
「中小企業防災・減災投資促進税制を活用する」という節税術
台風シーズンを控え、自家発電設備や排水ポンプなど災害対策設備の導入を検討する経営者は多いものの、「BCP対策はコストがかかるだけ」と後回しにされがちです。
事業継続力強化計画の認定を受けたうえで対象設備を取得し、事業の用に供すれば、取得価額の16%を特別償却でき、設備導入年度の税負担の一部を将来に繰り延べながら災害対策を進められます。
本記事では、中小企業防災・減災投資促進税制の基本から活用メリット、注意点までを解説します。
中小企業防災・減災投資促進税制とは?
中小企業防災・減災投資促進税制は、自然災害への事前対策として設備投資を行う中小企業を後押しする制度です。中小企業等経営強化法に基づく「事業継続力強化計画」(連携して取り組む場合は「連携事業継続力強化計画」)の認定を受けた中小企業者等が、認定を受けた日から1年以内に計画に記載した対象設備を取得等し、事業の用に供した場合、通常の減価償却費に加え取得価額の16%を特別償却として損金算入できます。
税制の対象となるのは、①事業継続力強化計画の認定を受けられる中小企業者であること、②青色申告書を提出する中小企業者等であること、の二つを満たす必要があります。
①の計画認定を受けられるのは、資本金と従業員数のいずれかが業種ごとの基準を満たす法人・個人です(製造業・建設業・運輸業その他=資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業=1億円以下または100人以下、サービス業=5,000万円以下または100人以下、小売業=5,000万円以下または50人以下など)。
②の特別償却を受けられるのは、資本金または出資金の額が1億円以下の法人、資本・出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人、常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主などです。ただし、大規模法人から一定割合の出資を受ける法人や、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人(適用除外事業者)などは対象外になります。
対象設備は次のとおりです。
| 資産区分 | 取得価額要件 | 主な対象例 |
|---|---|---|
| 機械及び装置 | 100万円以上 | 自家発電設備、浄水装置、揚水ポンプ、排水ポンプ、耐震・制震・免震装置 等 |
| 器具及び備品 | 40万円以上 | 自然災害の発生が事業活動に与える影響の軽減に資する機能を有する全ての設備 |
| 建物附属設備 | 60万円以上 | 無停電電源装置、貯水タンク、止水板、防水シャッター、キュービクル式高圧受電設備 等 |
※計画認定時に対象設備として経済産業大臣の確認を受ける必要があります。また、消防法・建築基準法により設置が義務づけられている設備、中古品、所有権移転外リース資産、補助金等の交付を受けて取得する設備は対象外です。
本税制を利用するための認定期限は2027年3月31日です。
事業継続力強化計画は、税制のためだけの書類ではありません。日本政策金融公庫の低利融資や信用保証の特例など、資金調達面で活用できる制度もあります。設備投資と資金調達をセットで考えるなら、16%の特別償却よりこちらのメリットが大きくなるケースもあります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
中小企業防災・減災投資促進税制を活用する節税メリット
BCP対策を税制の視点から見ると、特別償却によって初年度の税負担を繰り延べ、設備導入直後の資金繰りを改善できる投資といえます。ここでは具体的なメリットを3つのポイントに分けて解説します。
節税メリット1 特別償却で初年度の税負担を軽減できる
対象設備を取得し事業の用に供した事業年度に、取得価額の16%を通常の減価償却費に上乗せして損金算入できます。設備投資は多額の資金流出を伴いますが、初年度の税負担を抑えることで手元資金を確保しやすくなります。
| 前提 | 排水ポンプを600万円で取得し、事業の用に供した場合 |
|---|---|
| 特別償却額 | 600万円×16%=96万円 |
| 初年度の税負担軽減額(実効税率30%と仮定) | 約28万8,000円(96万円×30%) |
※実際の税負担軽減額は、所得金額や適用税率などによって異なります。所得金額が少ない場合や欠損が生じている場合、その事業年度の税負担軽減につながらないこともあります。なお、償却限度額に満たなかった部分(特別償却不足額)は、翌事業年度に繰り越して償却することができます。
節税メリット2 取得価額要件が低い区分もあり、比較的小規模な投資でも対象になり得る
器具備品は取得価額40万円以上から対象になるため、大規模な設備投資が難しい事業者でも活用できる場合があります。ただし、防災目的で購入した備品がすべて対象になるわけではなく、自然災害による事業への影響を軽減する機能を持ち、計画認定時に対象設備として確認を受ける必要があります。
節税メリット3 計画認定によって金融支援や補助金加点も期待できる
