「食事補助の非課税枠を活用する」という節税術

[取材/文責]マネーイズム編集部 [監修] プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛

2026年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,177円となり、前年度から56円上がりました。10月から12月にかけて都道府県ごとに順次発効します。

人件費が上がり続けるなか、給与とは別の待遇改善策として使えるのが食事補助です。2026年4月、食事の現物支給にかかる所得税の非課税限度額が、月3,500円から7,500円(税抜)に引き上げられました。

要件を満たせば、同じ額を給与に上乗せする場合と違って所得税・住民税がかからず、従業員の食費負担を軽減できます。

本記事では、中小企業の経営者向けに、食事補助の非課税枠の基本から節税効果、注意点までを解説します。

食事補助の非課税枠とは?

食事補助の非課税枠とは、会社が役員や従業員に食事を支給したとき、一定の要件を満たせば給与として課税しない取扱いです(所得税基本通達36-38の2)。要件は2つあり、①本人が食事の価額の半分以上を負担していること、②食事の価額から本人負担額を引いた会社負担額が月7,500円(消費税等を除く)以下であることの両方を満たす必要があります。

この上限額は2026年3月31日付の通達改正で月3,500円から7,500円に引き上げられ、2026年4月1日以後に支給する食事から適用されています(国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」)。深夜勤務者に夜食を現物で出せない場合に支給する現金の非課税上限も、1食300円から650円(税抜)に引き上げられました。

対象は使用人だけでなく役員にも及ぶため、社長本人も使えます。支給方法は現物が前提で、社員食堂での提供や仕出し弁当の手配などがこれに当たります。「食事の価額」は、弁当を購入して支給する場合は業者への支払額、社員食堂で会社が調理する場合は材料費や調味料など調理に直接かかった費用の合計額です(国税庁タックスアンサーNo.2594「食事を支給したとき」)。

7,500円は1食あたりではなく1か月あたりの上限です。月20日勤務なら、会社負担は1日375円までになります。会社が全額を出す制度ではなく、本人負担と組み合わせて食事代の半分までを会社が持つ制度だと捉えると、設計の見当がつけやすくなります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

食事補助の非課税枠を活用する節税メリット

食事補助の会社負担分は、会社では経費になり、従業員には課税されません。給与を上げる場合と比べて何が有利になるのかを、4つのポイントに分けて解説します。

節税メリット1 会社負担分は福利厚生費として損金に算入できる

要件を満たす食事補助の会社負担分は、福利厚生費として損金に算入できます。法人税の計算上は給与を上げた場合と同じく経費になり、そのうえで従業員側の課税だけがなくなります。会社の税負担を変えずに、従業員が受け取る価値を増やせる点がこの制度の強みです。

節税メリット2 同じ会社負担でも従業員が受け取る価値が大きくなる

給与で支給した額には所得税と住民税がかかりますが、要件内の食事補助にはかかりません。会社負担を上限の月7,500円にした場合で比べます。税率は所得税5%と住民税10%の合計15%と仮定し、復興特別所得税と社会保険料は計算に含めていません。

【会社負担月7,500円を給与と食事補助で比べた場合(従業員1人あたり年間)】

会社の負担額7,500円 × 12か月 = 90,000円
給与で支給した場合90,000円 × 15% = 13,500円が差し引かれ、手取りは76,500円
食事補助で支給した場合所得税・住民税の課税対象とならず、90,000円分の食事補助をそのまま受けられる
従業員10名の場合年900,000円分を非課税で提供できる

節税メリット3 役員(社長本人)も対象になる

通達の対象は「役員又は使用人」です。社長本人も、要件内であれば非課税で食事の支給を受けられます。役員だけで運営している法人でも使えます。

役員も通達上の対象ですが、従業員がいる会社で役員だけに食事補助を設けるなど、対象者に偏りがある場合は、会社側の費用処理を含めて個別の判断が必要です。福利厚生費として処理するための考え方は、以下の記事で解説しています。

節税メリット4 物価高のなかで実質的な待遇改善になる

食事補助は、昇給とは別枠で従業員の食費負担を軽くできる手段です。月7,500円と同じ額を手取りで届けようと給与を上げると、税率15%の場合は月約8,824円(7,500円 ÷ 0.85)の支給が必要です。昼食代は毎日の出費なので、補助の効果を従業員が実感しやすいという点もあります。最低賃金の引き上げで基本給の見直しが避けられないなか、採用や定着のための上乗せ策として組み合わせられます。

