受けられません。中小企業の経営者が特に押さえておきたい3つの注意点を解説します。
注意点1 本社所在地の自治体などへの寄附は制度の対象外となる
寄附先には制限があります。本社が所在する地方公共団体への寄附は、企業版ふるさと納税による税額控除の対象外です。ただし、寄附そのものが禁止されているわけではなく、通常の地方公共団体への寄附として扱われます。また、不交付団体である東京都や、不交付団体のうち三大都市圏の既成市街地等に所在する市区町村への寄附も、本制度の対象外です。寄附を検討する際は、対象となる自治体・事業かどうかを内閣府のポータルサイトや寄附先の自治体に確認してください。
注意点2 寄附の見返りに経済的利益を受け取ることは禁止されている
内閣府令により、寄附の代償として経済的な利益を受け取ることは禁止されています。個人版のような返礼品はなく、寄附と引き換えに補助金や有利な取り扱いを受けることもできません。これに反すると制度の趣旨を逸脱し、税制上の優遇が認められなくなる恐れがあります。寄附はあくまで地方創生への貢献として行ってください。
注意点3 対象法人の要件と適用期限を確認する
本制度の税額控除を受けられるのは、原則として青色申告書を提出している法人です。また、税額控除は実際に寄附を行った日が属する事業年度に適用され、申告時には制度の適用を受ける旨を申告し、自治体から交付された受領証も必要です。適用期限にも注意してください。現行制度の適用期限は、令和7年度税制改正による3年延長を経て、令和9年度末(令和10年3月31日)です。期限内に適用を受けられるよう、寄附の時期と金額は早めに計画してください。
寄附額を「いくらまでなら控除を使い切れるか」から逆算して決めることです。上限を超えて寄附した部分は特例の税額控除を受けられず、ただの寄附(損金算入のみ)になります。最終的な寄附額は、確定間際の決算見込みをもとに税理士と確認しておきましょう。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
この節税術に必要な心構えとは
企業版ふるさと納税は、正しく使えば実質1割程度の負担で社会貢献と税負担の軽減を両立できる制度です。一方で、寄附先の制限、控除の上限、青色申告などの要件、適用期限と、押さえるべき点が多く、自己判断で進めると「想定より控除されなかった」「対象外の自治体に寄附していた」といった失敗につながりかねません。
加えて、寄附先の選定、自治体との調整、社内決裁、振込みには相応の時間がかかります。決算の着地が見え始めた段階で早めに動き、寄附金の支払いを事業年度内に完了させることが大切です。「対象となる事業が分からない」「自社はいくらまで寄附できるのか」と疑問に感じたら、早めに専門家へ確認しましょう。
令和7年度改正では契約の公正性・透明化が強化され、寄附法人やその関係会社が寄附活用事業の契約先となる一定の場合には、国への実施報告と寄附法人名の公表が求められるようになりました。寄附額は「控除を使い切れる上限」と「社会貢献として無理なく出せる額」のすり合わせで決め、対象事業・手続・スケジュールは寄附先の自治体と早めに調整しましょう。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
▼参照サイト
内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税ポータルサイト」(制度概要・税目別の控除割合と上限・適用期限)
地域再生法(e-Gov法令検索)(寄附・認定地域再生計画の根拠規定)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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