事業継続力強化計画の認定を受けると、税制優遇に加えて日本政策金融公庫の低利融資や信用保証の特例を利用できる場合があります。また、ものづくり補助金など一部の補助金では審査時の加点対象になることもあります。ただし融資・保証には別途審査があり、補助金の加点対象は公募回ごとに異なるため、活用を検討する際は最新の公募要領を確認してください。
特別償却は減価償却費の前倒し計上であり、償却総額そのものが増えるわけではありません。とはいえ、災害対策という本来先送りにされがちな投資に対して、初年度の税負担を軽減できる点は経営判断のハードルを下げる効果があります。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
中小企業防災・減災投資促進税制を活用する際の注意点
活用効果が大きい一方、認定手続きや適用要件を誤ると特別償却を受けられません。特に注意すべき3つのポイントを解説します。
注意点1 設備の取得・事業供用前に計画認定を受けてください
本税制は、事業継続力強化計画(中小企業等経営強化法第56条第1項)または連携事業継続力強化計画(同法第58条第1項)の認定が前提です。認定前に対象設備を取得し事業の用に供してしまった場合、後から遡って適用することはできません。設備の導入を決めた段階で取得日・事業供用日を確認し、余裕を持って認定申請を進めてください。
申請から認定までの標準処理期間は約45日です。電子申請にはGビズIDプライムが必要で、アカウント取得にも約2週間かかります。不備があればさらに時間を要するため、設備の取得・供用予定日から逆算し、少なくとも2ヵ月程度の余裕を持って準備することが実務上の目安です。
注意点2 補助金を受けて取得する設備や中古設備は対象外です
計画認定を受けた設備であっても、中古設備、消防法・建築基準法により設置が義務づけられている設備、国・地方公共団体の補助金等を受けて取得する設備は本税制の対象外です。特に注意したいのが所有権移転外ファイナンスリースです。本税制には後述のとおり税額控除の選択肢がないため、リースで導入すると特別償却も税額控除も使えず、優遇が一切受けられません。なお、計画認定によって一部の補助金で加点を受けられる場合はありますが、その補助金を充てて取得する設備には、本税制の特別償却を適用できません。
注意点3 税額控除の選択肢はなく、他の設備投資税制と重複適用もできません
中小企業投資促進税制などでは特別償却と税額控除のいずれかを選べますが、本税制で選択できるのは特別償却のみです。また、同じ設備について中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制など他の特別償却・税額控除制度と重複して適用することはできません。複数制度の対象となり得る場合は、どちらが有利か事前に比較してください。
特別償却を行った分、将来年度に計上できる通常の減価償却費は少なくなるため、将来の課税所得を押し上げる方向に働きます。税務申告時には対象設備の償却限度額の計算明細書を添付し、認定通知書と認定計画の写しも税務調査等に備えて保管してください。
実務で最も多い失敗は、設備の発注を先に進めてしまうことです。認定前に取得・事業供用してしまうと、後から遡って適用することはできません。逆にいえば、2027年3月31日までに認定を受けていれば、認定日から1年以内に対象設備を取得等して事業の用に供する限り、2027年3月31日後の導入でも適用できます。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)
この節税術に必要な心構えとは
この税制を使ううえで重要なのは、「節税できる設備を探す」ことではなく、「災害時に止められない業務と、それを守るために必要な設備を先に特定する」ことです。必要性の低い設備を税制優遇だけを理由に導入すれば、16%の特別償却を受けても投資額そのものを回収できません。
そのうえで、計画認定、設備の取得・事業供用、税務申告という順序を崩さないことが欠かせません。設備の資産区分の判定や他の設備投資税制との比較は税理士に、事業継続力強化計画の策定そのものは認定支援機関や中小企業診断士なども交えて進めるとよいでしょう。
私がご相談を受けたときにまず確認するのは、その設備が止まると、何日で事業に支障がでるかです。ここが答えられるのであれば、税制の対象になるかどうかにかかわらず投資判断を誤りません。逆にここが曖昧なまま「16%償却できるから」で動くと、使わない設備が残ります。順序としては、事業継続上の必要性の特定が先、税制の当てはめが後です。
(プロゴ税理士事務所 代表 好川 寛)

東京国税局で15年にわたり、税務調査・審理・国税不服審判所の業務に従事。非居住者課税の相談実務に精通する。大手YouTuberエージェンシーでの実務経験から、フリーランス・インフルエンサー特有の税務にも明るい。その後、IT企業でのプロダクトマネジメントを経て神奈川県川崎市で独立。現在はクリエイターやスタートアップの税務支援を中心に活動し、税務メディアの記事監修も多数手がける。国税の現場で培った課税庁側の視点を活かした解説を得意とする。
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