知らないと損する「連結決算」基本概念・対象範囲・作成手順をわかりやすく解説


企業グループを構成する親会社と子会社の財務状況を正確に把握するためには、単独の決算では不十分な場合があります。連結決算は、親会社と子会社を一体として扱い、グループ全体の経営状況を明確に示す会計手法です。
本記事では、連結決算の基本概念や目的、対象範囲、作成手順、法的義務までをわかりやすく解説します。
1. 連結決算の基本概念と目的
複数の子会社を持つ企業では、親会社単独の決算だけでは全体の実態を把握できません。連結決算は、親会社と子会社を一体として扱い、グループ全体の経営状況を正確に示す会計手法です。
ここでは、その基本概念や目的について解説します。
連結決算とは何か?親会社・子会社を一体とした決算方式
連結決算とは、企業グループ全体を一つの会社として扱い、損益計算書や貸借対照表などの決算書類を作成する会計手法です。役員派遣や資金援助などを通して支配している子会社は、原則としてすべて連結の対象です。
さらに、企業グループ内の取引は消去されるため、グループ全体の実態が正確に反映されます。このようにして作成されたものを「連結財務諸表」と呼び、具体的には連結貸借対照表、連結損益および包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュ・フロー計算書などがあります。
なぜ連結決算が必要なのか?企業グループ全体の実態把握
連結財務諸表の必要性は大きく分けて二つあります。
まず一つ目は「利益操作の防止」です。かつては子会社を利用して、親会社の利益を不当に計上するケースがありました。しかし連結決算では、親会社が子会社を通して計上した利益は、グループ内取引として会計上消去されます。
そのため、親会社が利益を操作しても、連結財務諸表には反映されず、不正な利益計上を防げる仕組みです。
二つ目は「経営状況の正確な把握」です。持株会社化が進む現代において、親会社単独の財務諸表だけでは、グループ全体の事業内容や業績を正確に知ることはできません。連結財務諸表を用いることで、企業グループ全体の経営状況を網羅的に把握できるのです。
上記に加えて外部からの信用力向上というメリットもあります。銀行や取引先などに透明性の高いグループの情報提供ができ、決算書の信頼性が向上することにより、有利な資金調達につながるなどのメリットが考えられます。

松崎会計事務所代表税理士 松崎 孝泰(税理士・公認会計士)
単体決算との違いとメリット・デメリット
連結決算には単体決算にはない特徴があり、メリットとデメリットが存在します。
まず、メリットとしてあげられるのは以下の通りです。
・正確な経営情報の把握:グループ全体の経営状況を可視化できるため、総合的な視点で戦略を立てやすくなります。
・不正の防止・早期発見:子会社の不正会計も早期に発見でき、不正抑止の効果を持ちます。内部統制の強化にもつながるでしょう。
・事業展開の根拠となる:透明性が高まることで、金融機関からの融資が受けやすくなり、迅速な事業展開や競争優位性にもつながります。
一方デメリットとしてあげられる点は、以下の通りです。
・担当者の負担増:子会社や関連会社との調整が必要になるため、決算作業に多くの時間と労力がかかります。
・監査を受ける必要が生じる:会社法に基づき会計監査役や会計監査人の監査を受ける必要が生じます。決算スケジュールが厳しくなることもデメリットの一つです。
2. 連結決算の対象範囲と判定基準
連結決算では、親会社が支配する子会社を対象にグループ全体の状況を把握します。しかし、すべての子会社が自動的に連結対象になるわけではありません。
ここでは、子会社の定義や支配関係の判定基準、連結範囲の決定方法について解説します。
子会社の定義と支配関係の判定方法
連結決算では、原則として親会社が支配するすべての子会社が対象です。ただし、支配が一時的な企業や、連結すると利害関係者の判断を大きく誤らせるおそれがある企業は除外されます。
また、規模が小さく重要性の低い子会社についても、連結対象から外すことが認められています。
