大災害が相続に与える影響とは “地震大国”だからこそ考えておきたいこと #知り続ける

2011年の東日本大震災から15年が経ちましたが、今の日本では、南海トラフ地震や首都圏直下型地震をはじめとする巨大地震がいつ起きてもおかしくない状態だといわれます。地震だけでなく、火山の噴火や大型台風などの自然災害は、私たちの生活を大きく脅かすことになります。ただでさえ大変なのに、相続手続きのさなかだったり、混乱の中で相続が発生したりすれば、相続人には相当の負担がのしかかることになるでしょう。今回は、被災状況での相続では、どんなことが起こるのか、負担をできるだけ減らす手立てはあるのか、考えてみます。
災害が相続に与える影響
地震や水害などの大きな災害が相続に与える影響(困った事態)には、次のようなことが想定されます。
相続人が被災し、身動きが取れなくなる
相続では、被相続人(亡くなった人)の財産や相続人を特定し、遺言書がない場合には、相続人の話し合い(遺産分割協議)で遺産の分け方を決めます。相続税が発生する場合には、期限(相続発生から10ヵ月)までに税務署への申告・納税を行わなくてはなりません。遺産に不動産があれば、相続登記(名義変更)する必要があるなど、対外的な手続きも多く発生するでしょう。
しかし、それを行う相続人が自宅を失い、避難所生活を余儀なくされたような場合には、自分と家族の生活をどうするかが優先で、相続手続きどころではなくなる公算大です。
相続放棄が難しい
被相続人の遺産には、借金などの「マイナスの財産」が含まれていることがあり、相続人はそれも引き継がなくてはなりません。マイナスがプラスを上回る場合には、相続放棄(すべての財産を引き継がない)することが可能ですが、相続発生から3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出る必要があります。
やはり、目の前の生活をどうするかで頭がいっぱいの状態だと、その期限はすぐに過ぎてしまうでしょう。
他の相続人と連絡がつきにくくなる
自分以外の相続人が被災して、連絡が取れなくなることも考えられます。その状態では、遺産分割協議などを行うことができません。
「必要書類」が失われる
自宅が火災に遭ったり、津波で流されたりした結果、被相続人の財産の把握に必要な預金通帳や、証券、契約書などがなくなる事態もありえます。それらがなくても財産の把握自体は可能ですが、その作業には通常よりも多くの時間とエネルギーが必要です。
財産が失われてしまう
例えば、相続の対象である不動産や、高価な家財などが、災害によって失われることもあります。相続の直後に災害に見舞われた場合、「相続税を納めたのに、財産の価値がなくなった(減少した)」という問題が起こるかもしれません。
災害で相続が発生する
当然、災害によって親などが亡くなり、自分が相続人になる、というケースもあるでしょう。被災のショックに加え、突然肉親を失った精神的なダメージを抱えて相続に臨まなくてはなりません。
災害時には、税の「軽減・免除措置」がある
このように、災害時には相続をめぐるシビアな問題が発生します。相続税に関して言えば、それを平時と同じように課税すると、納税者に過度な負担を強いることにもなるでしょう。
相続税法では、相続により取得した財産の価額は、「その財産を取得した時の時価」によって評価される、と定めています。ただ、そのようにして受け継いだばかりの財産が、災害によって甚大な被害を被った場合は、さきほど説明したように、「財産価値と相続税納税額が釣り合わない」という問題が生じます。そこで、国は次のような税の「災害減免措置」という特例を定めています。
減免措置を受ける要件
次の①か②のどらかに該当すれば、この特例の対象になります。原則として、軽微な被害(財産価値の10分の1の金額に満たない被害)を除き、特例を受けることができます。
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相続税の課税価格の計算の基礎となった財産の価額(債務控除後の価額)のうちに被害を受けた部分の価額(保険金、損害賠償金などにより補てんされた金額を除く)の占める割合が10分の1以上であること。相続税の課税価格の計算の基礎となった動産等(注)の価額のうちにその動産等について被害を受けた部分の価額(保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除く)の占める割合が10分の1以上であること。
(注)「動産等」とは、動産(金銭および有価証券を除く)、不動産(土地および土地の上に存する権利を除く)および立木をいう。
相続税の納税が具体的にどのように扱われるのかは、災害の発生が「相続税の申告期限前」か、「申告期限後」なのかで変わります。
「申告期限前」に災害が発生した場合