設計は「1食の価額×月の食数」から逆算するのが基本です。税抜750円の弁当を月20食なら、食事の価額は15,000円。会社と本人で半分ずつ負担すれば、会社負担は7,500円でちょうど上限に収まります。裏を返せば、枠を使い切るには食事代そのものが月15,000円以上必要です。安い弁当を全額会社負担にする設計では、要件①を満たせません。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

食事補助の非課税枠を活用する際の注意点

食事補助は、非課税限度額を超えたり支給方法を誤ったりすると、会社負担の全額が給与として課税されます。中小企業の経営者が特に注意すべき4つのポイントを解説します。

注意点1 判定額が月7,500円を超えると会社負担の全額が課税される

上限を超えると、超えた部分だけでなく会社負担の全額が給与として課税されます。たとえば会社負担の判定額が月8,000円なら、課税されるのは超過分の500円ではなく税込の全額です。

見落としやすいのが出勤日数の多い月です。1食あたり375円を会社が負担する設計だと、月20食なら7,500円で収まりますが、22食なら8,250円になり上限を超えます。会社負担には1食単位ではなく月額の上限を設け、社内規程に明記してください。判定は税抜金額で行い、10円未満の端数は切り捨てます。軽減税率(8%)と標準税率(10%)の食事が混在する場合は、国税庁「食事を支給したときの非課税限度額の判定」の計算例で確認してください。

注意点2 現金での支給は原則として課税される

「食事手当」として現金を給与に上乗せすると、要件の金額内であっても全額が給与として課税されます。例外は、深夜勤務者に夜食を現物で出せない場合の1食650円(税抜)以下の現金支給だけです。従業員が自分で買った昼食代を会社が後から精算する方法も、現金で補助していることになるため注意してください。

非課税にするには、会社が弁当業者と契約して代金を支払う、社員食堂で提供するなど、会社が食事そのものを支給する形にしてください。食事券やカード型のサービスは、使える範囲や換金できるかどうかで扱いが変わるため、導入前にサービスの仕組みを確認してください。

注意点3 本人負担が半分未満だと会社負担の全額が課税される

要件①を満たさない場合も、会社負担の全額が給与になります。国税庁の例では、1か月の食事の価額が13,000円で本人負担が6,000円の場合、本人負担が半分に届かないため、差額の7,000円が給与として課税されます。会社負担が上限の7,500円以内でも、非課税にはなりません。

本人負担額は月ごとに徴収し、「食事の価額・本人負担額・会社負担額」を記録してください。税務調査では、2つの要件を満たしていることを会社が示す必要があります。なお、給与から食事代を天引きする場合は、労働基準法第24条にもとづく賃金控除の労使協定が必要です。

注意点4 社会保険では別の基準で判定される

所得税で非課税になっても、社会保険料の計算で報酬から外れるとは限りません。社会保険では、現物で支給する食事を、厚生労働大臣が都道府県ごとに定める価額で評価します。本人負担がその3分の2以上であれば報酬に含めない、という所得税とは異なる基準で判定されます。所得税の要件だけで設計すると、社会保険上は報酬に含まれることがあります。社会保険料への影響は、社会保険労務士にも確認してください。

上限の判定は毎月行われます。1年のうち1か月でも会社負担が7,500円を超えれば、その月の会社負担は全額が給与となり、源泉徴収の対象になります。給与計算のたびに確認するのは手間がかかるため、最初から会社負担を月7,500円で頭打ちにする規程にしておくと管理が楽になります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

この節税術に必要な心構えとは

食事補助の非課税枠は、人件費が上がる局面で、同じ額を給与に上乗せするのとは異なる形で、従業員の食費負担を軽くできる手段です。2026年4月の改正で上限が倍以上になり、中小企業でも待遇改善策として現実的な水準になりました。

一方で、上限額、現物支給、本人負担50%以上という要件を1つでも外すと、会社負担の全額が給与として課税されます。社会保険は所得税とは別の基準で判定されるため、税金だけを見た設計では不十分です。「自社の場合、1食いくらの補助なら非課税に収まるのか」「規程をどう書けばよいのか」と迷ったら、導入前に税理士へ相談してください。

食事補助は、昇給とは違う形で「会社は社員の生活を気にかけている」と伝えられる制度です。会社にとっては経費になり、従業員にとっては非課税なので、うまく設計すれば両者にとって無駄のない待遇改善になります。ただし、月7,500円の上限、本人負担半分以上、現物支給という条件は、どれか1つでも崩れると非課税の効果がまるごと失われます。社会保険の扱いも別に確認が必要です。制度を入れる前に、1食の価額、月の食数、負担割合を税理士と一緒にシミュレーションしておいてください。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

プロゴ税理士事務所代表 好川 寛(税理士)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。

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