連結範囲の決定基準と除外される子会社
連結の範囲から子会社を除外できるかどうかは、その子会社が企業グループ全体の財政状態や経営成績、キャッシュ・フローの判断にどれだけ影響を与えるかで決まります。
具体的には、各子会社が資産、売上高、利益、利益剰余金の4項目に与える影響をもとに判断します。この影響度は算式で割合を計算して評価され、企業の実態に応じた慎重な判断が求められるものです。
議決権割合による連結対象の判断
連結対象となるかどうかは、保有する議決権の割合と、実際の支配状況で判断されます。
まず、過半数の議決権を持っている会社は、原則として子会社です。ただし、親会社が100%所有していない場合は、残りの割合を子会社の当期純利益に振り替える必要があります。
次に、議決権が40〜50%の場合でも、親会社が経営方針に実質的な影響力を持つ場合は、関連会社として連結の対象となります。影響力の条件は、役員構成、事業方針の決定権、融資比率などです。
さらに、議決権が40%未満でも、親会社が方針決定に大きく関与している場合は、連結対象となることがあります。つまり、株式の保有割合だけでなく、会社の意思決定にどれだけ関与しているかが重要です。
ただし、特別目的会社で収益が証券保有者に適切に分配されている場合は、子会社とはみなされません。このように、連結対象の判断は単純な所有割合だけでなく、実質的な支配関係を重視して行われます。
連結決算の対象範囲は原則全ての子会社です。しかし、連結財務諸表への影響が小さい場合には、一部の子会社を連結しないこともあります。さらに、議決権の50%以下しか株式を所有していなくても、子会社を実質的に支配している事実があれば、子会社と判断されることもあります。

松崎会計事務所代表税理士 松崎 孝泰(税理士・公認会計士)
3. 連結財務諸表の作成手順と方法
連結財務諸表の作成は、単に親会社と子会社の数字を合算するだけでは完成しません。各社の個別財務諸表の統一やグループ内取引の相殺など、複数の手順を踏むことで、グループ全体の正確な経営状況を示す連結財務諸表が完成します。
ここでは、作成手順や会計方針の統一、連結修正処理の仕組みについて解説します。
連結決算の基本的な作成手順(5つのステップ)
連結決算の基本的な作成手順を、ステップを踏んで解説します。
①各企業で個別財務諸表を作成:まず、親会社と子会社それぞれが個別の財務諸表を作成します。このとき、会計方針を統一しておくことが重要です。
②子会社の個別財務諸表を親会社で合算:親会社は、子会社から個別財務諸表を受け取って合算し、勘定科目の統一や外貨の円換算、決算期のずれを調整します。子会社の決算日と連結決算日が3か月以内であれば、そのまま合算可能ですが、それ以上ずれている場合は仮決算を行います。
③連結修正仕訳を実施:合算しただけでは、グループ内の取引が計上されてしまいます。そこで、「連結修正仕訳」を行います。
④連結精算表の作成:修正仕訳をもとに連結精算表を作成します。連結精算表は連結修正を反映させたものであるため、グループ内の財務状況をより正確に確認することが可能です。
⑤連結財務諸表の完成:最後に、連結精算表をもとに連結財務諸表を作成します。こうして完成したものは、外部にも公開される資料になります。
個別財務諸表の合算と会計方針の統一
まず親会社・子会社それぞれが、個別財務諸表を作成します。このとき、各社で会計方針を統一しておくことが重要です。
会計方針とは、棚卸資産の評価方法や引当金の計上基準など、企業が会計上の処理方法を選択する方針のことです。方針が統一されていないと、合算した際に整合性が崩れ、正確なものが作れません。
親会社は、すべての子会社から個別財務諸表を受け取り合算します。この際、連結修正を行うための「連結パッケージ」というデータも入手します。
連結パッケージとは、親会社との取引高や、外部にまだ販売されていない商品の金額など、必要な情報がまとめられているデータです。この情報をもとに、親会社は連結修正を行い、親子間取引の相殺や未実現損益の消去を行います。