申告期限前に災害があった場合は、相続により取得した財産の価額から、被害を受けた部分で、保険金・損害賠償金などで補てんされなかった部分の価額を控除して(差し引いて)、課税価格を計算します。
例えば、相続でもらった際には1,000万円の価値のあった財産が、災害により700万円の損害を被った場合(保険などによる補てんはなし)には、その価額を300万円と評価して申告することができる、というイメージです。
この特例を適用する場合は、相続税の申告書に、被害の状況や被害額などを記載し、原則として申告期限内に提出します。
「申告期限後」に災害が発生した場合
これは、相続税の延納(納期限までに納付することが困難な場合に適用される税の猶予制度)などを行っている人が対象です。ですから、実際に当てはまるケースは、それほど多くないでしょう。
法定申告期限後に災害があった場合は、災害のあった日以後に納付すべき相続税額で、その課税価格の計算の基礎となった財産の価額のうち、被害を受けた部分で、保険金、損害賠償金等で補てんされなかった部分の価額に対応する金額が免除されることになります。
このケースでは、すでに相続税額が確定しているため、被害を受けた部分の割合に応じた税額が免除されます。ただし、「災害があった日以後に納付すべき相続税額」には、延滞税などの附帯税や災害があった日現在において滞納中の税額は含まれません。
免除を受ける場合には、相続税等の免除承認申請書に、被害の状況や被害額などを記載し、災害のやんだ日から2ヵ月以内に、納税地の所轄税務署長に提出します。
特例の計算方法など、詳しくは「相続税又は贈与税の災害減免措置について」(国税庁パンフレット)01.pdf「相続時精算課税」で贈与された不動産にも「特例」がある
生前贈与には、不動産などを贈与税非課税で渡し、相続発生後に相続税として納税する「相続時精算課税」という制度があります。通常は、不動産の「贈与時の時価」が相続財産に加算され、相続税が計算されることになっています。しかし、災害が原因でその価格が下落した場合、やはり納税額が過大になるかもしれません。
そこで、この制度で取得した土地または建物が、その贈与を受けた日から贈与者(被相続人)の相続税の申告期限までの間に、災害によって相当の被害を受けたことなど一定の要件を満たす場合には、相続税の課税価格に加算される不動産の価額から、被害を受けた部分の価額(保険金、損害賠償金などにより補てんされた金額を除く)を控除できる、という特例が設けられています。
この特例の適用を受ける場合には、原則として、災害が発生した日から3年を経過する日までに、被害を受けた部分の価額などを記載した承認申請書を、贈与を受けた人の贈与税の納税地の所轄税務署長に提出し、承認を受ける必要があります。
申告期限などについては、柔軟な対応も
以上は、法に定められた特例ですが、大きな災害が発生したときには、それら以外にも「救済措置」の講じられることがあります。
最初にも触れたように、相続人が被災した場合には、相続税の申告や相続放棄の申し立て期限が、大きなネックになります。これらについては、過去の災害発生時に、期限の延長が行われています。
例えば、24年1月1日に発生した能登半島地震では、23年2月28日~23年12月31日に開始された相続について、石川県・富山県が納税地(被相続人の最後の住所地)である場合、相続税の申告期限(原則相続開始から10ヵ月)が、24年11月1日(震災発生から10ヵ月)まで自動延長されました。
また、24年年1月1日の時点で対象区域(石川県・新潟県・富山県・福井県の47市町村)に住所を有していた相続人については、相続放棄の申し立て期間(原則相続開始から3ヵ月)が、24年9月30日まで延長されました。
どんな災害でも、必ずこのような対応が行われると決まっているわけではありませんが、長期の避難所が設けられるようなケースでは、柔軟な救済措置が取られる可能性が高いでしょう。
相続についても「災害時の心構え」を
大災害と相続が重なると、最初にお話ししたような、さまざまな問題の発生が想定されます。財産のリストを作成して家族と共有しておくなどの相続準備は、災害時には、より「ありがたい」ものになるかもしれません。スムーズな相続手続きは、生活を立て直すための原資を確保するという意味でも、重要です。
不幸にして被災した場合には、説明したような税の軽減措置、救済措置があることを思い出してください。まずは情報収集に努め、生活再建を最優先に、やるべきことを整理することが大事です。
まとめ
災害はいつ起こるかわかりません。相続が重なった場合には、期限のある手続きなどに大きな影響を及ぼす可能性があります。一方、相続税については、災害発生時の特例などがあることも、頭に入れておきましょう。
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