最後に、修正済みのデータをもとに連結財務諸表を作成するのが一連の流れです。
連結修正処理と相殺消去の仕組み
連結財務諸表を作成するためには、連結修正仕訳を計上し、連結精算表を作ります。
連結修正仕訳には、以下のようなものがあります。
・投資と資本の相殺消去
・内部取引の相殺
・非支配株主への按分
・のれんの償却
最近ではクラウド会計ソフトの連結決算版がリリースされており、初期設定さえきっちり行えば連結決算自体は多少簡単に行うことができるようになってきています。連結決算をしたい企業グループは、公認会計士などの専門家に相談してみましょう。

松崎会計事務所代表税理士 松崎 孝泰(税理士・公認会計士)
4. 連結決算の義務と法的要件
連結決算には、会社法や金融商品取引法に基づく作成義務があります。会社法上の大会社や上場企業は連結財務諸表の作成が法律で定められていますが、中小企業では任意で行うことが可能で、必要に応じてグループ全体の状況を正確に把握する手段として活用されるものです。
ここでは、作成義務や法的要件について解説していきます。
会社法・金融商品取引法による作成義務
作成義務があるかどうかは、連結計算書類の規定を見ればわかります。一般的に、上場企業の多くは有価証券報告書を提出しており、この報告書には事業内容や設備状況、財務諸表などが記載されています。この有価証券報告書を提出している会社は、すべてとは限りませんが連結決算を行っているとみなすことも可能です。
連結決算は、外部に情報開示を行うための重要な手段となっています。法的義務の有無にかかわらず、適切に連結決算を行うことで、グループ全体の資産や負債のバランス、財務面の透明性を高め、企業価値の向上にもつながるでしょう。
会社法上の大会社・上場企業における連結決算の要件
会社法第444条第3項によると、事業年度末日において大会社であり、かつ金融商品取引法第24条第1項に基づき有価証券報告書を提出する必要がある会社は、連結計算書類を作成しなければなりません。
ここでいう大会社とは、資本金5億円以上または負債額200億円以上の株式会社を指します。一方、中小企業に義務はなく、任意で作成することが可能です。規模や経営方針によっては、作成を検討する価値があるでしょう。
中小企業における連結決算の任意性と検討ポイント
中小企業は、国内外に子会社や関連会社を持っていたとしても、連結決算を行う義務はありません。しかし、任意で行うことで、企業グループ全体の状況を正しく把握できるほか、内部取引の不正防止にもつながります。
そのため、中小企業でも必要に応じて実施するケースが増えており、経営の透明性向上やリスク管理の観点からも検討する価値があるといえるでしょう。
まとめ
連結決算は、親会社と子会社を一体として扱い、企業グループ全体の経営状況を正確に把握するための会計手法です。これにより、親会社単独では見えにくいグループ全体の利益や資産状況を把握でき、利益操作の防止などに役立ちます。
会社法上の大会社や上場企業は法律に基づき作成が義務付けられていますが、中小企業は任意で行えるため、必要に応じてグループ全体の状況把握や内部統制の強化に活用できます。連結決算は、企業グループ全体の透明性と信頼性を高め、経営判断や投資判断に不可欠な手段といえるでしょう。
記事監修者 松崎税理士からのワンポイントアドバイス
連結決算は企業グループの財産状態及び経営成績を把握するために有効な手段です。単体決算だけでは分からないことを連結決算では知ることができます。年商数億円~数十億円以上の規模があり、子会社が数社以上あるという企業グループは是非連結決算を導入すべきです。連結決算を導入するデメリットもありますが、きっとそれ以上のメリットを享受できると思います。
導入する際には、なるべく手間をかけずに連結決算ができるように、クラウド連結会計ソフトを利用するなどの工夫も必要です。連結決算で企業グループの経営状況を正確に把握し、より企業グループを発展させていきましょう。
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